↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ア戦sioン  作者: 唖ヰ路 むネん 
第五章
33/36

憎悪の連鎖 0.4

「きんせーいッ!」


 立ち尽くす菫青の元に三人が駆け寄る。


「何があったの!?」


 菫青は何かに憑りつかれたかのように、足元の砂を見つめていた。


「…………分からない」

「奴はどこに行ったんだ?」


 榴輝は依然周囲を警戒している。だが、もうその必要はないのだと菫青は気付いていた。耳を澄ませても、あの声は聞こえない。それは気味が悪いほどの静寂だった。


「クラナ……奴は近くにいるか?」

「…………いいえ。存在を感じないわ」

「終わった……のか?」


 唐突に訪れた終焉に、菫青は実感が湧いてこなかった。


「どうやら……終わったみたいね」


 クラナもどこかしっくりこない様子でそう言った。


「私の目には破壊できないように見えたのだけど…………案外不安定な存在だったのかもしれないわね」

「そうみたい……だな」


 菫青は憎悪の連鎖の最後の言葉を思い出した。


『コレデジユウニナレル』


 もしかしたら、アイツもただ苦しんでいただけだったのかもしれない。そう思うと、少しだけ自分が役に立ったような、そんな気がした。


「き・ん・せ・い!」

「うおっ!」


 突然後ろから回された腕に、思わず声を上げた。背中に伝わる柔らかい感触。それが翠の身体だと気付くまでに時間はかからなかった。


「やっと終わったね」


 心の底から嬉しそうな声が、耳元で囁かれる。


「ああ…………これで帰れるな」


 菫青は翠と向き合い、その目を見つめた。近すぎるあまり見失ってしまった大切なもの。すぐ傍にあるのに、それこそ手に取るように分かっていたのに気付けなかった気持ち。それは自分の心がブレーキを掛けた結果だったのかもしれない。

 今なら分かる、翠の気持ち。


「なあ……翠」

「ん?」


 菫青は見上げる彼女の唇を素早く奪った。


「んぅん!?」


 翠は喉の奥で驚きの声を出した、が、彼女は菫青を受け入れた。



「おーい…………お二人さん?」


 榴輝は困った表情で愛に溺れる二人を見ていた。


「まったく……困った人たちですね」


 隣を見ると、クラナも同じように渋い顔をしていた。


「戦いが終わった途端にこれとか……どれだけ溜まってたんだよ……菫青」

「その発言もどうかと……」

「!? いや、別にそんな……他意は無くて……」

「分かってますよ」


 クラナはフフッと笑った。榴輝はその笑顔を見て胸が張り裂けそうになった。


「クラナさん……実は僕――」


 榴輝が息を呑んだ瞬間、クラナは人差し指を立てて榴輝の唇に当てた。


「それは言わないでください…………大丈夫です、私もすぐに行きますから」

「…………そうですか」


 彼女にも言えない事情があるのだと、榴輝は自分の心を納得させるしかなかった。


「榴輝さん……時間みたいです」


 クラナに言われて自分の身体を見ると、確かに薄くなって崩壊し始めていた。それは菫青と翠も同じだった。


「菫青、翠。時間だ」


 二人に声を掛けるが、現在絶賛アツアツ進行中のため全く届いていないようだった。


「ちょっと! いい加減にしろよ!」


 木に止まる蝉のような恰好をしていた翠を菫青から引き剥がす。


「何よ!?」

「自分の身体を見てみろ!」


 二人は身体が消え始めているのに気付き、目を見開く。


「こ、これは……どういうことなんだ? クラナ!?」


 珍しく、焦っている菫青を見た。


「大丈夫ですよ。意識が現象界に戻り始めているだけです」

「そ、そうか……」


 その説明を聞いて安心しつつ、菫青は一人だけ変化が無い人物に気付いた。


「君はこれからどうなるんだ?」

「私? 私は……」


 クラナは顎に手を当てて少し考えた後、苦笑いしながらこう答えた。


「正直言って分からない。でもきっと大丈夫よ。天の声はきっと約束を守ってくれるから」


 彼女の嬉しいような寂しいような笑顔に、菫青は胸が痛んだ。

 思えば、かなり長い時間を共に過ごした。深層界に潜入したばかりの頃、いきなり怪物に襲われたところを助けてもらった。クラナがいなかったら、あの時すでに自分は怪物の一人と化して、この世界の住人になっていたかもしれない。その後も幾度となく、共に死線を潜り抜けた。時には言い争うこともあったが、それでも感謝の気持ちは計り知れない。


「え~っと、なんだ…………その~…………今までありがとうな。俺たちは……良いコンビだったよな?」

「ええ、勿論。すべては必然の元に、契約は完了したわ」


 菫青はクラナと握手をした。その手の感触を一生忘れないように、しっかりと記憶に刻み込んだ。


「菫青、どうやら一足先になるみたいだ」

「何!?」


 振り返ると、榴輝と翠は菫青よりもさらに薄くなっていた。あとほんの少しで、完全に現実世界に戻ってしまいそうだ。


「仕方ねえ、後から追いかけるさ」


 四人は手を繋いで円を作った。


「うぅ~寂しいよ~。必ずまた会おうね、クラナちゃん」

「ええ……きっと」


 翠が半べそをかくので、菫青はその頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「現実世界でまた会おう」

「うん!」「了解!」


 こうして、二人の身体は完全に消えていった。

 後に残った菫青は、自分の身体を見てまだ猶予がありそうだと思い、ずっと気になっていたことをクラナに尋ねる。


「なあ、最後に一ついいか?」

「なに?」

「お前さ、前に俺の本質を教えてくれるって言ったよな?」

「ああ、それ……」


 クラナは少し俯き、難しい顔になった。


「最初に言っておくわね。貴方の本質が何であったとしても、それに囚われる必要なんてないの。あらゆる物事に本質というものがあったとしても、それがすべてではないのだから。それに私が見る限り、貴方は自分の本質を覆しているわ。それでいいの。本質とは乗り越えていくものなのよ」


「……分かった」


 菫青は嫌な予感がした。こんな前置きを言うということは、自分の本質はあまり望まれるものではないのだろう。


「貴方の本質はね…………」



『ニクシミ、ダ』



 その声を聴いた途端、身体が炎に包まれたような気がした。全身に走る激痛。それは身体の内側で何かが燃え上がり、爆発しているような感覚だった。菫青はその場に倒れこみ激しく痙攣する。


「菫青! どうしたの!? 菫青!!!」


 クラナが身体を揺すり、叫ぶ声が微かに聞こえる。


「俺から……離れろッ……」


 次の瞬間、身体を突き破って噴出する無数の鎖。それは紅蓮の炎を燃やしながら菫青に巻き付いた。



『お兄ちゃん――ッ!』



 遠のく意識の中、菫青は御影の叫びを聞いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。