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第1話:愚かなる救済者

ヤンデレ公爵×ヤンデレ令嬢のダークな物語です。苦手な方はバックしてください


王宮の大広間を彩るシャンデリアの煌めきが、私の未来を祝福しているようだった。

 今夜の夜会こそが、運命の分かれ道。扇子で口元を隠しながら、私はホールの中央に熱い視線を投げた。


 そこにいるのは、我が国で最も美しく、そして最も魔力に愛された男――エドアルド・ヴァン・クライスト公爵。


 漆黒の髪に、月光を凍らせたような冷徹な美貌。若くして魔術師団長を務める彼は、周囲から畏怖と敬意を集める存在だ。けれど、私にはわかる。


 彼が今、ひどく退屈で、そして「助け」を求めていることが。


「……あんな陰気な女、エドアルド様には不釣り合いだわ」


 私の唇から、あえて聞こえないほどの独り言が漏れる。

 彼に寄り添っているのは、婚約者のミリア。病弱で有名な深窓の令嬢だ。今日も今日とて、死人のように青白い顔をして、幽霊みたいに彼の腕にしがみついている。

 見て、あのエドアルド様の表情。全く笑っていない。ミリアが何か話しかけるたびに、無表情で小さく頷くだけ。あれはきっと、彼女の体調を気遣わねばならない義務感と、しつこい束縛にうんざりしている顔だわ。


 可哀想なエドアルド様。


 家柄の釣り合いだけであんな暗い女と婚約させられて、ミリアの実家である侯爵家に気を使って別れることもできないなんて。


 彼に必要なのは、病人の介護じゃない。隣で輝き、彼を王配の地位にすら押し上げられる、私――新興伯爵家の令嬢、エリーゼのような華やかで野心あるパートナーよ。

 ふと、エドアルド様がこちらを見た気がした。


 氷の瞳が一瞬、私を捉える。


 その瞬間、背筋がゾクリとした。武者震い? いいえ、これは運命の戦慄だわ。彼の瞳が言っていた気がするの。『僕を見つけてくれ』と。


「待っていてくださいね。私がその鳥籠から救い出して差し上げますわ」


 私はウェイターから赤ワインのグラスを受け取ると、チャンスを伺った。


***


 しばらくして、エドアルド様が給仕に呼ばれ、ほんの少しだけミリアのそばを離れた瞬間があった。


 今だわ。


 私は優雅な足取りで、壁の花となっているミリアに近づいた。


「ごきげんよう、ミリア様。相変わらず……顔色がお悪そうですこと」


 私が声をかけると、ミリアはビクリと肩を震わせた。小動物のように怯えた瞳で見上げてくる。ああ、イライラする。未来の公爵夫人予定ならば、もっと堂々としていればいいのに。


「あ、あの、エリーゼ様……ごきげんよう……」


「エドアルド様も大変ですわね。このような場所でも、片時も貴女の介護をしなくてはならないなんて。貴女、彼の重荷になっているとは思いませんの?」


 直球で伝えてあげた。これが彼女のためでもある。

 するとミリアは、さらに青ざめて、口元を震わせた。


「そ、そんな……私は、ただエド様と……」

「愛のない政略結婚にすがりつくのは見苦しくてよ。彼のような才能ある方には、もっとふさわしい翼が必要だと思いません?」


 ミリアが何か言い返そうとした、その時だった。

 私は持っていたグラスを、わざと大きく傾けた。たっぷりと注がれた赤ワインが、放物線を描いてミリアの純白のドレスに降り注ぐ。


「きゃっ!」

「あら! ごめんなさい、手が滑ってしまって!」


 大げさに謝罪しながら、私は口元でほくそ笑んだ。


 白いドレスに広がる赤。まるで血のようだわ。これで彼女は会場にいられない。恥をかいて退場するしかないのだ。


 騒ぎを聞きつけて、すぐにエドアルド様が戻ってきた。

 彼は惨状を見るなり、私をギロリと睨みつけた。その眼光の鋭さに、周囲の貴族たちが息を飲む。


 けれど、私は怯まない。むしろ胸が高鳴った。


 だって、その目は「よくやってくれた」と言いたげだったから。彼は立場上、自分で婚約者を追い出すことはできない。だから私が悪役を買って出て、彼女を排除するきっかけを作ってあげたのだ。これこそ、阿吽の呼吸というものじゃない?


「……ミリア」


 エドアルド様は低く地を這うような声で名を呼ぶと、震えるミリアの肩を抱き寄せた。そして、有無を言わさぬ力強さで、彼女を会場の外へと連れ出していく。

 ミリアはドレスの裾を握りしめ、ガタガタと震えている。きっと、エドアルド様に「恥をかかせやがって」と叱責されるのが怖くてたまらないのでしょうね。

 残された私は、扇子を開いて優越感に浸った。

 周囲は遠巻きに私を見ているけれど、関係ない。歴史を作るのはいつだって、行動力のある人間なのだから。

 エドアルド様、私のメッセージは届きましたわよね?


 貴方はもう、あの女に我慢しなくていい。


「次の夜会……そこで全てを終わらせて差し上げますわ」


 私は空になったグラスを置き、甘美な未来を夢見て微笑んだ。

 その背後で、会場を包んでいた魔力結界が、奇妙なほど歪に脈動していたことには気づかずに。


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