31話―性転換の代償は重い
ムルクスのギルド前に来た。
街にある本は大概その街のギルドに納めてある。冒険者は本なんて読んだりしないのだが、警備員みたいな役割のためにギルドに置いてある。
現役の軍人がいる場所に万引きに入るバカはいない。要はそういうことだ。
領主の屋敷に行っている本も多いが、流石に「本読ませろ!」と殴り込みには行けないので我慢する。……我慢我慢。
(ねんむい……、つかまだ開いてないし……)
心の中で愚痴をこぼすが、開いてないのは当然である。
現在時刻は朝4時。誰がこんな時間からクエストに行くというのか。
俺がここまで早く来たのはルーンのせいである。
昨日、念のためセルに本気の回復魔法をかけて悪いところを全て治した。騎士団のセルを診た人は「何を食べたらそんな出力の回復魔法を使えるのですか?」と真顔で聞かれてしまった。
その後、晩飯食って、風呂入って、さて寝るかというところでルーンが俺の部屋に入ってきた。
「レイ、明日2時には帰ってきてよ!いい?絶対だよ!」
「いきなりどうしたよ。それと4時じゃダメ?」
「ダメ!ていうかどんだけ読むつもり!?とにかく2時には帰ってくること!」
それだけ言ってすぐ自分の部屋へ戻っていってしまった。
仕方ないので、早く来て2時に帰るつもりだ。忘れたらそれも仕方ないということにしとこう。
魔法で冷水を作って顔にかけ、目を覚ます。ちょっと冷たすぎた。寒い。
そうこうしているうちに、ギルド職員が来た。
「クエストですか?早いですね~」
「いや、書庫目当てだ。結構あると思って」
「分かりました。あと、どうせ読む人なんていないんですし、何冊か持っていってもいいですよ。誰も気付きませんから……すごく嬉しそうですね」
よく分かったな。めっちゃ嬉しい。寝起きでなければ飛び跳ねていた。
(これなら優先的に本を読める。何十冊も借りるのは流石に気が引けるから、一番面白そうなのにしよう。特に魔法の本は……)
テンションが上がりきったまま、書庫に歩いていった。無意識に足が動いたため、どんな道を通ったのかわかんない。
書庫は予想通り広い。パッと見た感じだと、大体学校の図書室の4,5倍。アクロアにもあったが、それの2倍くらい。
本嫌いが見たら「うっわ」と言うくらいの量だ。俺は良い意味で「うっわ」と言ったが。
早速読もう……といきたいところだが、まずは
「さてと、探すか」
そう、探索から始まる。
当然だろう。基本的にこの世界の書庫は、ジャンル別どころか日付順にもなっていない。ギルド職員は、『本が来た→適当な場所に入れる』これで終了する。
よって初見の場合、まずは目当ての本を探すところからなのだ。
俺は両手を目一杯広げ、魔法を唱える。
「今回はそんなにかかんないかな。『魔力探知』」
今日の目当ては魔法関連の本だ。
『魔導書』みたいな呼び方を地球ではするが、実際は明確な呼び方は決まっていないジャンル。
これを書く人は、総じて魔法使いと相場が決まっている。魔法使いじゃない一般人が、魔法について書ける訳がないからだ。
そして、書かれた本には著者の魔力が残滓として、少しだけこびれつく。
『魔力探知』はそれを感知する。『敵意探知』とほとんど一緒だけど、こっちの方が微細な魔力まで感知できる。
難点を言えば、『敵意探知』ほど常時発動が簡単じゃないことだ。簡単ならずっとこれを使う。
そうして10秒ほど集中した。
……終了。
「えーと、これとこれと……あとこれも……」
結果、ムルクスにある魔導書(便宜上)は計5冊だった。
アクロアには2冊あった。それを考えれば多い方か。
にしても分厚い。
広○苑と比べてもそんなに変わらないんじゃないか?一体何ページあるのやら。
「ま、それをゆっくり読み明かすのが楽しみなんだけどな」
呼んだことのない本、わくわくする。
……時間にも気を配んないとな。
♢
「うあー……、あ~~」
あれから8時間、ずっと読み耽っていた。
同じ本を。実は少し前に一度読み終わっている。
なのに……
「何書いてあるのか全く分かんない」
何について書いてあるかは、まだ分かった。タイトルは『魔道の教本』。魔道というのがよく分からないが、要は魔法の基礎みたいな本だ。
しかし、ちょうど真ん中くらいになった時、異変が起こった。
「立体球状魔方陣やれ、霊核構造やれ……何?この専門用語の嵐」
読めば読むほど分からなくなる。世の中にこんな本あるんだな。改めて世界の広さを痛感したよ。
読解力ならかなり自信があったのに、まるで歯が立たない。
何度も読み返して、一個ずつ理解しようとしたのだが、「当然知ってるよね」と言うが如く、何のヒントも書いていない。
……というかさ、
「……これ、絶対続編だよな。何ヵ所か、『詳しくは前回を参照してね♪』って書いてるし……ケンカ売ってんのか」
著者の悪意を感じずにはいられない。
だってこの世界で、本が前編後編揃うことなどありはしないのだから。
買う人間が同じ人間なはずもないし、そもそもコピーが難しいこの世界で、前後編に分ける方がどうかしている。
「長くなったのは分かるし、書いてることが違うから分けるのも仕方ない気がするけど……ん?」
そこで俺は一つ違和感を覚えた。
本の裏に名前が書いてある。
おかしい。この世界では、著者の名前が書いてある本なんて見たことないのに。
「名前は……フェルモーネ・ストレザ……この人か。一発ぶん殴ってやりたいけど、もう生きてないだろうな」
本の擦りきれ具合から見て、相当な時間が経っている。
けど、一つ言えることはこのフェルモーネって人は、間違いなく天才だということだ。
どんな頭の構造していれば、ここまで先に進めるんだ。
見る人が見れば、この本に書いてあることの有用性に気づけるだろう。俺にはさっぱりだけど。
「他は違う人のか。今の状態で読んだらすぐ理解できそうだな」
試してみたいが、今日は我慢する。
今から読んだら確実に2時を超える。持っていけるんだし、焦る必要もない。
昼時だし、飯を食いに行こう。久しぶりの一人飯だ。
♢
「ただまー」
きっかり2時。ちゃんと帰ってこれた。
前々から思っていたけど、この宿ほとんど俺らの貸し切りみたいなもんだよな。人も全然いないから大きい声を出しても問題ない。
多分ルーンたちも帰ってると思う。
何か用事があるんだろうが、俺から行くこともないし持ってきた本でも読もう。
と、2階にある俺の部屋のドアを開けたところ……
「確保ーー!!」
「へ?」
いきなり飛び出してきたルーンとテルに押さえつけられてしまった。
つか力強い!頭ぶつけただろ!
テルが押さえてる足はいつでも脱出できるが、ルーンが乗っかってる胴の方は無理だ。体重の差もそうだけど、魔力で強化してやがる。
とりあえずこの状況へ言及させようと、口を開けようとした瞬間
「『睡眠』!」
意識が睡魔に持っていかれた。
──次に目を覚ましたのが、何時かは知らない。
いかに装備で魔法への耐性があると言っても、魔力バカのルーンの全力睡眠魔法だ。俺でも長い時間寝ていたかもしれない。
「……まあそれはいい。これはどういう状況?」
「レイがベッドの上に縛り付けられてる」
「そういうことではなく」
……大まかにはルーンが言った状況だ。
俺が、装備のコートのとこだけ脱がされて、ベッドの上に、無駄に強靭な紐で縛られている。
何だ?これは俺への宣戦布告と受け取っていいのか?
「テル、もしくはセル。説明よろしく」
「笑顔が怖い!」
「えっと……。とりあえず、笑顔やめてください。すごく怖いです」
この二人も共犯だ。テル、明日のトレーニング、期待しとけ?
セルもこんなことするのか。意外だが、俺らと同年代だしな。
そこで、ようやくルーンが今日の経緯を話した。
「レイってさ。あんまり、っていうか全く女の子っぽいことしないよね。どちらかというとオヤジくさいじゃん?」
「傷つくんだけど」
「スカートも穿かないし、髪も結ばないし。それでさ、思ったわけだよ。『たまには全力で女の子させてみない?』って」
──そこまで言われて、俺は今から何をされるのか察してしまった。
身体強化も使って脱出を試みるが、紐はびくともしない。
「こ、この紐どうなってんだよ!?」
「フッフッフ。無駄無駄ー。魔力を込めて編まれた紐だからね。本気で破壊しようとしたら、反動でベッド壊れちゃうよー?」
こいつ、こういうところだけ用意周到だな。
宿のベッドを壊すのはマズイ。弁償できなくはないけど、財布的に痛い。
「……俺に何をしろと?」
「決まってるでしょ?じゃじゃーん!昼間厳選した服、全5着!あんまり使いすぎると副団長に怒られちゃうからね。このくらいにしといておいたよ」
並べられた服は、一言で言えば可愛い系の服。ギリギリおしゃれと言えるが、お嬢様っぽいのや、原宿っぽいのもある。
これを俺に着ろと?ムリムリ!
(クッソ、何でこの世界は服の種類だけ豊富なんだよ!この時代設定ならこんな服ないだろ!……まあ、5着くらいなら無我の境地でなんとか……)
「でも5着じゃ味気ないでしょ?だから、私の持ってきた服と、セルさんの服!これだけあれば大丈夫!」
「私の服で良ければ、どうぞ?」
「どうぞ?じゃない!こんな悪ふざけに付き合うなよ!」
「私もレイの可愛いとこが見たい」
「私も……少しだけ」
ダメだ、とりつく島もない。
これで合計15着。もうムリだ。無我とか意味ない。つか無我ってなんだよ。できないだろそんなこと!
(男としてのプライドはないのかレイ!いや、今の俺は女の子だからむしろ普通なのか?いやいや女装とか絶対ムリだし!……この場合は女装でもないか。女の子がただ女の子っぽい服着るだけだもんな。ああクソ!こんがらがってきた!)
今俺が葛藤しているのは、これによって俺の「男」の因子が保てるのか、ということだ。
俺のように、女の子(見た目)になる主人公は結構いる。そして仲間に着せ替え人形にされるという話もそれと同じ数ある。
それと同じ状況に立たされた今だから分かる。
…………よくあの人たち、大した抵抗せずにやられっぱなしだったな……と。
(俺は抵抗するぞ!拳でな!『防護』でベッドを補強すれば、力ずくで……)
「着てくれたら、王城の書庫の案内してあげるよ。普段は誰も出入りできないんだけどな~」
──その言葉で、一旦思考が停止した。
書庫?王城の?
ヤバい、超見たい。どんななのかすごい気になる。
(ここに来て見返りとは……ルーンってこんな狡猾だったか!?もっとバカだと思ってたんだけど!)
メリットとデメリット、どちらが大きい?
男のプライドを保つか?そうしたら二度とその書庫を見れなくなるぞ。
なら書庫か?でもそしたら取り返しのつかないことに……。
……迷いに迷った。実際には10秒ほどだが。
その上での結論は──
「────わ……かった……」
「ん~?聞こえないな~」
「分かったから!着りゃいいんだろ!?着れば!」
「わーい!やったね!二人とも!」
「だいぶ粘ったね」
「血の涙を流してますね」
餌(本)には勝てず、それから数時間三人の着せ替え人形になりましたとさ……。
めでたしめでたし。
……余談だけど、吹っ切れた後はそんな苦じゃなかった。途中からノってたし。
そんな自分に思い切りドロップキックしてやりたかった。
※注意 メタ時空です。
「最近、I字バランスってのが流行ったらしいな」
「遅くない?もうやり尽くされたネタだよね?しかもあれってイラストだから映えるヤツだよ?イラストどころかキャラの詳細な格好まで書かれてないのに、どうやってネタにするの?」
「怒涛のマジレスはやめろ!そこら辺は、想像力豊かな読者に任せるんだよ!というわけで、ルーン!やってみて!」
「できるかな……あ、結構簡単だね」
「できんのかよ……それ、お前の格好だとパンツ見えるよな……ふむ、白か。わるくな痛っ!?」
「この時空じゃ、私はレイが元男なの知ってるんだから見るの禁止」
「だからって踵落としはないだろ!?たんこぶできたらどうすんだ!」
「はい次レイの番ね。パンツ見えないのは残念だけど」
「元野郎のパンツ見たって何も得しないぞ……くっ、キツイ……」
「アハハハハ!レイかたっ!Y字にもなってないじゃん!」
「うるさい!本読んでばっかだから体硬いんだよ……」
「手伝おっか?はい」
「あっ!それはマズっ……(ピキーーン)」
「「あ」」
「あああああ!だからマズイって言ったじゃん!これダメだ!ダメなつりかたした!」
「と、ということで、次回もお楽しみに~」
「勝手に終わらせるな!ちょっ、ルーン!お湯持ってきて!」




