29話―子どもの夢はそれなりに現実味がある
やっと全員まとめて縛り終えた。
もうクタクタである。そこそこ重いし、たまに目が覚める奴がいるし、ルーンが途中で階段を破壊したり………と、様々な問題が重なって想像したより時間がかかってしまった。
体力的には全くキツくないのだが、何度も同じ作業をしていると精神的にくる。
《癒し之神》がないルーンも少し疲れている。
「はあ~………何でこんなに多いの~」
「これ全員検挙、って衛兵も大変になるだろうな」
こいつらは全員衛兵に渡すつもりだ。せいぜい罪を償ってもらおう。
さて、そろそろ騎士団が来ると思うんだが………あ、来た来た。副団長じゃないから、まだ送り届けてるんだな。
「ルーン殿、レイ殿、ただいま参りました」
「お疲れ様~。結構遠かったでしょ?」
「じゃ、こっからは任せるよ。俺らはああいうの慣れないから。頑張って!」
ああいうの、とはこいつらを衛兵に送ることだ。正式な依頼じゃないため、事情聴取やれなんやれを必ずしないといけない。
ぶっちゃけ面倒くさい。もう帰りたい。
「はっ、承知しました。ですが、レイ殿は一緒に来られるよう」
「えっ!?何で!勇者の仲間、とかで特例効かない?まだ正式じゃないけど!」
「そうです。正式ではないからです。世間的には、レイ殿はまだ一介の冒険者。事情聴取の義務に特例が効きません」
くっ、まさかこんな場面で正式ではないことの弊害が出るとは。
いや、まだだ。ルーンのお口添えがあれば、どうにか脱出できるかもしれない。
頼んだぞ!ルーン………と、念掛けして勇者様を見たが、すでに横にいなかった。早々に俺を置いて歩き出していた。
「ちょっ、ルーン!お前助けようとか思わないのか!」
「う、うーん………ここで助けたら、なんやかんやで私も連れていかれそうな気がして………」
「そうかそうか!ならお前も道連れにしてやろう!」
「やだーっ!それに私は特例きくし!」
「レイ殿、観念してついて来てください。すぐに終わりますから」
その後、無数の言い訳を述べたが全て論破され、予防接種に連れて行かれる子どものように引きずられながら連行された。
扱いが雑なんじゃないですかね。
♢
「やっと………帰れた………」
結局二時間くらいかかった。全然すぐじゃない。
と言っても、犯罪組織なので特に叱られることもなく、むしろ感謝された。
衛兵の方も、中々出動できなくてもどかしかったらしい。
動機とか聞かれたが、正式な依頼じゃないから適当に「むしゃくしゃしてやりました。誰でも良かったです」と言ったら、前科を聞かれた。
だからこんなに時間がかかったのだ。今思えば、最後の一言いらなかったな。
宿にはルーン、テル。それと俺と同い年くらいのキレイな女性がいた。
もちろん知っている。テルのお姉さんだ。
「あ、レイおかえりー。遅かったね」
「ああ。薄情な誰かさんのせいでな」
「おかえり!あと、ありがとう!」
テルが元気に迎えてくれた。そこには会った時のような張り詰めた雰囲気はなく、年に合った笑顔を浮かべていた。
お姉さんと一緒に頭を下げている。姉妹だけに顔はすごく似ていた。
「私なんて、感謝してもしきれません。本当に、ありがとうございます」
「いやいやそれほどでも」
冒険者の仕事で依頼主からこんなに感謝されることもそう無いので、少し照れる。
「その、少なすぎると思いますがこれをお礼に」
お姉さんがそう言って差しのべたのは、金貨五枚。
だいたい5000アイルだ。この姉妹二人だけなら1ヶ月分の生活費と言ったところか。
そこそこのお金だが、確かに割には合わないだろう。
しかし………そもそも貰う気なんてない。
「いや、いいよ。その金、家から引っ張り出してきたんだろ?あんたらのために使ってくれよ」
「で、でも………」
「そもそも、これは正式にギルドから出された依頼じゃない、だろ?テル」
「う、うん。でも」
「そうごねるな。俺らも慈善活動としてやったんだ。ボランティアは金を取らないだろ?」
詭弁にも程があると思うが、正論だと思う。
善意で受け取ってくれと言われても、こっちも善意でやったことなんだから貰う訳にはいかない。
でもこの姉妹は納得しなさそうだ。
「そうだな、じゃあ少しお願いしようか」
「う、うん!」
「多分な、あの奴隷商が潰れてもまた新しいのが来ると思うんだよ。あそこは支部とか言ってたしさ」
本部がまたムルクスに来て、同じことを繰り返す可能性がある。
そこで、俺たちがいなくなった時どうしたらいいのか。
「その時、もう絶対に連れてかれるな。お互いにお互いを守りあってくれ。もうあんな面倒くさいマネしたくないからな」
「は、はい!必ずテルを守ります!」
「あと別に倒せと言ってるわけじゃない。もうあんな危ないことはしないこと。いいな?」
「………うん、分かった」
「よろしい」
冒険者は街の障害を取り除くために存在する。
しかし、障害があっても住人に被害が無ければ動かない。
被害にあわない、それが一番良いのだ。まあ、個人的な事情で動くこともあるけど。
不意に、テルが俺の服の裾を掴んだ。
「ん?どした?」
「ねえ、レイ………」
「さすがに呼び捨てはやめよう?敬語を使わないことには目を瞑ってやるから」
「たしかこんなこと言ってたよね?『大義名分』がどうとか」
「無視するなよ。ああ言ってたな」
「じゃあ、その大義名分があれば、また奴隷商が来たとき動いていいんだよね?」
「うん?」
なんか雲行きが怪しくなってないか。
心なしか、テルが笑っているように見える。
しかも、なんとか言うか………俺の笑みに似ている。
その悪い予感的中、といった感じでテルは言ってのけた。
「私、冒険者になるよ!それなら文句ないでしょ!」
「は、はあ!?」
「まだ成人してないから無理だけど、あと五年くらい!それまでに強くなる!」
「一応聞くけど、冒険者が危ない職業だって分かってんのか?死ぬことなんてザラだぞ?」
「分かってるよ。だから強くなるって言ってるの!」
そう胸を張るテル。
駄目だ、折れそうにない。意思を変えることは難しそうだ。
チラリとお姉さんの方を見ると、驚きながらも受け入れている感じだ。
「確かに危ないですが、テルが折れることはないでしょうし、私よりも力持ちですからね」
「良いのか?それで」
「いいじゃん、レイ。行動力も正義感もあるし、あのスラムで一度も捕まらなかったし、大丈夫だって」
ルーンまで賛成らしい。
なら、仕方なしか。
「はあ………分かったよ」
「やったー!私、絶対にレイより強くなるから!絶対に!」
「ほほう、簡単に言ってくれるな。言っとくけどSランクに勝った俺を超えるのはキツイぞ。いつそれが達成されるか見物だな」
「子ども相手に大人げないよ。あと、あれは負けじゃなくて油断しただけだから!最初っからやってれば勝ててたから!」
「お前も大人げねえよ」
そう言うと、その場の全員が笑い声をあげた。
♢
留置場。
いわば牢屋である。そこには、レイとルーンが捕縛した奴隷商の面々がいた。
当然、あの男もいる。
クルズ・スレーブだ。
「クソっ、クソっ、クソクソクソクソ!」
牢屋の壁に額を擦り付けて呪詛を吐いている。
その相手は、あの黒髪の少女。
連行される途中、意識がよみがえり少女の顔を見た。
黒一色の服とそれに揃った艶やかな黒髪、そしてそれらと対比するような白い肌。
少し前のクルズなら、すぐに捕まえて良い商品にしていた。
しかし、今の彼にあるのはどす黒い怒り。
突然現れ、突然自分を痛めつけ、突然自分から全てを奪ったあの憎らしい少女。
あの顔を、恐怖と絶望に陥れなければ気がすまない。
あの自信に満ち溢れた表情を、後悔と涙で汚してやりたい。
(本部は、俺を連れ戻そうとする。その時が、決行の時だ。たとえ王都の監獄に移動しても、絶対にあいつを引き裂く………!)
………実際、奴隷商の本部がクルズを連れ戻そうとすることはない。
上層部は成り上がったクルズを嫌っていたし、何より捕まるような無能をわざわざリスクを負ってまで連れ戻すはずもない。
それも知らずに、クルズは続ける。どうあの少女に復讐するのかを。
幸い、スコープは隣の牢にいる。実行は可能だ。
そう勘違いしながら、クルズの呪詛は現実味を増していく。
いくつものプランを建て、どう転んでもあの少女が苦しむ展開にする。
………その妄想はどこまでも加速していった。
♢
最近ルーンと一緒に寝ることが多いので、こうして一人で寝寝たことが新鮮に感じる。
(本当は、これが正常なんだけどな………)
思えばこの世界に来てから、色々変わった気がする。
女の子とあんな自然に話したこともなかったし、地球の俺はボランティアとか全くしない人間だった。
まあ、どれも良い方向に変わってるからいいか。
一階にはやはり副団長がいる。相変わらず早起きだ。
「おはようございます、レイ殿」
「おはよう、昨日頑張ったのによくそんなに早起きできるな」
昨日、テルのお姉さんとその他の人たちを連れて帰る時、それはもう大変だったそうだ。
奴隷商を出た瞬間逃げる人がいたり、一人一人送るのは中々ハードだ。
帰って来たときは平静を装っていたが、明らかに疲れていた。
なのになぜ早起きできるんだ。体の構造が根本的に違うのかもしれない。
「癖のようなものですよ。慣れておりますから」
「ホントに尊敬するよ………」
新聞を読んでいる副団長の後ろに立って、覗いていると階段から知った顔がおりてきた。
テルのお姉さん──昨日名前を聞いたところ、セルというらしい──だった。
「おはようございます」
「おはよう、よく眠れたか?」
「はい、こんな高い宿に泊まったことはなかったので、テルも大興奮でしたよ」
昨日、テルとセルはこの宿に泊まった。
ルーンの提案である。反対する者はいなかったので、昨日は一緒に晩御飯も食べた。ちなみに服はルーンのものだ。
「改めて、ありがとうございます。ここまでして頂いて………」
「顔は似てるのに、中身はテルと全然似てないよな」
「よく言われますよ。子育ても中々大変でした」
10歳であれだからな。もっとやんちゃしてたんだろう。
そうこう話してると、テルとルーンが一緒に目を擦りながらおりてきた。
「「………おはよう」」
「朝から見事なシンクロだな」
動作まで完全にシンクロしていた。すごいな。
ルーンが伸びをして、少し目が開いた。まだまだ眠そうだけど。
「揃いましたね。では、ルーン殿、レイ殿、少しお知らせが」
「また何かあったのか?」
「いえ、良い知らせです。実は今朝、団長から早馬で手紙が届きまして」
そう言って、懐から手紙を出して渡してきた。
俺にも見せられるということは、機密情報ではないな。
「なになに、『炎黒狼の討伐と報告、ご苦労であった。今王都には早急な任務もなく、治安維持も私の方で事足りる。最近、オルバスも忙しかっただろうし、一週間休暇とする。存分にムルクスで羽を伸ばしてくれ。
追伸 ルーンにはあまり自由に行動させるな』………ああ」
「というわけで、一週間休みになりました」
そう笑いかけてくる副団長。
文面から労いの意がひしひしと伝わってきた。
この人のことだし、長いこと休んでなかったんだろう。
「リョーカイ。じゃあ副団長も心おきなく休んでくれ。ルーンの面倒は俺が見とくから」
「仕事をしていないと落ち着かないのですがね。団長も本気で心配しているようですし、私も今回は休ませていただきます」
「ねえ、私に自由行動させるなって何?」
「読んで時のごとくだよ。迷子とかそんなところだろ」
「もうアズ姉、私だって子どもじゃないんだから!」
ルーンは団長を姉と思ってるし、団長もルーンを妹だと思ってるらしい。
注意が完全に妹を嗜める姉のそれだ。
呆れる俺の背中を、テルがちょいちょいとつついてきた。
「レイ、まだここにいるの?」
「そうなったみたいだな」
「なら、剣術教えて!まだ誰にも教えてもらえる人いないから!」
冒険者になるというのはまだ忘れていないっぽい。
いいか。別にやることもないし。
「よし、やってやろう」
「やったー!お願いね!」
「あ、私も行くー!暇だし!」
「あとテル。教えてんだから、敬語使ってくれよ?頼むぞ?」
「それはヤダ」
「………」
本当に、頑固でたくましい子どもだ。
そんなに使いたくないのか。俺ってそんなに尊敬に値しないのか?
まーた遅くなったよ。いや一週間を遅いと見るかは分かんないけどさ。
そこで皆さんに質問。重要かつ、今後の活動にも大きく左右する質問だ。
………ぶっちゃけ、私の文章って上手い?そして物語の展開はこれでいい?
頼んだぞ。ちなみに私は褒めると伸びる子です。関係ないけどね!




