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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第二章 《過去改変》の検証(2026年α)

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25話 アンナと絵梨③

 風間(かざま)杏奈(あんな)――アンナと、宇都宮(うつのみや)絵梨(えり)を護衛に雇ってから半月ほどが経った。

 週二回のペースでダンジョンに潜ることになり、今日で五回目の探索だ。


 アンナは現在レベル17。高校を卒業して探索者になって三年目で、この若さで《剣術 Lv4》を使いこなす期待のホープだ。

 もう一人の絵梨はレベル15で魔術士兼治癒術士。背が低くて猫目気味の童顔だから、見た目だけなら二十代前半にしか見えないけれど、その正体は二十七歳の大人のお姉さんだ。彼女の指示は常に的確で、戦場全体を見渡しているような安心感があった。


 右側から飛び出してきた影を捉える。現れたのはゴブリンじゃない。三階層のもう一つの厄介者、コボルトだ。

 犬の頭を持つその魔物は、ゴブリンみたいに道具を器用には扱わない。その代わり、異常なまでの瞬発力と執念深さを持っているんだ。


「ガウッ!」


 コボルトが鋭い爪を振り下ろす。以前の俺ならここでパニックになっていただろうけれど、今の俺は違う。ギリギリのタイミングで敵の攻撃を見切り、最小限の動きで身体をずらす。俺の持つ《回避》スキルをようやく上手く使えるようになってきた証拠だ。

 スキルランクが低いから最初は実感がなかったけれど、意識して「避ける」動作に合わせることでスキル補正が乗り、面白いように体が動く。

 アンナも同じスキルを持っているけれど、彼女のランクはC。その有用度は月とスッポンだけど、今は自分の成長を素直に喜ぼう。


 紙一重でコボルトの一撃をかわす。身体が羽のように軽く感じられて、一瞬だけ視界がスローモーションになった。

 空振ったコボルトの懐はガラ空きだ。かわした勢いのまま、最短距離で剣を突き出した。回避からのスムーズな連携。

 俺の放った一撃がコボルトの脇腹を深く抉った。さらに《追撃》スキルの効果で、目に見えない衝撃波のような追加ダメージが敵の体内に叩き込まれる。


「ギャンッ!?」


「いいわよ、ヒロ! 電撃(ライトニング)!」


 絵梨の指先から放たれた青白い稲妻が、怯んだコボルトを直撃した。

 全身を火花が駆け抜けて、魔物が硬直する。そこへ、アンナが疾風のような踏み込みで肉薄した。


「トドメやッ!」


 長剣が一閃して、コボルトの首が宙を舞う。魔物は光の粒子となって霧散し、その場に一つの宝箱が残った。


「お、あたりやん!」


「そう? 三階層の箱なんて、中身は知れてるわよ」


 絵梨は疑っているけれど、宝箱は出現するだけで少しテンションが上がる。

 中には良いアイテムや、多めの硬貨、魔石が入っていることがあるからだ。

 開けるのに鍵はいらない。前面のパネルを正しい順番で押せば開く仕組みだけど、制限時間の十分以内に正解を見つけなきゃいけない。

 開けられずに消えるだけならいいけれど、順番を間違えるとトラップが発動することもある。


 罠解除のスキルがあれば確実に回避出来るけれど、三階層程度のトラップなら大したことはない。

 軽くダメージを受けたり、弱い毒を受けたりする程度だ。

 だけど、その回復にポーションを使えば赤字になってしまう。俺にはそんなギャンブルをやる余裕はない。


「ウチが開けるわ。見てなさいよ」


 契約上、ダンジョンで手に入るアイテムは彼女たちのものだ。

 その代わり、トラップのリスクも彼女たちが負う。アンナが慎重にパネルを押していくけれど―――。


「あだだっ! 爆発したぁ!」


 直後、軽い爆破音と一緒にアンナが吹き飛ばされた。三十ほどのダメージを受けた彼女は、「もう、何やねんこれ!」と文句を垂れている。

 結局、中身は少量の銅貨だけだった。


「痛たた……。なんやねん、せっかくの髪がチリチリやんか!」


 顔を煤で汚して、自慢の髪を逆立てたアンナが泣き言を漏らす。

 そのあまりにマヌケな姿に、それまで冷静だった絵梨がついに噴き出した。


「あははは! ちょっとアンナ、鏡見なさいよ。最高に笑えるわ!」


「笑いすぎや、絵梨! これ、治癒術で治るんかな……ヒロ、あんたもニヤニヤせんといて。恥ずかしいやん!」


「いや、ごめん。でもその頭、アニメの爆発オチみたいでさ」


「もう、二人して失礼やな! これでもウチ、見た目には気ぃ使ってるんやから!」


 煤けた顔で真剣に悩むアンナを見て、俺も完全におかしくなってしまった。

 命のやり取りをする三階層だけど、これくらいのトラブルならまだ笑い話で済ませられる。

 張り詰めていた空気が一気に緩んで、俺たちはひとしきり笑い合った後、再び探索の足を進めた。



 三階層はゴブリンやコボルトだけじゃない。巨大な毒蜘蛛や灰色狼も現れるけれど、俺の《索敵》があれば不意打ちを受けることはない。

 この二週間で互いに呼び捨てで呼ぶほど仲良くなった二人のプロも、俺のスキルの有用性を高く評価してくれていた。


「ふぅ……ナイス連携。ヒロもだいぶ様になってきたやん」


「アンナのスパルタ指導のおかげだな。おかげで毎日筋肉痛だけどね」


「あら、あれくらいで音を上げるなんて、男の子のくせにだらしないわね。もっとビシビシ鍛えてあげましょうか?」


 絵梨がいたずらっぽく笑う。二十七歳とは思えない可愛らしさだけど、その言葉には実戦の重みがある。

 小休止の間、俺たちは背中合わせに座り込んで水分を補給した。

 ふとした疑問で、絵梨がなぜ探索者になったのか尋ねてみた。

 彼女は少し寂しげに笑いながら、小学生の頃にスタンピードに巻き込まれてステータスを得たこと、就職した会社が不景気で倒産して、生きるために去年の秋から本格的にこの道を選んだことを教えてくれた。


「探索者で食べていくにはレベル20以上が必要だから、まだ半人前だけどね。お互いに頑張りましょう」


「《索敵》はほんま便利やね。これがあるだけで、ウチら前衛の生存率がグンと上がるわ。ヒロを雇ったんは正解やったかも」


「アンナ、それ雇い主と依頼人が逆になってるぞ。まあいいけど。どんどん行こう。俺の財布が底をつく前に、レベルを上げきらないといけないから!」


「威勢ええなあ! よっしゃ、次の獲物探しに行こか!」


 この日の探索も無事に終わり、地上に戻る頃には装備は魔物の返り血で汚れていたけれど、顔には充実感が漂っていた。


「今日はぎょーさん魔石も拾えたし、ウチらが儲けさせてもらった分、夕食奢るわ! ヒロ、何食べたい?」


「え、マジで!? じゃあ……がっつり肉が食べたい!」


「いいわね、賛成。アンナ、爆発したお詫びにデザートも追加していいかしら?」


「ええっ、絵梨まで! ……しゃあないなあ、今日は特別やで!」


 お節介な二人と肩を並べてダンジョンを後にする。

 家族を救うための戦いはまだ始まったばかりだけど、一人でいた頃の孤独な焦燥感は、少しだけ和らいでいた。


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