28話―強キャラはボス戦手前に出てくる
………ただいま、大乱闘中。
「うわあああああ!逃げろおお!」
「どうした!お前らの商売魂はそんなもんか!もっと必死こいて俺らを止めてみろ!それでもお前ら商人か!」
「聞いてない!こんなバカみたいに強い奴らなんて聞いてなどわあああ!」
今バカって言った奴で何十人目だろう。いい加減数えるのがめんどくさくなった。
といっても、こんな室内で魔法を打ったら倒壊するので剣のみ。人殺しする度胸もないので峰打ちのみ。
相当難易度は高いが、相手がそんなに強くないのでまだまだ余裕がある。
ルーンと副団長は、剣の柄で殴るか、普通に殴るか蹴るかで昏倒させている。多分この二人は剣がなくても強い。
副団長は俺らのせいで霞みがちだが、この国でも相当強い部類だ。引けを取るはずがない。
「無理だ………無理だこんなの!」
「『睡眠』」
「あっ………」
絶望的な戦況なので逃げ出す者もいたが、そいつらは眠らせる。無駄な抵抗も見せないのでこれが一番やりやすい。
簡単な魔法なので来る途中に副団長に教えてもらったのだ。人間にしか効かないらしいけど。
そして、ルーンが今一人倒して深紅の刀身をしまった。
これで全員の無力化に成功だ。
「意外とあっけなかったね。これならどこから攻めても同じだったかも」
「な?俺の作戦で間違いなかっただろ?」
「あれは作戦じゃなくて捨て身って言うんだよ」
「まあまあ、結果うまくいったのですから良しとしましょう」
「そうだ、お前その剣の名前決めろよ?どう呼べばいいか分からないから」
「うーん………。良いのが思い付かないんだよね。そしたらレイがつけてよ。そういうの得意じゃない?」
中二病全開ので良いのなら、全力で名付けよう。
まあ確かに、こいつはネーミングとかは得意ではない。下手したら『赤いの』とか付けかねない。
「そうだな。でも、ギリギリまで考えろよ。お前の剣なんだしさ」
「分かった。じゃあ今度一緒に考えてね」
「それくらいなら喜んで」
「では、そのために早く帰らなければなりませんね」
一階に残りがいないのを確認して、全員を魔法で縛り上げてから下に降りた。
多分今の乱闘で俺たちが来たことは気付いているはず。
それでも増援が来ないってことは、もうもぬけの殻か、あるいはよほど迎え撃つ自信があるのか。
下の2、3、4階は特に何もなかった。職務スペースかな。
そして、5階は本命のフロアだ。
………思ったよりクズ組織みたいだな、ここは。
「奴隷として連れてかれた人たちの移住、つうか押し込みフロアだな」
「ひどい。こんな囚人みたいな………」
「コストをかけたくないのでしょう。しかし、どうしますか?全て鍵がかかっていますが」
一言で言えば、監獄そのもの。
石造りで、他は何もない。まさしく牢屋だ。
光りも来ないから、ここに何日もいれば頭がおかしくなるかもしれない。
「副団長、『爆発』は使えるか?」
「できますが、ここで打てば大変なことになるのでは?」
「限界まで小型の爆発で、だ。『解錠』が使えるならそっちでも良いけど」
「なら、そちらで」
「私は私は?」
「お前は解錠(物理)だ」
「どんどん考え方が脳筋になっていくね」
下でボスを討つより、こちらが優先だ。元々テルは姉を助けてくれとお願いしてきたんだから。
効率重視で鍵を片っ端から爆破させていく。実に数十。一つ一つにだいたい四人くらいの人がいた。
6階まで続いていたので、そこも全て解放させておいた。
「大丈夫か?」
「え………?あ、あなたは?」
「正義の味方だから。とりあえずこっから出ろ」
戸惑ってる人がほとんどだった。まあいきなり出されれば当然か。
基本は女性だった。中には美少年もいた。さらに小さい女の子までもが閉じ込められていた。
さすがに気付いて邪魔してくる奴が下から来たが、秒殺しておいた。
「7階は見てないけど、ひとまずここまでだ」
「もう行こう!我慢の限界だよ!」
ルーンがだいぶご立腹だ。直接奴隷を見てますます怒りが湧いてきたのだろう。
………そして、それは俺も同じだ。
「副団長、悪いけどこの人たちを先に連れてってくれないか?心配だからさ」
「分かりました。急ぎで連れ戻します。その後は、騎士団を来させて奴隷商の回収、で良いでしょうか?」
「さすが副団長。言わなくても分かってるな。頼む」
「はっ、お二人もご武運を」
そう言って、もう百人に近い人数の人たちをまとめて、上へ上がっていった。
今さらだけど、あの人数なら、騎士団を何人か最初から来させればよかったな。あの人数を一人は、ちょっとキツイと思う。
騎士団が来るのは、もう少し後になりそうだ。
「じゃあ、俺らも行こうか」
「うん、早くぶっ飛ばそう!」
「ちょっと待ってろ。すぐ感知する」
常時発動している『敵意感知』を強める。
スコープとかいう、強いのがそろそろ出てきてもおかしくないからだ。
職務スペース、奴隷がいるスペース、それら以外ならもうボスがいる部屋くらいしかない。
そこは何があっても死守するはずだ。
………ほれ、いた。
「今までの奴より数段強い反応だ。多分スコープだ」
「どのくらい強い?」
「油断はするべきじゃないくらい」
「じゃあ問題ないね」
俺らが油断できないくらいなのだから、一般的にはすごく強い部類だ。
それでも、油断してなければ余裕で勝てる。
下に降りると、横幅が広い廊下があり奥にドアがあった。
そして………その前に男がいた。覆面を被った。
いや、穴も開いてないし、普通に布を被っているだけだ。
「あんたが覗き趣味のスコープさんかな?とても良い趣味をしてんな」
「………」
「でもさ、その覆面外見えてんの?覗きにくくない?」
「………」
「おーい、なんか喋ったらどうだ?バトル前の掛け合いはお約束だろ?」
「………」
だんまりか。顔が見えないから、煽りに乗ってるのかも分からないな。
見たところ、武器は持ってない。厚い服を着ているから中にしまっているのか。
動かないなら、こっちから仕掛けるか。
(ルーン、いくぞ)
(うん)
居合いの姿勢を取った。
この国の剣術に居合いは存在しない。見抜けないなら対人では初見殺しとなる。
ルーンは正統派な剣術の構え。
こちらに意識が行き、俺から注意がそれた所をぶち抜く。
動くんじゃ───
(はっ?)
奥にいたスコープが消えた。
と、思ったら………目の前にいた。
(嘘だろ!?)
「死ね」
短い死刑宣告の後、腹に鈍い衝撃が走った。
♢
この奴隷商のボスの名は、クルズ・スレーブ。
スーリア王国で最も大きい奴隷商にした男である。
元はスラムで生まれた子ども。当時のボスに拾われ、ここまで登り詰めた。
失敗も、成功も、どちらも飽きるほど経験した。
ゆえに、何が起きても対応できる。
だから、ここに襲撃してくると報告を受けても、焦らなかった。
いや、焦る必要もなかった。
「どちらも冒険者、それも女だ。何をつまらんことを言う。すぐに黙らせろ。良い商品なのだからな」
「………危険、かと」
「なぜだ?」
クルズは人を商品としか思っていない。
このときも、良い鴨が釣れたとほくそ笑んだ。
しかし、この無口な護衛はそれを否定した。
「………俺より、強いので」
「お前より?そんなわけあるか。お前以上の化け物はいない」
「………」
クルズはこの護衛に絶対の信頼を置いている。
今まで、幾度となく来た侵入者を、誰一人ここまで入れさせなかった。
諜報でも役立っており、こいつ以上に使える手駒はいない。
ただ、その本人が言っている。好きにさせるか。
「分かった。守衛はお前が指示しろ。俺は何も言わん」
「………御意」
短く首肯して音もなく去っていった。
………ここまでのクルズの判断は正しかった。スコープに全て任せたのだから。
しかし、近くに護衛を置かなかったのは、過ちと言える。
(どんな女だろうか。反抗的ならば、俺が直々に指導してやらねばな………)
そんな妄想に浸る余裕すらあった。
………今までうまくいった。こいつなら心配いらない。自分が失敗するはずない。
それらは全て、規格内の敵が攻めてきた時の話だ。
相手が規格外なら───具体的に言えば、転生者や勇者なら、そんな普通など所詮は夢に過ぎないのだ。
───不意に、ドアがものすごい勢いで吹き飛んだ。
「な、何だ!?何が起きた!?」
ドアがあった場所には、全幅の信頼を置いていた護衛が、いつもの覆面もなくなり白目を向いていた。
その体を踏みつけたのは───少女だった。
黒髪をなびかせ、片刃の剣を肩に担ぎ、それに似合ず口角を上げた笑みを浮かべた、普通とは言いがたい少女。
それを見てクルズは、なぜだかひどく恐怖を感じた。
♢
いやー、危なかった。
瞬間移動してきたのかと思った。俺の動体視力でも、直前まで反応できなかったのだから、瞬間速度ならルーンすら上回っている。
(こんな仕事しないで、冒険者とかやれば良いのに)
あの時、スコープが俺の目の前に現れ、ナイフを俺の腹に突き立てた。
ただ、スピード重視の不意討ちだったので、ろくに魔力が込められてなかった。
その程度の攻撃ではこの装備は貫けない。
忘れがちだが、刀だけじゃなくこの服も全て神器なのだ。生半可な攻撃じゃ傷一つつかない。
いくら突き立ててもナイフが通らないので、スコープは一旦距離をとった。
その一瞬で、ルーンがナイフを弾き飛ばして、俺が居合いで吹き飛ばした。
んで、今に至る。
剣を持った状態で一撃喰らったのは初めてかもしれない。
この失敗は次に生かそう。
(ここがボス部屋で間違いないみたいだが、いかにも小物っぽいボスだな)
今前にいる男は、腰を抜かしてガクガク震えている。
ろくに戦闘力もなさそうだ。こういうのはボス前の奴が一番強い、というのがお決まりだが、ここでも同じらしい。
その男が、震える声を絞り出した。
「お、お前ら!なぜここまで来れた!何人も配置させたと聞いているぞ!」
「全部倒しただけだ。それ以外選択肢ないだろ」
「ま、まさか冒険者か!?どうなっても知らんぞ!奴隷商の本部が、お前らを絶対に付け狙うぞ!」
こいつの小物っぽさが格段に上昇していく。
にしても、本部ねえ。ここが本部じゃないのか。
ここに喧嘩売ったんだ。当然買ってきてくれるだろう。
なら、望むところだ。そこもぶっ潰してやる。
「お前らは商品だぞ!それが買い主を襲って、良いと思ってるのか!」
「………いいか。俺は商品じゃない。そしてお前は買い主じゃない」
「なっ………」
「というか、人間かすら怪しいな。良いこと教えてやるよ。商品を大事にできない商人は、いずれ報いを受けるぞ。こんな風にな」
「お、俺に上から命令する………なっ………」
腹が立ったのでみぞおちを殴って黙らせた。
小物でクズ、良いとこなしだな。地球でもこんな奴そうそういないぞ。
スコープを入念に縛り上げていたルーンがようやく立った。
「終わったね。私にもやらせて欲しかったのにな。今回私そんなに活躍してなくない?」
「炎黒狼討伐で大活躍したんだから良いだろ?俺もまだ不完全燃焼だしさ」
「でも、この人は強かったよね。刑務所から出れたら、一回戦いたいよ」
「いつになるのか分かんないけどな」
奴隷売買の罪はそこそこ重い。
今までどんだけの人の人生を奪ったか知らないが、相応の報いを受けるだろう。
「じゃあ帰ろっか。テルちゃんにも会いたいし」
「今頃お姉さんと会ってるのかな」
解放している際、テルの姉は見つけている。
先月連れていかれてまだいるのか不安だったが、大丈夫だったようだ。
まあ、テルに会うのは先になりそうだけど。
「まずは伸びてる奴ら全員回収するぞ。起き上がって逃げられたらたまらないからな」
「はあ、まだ縛るの~?」
「頑張ったら今度『飛翔』を本気で教えてやる」
「よし!すぐ終わらせちゃうよ!」
現金な勇者だ。
ちなみに、ルーンは魔力は足りてるものの、制御技術が未熟なので習得できるのはおそらく教えてから一ヶ月後。
それも知らずに、ルーンは頑張った。
なんかゴメン。
ブクマ伸びんとやる気出ないんよ。
だから遅くなったんです。私は悪くありません。




