32話―飛翔使えばエエじゃないか
──地獄のようなファッションショーが終わり、あっという間に1週間が過ぎた。
大体は、テルの特訓。
テルのやる気もあってか、魔力操作に関する基本的なことは粗方教え終わった。
やる気もそうだが、才能もあるだろう。
飲み込みが早いし、行動力がある。魔力量もそこそこ増えてきた。
一人でスラム街を踏破した時点で気付くべきだった。普通の10歳はスラム街を一人で歩けないんだった。
テルとセルは、俺らが泊まってた宿で働くそうだ。
まずはアルバイトから、と言っていたが店主も良い人そうだし、意地悪はされないだろう。したらぶっ飛ばす。
魔法はまだ使えていないが、練習すればきっとすぐ使えるようになる。
……でも、もう俺はムルクスを出なければいけない。もう教えることができない。
そんなわけなんだが、
「んじゃ、行ってくる。宿題ちゃんとやっとけよ?」
「分かってるよ!レイも絶対忘れないでよ!忘れたら泣くからね!」
「泣くのは勘弁して。あといい加減先生って呼んでみて」
ムルクスにいないから教えられない?残念、俺には魔法があります。
王都とムルクスを短時間で往復、できない……なんてことはない。
「先生呼びは少し厳しい」
「厳しい言うな」
「ねえ、何か当たり前みたいに言ってるけど、王都とムルクス往復って本気で言ってる?」
「もちのろん!」
ここから王都までは、馬車で2日かかる。
歩きならその5倍。到底1週間ごとに会いに行ける距離じゃない。
一般的な魔法使いならな。俺、もう一般的じゃないし。
「『飛翔』の最高速度なら、半日かからずいけるし、問題ないって」
「あの魔法、いろんな面で反則だよね」
「反則魔法を考えるのは得意だからな」
そう言ってニッと笑うと、デカイため息をつかれた。
「そんなため息つくなよ。運が逃げてくぞ?」
「ため息もつきたくなるよ。何かこのままじゃ、教え子のテルちゃんまでこんなになるんじゃない?」
「こんなって言うな」
「わ、私はレイより強くなるし!」
「はっはっは!先生を超えられんなら超えてみるんだな!」
「皆様、そろそろ迎えが来るのでここらで」
副団長が呼びにきた。
もうそんなか。少しくらい待てないのだろうか。
じゃ、1週間だけお別れか。1週間ならお別れとは言わんか。
「リョーカイ。テル、1週間後な。セルは、テルがちゃんと宿題やってたか見といてくれ」
「そんな心配しなくても、ちゃんとやっとくから!」
「分かりました。皆さん、気をつけて」
「うん!私もレイに乗っかって一緒に行くから!」
「お前一応勇者なんだよな?」
「では行きましょう。お二人も、私は次にいつ来れるか分かりませんが、お元気で」
最後に副団長が別れを告げて、出発した。
向かってるのは、以前俺が開けた岩山のトンネルだ。
そこに迎えが来るらしい。
そこで見送ってもらえばいいじゃ、と言ったのだが、「危険ですので」と却下された。だからここで別れたのだ。
危ないってなんだろうか。多分馬車だろ?そんなに危ないか?
(興奮して蹴り飛ばすとか?そんな行儀の悪い馬、連れてくるか?)
さっき自分で言っておいてなんだが、ムルクスから王都まではかなりある。馬車でも今日中には着けないと思う。
食料積んでると思うけど、どんぐらいかかるんだろ。
「副団長、王都までどのくらいかかんの?」
「そうですね。今が大体9時ほどですから……正午には着くでしょう」
「は?正午?」
どういうことだ?こっから王都まで約3時間?一体どんな馬を使ったら、そんなに早く移動できるんだ。
俺が首を傾げていると、ルーンが歩み寄って耳打ちしてきた。
「驚いたでしょ。でも、実際見たらもっと驚くと思うよ。私も一回目は腰抜かしちゃったもん」
「ルーンがか?どんなのなんだ?」
ルーンは、それだけ言うともう何も教えてくれなかった。
驚く?この肝が胡座かいて座り込んでるようなルーンが?
全く分からん。
(まあ、腰を抜かしはしないだろ。一回死んだレイさんだぞ?度胸ならもうとっくにカンストしてるっての)
──そう油断していたから、余計に。
……余計に驚いたんだと思う。
♢
「はあっ!!?」
岩山前に到着し、やっと迎えの馬……否、これは断じて馬車ではない。
俺が山に木霊するほどの、素っ頓狂な声を上げるほどだ。度胸カンストの俺が。尻餅付かなかったのが最大の努力だ。
「フフ、レイ殿が初めて、予想通りの反応をしてくれましたね」
「嬉しそうだね、副団長」
「それはもちろん。こいつを見て何も反応しなかったのなら、本気で落ち込みます」
そう言って副団長が頭を撫でたのは……まず、馬ではない。
そもそも、普通の動物ではない。
四足歩行、大きさは馬とさほど変わらない。
しかし、尖った鼻、猫のように縦に細い瞳孔、側頭部から生えた一対の短い角、ついでに長い爪。
これ……
「これ、竜……だよな」
「はい。正確には、ドラゴランナーと呼ばれる、草食の竜種です」
「いやいや、そんな説明求めてないから」
さも当たり前かのように言ってのける副団長。それに乾いた笑みを見せるルーン。そして、「あはは」と愛想笑いを浮かべている騎士たち。
え?俺がおかしいの?この場でこの状況を受け入れてないの、俺だけなの!?
「驚くのも無理はありませんよ。むしろその方がホッとします」
「……竜って、一応魔物の類だったよな。こいつを馬代わりに使うのか?」
「ええ、心配はいりませんよ。王城にいる、特級魔法使いよって、完全に躾られています。襲ってくることはありえませんし、そもそも草食なので人は食いません」
「安全性じゃなくて、本能的な問題だと思う」
懇切丁寧に説明されても、やはり信じがたい。
竜は魔物の中でも知能が高い。その上攻撃性もある。
いかに草食といえど、躾るのには相当の実力がないと……。
特級魔法使いの実力なら、いけんのかな……。
「今まで一度も暴れたことはありませんし、問題ないですよ」
「乗ってみると、馬車より楽しいよ!スッゴい速いし!」
「……はあ、これしか無いんだもんな。仕方なしか……」
観念してドラゴランナーに近づき、恐る恐る頭を撫でると、意外にもされるがままになってくれた。目を細めて、気持ち良さそうだ。
「案外かわいいな」と思った瞬間、次はこっちの顔が思いっきり舌で舐められた。そして頭を擦り寄せてくる。
「お、おいやめろよ!くすぐ、痛ってえ!角!角当たってるから!」
「……珍しいですね。いつもは初対面相手なら、すぐに唸って威嚇するのですが」
「あー、羨ましい!私もされたい!」
「これ超痛いんだけど!鱗がヤスリみたいで!羨ましがってないで、早く助けえてくれ!」
救出に入ってくれた騎士さんたちのおかげで、ようやく解放された。髪とかすごくベタベタなんだけど……。
まあ、警戒心はなくなったな。人懐っこい奴だ。
「それでは、出発しましょうか。御者は私が務めます」
「あ、俺隣座っていい?景色見たいから」
「分かりました。転げ落ちないように気をつけてくださいね」
「やるはずないだろ?ルーンもどうだ?もう一人くらい乗れそうだけど」
「え!?う、う~ん。私はいいかな~なんて……」
「そうか?勿体無いなあ」
「では、乗ってください」
2台ある内、1台には騎士の半数。もう1台には俺たちと騎士数名。
中は結構余裕がありそうだ。普通の馬車より圧倒的に広い。さすが勇者に宛がわれた馬……いや、竜車。
分かってたけど、乗り心地は普通の馬車とそんなに変わんない。御者だからかな。
中はかなり豪華だ。クッションもふわふわそう。
俺は景色見たいから別に良いんだけども。
「レイ殿、心配はいらないと思いますが、非常事態は受け身を取れるようにしておいてください。それと、いつでも離脱できるように」
「ハイハイ」
「全員、最初の衝撃に備えてください。出発します!」
「ん?衝撃?」
チラッとルーンを見てみると、側にある柱を力いっぱい握っている。
何やら嫌な予感が背筋を走った直後、副団長が思いっきり手綱を引いた。
「──へ?」
──景色がいきなり変わった……と思ったら、時間差で強い衝撃が全身をひっぱたいた。
その瞬間理解する。この竜車がとんでもないスピードで走っているのだと。
「……ちょっ!!?なにこれ!ちょー怖いんだけど!ルーンお前!分かってて何も言わなかったな!」
俺が叫ぶが、風の轟音にかき消されて何も聞こえなかったと思う。
いや、これはマズイって。ここ岩山だったよな。どこだよ岩山。もう何もないよ。前のこいつが全て薙ぎ倒してるから。
初挑戦の『飛翔』レベルで速い。これ、大丈夫なの?
「副団長!聞こえる!?」
「ほんの少し!」
「こっちはとっても聞こえる!ねえ!これ事故ったらどうなんの!?」
「安心してください!私は竜車操縦のプロです!仮に事故が起きても、大変なことになるのは御者台だけです!!」
「おろして!早くおろして!頼むからここから避難させて!」
……それから数分、幾度となく死線を感じながら、下りることができた。
もう二度と御者台には乗りたくない。つか竜車に乗りたくない。
♢
副団長の読み通り、正午過ぎくらいには到着するそうな。
本来なら、王都を楽しみにするとこだが、現在の俺は──
「…………ヤバい、辛い、吐きそう……」
「だから言ったでしょ?外見るか、酔わないように調整してって」
絶賛グロッキーである。
中に入った時ルーンから注意はもらったものの、ないがしろにしたいた。俺がこんなに酔いやすいとは思ってなかった。
(よく考えれば、酒飲む時も二日酔いひどいんだよな……。体質の問題か……)
魔力の流れを感覚で調整して、だいぶ良くなってきた。ちなみにさっき一回吐いた。ちゃんと窓の外に。そのせいでひどくなったのか?
窓の外を見ると、すれ違う馬車が多くなった気がする。目で追えないけど。
……大きくスピードが落ちた。確かにこの交通量であのスピードのままは怖い、怖すぎる。
「見えてきましたよ。レイ殿」
未だよく回っていない頭で音声をキャッチし、窓から頭を出して前方を見た。
「おお!デケぇ!」
「田舎から上ってきた子みたいな反応だね」
「こっからじゃこれしか分かんないんだよ」
まず見えたのは、ひたすらにデカイ城壁。
進◯の巨人ほどではないにせよ、アクロアにあったものとは文字通り格が違う。
そんでもって、壁阻まれながらもその登頂部が見えるのは、おそらく王城。
壁の高さが25m以上あるのに、更に高い位置にある。
(王様とか姫様が住んでんのかね。高所恐怖症だったら地獄だよな)
「それでさー副団長ー。結局団長がレイのこと認知してないのなんなんだろうね」
スピードが緩やかになったので、通常の声量で話しかけている。
緩やかと言っても、馬車に比べれば速いんだけどな。
「そればかりは何とも。団長に直接聞いた方が早いでしょう」
「最初に騎士団とこ行くのか?王城じゃなくて」
「はい。まずは団長へ報告に行きます。明後日が王城です。もちろん、ルーン殿もですよ」
「え~」
ルーンが嫌そうな顔をしている。
ムルクスの時もそうだが、ルーンは貴族とかお偉いさんと会うのが苦手らしい。平民出身なら仕方ないか。
とうとう王都の門下まで来た。隣では、商人や旅行用意の馬車が行列を作っている。検問に時間がかかるんだろう。
そして、それを無視して俺達は検問の横を通過した。
「……なんとなく分かってたけど、罪悪感があるな」
「分かるよその気持ち。私も最初はこの中でお辞儀したもん」
「慣れですよ。後ろめたさは感じますがね」
そう苦笑いする副団長。
窓を見れば、ムルクスの高級宿にも負けない建物が立ち並んでいる。
街を歩いている人も上流階級っぽさがにじみ出ている。
と、そこで歩いてる人がこちらに視線を向けたので、慌てて視界を竜車の中に戻す。そんな様子を見て、ルーンがクスクス笑っていた。
「な、なんだよ」
「いやぁ別に。王都じゃレイも縮こまるんだなーって」
「ムルクスとは違った感じなんだよ。なんかこう、威圧感っていうか」
「そこら辺も私と同じだなー。レイよりもひどかったけどね」
「あまり変わりませんよ。さて、そろそろ着きますので、準備を整えてください」
「へーい」「はーい」
程なくして竜車が入っていったのは、そこそこ大きめの敷地。意識してなかったが、すぐ近くにドデカイ城があった。てことはここが騎士団の宿舎か。
頭の良い学校の寮みたいな建物があり、その横に竜車を停める場所がある。
そこで降りて、改めてドラゴランナーにお礼を言った。
「サンキュ。まだまだ元気そうだな」
「キュルッ!」
思いの外可愛い鳴き声を聞いた後、副団長に着いていった。
「どこに向かってんの?」
「団長のところです。この時間なら、訓練場ですかね」
「昼飯時だろ今」
「ストイック(鬼)だからね、アズ姉は」
そう言いながら訓練場のある方へ向かっていく。
(あ~緊張する。ダメダメ!ネガティブになるな!良い人なんだろ、団長さんは)
そう思いながらも、俺は自然と副団長の後ろに移動していた。真正面からは死角となる位置に。
前を歩く二人が訝しんでいたが、特に追及はしてこなかった。
そして……運命の時が来た。
テニスコートほどの訓練場の真ん中で、練習用の木剣を振る女性がいた。
「団長、只今戻りました」
「──む?ああ、オルバスか。まずは、任務ご苦労」
第一印象は、空のように澄んだ青い髪をポニーテールに結った人。女性用の騎士服だが、本人に合った空色のオリジナル。
女性にしては背が高く、切れ長の目は綺麗な翡翠色だ。
そして、男性的な口調で、芯が通った声でこちらへ向いた。
一言で言えば、めっちゃ美人。それ以外言うことない。あと胸が大きい。そんな予感はしてたけど。
「炎黒狼の討伐は骨が折れただろう。同行できなくてすまなかった」
「そのようなことは御座いません。団長には団長の役目がありますから」
「ねーアズ姉、私には何もないの?お疲れ様とか」
「ルーンもお疲れ様。だが、こういった場では『アズ姉』はやめろと、いつも言っているだろう」
なんというか、こういう会話がすごく自然って感じがした。
端から見ても仲が良いと伝わってくる。本当の家族みたいだ。
少し談笑した後、ふと団長が神妙な顔になって、副団長の方を向いた。
「……それでだな、オルバス」
「はっ、どうしましたか?」
ゴホンと咳払いして、団長は
「この休暇で、幻覚はもう治ったか?」
……辺りに静寂が満ちた。
副団長もルーンも、もちろん俺も、誰も声が出なくなった。
そんな俺たちを不振に思ったのか
「自覚がなかったのか?そこまで深刻だったか……。一応、医者に診てもらって……」
「だ、団長」
「何だ?」
副団長はとても微妙な顔をして、団長以外の全員が思っていることを指摘した。
「幻覚、とは……?」
「やはり自覚がなかったか。いや何、手紙に『ルーン殿に仲間ができました』と意味不明なことを……どうした?眉間に手を当てて」
……どうしよ。
この人、信じれてないよ。妹に友達ができたことを信じてないよ!あんた姉ポジだろ!?もっと妹を信じてやれよ!
俺が心の中でツッコミを入れてる中、団長は更に追い討ちをかける。
「ところで──オルバスの後ろにいるのは何者だ?騎士団の一員ではないようだが」
手紙で言ってた仲間です。剣呑な目付きになってますけど、この状況だと何もかっこよくないです。
後ろを見ると、騎士さんたち全員が眉間を押さえていた。
……なんか、すごく楽しそうな上司さんですね。同情します。
遅れてすみません
次回は早い……かも




