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第5話「地下遺構の幻灯と、止まらぬ時の音」

ギルドから提示されたBランク昇格に必要な依頼──それは、王都南西に広がる古い地下遺構の調査だった。


「“光源が消え続ける”現象の原因を突き止めてほしい、ってやつだな。地味だが、変に騒ぎ立てる依頼じゃない分、妙に引っかかる」


「光源が消える……って、ただの魔道灯の故障じゃないんですか?」


「だったら、修理業者だけで片付く。わざわざ冒険者を使うってことは、もう一歩奥がある」


俺──シグ=ノクスと、相棒のユノ=フェルメリアは、調査依頼を受けて地下遺構に足を踏み入れた。


 


◆ ◆ ◆


 


「……わぁ、ひんやりしてて静かですねぇ。なんか、夜の図書館みたい」


「そっち方面で例えるのか……まあ、確かにそんな感じだな」


遺構の入口から数十メルほど進むと、石造りの壁や通路に設置された魔道灯の明かりがちらほらと見えた。


が──


「……灯り、ついてるように見えて……すぐ消えた?」


「いや、光が“呑まれて”るな。魔素そのものが失われてる感じだ」


魔道灯は魔力を蓄積し、一定量放出することで発光する構造だ。それが瞬時に消えるというのは、光のエネルギーを奪っている“何か”がこの空間に存在する証拠だった。


「じゃあ、灯りが消える原因って、“魔素を奪う”何かが?」


「可能性は高いな。範囲の広さからして、罠や自然現象とは思えない」


 


──と、そのとき。


カラン……と、何かが転がるような音がした。


「……シグさん、今のって」


「ああ。足音だ。俺たち以外に何かいる」


俺たちは慎重に進み、音のした方角──遺構の奥へと足を向けた。


 


◆ ◆ ◆


 


そこにいたのは、半透明の、ぼんやりと淡い光を放つ影だった。


「……精霊?」


「いや──“残響体エコーシェード”だ。強い感情が魔力に染みついて、亡霊みたいに彷徨ってる存在だな」


その姿は、どこか悲しげで、立ち尽くすように一点を見つめていた。


「動かない……何かを、待ってるみたいな……」


「そして、こいつがこの遺構の魔素を吸ってる元凶だろう。あの位置、ちょうど灯りの中央だ。おそらく“かつての記憶”に縛られて、同じ行動を繰り返してる」


「じゃあ、成仏的な……?」


「感情の記憶を断ち切れれば、自然と消える。問題はその方法だが──」


俺は一歩、影に近づき、時間魔法を構える。


 


「《クロノ・エコー(時の残響視)》」


残留する記憶の断片に時を合わせ、視る魔法。時間魔法らしい“地味”な効果だが、用途次第ではこういう特殊な場面で力を発揮する。


 


──見えたのは、数十年前、この遺構を調査していた研究者の記憶。


その者は、灯りの設置作業中に事故で命を落とし──それでもなお、最後の仕事を「果たさねば」と魔力に思念を刻んだのだ。


「……“灯せなかった灯り”を、今も灯そうとしてる」


「そんなの、切ないじゃないですか……!」


「なら──俺たちが代わりに灯してやる。魔道灯を直接魔力で起動して、“完了”を示す。そうすれば記憶のループは断ち切れる」


 


俺とユノは、遺構の灯り一つ一つに魔力を流し、直接点灯させていった。


ユノの風魔法が、その作業を補助する。


「《ヴェント・リフト》、魔力、ここに通して……! おーし、灯った!」


「次は左だ。タイミングを合わせろ──」


息を合わせ、残響体のいた範囲すべてに“完了”の状態を示す。


──すると、影はふわりと形を薄くし、風に紛れるように消えていった。


 


「……消えました」


「ああ、ようやく仕事を終えられたんだろう」


 


◆ ◆ ◆


 


遺構を出るころには、魔道灯はすべて安定し、光は絶えず点いたままだった。


「よくやったな。昇格試験用の依頼とはいえ、しっかり成果を出せた」


「ですね……なんか、ちょっと心がホカホカする依頼でした」


「次はどうせもっと泥臭いやつが来る。味わっとけ」


「うぅ……油臭い依頼はイヤですぅ……!」


「もう少し風魔法の精度が上がれば、匂いを吹き飛ばすくらいできるだろ」


「が、がんばります……!」


そんな掛け合いをしながら、俺たちはギルドへと戻っていった。


 


──少しずつ、一歩ずつ。


地味な時間魔法と、未熟な風魔法が交わるたび、何かが前に進んでいく。

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