役者
『ちょっと待って! いや、間違ってるって! 私じゃない! 違うんだって! 犬、猿、と来れば雉でしょう? ね。犬、猿、雉。これで鬼退治のオトモーは決まりでしょ? 私は違うの! 私はただの雀なの! 言葉は話せないけど、見たらわかるでしょ? 雀と雉なんて全然違うのだから……。だから! 私じゃないって! 私は雀! 雉じゃないの!!』
「そんなもの見ればわかる」
突然苛立ちを感じた声を挙げた桃太郎を見て、その矛先が雀だとわかった犬と猿は二匹して静かに溜め息を吐いた。
事は少しだけ前に遡る。道を歩いていた。否、犬が先導し、鬼ヶ島へと進軍していた桃太郎達一行だったのだが、桃太郎が取り敢えず、もう一匹くらいはオトモーが欲しいと駄々を捏ねたので、仕方無しに犬と猿で協力して、一羽の雀を捕まえたのである。オトモーと言えば、犬、猿、雉は鉄板である。が、雉などそんじょそこらに居るものでもない。なので、身近なところで雀でいいよな。と二匹で頷き合い、雀を捕まえたのだ。然し乍この雀、うんともすんとも喋らない。犬と猿は協力して何故喋らないのか何とか調べたところ、この雀、舌が切られており、声が出せないのだと判明した。が、桃太郎にはどうでもよい事だったようで、声が出せないのなら心の声と話せば良いだけだ。と意味のわからない事を言ったのだ。
それがこの結末である。舌を切られて喋る事の出来ない雀と、桃太郎は何の問題もなく会話している。然し問題はそこではなくて、雀としては、やはり鉄板は鉄板ではないかと主張しているようなのだ。当の桃太郎としては、雀だろうが、雉だろうが、烏だろうが、百歩譲って蟻だろうが何でも良かったようで、鉄板を主張する雀を鬱陶しそうにしている。にもかかわらず、雀を解放する訳でもなく、やはり目視不能なリードを付けているようで、雀は逃げ出す事も出来ずに一定の距離の所を引き摺られるようにして飛んでいるのだ。
「なぁ……。そろそろ諦めたら?」
『な、何よ! アンタ達が私を捕まえなかったら、私はこんな事してないわよ!』
「駄目だよ犬。雀の言葉は桃太郎さんにしか聞こえないんだから」
「そうなんだよな……。不便だな……」
「確かに不便だな」
『そう思うんだったら、逃がしなさいよ!』
「ヤダ」
一番の問題は桃太郎なのである。一度捕まえたものは逃がさないのだ。全くもって不条理である。然し乍にして、物語の主人公。どれだけ理不尽でも、どれだけ不条理でも、どれだけ我が儘でも、桃太郎の決めた事が絶対なのである。
そして、桃太郎も気付いてないだろうし、犬も猿も雀でさえも気付いてないだろうが、桃太郎の腰にぶら下がった巾着袋に入った団子。これが、今までの一度も使われた事の無い謎のアイテムである事に。ババアに投げ付けられた巾着袋に入った団子。ただ桃太郎の腰にあり、袋から出される事もなく、桃太郎が歩けば袋と共に揺れている。謎の団子。これが一体何なのか? それは、桃太郎にも知る由もない物であった。
さあ! 鉄板では無いにせよオトモーは揃った! 後は鬼ヶ島へ上陸するだけである!!
仲間その③を獲得しました。もう何でもありなのだろうか……。




