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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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30/124

小学校編 27時間目 ―聞いてはいけない秘密―

〈柊明日夏視点〉

「……まじかよ」

俺は、誰もいなくなった男子トイレで呟いた。

(……いや、待て待て待て)

ちょっと待ってくれ。

今、俺は何を聞いた?

莉玖翔と燈李が、帝耀の家に住んでいる?

しかも、華人と蓮と皇輝まで?

そのうえ、女子もいるって……。

(……はぁぁぁ!?)

俺、とんでもないこと聞いちゃったんじゃないか!?

そもそも、なんでこんなことになったんだ。

俺はただ、前髪を直しに来ただけなのに!!

***

――数分前。

(……最悪だ)

俺は、急いで校舎の中を歩いていた。

理由は一つ。

風が強すぎて、前髪が禿げた。

いや、もちろん本当に髪がなくなったわけじゃない。

ただ、せっかく綺麗に整えてきた前髪が、強風のせいで無惨な姿になってしまったのだ。

(……ありえねえ)

朝、あんなに時間をかけてセットしたのに!

俺の努力を返してくれ!

(……早く直さないと)

向かう先は、男子トイレ。

手洗い場にある大きな鏡の前が、俺の定位置だ。

もちろん、手鏡は常に持ち歩いている。

でも、前髪の状態を確認するなら、やっぱり大きな鏡が一番。

角度も、毛流れも、全体のバランスも。

全部まとめて確認できるからな。

「ふんふふ~ん♪」

俺は鼻歌を歌いながら、鏡の前で前髪を整え始めた。

(……よしよし)

ここをちょっと直して……。

あとは、こっちを……。

(……うん、いい感じ)

ようやく元の形に戻ってきた。

……そのときだった。

(……ん?)

なんだか、外が騒がしい。

しかも、足音が近づいてくる。

それも一人や二人じゃない。

(……なんだ?)

俺は手を止め、入口の方を見た。

そして――。

(……げっ!!)

こちらに向かって全力疾走してくる、四人の男子が見えた。

帝耀。

華人。

蓮。

皇輝。

(……吉沢派!?)

しかも、よりによってあの四人!?

(……なんで!?)

俺は反射的に身を引いた。

あいつらとは、できれば関わりたくない。

というか、絶対に関わりたくない。

俺は古田派だ。

吉沢派の奴らと鉢合わせなんてしたら、何が起こるか分かったもんじゃない。

(……隠れろ!!)

俺は急いで個室に飛び込み、ドアの裏に身を隠した。

その直後。

バタバタバタッ!

四人が男子トイレに駆け込んできた。

(……あっぶねぇぇぇ!!)

間一髪だった。

……いや。

(……待てよ)

普通にトイレから出ればよかったんじゃないか?

「…………」

(……あ)

気づくのが遅すぎた。

もう、今さら出られない。

(……俺、何やってんだろ)

***

俺は、個室の中で息を潜めた。

(……早くどっか行ってくれ……)

しかし、そんな願いも虚しく。

今度は別の足音が聞こえてきた。

「なんだ、全員いんじゃん」

(……ん?)

聞き覚えのある声。

太志だ。

その後ろから、圭やるる、海斗の声も聞こえてくる。

(……は?)

ちょっと待て。

まさか……。

(……吉沢派、全員集合!?)

終わった。

俺の人生、ここで終わった。

いや、死ぬわけじゃないけど!

それくらい絶望的な状況なんだって!

(……なんでよりによって俺がいるときに!?)

俺は、ドアの裏で身を縮めた。

絶対に見つかってはならない。

今ここで見つかったら、何を言われるか分からない。

(……頼む)

気づかないでくれ。

俺は、息をすることさえ控えた。

……けれど。

本当に恐ろしいことは、このあと起こった。

***

「実は……」

帝耀の声が聞こえた。

(……ん?)

どうやら、何か大事な話をするらしい。

俺は、思わず耳を澄ませた。

……そして。

「…………」

(……え?)

今、なんて言った?

莉玖翔と燈李が……。

帝耀の家に?

(……は?)

一緒に住んでる?

(……はぁぁぁ!?)

さらに、華人と蓮と皇輝も住んでいるらしい。

(……ちょっと待て!!)

何がどうなったら、そんなことになるんだ!?

莉玖翔と帝耀だぞ!?

あの二人が!?

同じ家に!?

(……ありえねえだろ!!)

俺は、思わず頭を抱えた。

もしかして、今日は四月一日だったりする?

エイプリルフールとか?

(……いやいや)

もう四月下旬だ。

そんなわけない。

じゃあ、あいつらの頭がおかしくなったのか?

……いや、それも違うだろ。

(……どういうことだよ)

俺が混乱していると、向こうからも驚いた声が聞こえてきた。

「はぁぁぁ!?」

「なんでそんなことになってんの!?」

(……あ)

なるほど。

太志たちも、今初めて知ったのか。

(……そりゃ驚くよな)

俺だって驚いてるんだから。

……というか。

(……俺、できれば知りたくなかったんだけど)

知らなければ、こんなに悩むこともなかったのに。

しかし。

事態は、さらに悪化した。

「実は、女子もいるんだ……」

(…………)

(……え?)

(……女子?)

(…………)

はぃぃぃぃ!?

(……そ、それはまずくないか!?)

色々と!!

男子だけでも十分おかしいのに!

女子まで一緒に住んでるって!?

(……なんなんだよ、その家!!)

思わず声を上げそうになった。

「……っ!」

俺は慌てて口を押さえる。

(……危なっ!!)

今、叫んでいたら絶対にバレていた。

(……落ち着け、俺)

大丈夫。

これはきっと夢だ。

そうに違いない。

だって、こんなこと現実にあるわけないだろ?

(……よし)

夢なら、痛みを感じないかもしれない。

俺は思い切って、自分の頬をつねった。

ぎゅうううっ!

「……っ!!」

(……いってぇぇぇ!!)

めちゃくちゃ痛い!!

涙が出そうなくらい痛い!!

(……夢じゃねえのかよ!!)

残ったのは、尋常じゃない頬の痛みだけだった。

***

気づけば、男子トイレは静かになっていた。

(……あれ?)

耳を澄ませても、もう誰の声も聞こえない。

どうやら、あいつらは全員出ていったらしい。

(……助かった)

俺は、そっと個室から顔を出した。

誰もいない。

……よかった。

本当によかった。

「……はぁぁ」

思わず、大きなため息が漏れた。

(……なんなんだよ、今日は)

俺は、ただ前髪を直しに来ただけなのに。

吉沢派の奴らがぞろぞろやって来るわ。

いきなり他では話せない秘密を打ち明け始めるわ。

しかも、その内容がとんでもないわ。

(……俺、ついてなさすぎだろ!!)

なんだって、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!?

自分で言うのもなんだけど、俺は今まで誰かに迷惑をかけてきた覚えはない。

むしろ、善良な一般市民だ。

前髪を大切にしているだけの、ごく普通の小学生だ。

……たぶん。

(……なのに)

どうして、こんな秘密を知ることになっちゃったんだよ!

***

(……どうしよう)

俺は、鏡の前で考え込んだ。

さっき聞いた話。

あれは絶対に、俺が聞いていい話じゃなかった。

(……まずいなぁ)

俺は、嘘をつくのが苦手だ。

このまま莉玖翔や燈李に会ったら、きっと態度に出てしまう。

「……なあ、明日夏。どうした?」

なんて聞かれたら。

「い、いや!? 別にお前らが帝耀の家に住んでるとか、知らないからな!?」

……とか言っちゃいそうだ。

(……いや、最悪じゃねえか!!)

絶対バレる!!

じゃあ、どうすればいい?

莉玖翔本人に問い詰めるか?

(……うーん)

あいつなら、ちゃんと答えてくれるかもしれない。

でも、なんとなく聞きづらい。

じゃあ、燈李に聞く?

(……いや)

燈李を困らせちゃうかなぁ。

あいつ、こういうとき気を遣いそうだし。

だったら、いっそのこと聞かなかったことに……。

(……できるか?)

無理だろ。

だって、こんな衝撃的な話!

忘れられるわけが……。

「…………」

(……いや)

待てよ。

俺は、ある解決策を思いついた。

(……そうだ!!)

忘れればいいんだ!!

覚えているからいけない。

最初から知らなかったことにすれば、何の問題もない!

(……よし)

忘れよう。

忘れろ。

忘れろ!

忘れろ、俺!!

俺は、ぎゅっと目を閉じた。

(……何も聞いてない)

俺は何も知らない。

莉玖翔と燈李が帝耀の家に住んでるとか。

華人と蓮と皇輝も一緒だとか。

女子までいるとか。

(……ああああ!!)

全部思い出してるじゃねえか!!

「……くっ」

もう一回だ。

(……忘れろ)

忘れろ。

忘れろ。

忘れろ!!

「…………」

(……よし)

忘れた。

完全に忘れた。

もう記憶の奥底にしまった。

いや、捨てた!

捨てたんだ!!

「…………」

(……あ)

莉玖翔と燈李が……。

「うわぁぁぁ!! 思い出すな、俺!!」

なんでだよ!!

忘れたはずなのに!!

(……くそっ)

人間の記憶って、なんて厄介なんだ。

忘れようとすればするほど、鮮明に思い出してしまう。

(……なんて嫌味な作りなんだよ!!)

俺は、頭を抱えた。

***

キーンコーンカーンコーン。

「…………」

(……ん?)

聞き覚えのある音。

……チャイム?

「…………」

(……え?)

始業のチャイム!?

「……うわぁぁぁ!!」

やばい!!

こんなところで悩んでる場合じゃなかった!!

俺は慌てて男子トイレを飛び出した。

(……遅刻する!!)

全力で廊下を走る。

……けれど。

結局、間に合わなかった。

「柊くん!」

教室に入った瞬間、先生の声が飛んできた。

「どうして遅れたんですか!」

「……あ、いや、その……」

(……言えるわけねえだろ!!)

吉沢派の秘密を聞いちゃって、忘れようとしてたら遅れました!

……なんて。

そんな説明、できるわけがない。

「……すみません」

俺は、素直に頭を下げた。

その後、先生にこってり怒られたのは言うまでもない。

(……はぁ)

前髪は崩れるし。

吉沢派には遭遇するし。

聞いてはいけない秘密まで知ってしまうし。

挙げ句の果てに、先生に怒られるし。

(……なんなんだよ、もう)

今日は本当についていない日だ。

……ああ。

そういえば。

(……莉玖翔と燈李、帝耀の家に住んでるんだよな……)

「…………」

(……だから!!)

忘れろって言ってんだろ、俺ぇぇぇ!!

〈27時間目・終〉

〈柊明日夏〉

前髪命の男の子。吉沢派の人達からは明日夏ちゃんと呼ばれており、正直辞めて欲しいが、怖くて言えない。

吉沢派の人達はとても怖いイメージがあるため、まとまって来ると特に隠れてしまう。

たまに顔の周りに謎のキラキラフィルターが着くことがある。美形。だが本人は自分の髪しか見ていないため、自分のかっこよさに未だ気づいていない。

女手一つで育てられたが、その母親も料理中の事故で亡くなり、現在は祖父母に育てられている。

その祖父母から前髪を気にするなんて男らしくないと言われ、あまり上手くいっていない。

火を見るのが苦手で、料理ができない。

学校のサッカークラブに所属している。

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