バレンタイン
もしもバレンタインがあれば、な話です。当日書けなさそうなので前日に書いて予約してたものです。
ちょっとギャグ調で私にとっては甘めの話です。
そんなに長くない。
「明日は2月14日のバレンタインね。去年は色々誤解などあって大変な年だったけれど、問題は解決いたしましたもの。今年はジーク様に手作りのものを食べていただきたいわ‼︎」
私が調理場に入り料理長の前に立ったときの第一声はそれだった
本来貴族令嬢が調理場に入り料理をするなどあり得ない話だが、しっかり父には許可を得て来ている。しっかり手作りの許可証にサインまでもしていただいた
私はお嬢様にそんなことをさせられません、と言った料理長にその紙を渡す
「安心してくださりませ。お父様にはしっかり許可はいただいておりますもの。包丁などを使うことはないでしょうし…多分。大丈夫ですわ…多分」
少し自信がなくなり多分と言うと、彼はそれではやはり危ないのでお嬢様はお控えください。と言う
私はもう一度「大丈夫よ、怪我はしないから!」と心の中で多分と付け足しながら言うと、彼は渋々了承した
「お菓子を作る許可はいただけたけれど、何を作ろうかしら」
何を作るかという肝心なことを考えていなかった私は、料理に必要な道具を出す前に考える。
私は今までのバレンタインにジーク様に渡して来たお菓子を思い出す。作ったのは全て私の家のコックだが
「……やはりオペラかしらね」
私は今までコックたちが作ってきたチョコのお菓子やケーキの中から、一番見た目が美味しそうだったものを選ぶ
「お嬢様。料理を一度も経験していないお嬢様にオペラは難しいと思われます。もう少し簡単なものをお作りになられた方がよろしいかと。例えばガトーショコラなどはどうでしょうか」
私は七年前のバレンタインで作られたガトーショコラを思い出す。
ーーまあ、悪くはないかもしれないわね
「…わかりましたわ、それにいたしましょう。今年は私の手作りガトーショコラということで」
私は必要な材料や道具を教えてもらったり出してもらったりしながら準備をすると、早速お菓子作りに取り掛かった
結果、惨敗。
「……お菓子作りって、こんなにも難しかったのね…」
「お嬢様は料理の経験がないので仕方がありません。これから上達しますよ」
私は目の前に置かれている、もろもろに崩れ真っ黒焦げになっている原型のカケラも留めていないガトーショコラを見つめながら言う。すると料理長はこれからだと言って励ましてくれるが、今日上手くいかないと意味がないのだ
「…もう一度、挑戦いいかしら」
「もちろん。いくらでも付き合いますよ」
そして私は何度も何度も、失敗しては作り直し、失敗しては作り直しを繰り返した
「…………………私、お料理向いてないみたいですわ」
「…お嬢様、申し訳ありません。フォローする言葉が見つかりません」
カウンターの上に置かれたのは一度目に作られたガトーショコラと見た目が全く同じものの山
ーーどうしましょう。これではジーク様に何も渡せないわ…
「お、お嬢様。お力になることが出来ず大変申し訳ありません。今年はお作りになられるのは諦めて、また来年挑戦いたしましょう!一年経てば腕も上達しているかもしれません」
「……その一年の間、お料理をしないのに?」
「あっ、いえ、練習いたしましょう!私の方からも旦那様にはお願いいたしますから」
私の目からポロポロと涙がこぼれるのを見て必死で慰めようとしてくれる料理長。正直慰め方が上手くないが、彼の優しさはよく伝わってきて、さらに自分が情けなく感じ申し訳なくなった
『料理長、申し訳ございません…今年もお願いいたしますわ。言われた通り、また来年に再挑戦いたしますわね』
そう言おうとして口を開いたとき、調理場の扉が開き誰かが入ってきた
そちらへ顔を向ければ、出入り口に立っていたのは本日会う予定のなかったジーク様だった。
「ジーク様…」
「……エリーを泣かせたのは、君?」
彼は私に一瞬視線を向け目を見開いた後、料理長を睨み付けるとそう言った。
「ち、違いますわジーク様。彼は私を慰めて下さっていただけですわ」
「なら何故泣いているの?」
彼は私の方へ歩み寄ると、私の頬に手を添える。私の目に映ったジーク様の表情は本当に心配してくれていて、自分が情けなくて泣いていただけだったために申し訳なく思った
「…その、明日はバレンタインなので、今年ジーク様に渡すお菓子は私の手作りがいいなと思い、先程まで作っていたのですけれど…何度も何度も作っても上手くいかず、自分が情けなく感じて泣いてしまっただけですわ。…心配してくださりありがとうございます」
私が微笑みながら言えば、彼は少し黙り込んだ後にカウンターの上に積み重ねられた原型を留めていないケーキに視線を向ける
彼はそれに手を伸ばすと、自分の口に運んだ
「ジーク様⁉︎」
「………」
私は咎めようとするが、彼は無言でそれを食べて行く。美味しい訳ないのに、彼はそれを食べ続ける
彼はケーキを口に運び続けていた手を止めると、料理長の方へ顔を向けた。
「…流石にこの量を今日一日で食べきるのは難しいから、これを持って帰る用のもの、用意してくれないかな?」
「えっ、あ、はい。今すぐに」
料理長は無言で食べ続ける彼をポカンとした表情で見ていたが、用を頼まれるとはっとしすぐにここから出て行ってしまった
「ジーク様、無理をなさらないでください。上手くいったものは一つもなく、全て美味しくなかったでございましょう?見た目も汚いですし…」
彼は私をじっと見つめた後フッと優しく笑い、首を横に振った
「エリーが僕を想って作ってくれたものだと考えたら、全部美味しいとしか思えなかったよ」
私の頭に手をのせポンポンと優しく撫でるように叩きながら言ってくださり、私はたまらず彼にぎゅっと抱きつく
「…ありがとうございます、ジーク様。来年はもっと上手になってお渡ししますから、楽しみにしてくださいませ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
彼は私の腰に手を回すとぎゅっと抱きしめた
扉の向こう側で戻ってきていた料理長は思った。
これはいつ入ればいいのだろう。と
読んでくださり、ありがとうございます‼︎




