第十三話
ドラウニスが死んだ直後に復活した種明かしを、レアちゃんがしてくれた。
『我のステータスを思い出してみろ』
思い出してみろと言われても、そもそも覚えていませんが。
『何っ!? せっかく作ったのに……!』
レアちゃんは自分がノリノリて作ったステータスを忘れられていた事実に凹んでいる。
『仕方あるまい。もう一度見せてやるから身体を貸せ』
その手には乗らない。そうやって俺を油断させてさらに事態を引っ掻き回すつもりでしょ。
『ええい、疑り深い奴め。本当にステータスを出すだけだ。不審な動きをしたならすぐに取り上げればいいだろう。それとも自分の判断力に自信が無いのか?』
だって二回も騙されたからね。さすがの俺も学習する。
『煽りも通じんか……。仕方あるまい』
呆れの感情がレアちゃんの方から伝わってくるのと同時に、俺の視界半分をステータスの羅列が侵食した。
【名前】
レア
【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)
レベル:100
最大体力:∞/∞(測定不能)
マナ循環力:∞/∞(測定不能)
筋力:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)
器用:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)
敏捷:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)(非戦闘時は30で固定)
魔力:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)
精神:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)
運:1(+10000)(単独行動自+さらに15000)
【種族】
魔神族
【クラス】
大魔王
【スキル】
『威圧』『睥睨』『嘲笑』『強者の余裕』『重圧』『逃走妨害』『支配者』『慈悲』『絶対者の孤高』『オートリザレクション』
【ユニークスキル】
『魔神』『世界の終わりまであと○○日』
って、おい!
身体の支配権俺のままなのにステータス出せるの!?
『実はな、そうなのだ。支配権を奪われた状態でもこの程度の干渉ならば可能だ。だから黙っておけばこれを口実に身体を使えるかと思っておったが、思いの外貴様が頑ななのでな。クックック、仕方ない。お前が身体を返したくなるまでこれから貴様の現実をゲームのステータス塗れにしてやる!』
ヤメロォ!
レアちゃんちょっとは反省したかと思ったら全然そんなことは無かった!
『ちなみに先ほどのからくりだがな、我は死者を蘇生させる遺失呪文を習得している。それを直接的な方法で殺害した対象を自動で蘇生させるよう改変して新しい呪文を編み出したのだ。故に我が殺害するのは明確に敵意を表した者のみ。我ながら、真に慈悲深きことよ』
くそ、ふざけ切っているのに相変わらずレアちゃんの実力は化け物染みていて、何から驚けばいいのか分からないな……!
レアちゃんが作ったステータスでいえば、そのものずばりな『オートリザレクション』と、後は何だろう。
『フフフ、我は慈悲深いぞ?』
これ見よがしにレアちゃんが主張していれば、さすがに気付く。
あの『慈悲』ってスキルか。アレがレアちゃんのいう他人にかける自動蘇生呪文だな。レアちゃん本人もやたらと慈悲慈悲いってるし、間違っていないはずだ。
「街の復旧か。良かろう。テヌールシティから技術者を呼び寄せても構わんの?」
レアちゃんと脳内会話をしているうちに、ドラウニスが真面目な話を再開していた。
この人はこの人で、真面目な時とそうでない時の差が激しすぎて何が本気か分かり辛い。
まあ、ちゃんと街並みを直してくれるならそれで十分だ。
頼むからちゃんと伝わってくれよ。
「構わぬ。ただし我の街だ。決して手を抜くなと伝えておけ」
う……ん……?
上から目線なのは相変わらずだけど、一応伝わったってことでいいのかな……?
「分かった。忘れずに伝えておこう。それでは早速手配をしに行くぞ。エウロッハ、お主は残れ。人質代わりじゃ」
「え!?」
唖然とするエウロッハ君を残して、ドラウニスはさっさとテレポートで一人だけ脱出してしまった。
「ま、魔法使い殿おおおおおおおおおお!?」
あんまりな扱いにエウロッハ君が絶叫してる。
本当、可哀想な人だ。
元気出して。せめてもてなしてあげたい。
「歓迎しよう。たっぷりとな」
レアちゃん補正によって、俺の真心とは裏腹に、俺は邪悪な微笑みを浮かべてエウロッハ君の肩を掴む。
さあああっと潮が引くように青ざめていくエウロッハ君。
本当にごめん。
「私も歓迎の意を篭めて放尿をするよ!」
しなくていいです。
スカートをたくし上げるのは止めようね、はしたないから!
パンツぐらい穿きなさいミリーちゃん!
「拷問の準備をしてくるね!」
しないでください。
ユキカちゃんもいそいそと何処かに行こうとしないで大人しく待っててね。
「家族構成を調べる必要がありますわね……」
エリンちゃんはエウロッハ君の家族構成を調べて何しようとしてるの?
「お水じょばー!」
ステータス差で「キンッ」という音を立てて弾かれているとはいえ、縛られたまま抵抗できずに尿を浴びせられているエウロッハ君はそろそろ泣いてもいいと思う。
「拷問……うふふ……鑢掛け……爪剥ぎ……うふふ……」
怪しく呟きながらくねくね身体をくねらせるユキカちゃんはすっかりヤンデレが板についてしまった気がする。
ヤンデレ男の娘とか誰得なのさ。
「人間は信用できませんから、きちんと人質の人質を取っておきませんと」
人質の人質とかエリンちゃんが人間不信を拗らせてもはや意味の分からないことを言い出している。そのうち人質の人質の人質の人質が必要とか言い出してどんどん必要な人質の数が増えていきそうだ。
せ、せめて俺がエウロッハ君に慰めの言葉をかけてあげようかな!
優しくすれば、彼も俺たちが無害だってきっと分かってくれる。
彼女たちの責めを受けて憔悴したところで優しくすれば、仲間にだってなってくれるかもしれない。
……そんな黒い考えを抱いたのがいけなかったのか。
「死ぬよりはマシであろう? 喜べ、殺さず生かさずじわじわと優しく苦しめてやる。肉体的にも、精神的にもな」
「大魔王レア……! やはり貴様が諸悪の根源だ……!」
百八十度意味が変わった慰めの言葉に、愛想笑いが嘲りと化した表情が駄目押しとなって、俺は思い切り勘違いされた。
違うのおおおおおおおおおおおおそうじゃないのおおおおおおおおおおおおお!
『ハハハハハハハハハ! バカめ! 貴様は本当に学ばぬな!』
レアちゃんも笑わないでええええええええええ!
■ □ ■
俺の努力はことごとく明後日の方向に誤解され、エウロッハ君は完全に俺のことを敵と見なしてしまった。
いや、大魔王だし元々敵対しているから今更何も変わらないんだけど、何か凹む。
『よし、暇だし神々に喧嘩でも売るか』
レアちゃんがまた変なこと言い出した。
暇なら大人しくしていてくださいお願いします。
『だがな、神々を放っておくわけにもいくまい』
どうして?
『忘れたか。まだユキカの仲間が二人天使に加工されたまま囚われておるのだぞ』
そうだった。
でも、意外だ。レアちゃんがそんな心配するなんて。
もしかして、ついに良心に目覚めた?
『いや、退屈なだけだ』
ですよねー。
そうだと思ったよ。
現状レアちゃんほど善人という括りから遠い存在はいないだろう。
何しろ大魔王なんていう肩書きを持ち、神々と敵対する魔神であり、たった一人で人間という種族全体を敵に回した過去の持ち主だ。
まあ、神々の所業がクソ過ぎたから、一概にレアちゃんが悪いとは言い切れなくなってきているけど。
でも、どうやって神々がいる場所まで行くの? そもそも歩いて行けるの?
『……何故、歩き前提なのだ』
え、だってレアちゃん歩くしか移動手段無いじゃん。
『いや、走れるし飛べるし転移もできるが』
大魔王としての威厳がどうこうのって理由で、歩き以外全部縛ってなかった?
まさか、自分で縛っておきながら自分の都合でホイホイ破るつもり? レアちゃんの大魔王の矜持ってその程度なの?
『貴様ここぞとばかりに煽ってくるな……』
レアちゃんが俺に呆れた意思を送ってくる。
「お水じょばー!」
ミリーちゃんが俺の前を横切って放尿しながらエウロッハ君に近付いていく。
くそ、突っ込まないぞ!
「いや、止めろ、来るな!」
「うわー!」
何か悲鳴が上がってるけど俺は何も見ていない。
どうせステータス差で弾かれるんだから、エウロッハ君もいちいち反応しなければいいのに。
精神以外一般人のミリーちゃんの放尿は、英雄級の能力値の人には効かないみたいだ。
俺はもちろん、ユキカちゃん、エリンちゃん、ドラウニスにエウロッハ君も含まれる。
ただ、俺はステータスが高過ぎて何をしてようが弾いてしまうが、ユキカちゃんたちは気を抜いていると弾けずに浴びてしまう。最初の時とかね。
実力的にはユキカちゃんとエリンちゃん、ドラウニスとエウロッハ君のどっちが上なんだろうな。
『ならば我が見抜いた彼らの実力をステータスで教えてやろう』
【名前】
ドラウニス・マルハンクル
【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)
レベル:80
体力:1200/1200
マナ循環力:5000/5000
筋力:100
器用:100
敏捷:100
魔力:10000
精神:10000
運:10000
【種族】
人間
【クラス】
魔術師
【スキル】
『四属性魔術Lv5』『時空魔術Lv1』『煩悩Lv10』
【名前】
エウロッハ・ヒュパージ
【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)
レベル:50
体力:2500/2500
マナ循環力:1000/1000
筋力:200
器用:500
敏捷:500
魔力:100
精神:100
運:10
【種族】
人間
【クラス】
密偵
【スキル】
『隠密Lv5』『暗器Lv5』『感知Lv5』
とりあえず突っ込んでいい?
なんで爺さん『煩悩』のレベルが一番高いんだよ!
他のスキルを育てろよ!
『まあ、実際魔術関係の修練を積むより煩悩が増す方が遥かに早かろうよ』
それはそうかもしれないけど!
『それにこのドラウニスという老人、魔術をかなり極めているぞ。基本的な火、風、水、土系統の魔法に加えてまだ初歩とはいえ時空魔術にまで手を出している』
毎度思うけど、よく分かるねレアちゃん。
『時空魔術については転移魔法がその系統だからな。それにユキカたちのように時間転移にまで至っていないのならば、ごく初歩の段階だろうよ。時空魔術の中でも転移系統は奥が深い故、どこまで使えるかで大体錬度は知れる』
なるほど。
あとエウロッハ君の運低すぎない?
『奴の扱いなら大体これくらいだろう』
エウロッハ君は泣いていい。




