表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

桜が語った遠い記憶

人留献也は桜が苦手だ。そんな彼が桜の下で見たものとは。

※以前ピクシブに別設定でアップしたものを加筆修正ました。

『桜が語った遠い記憶』


 昔から、人留献也は桜が怖かった。

 何故かは知らないが、桜を見ると不安になった。

 そんな彼とは対照的に、この女は桜が好きらしい。

 人留とは長い付き合いである怪奇小説家、絆紗々は桜の木を見上げて微笑む。

「ねえ、人留君。綺麗でしょう、この桜。人も来ないし、絶好の場所だと思わない?」

「――あ、ああ」

 確かに、美しくはあった。

 丘の上にたった一本佇む孤独な桜はどこか非現実的で、遠い遠い過去の記憶を呼び覚ますようで。

 逃げる彼を追う男。男は彼の腕を掴んで引き倒し、その手に光るナイフで心臓を貫く。

 何度も、何度も、何度も……。

 ――待て、それはいつの記憶だ。

 そんな経験はしたことがない。それなのに、まるで映画を観ているかのようにはっきりと、脳裏に思い描けた。

「人留君?」

 紗々に呼ばれ、彼は我に返る。

「顔色が悪いよ。そろそろ帰ろうか?」

「ああ、すまん。そうしよう」

 人留は額を押さえ、首を縦に振った。

「妙な白昼夢でも、見たような気分だ」

 丘を下りながら、彼は話した。

「殺される、夢を……」

「それは」

 紗々は振り返り、立派な満開の桜に目をやる。

「前世の記憶、かもしれないね」

「前世って、冗談だろう?」

「桜が語った、遠い記憶……」

 彼女はくすりと笑って人留の胸に指を当てた。

「なんて、ね」

「小説のネタにでもしてろ」

 人留は溜め息をついた。

 そんな彼らとは反対に、丘を上がってくる男が一人。

 きっと彼も、桜を見に行くのだろう。

 男は、すれ違いざまに笑った。

「あの時は、楽しかったな」

 遠い記憶の殺人鬼が、笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ