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底辺探索者の俺、スキル《過去改変》で終末世界を改竄する ~「あの時こうしていれば」を現実にしたら、いつの間にか世界最強の救世主になっていた件~  作者: モコタ
第二章 《過去改変》の検証(2026年α)

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12/22

12話 底辺探索者の日常①

 《過去改変》という、まるでおとぎ話のようなスキルを手に入れた瞬間は、これで人生のすべてがひっくり返るんだと本気で信じていた。

 だが、現実はそう甘くはなかった。


 過去に戻れる時間は、わずか五分間。しかも戻った先での俺は、まだ小学校にも入っていない六歳のガキだ。

 二十四歳の意識だけあっても、体は思うように動かないし、できることなんてたかが知れている。

 なにより致命的なのは、使用回数に制限があることだ。残り回数はわずか九回。

 下手に使えば、何も変えられないまま「切り札」を失うことになる。


 今の俺にできることは、ただ一つ。スキルランクを上げることだ。

 ランクが上がれば、滞在時間の延長や回数の回復、あるいは戻る時期の選択といった恩恵があるはずだ。

 そのランクを上げるためには、スキルを使い込むか、自分自身のレベルを上げるしかない。

 回数を温存する以上、選べる道はモンスターを倒す、地道なレベル上げだけだった。


 「……まずは、レベル上げだな」


 自分に言い聞かせるように、俺はポツリと呟いた。

 自分で決めたノルマは、週に二回、必ずダンジョンへ行くこと。それ以外の日はバイトをこれでもかと詰め込んで、カツカツの生活費を稼ぐことにした。

 正直、E級ダンジョンの一階層をうろついているだけでは、一日の食費を稼ぐことも出来ない。

 生活の基盤をしっかり固めつつ、泥臭く経験値を積み上げていくしかない。


 本当なら、さっさとパーティを組んで二階層へ挑戦したい。

 その方が稼ぎもいいし、経験値だって段違いだからだ。効率を考えればそれが正解なのは、算数のできる小学生にだってわかる。

 だけど、肝心の仲間が見つからない。俺のようなパッとしないソロ探索者と、わざわざ組んでくれる物好きなんて、この広い世界を探してもそうそう見つかるもんじゃない。


 唯一の救いは、友人の千葉が月に一度くらい手伝ってくれることだった。

 あいつも入社四年目になり、重要な仕事を任されて忙しいはずなのに、なんだかんだ理由をつけて付き合ってくれる。

 一人で暗い迷宮に潜り続ける俺にとって、あいつの存在はたまらなく心強かった。



 最初の頃は「これで人生を変えてやるんだ」という猛烈な意気込みがあった。

 でも、二ヶ月目に入ると、その熱も次第に冷めていった。毎日毎日、代わり映えのしない薄暗い景色の中で、スライムやムカデといった同じような魔物を倒し続ける。それは想像以上に過酷で、ひどく退屈な作業だった。

 まるで出口のない迷路で足踏みをしているような感覚が、じわじわと俺の心を削っていく。


 三ヶ月目にもなると、自分の無力さを突きつけられる日々が当たり前になっていた。

 レベルが劇的に上がるわけでも、強力なスキルが手に入るわけでもない。

 ふとした瞬間に、未来への希望が指の間からこぼれ落ちていくような錯覚に陥る。

 きっと、あと数年はこんな退屈な生活が続くんだろうな。

 そう悟った瞬間、目の前の視界が少しだけ暗くなった気がした。




 そんな停滞した日々が過ぎ去り、年が明けて二〇二五年になった。

 俺のレベルは、ようやく12に上がった。


 そして、季節は巡り、春がやってきた。

 街のあちこちで桜が咲き誇り、真新しい制服を着た学生たちが希望に満ちた顔で通りを歩いている。

 周りの景色は少しずつ華やいでいくけれど、俺の日常は相変わらずどん底のままだった。


 ソロで潜るときは、安全を最優先して一階層で粘る。二階層へ行くのは、千葉と二人で組むときだけ。

 そんな慎重すぎるスタイルを貫いていれば、当然レベルの上がり方は亀の歩みのように遅くなる。


「いい加減、このループから抜け出したいんだけどな……」


 どこかのクランに就職して、まともな給料をもらいながら安定した生活を手に入れたい。

 あるいは探索者ギルドの掲示板で新しい仲間を見つけて、固定のパーティを組みたい。

 そんな淡い希望はいつも頭の片隅にあったけれど、結局のところ、俺にできるのは今日を生き抜くための現状維持に精一杯しがみつくことだけだった。



 五月の大型連休がやってきた。

 あの《過去改変》スキルを手に入れてから、もう十ヶ月が経とうとしていた。

 世間が休みだとダンジョンは遊び半分の学生たちでごった返していた。

 一階層は魔物の取り合いになり、いつも以上に効率が悪い。


「暇なら手伝えよ、千葉」


 俺は休みでダラけているはずの千葉を誘い出した。「俺も忙しいんだけどな」と口では言いつつも、あいつは渋々ついてきてくれた。

 混雑する一階層を足早に通り過ぎ、俺たちは二階層へと足を踏み入れた。


 通路の奥から、二匹のヘッドマウスが姿を現した。頭突きを武器にするネズミ型のモンスターだ。

 一匹ずつの攻撃力は低いが、集団で取り囲んでじわじわとHPを削りにくる、実に厄介な連中だった。


「千葉、左の一匹を頼む! 足止めだけでいい!」


「任せろ!」


 千葉がナイフを構え、左側のマウスを牽制する。

 その隙に、俺は右の魔物へ狙いを定めた。まともにぶつかって無駄に体力を削られるのは避けたい。

 俺は右手を突き出し、体内の魔力を指先に集中させた。


炎弾(フレイムバレット)!」


 放たれた小さな火球が暗闇を切り裂き、先頭を走るマウスの顔面に直撃した。

 熱に悶える魔物の隙を見逃さず、俺は一気に踏み込む。手にした剣を鋭く振り下ろすと、確かな手応えと共に一匹を仕留めた。


「キュイッ!」


 仲間を倒された怒りか、残る一匹が標的を俺に変えた。

 俺の太ももを狙って鋭い頭突きを繰り出してくる。

 俺はわずかに体を捻ってそれをかわすと、すれ違いざまに剣の柄でマウスの背中を力任せに叩きつけた。


「これで終わりだ!」


 俺が放った二撃目の火魔術がマウスの体を焼き、ようやく戦闘は終了した。地面には小さな魔石だけが転がっている。


「ふぅ……。助かったよ、千葉。お前が引きつけてくれたおかげだ」


「まあな、感謝しろよ」


 逃げ回っていただけのくせに、千葉は肩で息をしながら得意げに笑った。

 とはいえ、デコイとしての役割は十分に果たしてくれた。彼がいなければ、二匹の魔物にてこずって余計なダメージを受けていただろう。


 その時、俺の脳内に『レベルが上昇しました』という無機質なアナウンスが響いた。


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