第33話:空への逃亡とバケモノたちの忠誠
入り江の空気が突然、鉛のように重く、濃密になった。
崖の上から、『青虎』の紋章が刻まれた豪華な白いマントを羽織った二つの人影が、絶対的で氷のような軽蔑の眼差しでビーチを見下ろしていた。
レオンのホログラム・インターフェースが瞬時に点滅し、破滅を告げる警戒の赤色に染まった。
【 海軍大将 - レベル65 】
【 海軍大将 - レベル58 】
彼らの背後から、エリート海軍兵の小隊全体が岩の陰から現れ、完璧な攻撃陣形を組んだ。
彼らは致死の、そして多様な武器を構えていた。きらめくハルバード、致命的な穂先を持つ長槍、最も強靭なモンスターの装甲を貫くために特別に鍛造された重剣、巨大なタワーシールド、ノコギリ刃のナイフ、スパイククラブ、錬鉄の警棒、メイス、そして徹甲ボルトを装填した重クロスボウまで。
眼下のビーチでは、恐怖が支配していた。
【レベル65】の大将が刃を掲げたが、彼はそれを海賊の群れには向けなかった。彼の目は、前例のない、まるで個人的な恨みのような激怒の炎を燃やし、真っ直ぐにレオンの鼻面に固定されていた。
「そこだ!」
大将が雷鳴のように入り江に響き渡る声で怒鳴った。
「犬人だ。他のクズどもは無視しろ。奴の首を獲れ、今すぐだ! 慈悲は無用!」
グロッグは一瞬にして、これが戦闘ではなく「処刑」であることを理解した。
「自殺行為だ! 退却!」
カバの獣人は、海賊のプライドなど一切捨て去り、吠えた。
10分の1秒も無駄にすることなく、グロッグ、巨大なゴリラ、そして激怒の牛の三体は踵を返し、ジャングルの奥深くへと全力疾走した。彼らの純粋な力で木々をなぎ倒し、驚異的なスピードで植物の間に姿を消す。
海軍は彼らのことなど微塵も気に留めなかった。標的は、他にいるのだ。
一方、サイの獣人はまだ地面に倒れたままであり、レオンとの戦いで傷つき、弱り、戦意を完全に喪失していた。彼のクルーの40人の海賊たちは不器用に逃げようとするか、防御を固めようとしたが、海軍の小隊は刃と金属の津波のように彼らに激突した。
数秒のうちに、サイと彼の手下たちは残忍に武装解除され、地面に押さえつけられ、反撃のチャンスなど全くないまま鎖に繋がれた。
二人の大将は、小隊の先陣の援護を受けながら、不自然なスピードでビーチの中央へとダッシュし、レオンへ一直線に向かってきた。
「船長!」
ポールとアナベルが武器を抜いて彼に並び立ち、命を懸けて彼を守ろうと叫んだ。
しかし、レオンに大虐殺されるつもりも、勝ち目のない戦いで士官たちを犠牲にするつもりもなかった。【レベル65】を相手に接近戦で勝機がないことは分かりきっている。
電光石火の動きで、船長は右腕でアナベルの腰を掴み、左手でポールのジャケットの襟を掴んだ。
「しっかり捕まってろ!」
レオンが吠えた。
彼の野獣の脚の筋肉が熱く燃えた。
パッシブスキル【無限跳躍】の力を引き出し、レオンは自分の足元に純粋なエネルギーの円盤を作り出す。彼はタイタンのような力で上方へ爆発し、大将たちの剣が彼が立っていた場所の空気を切り裂く、ほんの一瞬前に地面から離れた。
海軍の空振りした一撃の衝撃が、砂に深い塹壕を刻み込んだ。
【レベル65】の大将は足を止め、レオンが高度を上げるにつれて、激しく執拗な憎悪に顔を歪めながら空を見上げた。
「今は逃げるがいい、犬人!」
大将は彼に剣を突きつけて咆哮した。
「だが我々は、海の果ての隅々までお前を狩り立てるぞ! 海軍最高司令官の弟君に何をしたか、その血で償わせてやる!」
返事をすることもできず、息を切らしながら、レオンは空を蹴り続けた。
エネルギーの円盤を次々と作り出し、自らをより高く、より前方へ推進させ、外海へと向かう絶望的な弧を描いていく。
しかし、その代償は計り知れなかった。
自分の体重を空中で引っ張るのはともかく、猫人とリザードマンの筋肉の塊を空中で持ち上げるのは、人間離れした肉体的な労力を要した。さらに、レオンのHPは満タンではない。先ほどサイの獣人から受けた叩きつけが、貴重なエネルギーを奪い取っていたのだ。
波の上を半分ほど越えたところで、疲労がスレッジハンマーのように彼を襲った。
視界がぼやけ、息が短くなり、脚の筋肉が震え始め、次の円盤を作り出すことを拒絶した。数十メートル下の暗い海が、彼らを呼んでいるように見えた。彼らは急速に高度を失い始めた。
「船長、無理です! 限界だ!」
海が不気味に近づいてくるのを見ながら、ポールが叫んだ。
レオンは歯を食いしばり、致命的な落水に備えて目を閉じた。
だが、冷たい水との衝突は、決して訪れなかった。
巨大な影が彼を包み込んだ。
二つの強力な黒曜石の爪が彼のレザージャケットの肩にしっかりと食い込み、落下を食い止めた。同時に、力強い灰色の腕がポールとアナベルを掴み、彼らの死荷重を持ち上げた。
レオンは息を荒らげながら目を開けた。
巨大な【影を刈る鴉】が空中で彼をキャッチし、巨大な黒羽の翼で彼を支えていた。その隣では、3体の【悪魔のグール(デモニック・グール)】が膜状の翼を羽ばたかせながら、二人の副官をしっかりと掴んでいた。
彼らは偶然そこにいたわけではない。
サイとの戦闘中、レオンが地面に倒れて【船長の鼓動】を発動した際、その強化スキルの効果範囲は莫大に拡大していたのだ。深紅の鼓動は島全体を吹き抜け、船で待機していたモンスターたちに届いた。突然のステータス倍増を受けたクルーは、リーダーが致命的な脅威に直面していることを瞬時に理解し、翼を持つ護衛たちは1秒の無駄もなく、彼を探して空へと飛び立っていたのだった。
「遅えぞ、羽毛ども」
レオンは息を切らしながらも、疲労と感謝の入り混じった笑みを鼻面に浮かべた。カラスは声を出さずにしわがれた鳴き声を上げ、安全に外海へ運ぶために彼を強く掴み直した。
海軍の脅威を後にし、海岸から離れるにつれて、冷たい夜風が彼らの顔を叩いた。
数分後、島を縁取る巨大な岩の岬が落とす影の中から、巨大で安心感のあるシルエットが現れた。
【魔導海賊弩級戦艦】だ。
船の柔らかな光が、海の暗闇の中で輝いていた。
舵輪には、永遠の霜のオーラに包まれたアリックが立ち、威風堂々たるガレオン船を秘密の入り江から見事なタイミングで発進させ、波の上を滑らせて彼らを迎えに来ていた。魔導機関の巨大な煙突からは煙が立ち上り、フルパワーの推進力を解き放つ準備が整っている。
カラスとグールたちは急降下し、船の黒い木の甲板に重々しく着地して、三人の乗客を優しく解放した。
レオンは床板に膝をついて崩れ落ち、咳き込みながら息を整えようとした。
彼は顔を上げた。怪物の軍隊が高度な警戒態勢を敷き、戦争の準備をしている光景を期待していたのだ。
しかし、目の前の光景は、逃亡のアドレナリンを危うく忘れさせるほどだった。
メインデッキのど真ん中で、タイタンのような【鉄茨のベヒーモス】が、どうやったのかビーチの砂を大量に船上に持ち込んでいた。
そして、絶対的かつ外科医のような集中力で、巨大な装甲の指を使い、信じられないほど詳細な「砂のお城」を彫刻していたのだ。小さな塔と堀まで完璧に備わっている。
そこから数フィート離れた場所では、3体の【深淵のオーク】があぐらをかいて円になり、奇妙なカードゲームに深く没頭していた。
鱗に覆われた巨人の一人が、木製の甲板にカードを叩きつける。彼は水かきのある巨大な手にある手札をじっと見つめ、同じマークのカードを見つけると歓喜のうなり声を上げた。
そして……その2枚のカードを口に押し込み、亡霊アリックの虚無で呆れ果てた視線の下で、音を立ててムシャムシャと噛み砕き始めたのだ。
「俺たちは文字通り、海軍に切り刻まれる数ミリ手前で生還したってのに……」
レオンは震える爪でその光景を指差し、息を切らして吠えた。
「お前ら、トランプ食ってんのかよ!?」
レオンの怒鳴り声に驚いて砂の塔の一つを崩してしまったベヒーモスは、目に見えて苛立ちながら鼻から濃い蒸気を噴き出した。一方、オークの一人は平然と【スペードのジャック】の破片をゲップで吐き出した。
アナベルはレオンの隣にへたり込み、疲れ果て、自分たちのクルーのあまりのシュールさにこめかみを揉んでいた。
だが、ポールは立ったままだった。猫の獣人は顔面蒼白で、黄色い目を大きく見開き、尻尾を純粋な恐怖で宙に振っていた。
「船長……」
ポールはモンスターたちを完全に無視し、震える声で言葉を詰まらせた。
「逃げる直前、大将が叫んだ言葉……聞こえましたか?」
レオンは痛む胸をさすった。
「海軍の大物かなんかの『弟』がどうとか言ってたな。なんでだ、そいつは一体誰なんだ?」
「海軍最高司令官……世界全体の艦隊を率いる男は、計り知れない力を持つ『青虎の獣人』なんです」
ポールは強く生唾を飲み込んで説明した。
「そして、炎の牙の船長……あなたが……俺たちが前の島で『燃料』に変えた男は、赤虎の獣人でした。彼らは、同じ希少な血統を持つ兄弟だったんです」
アナベルは鱗に覆われた両手で口を覆い、事態の恐ろしさを瞬時に理解した。
レオンはまばたきをした。
これで完全に辻褄が合う。大将の個人的な激怒も、グロッグや他の海賊たちを無視してレオンだけを狙い撃ちにした標的攻撃も。彼らは単に5万ゴールドの懸賞金のために彼を狩っていたわけではなかったのだ。
「つまり、俺たちは文字通り、海軍の絶対的トップの弟を、エンジンの燃料として使っちまったってわけだ」
レオンは、狂気の沙汰としか思えない冷静さで要約した。
危険を全く意に介さない、致命的で傲慢な笑みが、彼の犬の鼻面にゆっくりと描かれていく。
彼は手すりにもたれかかり、今や夜の闇に霞むただの点となった驚異の島のビーチへ、最後の一瞥を投げた。
その時、彼の犬の耳がピクッと動いた。
隣でポールが黄色い目を細め、彼らの航跡を覆う濃い海の霧の中をじっと見つめている。
「船長……」
ポールは爪の生えた指を暗闇に向け、呟いた。
「お連れ様です」
アナベルも目を細め、暗闇に慣れるために縦長の瞳孔を広げた。
数マイル離れた霧に半ば隠れながら、しかし一定の執拗なペースを保ち、一隻の巨大な海軍軍用フリゲート艦の威圧的なシルエットが波を切り裂き、死の静寂の中で彼らを追尾していた。
彼らは海軍に牙を剥き、この海で最も強力な存在の怒りを買った。
だが、純粋な『運』によって得た金と武器の戦利品は完全に無傷であり、クルーは団結し、船も無事だった。
「ついてこさせろ」
レオンは頭の三角帽子を直し、冷笑した。
「『運(LUCK)200』を敵に回すってのがどういうことか、奴らに教えてやる。エンジン全開だ、アリック! ここから出るぞ。起源の航路が待っている」
最後までお読みいただきありがとうございます!
「トランプ食うな!笑」「ついに海軍のトップに喧嘩を売ってしまった!」と楽しんでいただけましたら、
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次回の『起源の航路』編も全力で書きますので、よろしくお願いいたします!




