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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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53/171

小学校編 49時間目 ―7人の新しい家族―

〈美香視点〉

 放課後の教室。

 窓から差し込む夕日が、教室の床をオレンジ色に染めていた。

 帰り支度をしているみんなを眺めながら、私はふと、あることに気がついた。

 今、五年二組には別邸で暮らしている子がたくさんいる。

 毎朝一緒に登校して、学校が終われば一緒に帰る。夕食を食べたり、お風呂に入ったり、夜遅くまでおしゃべりしたり。

 最初は少し不思議だった共同生活も、今ではすっかり当たり前になっていた。

 でも……。

「ねえ、みんな!」

 私は思いついたことを、そのまま口にした。

「五年二組のみんなで一緒に暮らせたら、もっと楽しくない?」

「え?」

 近くにいた紺ちゃんが、ぱちぱちと目を瞬かせた。

「どういうこと?」

「だって、まだ別邸に住んでない子がいるでしょ? その子たちも誘ってみたいなって!」

「なるほどね!」

 紺ちゃんは嬉しそうに笑った。

「それ、いいかも!」

「でしょ!?」

 私は思わず身を乗り出した。

「学校でも一緒、家でも一緒! 絶対楽しいと思うんだ!」

「でも、みんなが来られるとは限らないよ?」

「うん。それは分かってる。だから、まずは聞いてみたいの!」

 すると、紺ちゃんは少し考えるように首を傾げた。

「じゃあ、璃央たちにも聞いてみようよ!」

「璃央ちゃん?」

「うん! 璃央と色端と瑞稀! 三人とも私の仲良しなんだ!」

「あ! そうだったね!」

 私は教室の後ろの方に目を向けた。

 そこには、三人で楽しそうに話している璃央ちゃんたちの姿があった。

「よーし! じゃあ、早速聞いてみよう!」

 私は紺ちゃんの手を引いて、三人のところへ向かった。

     *

「璃央! 色端! 瑞稀!」

 紺ちゃんが声をかけると、三人がこちらを振り向いた。

「あ、紺! どうしたの?」

 最初に返事をしたのは璃央ちゃんだった。

 麗羽璃央ちゃん。

 ダンスがとっても上手で、将来はK-POPアイドルになりたいんだって。

 韓国語も勉強しているらしくて、夢に向かって一生懸命努力している女の子。

「実はね、美香が面白いこと言い出して!」

「面白いこと?」

 色端ちゃんが興味深そうにこちらを見た。

「うん! あのね……」

 私は少し緊張しながら、三人に話しかけた。

「みんなも、私たちと一緒に別邸で暮らさない?」

「……え?」

 璃央ちゃんが目を丸くした。

「別邸って……吉沢くんたちが住んでる、あの?」

「そう!」

「私たちも?」

「うん!」

 三人は顔を見合わせた。

 最初に口を開いたのは瑞稀ちゃんだった。

「いいね。私、住みたい」

「えっ!? 早っ!」

 色端ちゃんが思わず笑った。

「まだ何も聞いてないじゃん!」

「だって、楽しそうだもの」

 瑞稀ちゃんは落ち着いた様子で答えた。

「今しかできないことって、あるでしょう? 小学生のうちに友達と一緒に暮らすなんて、なかなか経験できないと思うの」

「確かに……」

「だったら、やってみたい。私はそう思うよ」

 その言葉を聞いて、私は思わず笑顔になった。

「瑞稀ちゃんらしい!」

「ふふっ。ありがとう」

 すると、色端ちゃんが腕を組んだ。

「私は条件次第かな」

「条件?」

「そう。いつから住めるのか、学校までどれくらいかかるのか、生活費はどうするのか。それから、親への説明も必要でしょ?」

「うっ……」

 私は思わず言葉に詰まった。

 確かに、何も考えていなかった。

 ただ、みんなで暮らせたら楽しいだろうなって思っただけだったから。

「美香、そこまで考えてなかったでしょ?」

「えへへ……」

「やっぱり」

 色端ちゃんは呆れたように笑った。

「でも、悪くない話だと思うよ」

「本当!?」

「うん。むしろ、私としてはありがたいかも」

 そう言った色端ちゃんの表情が、一瞬だけ真剣になった。

「……家、出たいと思ってたし」

「え?」

「いや、こっちの話」

 色端ちゃんはすぐにいつもの表情に戻った。

「とりあえず、詳しい話を聞かせてよ。実現できそうなら、私は賛成」

「うん!」

 私は大きく頷いた。

 そして、璃央ちゃんの方を向いた。

「璃央ちゃんは?」

「私は……」

 璃央ちゃんは少し困ったように笑った。

「嬉しいけど、迷惑じゃないかな?」

「迷惑?」

「うん。私、ダンスの練習もあるし、韓国語の勉強もしたいし……。それに、あんまり人に頼るのって得意じゃなくて」

「そんなの全然いいよ!」

 紺ちゃんがすぐに答えた。

「璃央が頑張り屋さんなのは知ってるもん!」

「でも……」

「別邸に住んだからって、誰かに全部頼らなきゃいけないわけじゃないでしょ?」

 瑞稀ちゃんが穏やかに言った。

「自分でできることは自分ですればいいし、困ったときだけ助けてもらえばいいんじゃない?」

「……そっか」

 璃央ちゃんは少し考えてから、小さく笑った。

「それなら……私も住んでみたいかも」

「本当!?」

「うん! みんなと一緒なら楽しそうだし!」

「やったー!」

 私は思わず両手を上げた。

 これで三人!

 でも、まだ四人いる。

「よーし! 次は蘭ちゃんと可恋ちゃんだ!」

     *

「蘭ちゃーん! 可恋ちゃーん!」

 教室の窓際にいた二人に声をかけると、蘭ちゃんが振り向いた。

「ん? どうした、美香?」

 一色蘭ちゃん。

 短めの髪がよく似合う、すごくかっこいい女の子。

 学校の女の子たちから大人気で、休み時間になると蘭ちゃんの周りにはいつも誰かがいる。

 その隣には、椿可恋ちゃん。

 可恋ちゃんは蘭ちゃんとは正反対で、とっても可愛らしくてお淑やかな女の子だ。

 二人はいつも一緒にいる。

「あのね! 二人も別邸で一緒に暮らさない?」

「……別邸?」

 蘭ちゃんが首を傾げた。

「吉沢たちのところ?」

「そう!」

「へえ……」

 蘭ちゃんは少し驚いたように目を見開いた。

「それって、あたしたちも住んでいいってこと?」

「もちろん!」

「……そっか」

 蘭ちゃんは少しだけ考え込んだ。

 すると、隣にいた可恋ちゃんが口を開いた。

「蘭ちゃん、どうする?」

「うーん……」

 蘭ちゃんは自分の服を見下ろした。

 今日の蘭ちゃんは、可愛らしいフリルのついたブラウスを着ていた。

 でも、普段の蘭ちゃんの雰囲気とは少し違う気がする。

「……別邸って、服装とか自由なのかな?」

「服装?」

「うん。あたし、こういう服より、もっとかっこいい服が好きなんだよね」

「あ、知ってる!」

 私は頷いた。

「蘭ちゃん、いつも可恋ちゃんと服交換してるもんね!」

「そうそう!」

 蘭ちゃんは嬉しそうに笑った。

「うちのお母さんとおばあちゃん、あたしに可愛い格好してほしいみたいでさ。かっこいい服、なかなか買ってくれないんだ」

「そうなんだ……」

「だから、可恋と交換してるんだよ」

 すると、可恋ちゃんが小さく微笑んだ。

「私は可愛いお洋服が好きなんですけど、家には男の人が多くて……。お下がりのお洋服ばかりだったんです」

「そうだったんだ!」

「はい。でも、蘭ちゃんが交換してくれるので、とっても嬉しいんです」

「こっちこそ助かってるよ!」

 蘭ちゃんは笑いながら可恋ちゃんの肩を軽く叩いた。

 その様子を見て、私はなんだか温かい気持ちになった。

 二人は本当に仲良しなんだな。

「だったら、別邸でも好きな服を着ればいいんじゃない?」

 私がそう言うと、蘭ちゃんが顔を上げた。

「いいの?」

「もちろん! 自分の好きな服を着るのって、楽しいもん!」

「……そっか!」

 蘭ちゃんは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、あたしも行きたい!」

「本当!?」

「うん! 可恋は?」

「私も……蘭ちゃんと一緒なら、ぜひ」

 可恋ちゃんはにっこり微笑んだ。

「みなさんと一緒に暮らせるなんて、とっても楽しそうですもの」

「やったー!!」

 私は思わず飛び跳ねた。

 これで五人!

 あと二人だ!

     *

「舞ちゃん! 魅月ちゃん!」

 最後に声をかけたのは、北条舞ちゃんと環魅月ちゃんだった。

 二人は帰り支度を終えたところだった。

「あ、美香ちゃん。どうしたの?」

 舞ちゃんが優しく微笑んだ。

 舞ちゃんは子役として活躍していて、たくさんのミュージカルに出演している。

 魅月ちゃんもフィギュアスケートを頑張っている女の子だ。

 二人とも毎日忙しそうで、放課後に遊べることはあまりない。

「あのね! 二人も別邸で一緒に暮らさない?」

「……え?」

 舞ちゃんが驚いたように目を見開いた。

 魅月ちゃんも少し驚いた様子だった。

「私たちも?」

「うん!」

「でも……」

 舞ちゃんは少し困ったように笑った。

「私、毎日お稽古があるから……」

「そっか……」

「帰るのも遅くなるし、みんなと一緒にいられる時間も少ないと思うの」

「それでもいいよ!」

 私はすぐに答えた。

「少しでも一緒にいられたら嬉しいもん!」

「……美香ちゃん」

 舞ちゃんは少しだけ目を伏せた。

「……私ね」

「うん?」

「昔は、歌ったり踊ったりするのが大好きだったの」

「うん!」

「でも……最近は、あんまり楽しいって思えなくなっちゃって」

「……え?」

 私は驚いて舞ちゃんを見た。

 舞ちゃんはいつも舞台の上で楽しそうに歌って踊っている。

 だから、そんなふうに思っているなんて知らなかった。

「毎日お稽古ばっかりで……。お休みの日もほとんどなくて……」

 舞ちゃんは小さく笑った。

「ちょっと疲れちゃったのかもしれない」

「舞……」

 魅月ちゃんが心配そうに舞ちゃんを見つめた。

「……私も、分かるよ」

「魅月ちゃん?」

「私も毎日スケートの練習があるから。お休みもほとんどないし……」

 魅月ちゃんは静かに続けた。

「でも、だからこそ……みんなと一緒に暮らしてみたいなって思う」

「……え?」

「練習が終わって帰ったとき、友達がいるって素敵じゃない?」

 魅月ちゃんは優しく微笑んだ。

「疲れた日でも、みんなとお話しできたら、少し元気になれる気がするの」

「……魅月」

 舞ちゃんはしばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。

「……私も、住んでみたい」

「本当!?」

「うん。でも、お父さんとお母さんが許してくれるか分からないけど……」

「そっか……」

 私は少し考えた。

 確かに、みんなが住みたいと思っても、家族の許可が必要だ。

 それに、別邸に住むことだって、私たちだけで勝手に決められるわけじゃない。

「じゃあ、みんなで相談しよう!」

「相談?」

「うん! 帝耀くんたちにも相談して、どうすればいいか考えよう!」

 魅月ちゃんが頷いた。

「そうだね。私も、お父さんとお母さんにちゃんと話してみる」

「私も……頑張って話してみるね」

 舞ちゃんが小さく微笑んだ。

「ありがとう、美香ちゃん」

「ううん!」

 私は首を振った。

「まだ決まったわけじゃないけど……絶対、みんなで一緒に暮らせたら楽しいと思う!」

 舞ちゃんと魅月ちゃんは顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。

     *

 その日の夕方。

 私は別邸に帰ると、早速みんなに相談した。

「ねえ、みんな! お願いがあるの!」

「ん? どうした?」

 帝耀くんがこちらを見た。

「あのね! 五年二組の、まだ別邸に住んでない七人も一緒に暮らせないかな?」

「七人!?」

 近くにいた子たちが驚いたように声を上げた。

「うん! 璃央ちゃん、色端ちゃん、瑞稀ちゃん、蘭ちゃん、可恋ちゃん、舞ちゃん、魅月ちゃん!」

「へえ……」

 帝耀くんは少し考えた。

「本人たちは何て言ってんの?」

「みんな住みたいって!」

「そうなのか」

「でも、家族のこととか、いろいろあるみたいで……」

 私は今日聞いた話を、本人たちの事情を必要以上に話さないようにしながら説明した。

 帝耀くんは真剣な表情で聞いていた。

「なるほどな……」

「どうかな?」

「俺はいいと思うけど、父さんにも確認しないとな」

「本当!?」

「ああ。部屋のこともあるし、保護者の許可も必要だろ」

「うん!」

「とりあえず、父さんに聞いてみるよ」

「ありがとう!!」

 私は嬉しくなって、思わず笑顔になった。

 それから数日間。

 帝耀くんたちが別邸での受け入れについて相談してくれて、七人もそれぞれ家族と話し合った。

 すぐに話がまとまったわけではなかった。

 でも、少しずつ準備が進んでいった。

 そして……。

     *

「美香ちゃーん!!」

 ある日の放課後。

 教室に入ってきた紺ちゃんが、嬉しそうに私のところへ走ってきた。

「どうしたの!?」

「決まったよ!!」

「え?」

「七人とも、別邸に住めることになったんだって!!」

「……えっ!?」

 一瞬、言葉が出なかった。

 そして、次の瞬間。

「えええええ!! 本当!?」

「本当!!」

「やったあああ!!」

 私は思わず紺ちゃんに抱きついた。

「嬉しい!! すっごく嬉しい!!」

「私も!!」

 教室の向こうでは、璃央ちゃんたちが楽しそうに話していた。

 色端ちゃんは引っ越しの予定を考えているみたいだし、瑞稀ちゃんはいつも通り落ち着いた様子で笑っている。

 蘭ちゃんと可恋ちゃんは、持っていく服について相談していた。

 舞ちゃんと魅月ちゃんも、嬉しそうに顔を見合わせている。

 その姿を見て、私は胸がいっぱいになった。

 みんなで一緒に暮らせる。

 学校でも、家でも。

 楽しいことも、悲しいことも、きっとたくさんあると思う。

 でも、そんな毎日をみんなで過ごせるなんて……。

 絶対、素敵だと思う。

     *

 そして、引っ越しの日。

 別邸の玄関には、七人の女の子たちが並んでいた。

「わあ……!」

 璃央ちゃんが建物を見上げた。

「やっぱり、すごいね……!」

「ほんと。想像以上だわ」

 色端ちゃんも感心したように頷いた。

「ふふっ。これからここで暮らすんだね」

 瑞稀ちゃんが微笑んだ。

「なんか、まだ実感湧かないな!」

 蘭ちゃんが笑うと、可恋ちゃんも嬉しそうに頷いた。

「私もです。でも、とっても楽しみです」

「……私も」

 舞ちゃんが小さく呟いた。

 その隣で、魅月ちゃんが優しく微笑んでいた。

「これから、よろしくね」

 私は七人の前に立った。

 そして、思いっきり笑った。

「みんな!! 別邸へようこそ!!」

「「「よろしくお願いします!!」」」

 七人の声が重なった。

 その瞬間、なんだか胸がじんわり温かくなった。

 今日から、また新しい生活が始まる。

 今までよりも、もっと賑やかで、もっと楽しい毎日。

 きっと、いろんなことが起こると思う。

 でも、それが楽しみで仕方なかった。

 だって……。

 大好きな友達と、毎日一緒にいられるんだから!

〈49時間目・終〉

〈音羽綾音〉

元気で笑顔がとっても素敵な子。歌とダンスが上手。

どんな時でも笑顔な子でいて欲しいと、母が死ぬ間際に言われた。

別邸で暮らす前は親戚の家を転々としていた。

将来の夢はアイドルになること。

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