第二十一話 Happy birthday to day.
本支部の大会場。
「それではゲストに登場してもらいまショー!」
嫌好にお姫様抱っこされた禊が登場する。
「ばか! 離せ降ろせ!」
「えっへへへ~」
「嫌好、顔が笑ってないぞ」
尊は嫌好の顔に向かってクラッカーを鳴らす。
「さっさと禊を離しなさいよ!」
言葉が嫌好の頬を思いっきりつねった。
嫌好が禊を降ろすと、
「ぎゃぁ゛ぁぁ禊がわ゛い゛いぃぃ!!!!」
ニーアが禊を抱きしめた。
「ニーア……苦しい……!」
「禊、髪切ったの!? ショートなの!? 可愛いどめんこいど!! こんにゃろこんにゃろ~!」
各支部長が禊を囲む。
「禊、おめでとう! ハイコレ、パスター!」
アランがパスタのギフトセットを渡す。
「ん。ヨッギ」
フランが恥ずかしげに、ラッピングされたヨッギ1ケースを渡す。
「禊ー、お前誕生日あったなら言えや~。黄金の禊象作るつもりやったんに~はいトマト」
アーサーが高級激選トマトを一箱渡す。
「禊、ロシア歴代大統領マトリョーシカだ」
マーリンはマトリョーシカを、
「中国名物股割れズボンある!」
杏仁がズボンを広げて見せる。
「中国の工芸茶です。これが一番いいかと思いまし――」
健良が渡そうとした時、
「キムチ! キムチキムチ! これ以外に何があるって言うの!?」
久美子がキムチの樽を推し勧めてくる。
「カップケーキだぞ!」
オースティンがカップケーキ50個を渡す。
「け、蛍光色のクリームですか……? コレ体に大丈夫なん――」
心配そうに箱を見る健良は押し退けられ、
「ミリメシ。レーションだ」
アルベルトが軍事飯3食分を渡す。
「ワニの唐揚げダス。おいしいヨ~」
まんまワニの腕のから揚げを差し出すラクラン。
「ほれ、ミイラじゃ! 厄除けになっぺよ!」
見た目の恐ろしいミイラのお札をジョーが渡す。
「日本の名物言うても、特に何もあらへんて~。はい、お米。新潟で一番のもんどすえ。炊飯器じゃなくて窯で炊くのが一番おいしいどすえ」
円香が米俵をキャリーで持ってくる。
禊の腕に抱えきれないほどの贈り物が積まれる。
「あ……ありがとう」
「ところで皆、酒持ってきたかー?」
アーサーが聞くと、
「決まってるじゃんか!」
一同がそれぞれ自慢の酒を出す。
「アラン、今日こそは潰す……!」
「二十歳になったからって容赦しないよ!」
フランとアランが得意げに笑いあう。
「どうだ! 韓国の酒は!」
「ウチの日本酒は最高級のもんやけん」
「の、飲み過ぎないでく――」
注意する健良をオースティンは押し退け、
「俺んトコのBeerも負けないぞ!」
「やんや!」
「やんや!」
皆が酒を交わしながら大騒ぎする。
「禊も飲めや!」
アーサーが肩を組んでくる。
「え、俺は……」
「おねが~い」
フランが禊の胸にくっついてくる。
「フラン、お前マーリンの飲んだな」
「ハッハッハ! ロシアのウォトカは――」
グラスを高らかに掲げるマーリンを久美子は尻で押し退け、
「キムチ!」
「ちょっと、クミコはん」
「貴様ぁ!」
「韓国航空会社!」
「クミコはん!」
マーリンと久美子がいがみ合う。
「け、ケンカは良くないダス……」
ラクランはさっと、いがみ合う二人の口の中にマーマイトを放り込んだ。
とにかく大騒ぎ。だが皆、実に楽しげだった。
しばらくして、禊が夜風に当たるためにベランダに出た。
「禊」
尊はシャンパンの入ったグラスを持ってやって来た。
「お前ソレ飲んでるの何?」
「水。酒はちょっと……」
「弱いのか」
尊はそわそわしながら懐から小さな箱を出す。
「これ、やるよ」
箱を開けると黒曜石のネックレスが入ってた。
「……ありがとう」
尊は聞こうか否か悩んだが、グラスを飲み干し、
「黒曜石の子」
「ん?」
「……お前なんだろ? 昔、要と遊んでた庶民。川辺にいつもいる」
禊は少し考えた。
「俺、ずっとその子を探してたんだ。もう死んでるって、土に還ってるか生まれ変わってるかだと思ってたんだ。でも、案外側にいたんだ」
「……ゴメンな、黙ってて」
「謝んなよ」
「お前も要も、皆殺したのは俺なんだ」
「……知ってる」
尊はため息をつく。
「でもいいんだ。おかげでこうやって毎日楽しく生活できるし、喧嘩したり、酒飲んだり、……何より、お前がいるから毎日が退屈じゃない」
尊は禊をじっと見ると、フッと表情が柔らかくなり頬を染めて微笑んだ。
「な、何だよ。男口説いて何が楽しいんだよ」
「何が楽しいんだろうね」
禊の手からネックレスを取り、首に着けてやる。
「うん。我ながら上出来だ!」
「お前なぁ……」
禊が笑う。が、少し悲しい顔をして、
「……やめときな」
「え?」
「お前は俺を好きになれないし、俺もお前を好きになれない。御神の教えで愛することはできても、無理だ」
尊は何かを言おうとしたが、
「俺が雌雄同体の理由分かる?」
「あ、いや……」
口を紡いでしまった。
「……男だとか女だとか、そんなの関係なく人を好きになりたかったんだ。人間が嫌いで、少しでも好きになりたかったんだ」
「禊……」
「だから俺は、お前だけを好きにはなれないんだ。なれたらそりゃ、良いのかもしれないが――」
尊は禊の腕をつかんだ。
「え、何!?」
「それでも! それでも俺は、俺が好きだ!」
「……は?」
「あ、間違えた。それでも俺はお前が好きだ!」
真剣なまなざしで尊は禊を見つめる。
「……ありがと。その気持ちだけありがたく受け取るよ。それに……」
禊は続けた。
「俺は存在の罪だぜ?」
風で禊の前髪がなびき、黒い右目が月明かりに光る。
「ニーア以外の人間は、死んでないと好きにはなれないんだ。生きた人間には興味なくてね」
翡翠色の目のある左半分は悲しそうに微笑むのに、黒い目の右半分は怪しく微笑んで見えた。
「悪趣味だな……」
尊は苦笑いする。
「よく言うよ」
禊は鼻先で軽く笑った。
「兄さん」
二人の間から要が顔を出す。
「抜け駆けは許さないって言ったよね?」
「邪魔すんなよ!」
「今夜は寝かせないよ?」
「はぁ!?」
「ちょっと! 私の旦那に何してるの!?」
言葉がベランダに飛び込んでくる。
「いや、まだ何も……」
「何もって事は、これから何かするおつもりで?」
「いや、あの……」
「禊さん、助けて……」
小町に首をがっちりホールドされた忍がか細い声で助けを求める。
「禊、この酒美味いな!」
「小町さん、このお酒とこのつまみ合うんですよ!」
「ん! さすが七穂!」
小町と七穂がグラスを鳴らす。
「あれ、ナナちゃんいつの間に」
禊がそう呟くと、七穂がウインクをして手を振った。
すると急に嫌好が背後に立ち、
「禊。抜け駆けしよう」
「え? うわっ!」
「あ! 嫌好が禊をさらった!」
要が二人を指さす。
「お待ちなさい!」
鬼の形相で言葉が追いかけてくる。
「え!? 言葉顔怖い!」
禊は初めて言葉の恐ろしさを知った。
ふと、会場内にエレキギターのロックが効いたポップな曲が流れ出した。
禊と嫌好は目を合わせると頷き、禊はネクタイを緩めて嫌好の手を取り踊りだす。ラクランと美紗が手を取りかわいらしくステップを踏む。尊はバク転を披露し、要はムーンウォークを披露した。ニーアは小町と久美子とともにクルクル舞い踊り、オースティン、アーサー、アルベルト、健良、ジョー、杏仁が肩を組んで笑う。
フランはどこから持ってきたのかタンバリンを滅多打ちする。
「フランなにそれ超面白い! 無駄にキレがいい!」
アランは面白半分にビデオを回す。
「いや~、喜んでもらえてよかった……」
「これを考えたのは忍くんだったの?」
シャンパングラスを持った言葉が忍に話しかけた。
「あ……はい。最初に企画をしたのは、各支部の皆さんですけど。今回の運営も成則さんが引き受けてくれました」
忍は楽しそうに踊るアーサーたちを見る。
「そうね。私もとっても楽しくなってきた!」
眩しいほどにはにかむ言葉の笑顔を見て、忍は胸が大きく鳴ったのを感じた。
「ねぇ、私をエスコートしてくれませんの?」
そう言って言葉がグラスを差し出すと、忍は言葉からグラスを受け取り近くのテーブルに置き、急いで手のひらの汗をズボンで拭うと跪き、
「……Shall we dance……?」
顔を少し赤らめて言った。そしてそっと手を置かれた。
パーティーは夜遅くまで行われ、最後に盛大な花火が本支部から打ち上げられた。
「たーまやぁ~!」
アーサーが大声で太平洋に向かって叫ぶ。
「楔荘からも見えるかね?」
禊は隣に立つ尊に尋ねると、
「これだけデカいんだ、見えない方がおかしい」
尊は笑って見せた。
拓海が海沿いの国道でヒッチハイクをしていると、
「花火?」
浜辺に降りて海の真ん中を見る。
「おっきい花火だなぁ!」
大きく息を吸うと、
「かーぎやぁ~!」
満月の下に咲く花火に向かって叫んだ。
小町が研究結果を発表した。
「矛盾は、危険な存在なんだ――」
「小町さん、それってどういう……?」
「今までの矛盾について共通点を洗ってみたんだ。禊は例外として、全て感染形式による影響が原因だったんだ」
その場の矛盾全員が唾をのむ。
「でも、何で禊だけ違うの?」
「いい質問だ、嫌好。禊だけは科学的にどうこう言えるものではないんだ」
「宗教的な、神話的な何か?」
「お前の言葉で言うならそうだろう」
小町はパソコンの画面を皆に向け、
「我々は地球から出なければならない」
「は?」
尊が動揺する。
「ニーア、ユートピアは宇宙空間に存在できるか?」
「うん。頑張れば新たな星にもなれる」
「つまり、ノアの箱舟だ。この計画を箱舟計画と呼ぶ」
「地球から出なきゃいけないの?」
嫌好は不安そうに尋ねた。
「感染を防ぐ最良の方法だ」
一同が何も言えなかった。
その後、組織内の人間を調べたところ、矛盾化してはいないが感染の影響により、琉子、七穂、成則が矛盾に近い症状を出していた。
「どうやら、こいつらから他には感染しないようだ」
組織の幹部がいなくなるため、組織を解体しなければならなかった。
支部長会議の事だった。
「――そうか」
「マーリン、賛成しちゃっていいの!?」
「アラン、仕方ないよ」
フランがアランをなだめる。
「俺もマーリンに賛成だね」
オースティンが賛成すると一同が賛成した。
「そこで一つ提案がある」
マーリンが立ち上がる。
「他にも能力者は多くいる。その者たちの為にも、規模は小さいが組織をある程度残そうと思う。私の本当の家族である財閥が跡取の件で困っているらしいから、丁度いいと思ってね。私を中心に、誰かついてきてくれないか?」
すると久美子がため息を溢して得意げに微笑み、
「仕方ないわね。韓国の高級料理おごってく……」
「私も参加してええかしら?」
「俺も!」
一同が賛成した。
「ありがとう」
マーリンは禊に電話を掛けた。
『――そうか。ありがとう』
「いいや、気にするな。私が勝手に進めたことだ」
『面倒な事を背負わせてしまったな』
「何。いつもの事だ」
マーリンの目から涙が一粒落ちる。
「……ありがとう、父さん」
矛盾を乗せて、ユートピアが浮く。
「本当に行ってしまうんやな……」
アーサーが涙をぬぐう。
「運命には逆らえないのですよ」
成則がアーサーの肩に手を置く。
「みのっち~! 元気でな~!」
拓海が元気良く手を振る。
ユートピアの巨木の上に矛盾たちが並ぶ。
星は宇宙へ流れていった。
琉子がパソコンから手を放し体を伸ばしたところ、空に太陽とは別に光るものを見た。
「あっ……」
それは一瞬だったため定かではないが、琉子にはわかった。
「またね、パパりん、ママりん」
大都会東京にある1枚の窓ガラスから琉子は小さく手を振った。
「皐月ぃ。この資料を次の会議までに――」
「はぁい!」
人々はせわしなく働く。それは生きるためであり、幸せの為であり、誰かの為であり、自分の為でもある。
箱舟は宇宙へ漕ぎ進む。
あるべき場所へあるべき姿で還るために。
全ては廻るために――。




