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第3皇女3

朝、セリアは扉をノックする音で目を醒ました。

訪ねて来たのは皇女殿下のリリアのようだ。

対応したのは起きていたニナだが聞こえる会話の内容から任務完了のサイ

ンを書類に書く為だろう。

それが終わるとリリアと共に1階へと降りて行ったニナが暫くして3人分

の朝食を持って戻る。

ここの食堂は狭く昨日の夕食時の事を踏まえ、混雑していないか確認がて

ら持ってきたのだろう。

その音に既に起き出していたクラウと供に質素な宿に見合った朝食を手早

く済ませ、せめて熱々の紅茶でもと1階へと降りれば既に其処に居たのは

紅茶のカップを前に座る皇女殿下と従者の2人のみで混んでいた食堂はガ

ラガラだ。

護衛の騎士達は朝食もそこそこで出発準備に余念が無いらしい。

「お早う御座います」

「あら、お早いですね、サインは先程済ませたのでゆっくりしていても良

いのですよ?それとも貴女達も出立の準備かしら?」

「えぇ、まぁ」

そう言葉を濁しつつ席へと着いたセリアとニナに、朝食の食器を返却しに

行っていたクラウが紅茶セットを持って戻って来る、席が空いているなら

ば腰を落ち着けてゆっくりと紅茶を飲む時間を設けても差し支え無い程に

は急ぐ旅でもない。

静謐な朝の空気の中、クラウが配膳する茶器の硬質な音が鳴り止まぬ内、

1人の護衛騎士がリリアの元へと姿を現すと身を正した。

「出立の準備が整いました」

隣に座る私達には目もくれずリリア達へと一礼し言葉を掛けると騎士は早

々に立ち去った。

「では、お先に失礼しますね、セリア皇国への無事な帰着、心より祈って

おります」

どうやら皇女は私達が此の侭セリア皇国へと戻ると思い込んでいるらしい

、用が有るのはカンビオンであり、行かなければマリーが仕込んだ茶番も

落とし所が見当たらなくなるのは確かだが契約は切れているので、ここは

無難な返事を返しておく事にした。

「皇女殿下も息災である事を祈っております」

「ありがとう」

穏やかな笑顔を浮かべ立ち去って行く彼女に、少し遅れて頭を下げ付き従

ったエリスという従者の顔には、悲壮感こそ無いものの並々ならぬ覚悟が

現れていた事は嫌でも判った。

どうやら御同胞の襲撃がある事は理解しているらしい。

「さて、どうしたものかしらね・・・」

「監視の気配もあからさまですね、正に追い立てていると言った感じでし

ょうか」

ニナの言葉に反応しない所を見ると、流石のクラウもダダ漏れの監視の気

配に気付いたのだろう。

「それでこれからどうするのですか?」

どうやらクラウの腹は既に決まっているらしい、ここで1人帰還の途に就

いたとしても依頼が完了している為何ら問題とは成らない、行動の選択を

此方に委ねる発言をしたという事は行動を共にすると言っている事と同義

だ。

「当然カンビオンに行くわ、だからと言って逃げ隠れする理由も無い訳だ

し少し離れて付いて行けばいいんじゃない?、取り敢えず皇女様達が出発

するのを待ちましょうか」

そう言って紅茶に口を付けたセリアがピクリと反応する。

魔力が大きく渦巻きながら蠢く気配、空間が揺れ動くかの様なその感覚は

扱える魔力量が桁外れのセリアならではの感覚だった。

「?!」

どうやらニナも何かの異変には気付いたらしい、感覚を研ぎ澄ませ辺りを

伺っていたニナが答えを求めるかの様に私を見詰めた。

「どうやらファウストが状態加速魔法を発動させた様ね」



遡る事2日前。

カンビオン皇国皇城内、第4皇子執務室。

この部屋の執務椅子に座る主サイラス・フォン・アンジュラスの前には大

仰な態度を見せる女が椅子に座るサイラスを見下ろしている。

口を開こうとしない女を見てサイラスは書類に趨らせるペンを止める事無

く声を掛けた。

「それで?」

「近衛第5分隊が所定の配置に着いたそうです」

「そうか・・・指揮車には誰が?」

「エリンカだそうです」

「隊長自らのお出ましか、今回ばかりはそれが正解かもしれんな」

「・・・・・・・」

何も言い返さない女に、チラリと見上げればその顔はどこか不服げだ。

「何か不満か?」

「第8皇子殿下に続いて今度は第3皇女殿下ですか?」

蔑む様な口調で返したその女は隣国の人族の小国であるイステリア王国

の第1王女であるルミア・イステリア、サイラスの側室となる”予定”の女

である。

「あぁ、それがどうした?お前だってこの国へ嫁いで来る事は生まれた時

から判っていたのだ、この国であればこうなる事は最初から判っていたの

ではないのか?」

確かにそれは予想出来た事だった。

現女皇陛下も皇位争いの時、兄弟姉妹は居なかったが前皇王陛下が遺去し

た際、皇位簒奪を企てた伯父と伯母を亡き者にしている。

永いカンビオンの歴史を振り返って見ても過去にそう言った歴史が有った

事はこの国の歴史書にも記されている事だ。

「ですが自ら率先して身内に手を掛けなくとも良いのではないですか?」

「まぁそれはそうだが、どの道俺が手を出さなくとも第1か第5辺りが手

を出すんだろうがな」

「では何故!?」

「それは上手く事を運べる者がこの皇城には俺しか居ないからさ」

「ですが、何も殺さなくとも他に方法が有ったのではないですか?」

執務机に手を付き責め立てる様に身を乗り出して言い募ったルミアはカン

ビオンへ輿入れ準備の為に入城して既に5年、歳の離れた第8皇子とは5

歳からの付き合いで親交も深かった。

そんな弟を種違いとは言え兄であり自分の夫となる人物が亡き者にしたと

皇城内で真しやかに噂が流れていれば心穏やかでない事はサイラスも判っ

ていた。

「じゃあ聞くが俺だってアイツに苦しい思いはして欲しくないとは思って

いた、だから優しい兄としてはアイツらに手を出される前に態々薬を使う

という回りくどい方法を選んだんだ、でなければどちらかに刺し殺された

か首を飛ばされて晒し者にされるのはあの2人の性格を考えれば想像が付

くんじゃないのか?」

第1と第5皇子はその性格の苛烈さから暴虐のルドルフ、嗜虐のアンダル

シアと呼ばれている、サイラスが手を出さなければ両陣営の動きから第8

皇子が粛正された事は間違い無かった。

ルドルフなら未だしもアンダルシアの手に掛かれば濡れ衣を着せられた上

晒し首にされても不思議では無い。

「ですが!」

「それに第3と第7の件が片付けば、残るは第1と第5と俺の男3人だけ

だからな」

「・・・ではエルセリーナ様は既に・・・」

「おっと第6か、そんな奴も居たな、余り表に出たがらない奴だったから

すっかり忘れていたよ、兎に角皇城の執務室を使っているのは俺位なもの

だし鉢合わせして余計な揉め事が起こる事も無いだろうが、お前は普段と

変わらない生活を俺の屋敷で送っていればいい」

そう言ってサイラスは穏やかな笑顔をルミアへと向けた。





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