小学校編 59時間目 ―まさかのチームメイト!?―
〈葉月遼視点〉
うーん……。
どうしようかな……。
さっき、帝耀のお父さんはああ言ってたけど……。
俺にも、何かできるかなあ……。
やってみたいことは、あるんだけど。
でも……。
うーん……。
やっぱり、ちょっと勇気がいるなあ。
*
―――数分前―――
「今年から入れるようになる小学校のクラブやチームが増えると思うから、やりたいものがあったら俺に言ってね」
帝耀のお父さんが、俺たちに向かってにこやかに話していた。
「何事もチャレンジが大切だからね!」
『はーい!』
みんなの元気な返事が重なる。
チャレンジ、かあ……。
確かに、せっかく五年生になったんだもんね。
今までできなかったことにも、挑戦できるようになる。
それって、すごく楽しそう!
……なんだけど。
*
―――現在―――
うーん……。
やっぱり迷うなあ……。
そういえば、綺から聞いたんだけど。
もう綺と勇と燈李は、少年野球チームに入ったらしい!
すごいなあ!
三人とも、もう新しいことを始めてるんだ!
俺も何かやってみたいなあ……。
実は、ちょっと気になってるスポーツがあるんだよね。
それは……。
サッカー!
ボールを蹴って、みんなでゴールを目指す。
楽しそうだなあって、前から思ってたんだ。
でも……。
一人で入るのは、ちょっと心細いかも。
知らない子もいるだろうし。
ちゃんと練習についていけるかなあ。
うーん……。
どうしよう……。
「ねえ! 遼!」
「ん?」
声のした方を振り返ると、明日夏がいた。
「あ、明日夏! どうしたのー?」
明日夏は、何かを言おうとして、少し迷っているようだった。
……あれ?
どうしたんだろう?
「俺さ、サッカーやってみたいんだよね……!」
…………。
え?
…………。
ええええええ!?
サッカー!?
明日夏も!?
俺と同じ!?
うわあああ!!
嬉しい!!
「お、おれも!! やってみたいと思ってた!」
「えっ! 本当!?」
「うん!!」
やったあああ!!
まさか明日夏もサッカーに興味があったなんて!
それなら……。
一緒に始められるかもしれない!
「じゃあさ、思い切って相談してみよう……!」
明日夏が言った。
うん!!
そうだね!!
一人だったら迷ってたけど、明日夏も一緒なら……。
「うん! 思い切っちゃおー!」
よーし!!
決まり!!
俺たち、サッカー始めるぞ!!
…………。
えへへ。
楽しみだなあ!
明日夏と一緒なら、きっと楽しいよね!!
*
―――初練習日―――
「いやぁぁぁぁぁ……。タスケテ……」
…………。
う、うん……。
気持ちは分かるよ……。
「明日夏、落ち着いて……」
俺は隣にいる明日夏に、なんとか声をかけた。
でも……。
正直に言うと。
俺も全然落ち着いてない!!
だって……。
だってさあ……!!
まさか……。
まさか……!!
もう一人いたなんてええええ!!
俺たちがサッカーチームに入ることになって。
初練習の日を楽しみにしていて。
明日夏と一緒なら大丈夫だって思ってたのに……。
まさか、こんなことになるなんて!!
「俺、心折れそう……」
「あ、明日夏……」
ううっ……。
どうしよう……。
明日夏が本当に辞めるなんて言い出したら……。
俺、一人になっちゃうよおおお!!
お願い!!
辞めないで!!
……いや。
そもそも、まだ練習も始まってないんだけどね!?
でも!!
怖いものは怖いんだよおおお!!
「俺、お前らがいるなんて聞いてなかったんだけど」
…………。
「ひいっ……!」
明日夏が小さく悲鳴を上げた。
わあああ!!
明日夏!!
落ち着いて!!
「お、おちついて……」
……って。
俺も声、震えてる!!
全然説得力ない!!
「俺はただ、玲士さんに勧められて始めただけなのに……」
目の前の男の子が、ぼそっと呟く。
「こいつらいるなんて聞いてない……」
…………。
そ、それは……。
こっちの台詞だよおおお!!
まさか、圭がいるなんて!!
圭。
帝耀派の一人。
あの、なんだか近寄りがたい雰囲気のある人たちの一人だ。
……いや。
別に、圭が何かしたわけじゃないんだけど。
でも……。
なんか、怖いんだよおおお!!
あの人たち、みんな圧がすごいんだもん!!
俺たちなんかが気軽に話しかけていいのかなって、つい思っちゃう。
そんな圭が、まさか同じサッカーチームに入ってるなんて……。
…………。
どうしよう。
これから一緒に練習するんだよね?
大丈夫かなあ……。
「まあ俺は、サッカーしに来ただけだから、お前らには何もしないから」
…………。
へ?
「へ?」
思わず、間の抜けた声が出た。
圭は、そんな俺たちを見ながら続けた。
「てか、そもそもお前らに何かしたこともないだろ?」
…………。
あ。
…………。
確かに。
言われてみれば……。
圭に何かされたことって、あったっけ?
…………。
ない。
……うん。
ないな。
そもそも、吉沢派の人たちって、なんとなく圧がすごくて怖いだけで……。
俺たちに何かしてきたわけじゃないんだよね。
…………。
あれ?
じゃあ、俺たち……。
勝手に怖がってただけ?
「そんな怖がられると、こっちもやりにくいし」
…………。
うっ。
そ、そうだよね……。
同じチームなのに、こんなに怖がられたら困るよね……。
「ごっ、ごめん……」
明日夏が慌てて謝った。
すると、圭は少し困ったように言った。
「いちいち謝られるのも、俺が悪いみたいでやだ」
…………。
あっ。
そ、それもそうだ……。
「ごっ、ごめん……あっ、ごめ……あっ……」
…………。
明日夏ああああ!!
落ち着いてええええ!!
謝っちゃ駄目って言われたのに、また謝っちゃってるよおおお!!
……いや。
俺も人のこと言えないけど!!
ううっ……。
どうしよう。
このままじゃ、明日夏がますます混乱しちゃう……。
…………。
よし。
ここは俺が頑張らないと……!!
俺は、ぎゅっと拳を握った。
大丈夫。
大丈夫だよ、俺。
圭は何もしてこないって言ってるし。
そもそも、同じサッカーチームに入ったんだから……。
これからは、チームメイトなんだ!
……よし!!
「け、圭!」
思い切って声をかけた。
圭がこちらを見る。
…………。
ひいっ!!
……いやいや!!
怖がっちゃ駄目!!
「こ、これからはチームメイトとしてよろしくね……!」
言えた!!
ちゃんと言えた!!
……まだ終わってないけど!!
「さ、サッカー、一緒に頑張ろうね!」
…………。
ど、どうかな……。
変なこと言ってないよね……?
圭は俺を見て、口を開いた。
「せっかく玲士さんに勧められたスポーツだし、俺、結構頑張るから」
…………。
あ。
「お互い迷惑かけないように頑張ろうぜ」
…………。
うん!!
「うん!」
よかったあああ!!
普通に話せた!!
ちゃんと返事してくれた!!
……あっ!!
明日夏も!!
俺は隣をちらっと見た。
明日夏はまだ緊張しているみたいだったけど……。
「よ、よろしくね……」
小さな声で、そう言った。
…………。
よ、よかったあああ!!
明日夏も挨拶できた!!
……うん。
大丈夫。
きっと、大丈夫だよね!
圭だって、サッカーを頑張りたくてここに来たんだ。
俺たちと同じなんだよね。
……まあ。
まだ、ちょっと怖いけど。
でも、これから一緒に練習していけば……。
少しずつ慣れるかもしれない!
…………。
よ、よーし!!
頑張るぞ!!
サッカーも!!
チームメイトとの関係も!!
それから……。
その他諸々も!!
…………。
ううっ。
前途多難な気がするけど……。
と、とにかく頑張るぞー……!!
〈59時間目・終〉




