37話―胸囲の驚異の脅威の格差
王都に来て早4日目。木曜日。
今日も騎士団のとこで訓練中。
「はぁっ!」
「っ、ふっ!」
今はアズさんと午後の格闘中。
審判は副団長。ルーンは観戦。
当ててもいいというルールなので、両者とも容赦なく拳や足を当てにいっている。だけど1回当ててダメージなかったので、俺は体勢を崩そうと必死だ。
数合後、俺の掌底を避けたアズさんの構えが崩れた。
(もらった……!)
「……よっ」
「はっ!?」
すかさず足を払おうとするが、なんとアズさんはバック転でそれを回避。
振り上げた足が顎に直撃するのは防いだが、今度は俺の体勢が崩れた。
「そいっ」
「ぐふっ」
「そこまでっ」
それを見逃しれくれるほどアズさんも甘くはなく、俺は腕を捕まれて一本背負いの餌食になった。
「いっつつ……やっぱ体術弱っちいな、俺……」
「良い線は毎回行っていると思うぞ。隙を見つけると油断する癖を無くせば、もっと良くなる」
「それでも十分強いけどね。何人吹っ飛ばしたっけ?」
「ナニソレ嫌味?昨日俺をさんざん投げ飛ばしやがったルーンさん」
仰向けの俺を上から見上げるルーンに俺はジト目を送る。
そこにルーンは心外とばかりに驚き面を見せる。
「いやー、罪に対して制裁を与えるのは当然でしょー?一昨日私がどれだけ苦しい思いしたか分かる?」
「それはお互い様だろ。被害も原因も。買ったお前も使った俺も悪い。はいこれでおしまいだったろ」
「王城でだよ私は。そこはレイより被害大きい気がするけどなー」
「確かに、ルーン殿が走った時は私も恥ずかしくなりましたがね」
「あれは忘れて!?」
そう赤面しながら叫ぶルーン。かなりきつかったらしい。
一昨日、ルーンと副団長は王城へ行っていたらしい。
炎黒狼を討伐したから、その報告……というのはあくまで名目上。実際は貴族が大会前に少しでも機嫌を取っておくための急ごしらえの場だそうだ。
午前のうちにパパっと王様と面会を済ませて、昼飯に公爵だかと話してたら、お腹ビッグバンが作動したらしい。
次の日、喧嘩が勃発したが俺が一方的に投げ飛ばされて落ち着いた。
「互いに体重減ったからダイエット成功で万々歳だろ」
「別に太ってないんだけど。方法が過激だし」
「いつまでもその話を蒸し返すな。そうだ。土曜は休みだが、何か用事はあるか?」
「えっ、土曜休みなの?じゃあ日曜も?」
「いや、日曜は通常出勤だ」
「そこは出勤なのね……」
普通、定休日は日曜じゃないんですかね。せっかくこの世界でも太陽暦を採用してんだから、そこも同じにしてほしかったな。
にしても、休みか……。
「なんもする事ねえな……」
「怖いくらい無いね」
「勇者ご一行が本当にこれでいいのか?」
「実際勇者なんて王命がないと、中途半端に立場があるから自由に動けないんだよね」
「なんてことを言っているんだお前たちは」
ルーンのはぶっちゃけ過ぎてるけど、事実こんなんだし、本人もこんなんだから仕方ない。
「まあ掃除かな。全然終わってないし」
「もう終わってなかったっけ?」
「何言ってんの?2階は全く手ぇ付けてないし、1階もできてないとこいっぱいあるんだぞ。そんなんだから、無意識に家が古代遺跡みたいになるんだよ」
「徹夜でやって1階だけか。私も体験済みだが中々だな」
「う~ん……なんつーか2階は空気が違うんだよ。禍々しいというか、足を踏み入れたら死ぬ気がして……」
「そんなに!?」
「分かるぞ。あそこだけは私も生存本能に押し負けた」
そう。あの屋敷の2階は何か異質だ。
まだ住んで3日目だが、上からうめき声が聞こえたような気がする。しかもやたらと暗い。灯りないから当然なんだけどさ。
「……探検、行ってみるか。掃除がてら」
「そうだな。私も気になる。明後日行ってみよう」
「二人とも、他人の家を洞窟か何かだと思ってらっしゃる?」
「副団長は?どう」
「私は、騎士団がありますから。休日といっても何人か残っていないと、不測の事態に迅速に動けませんから」
そっか。残念だ。いざと言う時前に出てもらおうと思ったのに。
「じゃ、明後日探検行くぞー!」
「お、おー?」
「よし、では何かあった時のために今日明日で徹底的にしごくか。オルバス、あれを」
「はっ」
アズさんの合図で、副団長が巻いてある紙を出した。
どこから出したそれ。あんた収納できるような服着てないでしょ。バリバリ戦闘用でしょ。
「前々から練っていた特別メニューだ。今までさぞ物足りなかったろう?」
「……善は急げって……言いません?」
俺の提案は却下された。即答だった。
♢
そしてあっという間に時は流れ土曜日。
覚悟を決めた3人はリビングに集っていた。
「二人とも、準備は万端のようだな」
「もちのろん。掃除は戦だ。やるからには本気で殺る」
「レイに着せられました」
訂正、約1名やる気なかった。
「ルーン、お前一応はここの家主だろ。もうちょっと殺る気出せよ」
「『やる』ってレイがいうと物騒なんだけど……」
「レイの言う通りだ。死ぬ気で殺らねば、綺麗にはならん」
「アズ姉が言うと更に物騒なんだけど!」
そう言ったアズさんは割と軽装だ。無地Tシャツに下はジーパンという、超ラフな格好で戦に臨んでいらしてる。
なんでこの異世界にTシャツやジーパンがあるのか、今すぐ女神に問い質したい。今まで適当に流していた文化の発達具合だが、さすがにこれはツッコまざるを得ない。
と、本人に聞いたところ
「上はそこまでだが、下はかなり値が張るぞ。少し前に貴族の間で流行ったものだ。正直そういうのは好かなかったのだが、いかんせん性能が良いのでな」
「あ、それ私も買ってもらったよね」
「……まあいいや、もう」
いつか女神が俺の脳内に直接話しかけてきた来たとき、質問攻めにしてやろう。
……それは置いといて、置いといてだ。
アズさんと同じく、実はルーンと俺も薄着だ。ルーンは汚れても良いように黒のシャツ、俺はいつものワイシャツだ。汚れ?当たんなければどうということはない。
そんなことよりだ。俺が言いたいのは……!
──薄着になると、必然的に胸が強調されるわけだ。
いつもは胸当てだったり鎧だったりコート着てる防御力の高い俺たちだ。こういうのはまあまあレアと言える。
なので、改めて見ると……
(──なんか……格差がある)
どことは言わずもがな。
どこかに“きょうい”の格差がある。おっかしいな。
自分の首を下に曲げてみると、爪先がしっかり見える。なんでだろ。
二人は俺の虚無な様子に気付いたのか、顔を見合わせた後、俺の肩にそれぞれ手をポン、と置き
「ほ、ほら……まだレイ16でしょ?これから大きくなるって!」
「ゴハッ!」
「傷を抉ってどうする!レイ、私がレイと同じくらいの年の時も、そんなものだったから!気にすることはない!」
「別に気にしてないし」
「アズ姉が16ってことは2年前だよね?あの時点で今の私より大きかったよ」
「ゴッファー!」
「ルーンは慰めたいのかもっと苛めたいのかどっちなんだ!」
だから気にしてない。
……気にしてない……はずだ。
「……さ、気を取り直して分担決めるぞ」
「レイちょっと泣いてない?」
「お前にはグーきめてやろうか?」
「ほら、さっさと決めるぞ。まずは1階の取りこぼしだったか」
「ああ、そこなんだけど、軽くやっといた。見直してみたら少なかったから」
「そうか。なら、早速2階に行くか?」
「「…………」」
あそこ行くのかぁ。
何か集まっといてなんだけど、嫌になってきたなぁ……。
出んじゃないかなぁ。
最後の心の一言だけ、口に出ていたらしい。
「……出るって……何が?」
「そりゃあ、幽霊とか?出んの?」
「わ、私も幽霊は知っているが、あれは本だけだろう?実在するわけ……」
「あ、アズ姉……この家、私の前にも入居者とかいた?」
「……いた。この屋敷は、歴代の勇者が住む家だからな」
それは初耳だが、今はそんなことどうでもいい。
前入居者がいると、歴代の勇者と……。
「出そうだな」
「だな」
「落ち着きすぎじゃない?私帰りたいんだけど。あここが家だった」
「テンションおかしいぞルーン。出るわけないだろう、おとぎ話の存在など」
「……アズさん、足どした?」
めっちゃ震えてる。震度6強くらい、マグニチュード7.5くらい。逆によくこれで立っていられるな。訓練で身に付いた体幹か。
「怖いんでしょ」
「な、何を言っている。そ、そういう言い出しっぺのレイも、ちょっと怖いんじゃないか」
「いや言ってみただけでそんな怖くは……」
「あー強がってる!レイ強がってる!ホントは怖いんでしょー?」
「うっし、行くぞー。今すぐ行くぞー。そんで独りにして置いていってやる」
「ごめんなさい、それは許して。それだけは勘弁してください」
期せずして二人の怖がりが発覚したが、構わず廊下の最奥にある階段へ向かう。その間ルーンが何とかして俺を思い止まらせようと試みたが、俺は恐怖心より好奇心の方が勝っていたため、全部無視した。
「改めて前に立つと、本当におぞましいな」
「ね?そうでしょ?だからやめよ?階段埃だらけだよ?汚れるよ?」
「ホウキ持ってるし、進路にはちょっと乱雑だけど……『疾風』」
魔法で風を起こして埃を一掃する。そして浮いた埃を1ヶ所に集めとく。後でまとめて片そう。
「……歩きづらいんだけど」
「いきなり何か出てきたら腰抜かしそうだから」
「お前勇者だよな?」
「何かあったら盾にできるからな」
「あんた聖騎士だよな?」
両手に抱きつかれて滅茶苦茶歩きにくい上に、当たってるから気が散る。
満更でもないけれども。
いつまでもグズっていられないので、一歩踏み出すと、案の定というか階段が「キシィ」といった。木造だし古いしな。
「「ひっ!?」」
今のでこれだ。マジで幽霊とか出てきたら失神するんじゃなかろうか。
二人をズルズルと引きずっていき、2階に着いた。いちいち横がビクついてて鬱陶しかった。
「暗いな、『発光』」
「まっ!?」
指先に魔力の光を灯す。
すると今度はアズさんが変な声を出した。
「何だよアズさん。これ以上のキャラ崩壊はさすがに止めるぞ」
「い、いきなり明かりをつけるな!ドンっ!って出てきたらどうする!」
「だからキャラ崩壊は止せっての」
階段を登った先は、廊下が左右に続いていた。すぐそこで曲がっているから、対称になっているっぽい。
急いでるわけではないが、3人のままだと夕方になってもここにいそうな気がする。
「ねえレイさん?今日の戦績はこのくらいで良くない?次はまた再来週くらいに……」
そら見たことか。
「じゃあ選べ二人とも。1階に戻るか、俺と二手に分かれて左右調べるか。どっちがいい?」
「1階戻ろっか」
「そうだな。もともと、幽霊がいるなんて聞いていなかったしな」
「知ってたら行かなかったしね」
そう言いながらゆっくりと階段を降る二人。自分から言っといてなんだが、薄情な。
……そうだ。
二人が階段を降りきってから笑顔で言い放つ。
「夕方には戻るから。戻んなかったら……察してくれ」
「「え」」
「あ、怖かったら別にいいから!きっと戻るから! じゃ!」
「「ちょっ!?レイ!!早まらないで!」」
叫びも聞かず、俺は廊下の右側に走っていった。
……階段を上がってくる気配はなかった。やっぱ薄情な。
♢
「なんか……本当に出そうだな」
追っ払った俺が言うかと思うが、出そうなのだから仕方ない。
ホラー映画やホラゲーで少しは鍛えてるとはいえ、俺だって貞子が目の前に現れたら悲鳴をあげる自信がある。念のため懸念事項は減らしておこう。
右手を前に突きだし、目を閉じて集中する。
「──『魔力探知』」
この階全体の見取り図を頭の中に入れよう。
……部屋は全部で4つある。小さい部屋が左右、俺から見て手前に2つ。
大きい部屋は左の奥に1つ。そして明らかに小さい書斎のようなスペースもこちら側の奥に1つ。魔物、もしくは人間はいない。良かった。
「いや、この世界のゴーストが魔力持ってなかったら引っ掛からないからな。油断させといて驚かせてくるかもしれない」
ちなみに、いつもは独り言などこぼさないが、今は何か喋っていないと恐怖が紛れない。
「大きい部屋、そんでこの右側……魔力が強いな」
他の部屋は、魔力の残滓が残っているだけ。おそらく前の勇者のものだ。
──だが、右のだけ、ドアの隙間から魔力が漏れ出ている。
「……行ってみるかしかないよな」
ここに来る前に取っておいた《虹龍》を握り直す。
仮にその部屋に魔物がいたとしても、今まで何もしてこなかったということは、こちらに敵意がないか、部屋から出られないかの二択。
どちらにせよ、すぐにドアを閉めれば問題はない。
床の埃をどかしながら奥に進んでいく。もう床が軋む音には慣れた。
「うっわぁ……」
目の前に来て分かった。絶対この中は書斎などではない。
漏れ出る魔力が陰湿だ。淀み、乱れ、昏い。人はもちろん、魔物からもこのような魔力は出ない。
ドアの取っ手を握る。錆びたり埃が積もっているが、鍵はかかっていない。
「ス───ハ───よし」
動悸を深呼吸で収め、覚悟を決める。
どうか何もいませんように、と願いながら一思いに勢い良くドアを開く。
目の前に現れたのは──
「……本……か?」
十数メートル先に見えた。
そう認識した瞬間、今度は自分の下に足を着く場所がないことに気付く。
(まっずい!?)
勢い良く行ってしまった。咄嗟のことで魔法の発動は間に合わない。
(縁……!)
何とかドアの縁に掴まれば登れる。そう思って身を翻して手を伸ばした。
……が、
(──な……?)
グイ、と。
何かに足を引っ張られ、俺の手は空を切った。
俺が呆然としているうちに、ドアは俺が開けた反動で……
ゆっくりと硬く閉じた。
「いっや~『蜘蛛ですが、なにか?』おもしれ~。『無職転生』エエわ~。
んぁ?後書き?ああ、ハイハイ。今日も俺なのね。
やっぱ初期からなろうで書いてる作品は素晴らしいね!世界観も設定もキャラも全部良い!見習お!って思ったよ!この作品とはやっぱ違うわ!
それでさ、最近思ったんだけど、他の方が書いてる作品さ。
1話がだいたい2000字から3000字くらいなのに比べて、うち1話平気で5000字超えてくるやん?変えた方が良いのかね?
でも、作者は『書きたいものを切り良く入れようとすると、このくらいになっちゃう』って言ってたから、直んないと思う。
うん。それもこの作品の良いところだと思って、読んでいただけると幸いです。
では、また次回!アディオス!」




