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「あ、検問所の門が見えてきましたよ」

エナが言うと、少し錆び付いた銀色のシンプルな装飾の大きな門が見えた。五メートルはある大きな門の中央にはヴィラシスク国紋“栄国創剣”が彫られている。そしてその門の両側には赤の国旗がなびき、二人ずつ国境警備隊が立っている。

「五時……二十分前。思ったより早く着いたな」

レイルが正面に見える時計台を見て呟くと、右肩に背負っていた荷物を背負い直した。

「検問所前の、そこの宿屋の路地裏で待機しよう」

その言葉に三人は頷くと身を隠すように一人ずつ薄暗い狭い路地に入った。一列になり片側の壁を背にして待機しているとヴィロが呟いた。

「なんか……泥棒みたいだな」

するとすぐ前にいるレイルが振り向いて答えた。

「仕方ないだろ。この時間に四人も人がぶらついていたら、怪しまれるからな」

ヴィロが頷くとエナも口を開いた。

「そういえば、ピテラ検問所の国境門は銀色なんですね。それになんかこっちの方がきれい。私たち第三部隊の国境警備班が警備している国境ってメローダですけど、あそこって……」

「ああ……金色だ。メローダの方がピテラよりも先に建てられたから、古いのは当たり前だ。それにここの門、似ているがメローダとは違うだろ?」

レイルの言葉にヴィロも口を開いた。

「確かに。ここの門は異様にでかい。検問所の中なんて見えないぞ……」

「ああ。原型は両方とも同じなんだが、ピテラはだいぶ改築されて建てられたんだ。門を高くして検問所内を見えないようにすることで、不法移民者の流入を阻止したりサージェスタの侵入を防ぐ。そして警備兵達は門内にある高台から外の様子を監視している。そんな体制だから、こっちはメローダほど国境も緊迫していないし、治安もいくぶんかましな方と聞いている」

「なるほどね、門番の数が少ないのも納得できるな。俺たちは危険地域にいたってわけか。ほとんど休みなしでこっちはきつかったもんなぁ。それに比べると夜とはいえ、のどかなもんだぜ」

ヴィロの呟きにレイルが深刻な顔で答える。

「とは言っても、もちろん犯罪や侵入者が全くいないってわけでもない。逆に検問所内部が見えないから、内部での不正行為が多いと言われている。盗賊から賄賂をもらってパスがないのに通したり……とかな」

「最低……」

エナがそう言うとクレアが後ろにいる彼女の口を塞いだ。エナが驚いて暗がりの中ぼんやりと見えるクレアの顔を見ると彼女は険しい表情で前方を見ている。そしてクレアのすぐ前にいるヴィロと先頭にいるレイルのただならぬ雰囲気にエナは息を呑んだ。そしてようやく近づいてくる足音に気が付く。

「国境警備隊かな?」

エナの口を塞いでいるクレアの手を外してエナは小さな声で呟く。

「だぶんね。近辺警護をしているみたい。こんな朝方に今四人で街に出たら確実に怪しまれる。手荒なまねはしたくないわ、こっちに来ないことを祈りましょう」

(手荒なまね……)

「う、うん……」

その思いとは裏腹に足音がだんだん大きくなる。そしてもう一つ、走って近づいてくる足音も聞こえてきた。しかしその足音はすぐに止まった。

「テムド中長、お疲れ様です」 

「状況は?」

「特に異常ありません」

「そうですか。ご苦労様です。時期交代の時間になりますが、気は抜かないように」

「はっ」

そう言って二つの足音が遠ざかる。

「行ったか?」

「そのようだな」

ヴィロの問いにレイルが答えるとヴィロは頬を掻いた。

「それにしてもテムド・ヴェルティ隊長補佐。ここにいたんだな」

「ああ。今は中長らしいな。だがここは第四部隊の国境警備班の管轄。なぜあの方がここに……」

「お知り合いですか?」

エナの言葉にヴィロとレイルが振り返った。

「ああ、俺たちの上司兼指導教官だったんだ。俺はいっつも遅刻して怒られっぱなしだったけど」

「真面目で正義感の強い御方だからな」

「ということは第三攻武部隊におられたんですね。今隊長補佐って言いましたけど……」

エナの疑問にレイルが答える。

「ああ。俺たちが新人の頃は隊長補佐官だったんだ。だがその一年後、彼は当時の隊長が不正をしていることに気づいてその隊長を訴えた、いや説得した。結局立場が悪くなったその隊長は、説得を聞き入れることなく金を持ち逃げし、その責任をテムド隊長補佐がとり、あの御方の降格という形で解決した。今はコーザに援軍として駐留していると聞いていたが……」

「そうだったんですか」

「エナ、落ち込むことはない。立派なお方だ。その一件がなくても部下に慕われていた。すぐに上がってこられる。現隊長も彼を認めているからな」

「そうは言っても……」

レイルの言葉にクレアが腕を組んで眉間にしわを寄せる。

「さっきのレイルの話だと、ここは不正が多いんでしょ?その方にとっていい場所ではないわ。なのになぜ……」

レイルは何かに気づいたように小さく笑った。

「なるほど……そういうことか」

「えっ?」

「あの方も人が良過ぎるな……」

「えっ、クレア!?」

エナがそう叫ぶとヴィロとレイルも振り返り、暗闇の中誰かが走り去っていくのが見えた。

「エナ、今のはクレアか?」

「はい、突然後ろの路地裏に走って行っちゃいました」

「……ヴィロ、エナのそばにいろ」

レイルはそう言うとヴィロとエナを抜いてクレアの後を追う。エナが呆然としているとヴィロはエナの肩に手を乗せた。

「俺達も行こう」

「え、でも……」

「誰かがこっちの様子を見てる気配はあったんだ」

「!?」

「これは特務だ、知られてはいけない」

「つけられてたってことですか?誰かが、特務を知って!?」


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