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「よぉし、買出し終了。最終荷物確認オッケイ!あとは……」

そう言ってエナはダイニングテーブルの正面に座るクレアとその隣に座るレイルの方にエメラルドグリーンの瞳を向けた。クレアはエナを見て頷く。

「今後の行程を説明して終わりよ」

レイルがテーブルに地図を広げ古い壁掛け時計を見ると説明を始めた。

「集合場所のピテラ検問所大門前まではここから四十分弱。集合時間は五時だから、余裕を持って一時間前に出発するとして、四時にはここを出る。今から十時間後だ。国境に着いたら五時に国境警備隊は一時退去する事になっている。その退去の合図と俺たちの検問は俺の顔見知りの上官がするという書状が届いた。ともかくそれを終えたら俺たちは門をくぐって国を出る。」

ヴィロは上官という言葉に反応してレイルを見た。

「それって……もしかして隊長のことか?」

「……他の上官の可能性もある」

「あの人なら激励というか、見物がてら来そうだな」

ヴィロが言うとレイルはため息をついて話を続けた。

「国を出たらサージェスタのクムラン検問所を通ってマルキアを目指す……と行きたいところだが。通常、検問所の開門時間はヴィラシスクでは六時、サージェスタでは六時半と定められている。今回は特務ということで、国内では特別に五時に門を出れるが、サージェスタではそうはいかない。ピテラ検問所を五時に出たとしても、クムラン検問所までせいぜい十五分がいいところだ。つまりクムラン検問所の開門時間まで一時間以上空く。それまでは検問所と検問所の間の通りで休むしかない」

「……それって怪しまれません?そんな朝早くに検問所前にいるなんて」

エナが言うとクレアが答えた。

「その心配はないわ。朝一でサージェスタに入る行商人は多くいて……よく夜から検問所前の通りで待機しているのよ」

「サージェスタ側の検問は、厳しい事で有名だからな。その分時間もかかるから、みな朝早くから待機してるらしい。特に今は戦争が始まったから、さらに厳しいのは間違いないだろう。検問を突破する為に、俺たちの口裏合わせは後程する予定だ」

クレアとレイルの言葉にエナとヴィロは納得した。

「それからクムラン検問所を通ったら、とりあえず南西部にあるダハラという町を目指して進むわ。地図で言うとここ。そこからずっと南下してヌヤ州に入り西に進む。そしてマルキア国に入りエトル、キケ、セシリアのいるティカンへ行く。遠回りって思うかもしれないけど、クムランからキケに入るのは今の情勢では無理だと思う。サージェスタはクムランにある首都を中心にキケに進行しているから。出入りはできないでしょうね」

するとヴィロは地図を見てペルロを指差した。

「だったらバシュアナからマルキアのペルロ、ティカンでもよくないか?そっちの方が近いぞ」

「ほんとですね」

エナも地図を覗き込んで頷くとクレアは首を横に振った。

「サージェスタのバシュアナには反ヴィラシスク派過激組織の本拠地があると噂されているの。その隣であるペルロにもその影響があると思う。ヴィラシスク人ってことだけで殺されかねないわ。いくら軍属の人間がいるとはいえ、そんなところにたった四人で入るのは無謀よ」

ヴィロとエナの顔が引きつった。レイルはその二人を見て言う。

「だからってこの行路もやっかいだぞ。地図を見てみろ、ヌヤを超えてキケに入るには砂漠越えをしなければならない……まだ先の話だがな」

「……他のどの行路よりもましです」

「ああ……砂漠くらい越えてやるよ」

そう言ってエナとヴィロの二人は大きなため息をついた。クレアはそんな二人を見ながら言う。

「それから私達は傭兵ということで検問所を通過するわ。その方が武器を持っていても怪しまれることはないし、通行パスも軍人用ではなく一般人用になっているから」

「まぁ……商人ってがらでもないわな」

「そういうこと。説明はこれで終わりだけど……」

「はーい」

エナがレイルとクレアの二人の顔を見た。

「私たちがマルキアに行く間、他のみんなには何て言ってあるんですか?家族とか、同僚達とか特務だからどういう理由で私達がいないのか知らないんでしょ?」

「ああ、それね」

クレアは隣にいるレイルを見て、彼に説明を任せた。

「書状によれば特務の間、エナは首席入隊者の特別留学としてマルキアに研修、俺とヴィロはマルキア軍からの要請により軍指導教官として派遣、クレアは確か卒業実習による長期留学という名目になっている。家族や親族にはそう通達されているだろう」

エナが首を傾げてレイルにたずねた。

「特別留学?」

「名目上だ……」

「作ったんですね。でもどうして堂々と検問所に行けないんですか?自分の国なのに……」

エナが呟くとクレアが答える。

「外から見ればそれぞれ別の理由でマルキアに行くのに、四人一緒にいては怪しまれるでしょう?それにレイルとヴィロはある程度身分もあるし、顔を知っている人も多いだろうから」

「つーか、んな面倒なことしないでマルキア軍がセシリアをシーエンに連れていけばいいじゃねぇか。」

ヴィロの一言にしんとなると、クレアが地図に視線を落とした。

「……マルキアも今は自分の国を守るのに必死なのよ。実際、サージェスタの進軍で人手を割く余裕なんてないんだと思う。だからヴィラシスクに仕方なく依頼したんじゃない?」

「それも一理あるだろうな」

「ふーん。ずいぶん含みのある言い方だなぁ、レイル」

ヴィロが言うとレイルが大きく息を吐いた。

「疑問に思わなかったか?あまりヴィラシスクをよく思っていないマルキアが依頼したんだぞ」

「確かに。それならマルキアはセンシース信仰信者が多いんだから、直接シーエンに協力を依頼すれば……」

エナが呟くとレイルは彼女を見た。

「その本意は分からないが、今のところシーエンは動きそうにないんだろうな。だからと言って、マルキアだけで護衛をつけてシーエンに向かうにしても、サージェスタの海域を渡ることになるだろう?万が一あっちの海上警備隊にでも見つかったら、それこそ終わりだ」

「だからってレイル、同じことじゃないのか?結局この依頼でヴィラシスクには彼女の存在が知られた。うちがセシリアを拉致する可能性だってあったはずだ。だって彼女は……」

ヴィロはそう言って押し黙ると、レイルは話を続けた。

「そうだな。彼女は、ゲルダ書と共に行方不明になったトゥタス博士の縁者だ。彼女は歴史書の在り処とその内容を知っている可能性がある。そうと知れば、サージェスタもヴィラシスクも彼女を欲しがるだろう。だから国の政治的介入が許されない宗教自治区のシーエンを保護地として選んだ」

それを聞いていたクレアがぽつりと呟いた。

「そうか」

その声に三人はクレアの方を見た。

「近年のサージェスタの進行に危機を感じていたマルキア政府は、ヴィラシスクとは戦争状態ではないという状況を利用する事にした。サージェスタによる侵略に負ければ、いずれセシリアの存在も知られてしまう。その前にマルキアは、何としてでもセシリアをシーエンに護送したい。だからマルキアはヴィラシスクに国家機密をばらしてでも、世界一の軍事国家の護衛を望んだ?」

「俺もその可能性を考えたが、クレアはそんな賭けのような事をマルキアがすると思うか?しかも護衛は目立たないようにする為とはいえ、たった四人で学生と新人が混じっている。そもそも、うちも何を考えての人選なのかも分からない」

それはみんな思っていた疑問だった。どうして自分達なんだろうと。

「話が逸れたな。一旦考えるのはここまでにしよう。今はただ任務の遂行、それだけに集中しよう」

「……そうだな」

ヴィロが明るい茶色の髪を掻きながら呟くとエナが言った。

「と、とにかくセシリアさんを保護すればいいんですよ!裏の事情まで考えてたら動けません」

「そうだな、余計なこと考えるのはやめた。パッと飯食って休もうぜ」

エナとクレアが頷いて台所へ向かうと、レイルは時計を見た。

「九時間を切ったな……」


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