居候が増えた件
だが、だからといって大人しく引き下がる僕ではなかった。
それならばできる限り戦闘の依頼に行かないように邪魔し、お菓子とポイントがたまりそうな依頼をゲットしてやると僕は思った。
なのでギルドが開くまで、フィオレとクロヴィスの二人と話していると、
「あれ? 今日は杖の妖精はいないんだね」
旅装束の長い黒髪に青い瞳の少年。
フードの隙間から見えるそれは相変わらずの美貌である、人間と魔物のハーフであるローレライ。
海辺の町で出会った彼だが、そういえば時々こっちの酒場に来るような事を聞いていた気がする。
そう思っていると、フィオレがやけに険しそうな顔をして、
「お前……何か、人と違う気がする」
「へー、分かるんだ、お嬢さん」
にこっとライは頬笑み、フィオレの事をお嬢さんと言った。
それを聞いた僕は、ぷっと吹き出した。
それにフィオレがじろっと僕を見るがすぐに、
「僕は男だ。確かに僕は美しいが、だからと言って男性的な美を損なう物では……」
「何処からどう見ても女の子だね」
ライが言いきった。
それにぢ俺は沈黙してから、次に僕を見て、
「これは、陽斗の知り合い?」
「う、うん。海辺の町に行った時に、その、酒場で会って」
という話にしておいた。
ライがローレライである事は秘密にしておかないといけないのだ。
そう思って僕は言うとフィオレは、
「ふん、酒場か。ああいった場所は色々な物が混ざるかな。まあ、昔は獣耳の生えた獣人の魔族もまぎれ込んでいたようだが、最近は見なくなったと聞くが……」
「え? 猫耳が生えた人間は、魔族なのですか?」
そのフィオレの言葉に僕が問いかけると、フィオレは少し黙ってから、
「あー、うん。場所によるかな。獣人達を生き神様と崇める地方もあるし、一緒に暮らしている地域もある。そういった地域では混血が進んで、人間とほとんど変わらなくなってしまって、たまに先祖返りの獣耳人間がいるくらいなんだ。でも、彼らの中で特に力の強い種族は魔族になっているはず……なんで陽斗は知らないんだ?」
「え、えっと、普通に獣人なんかも暮らしているのかと思っていたから……」
「……おとぎ話を信じるくらいに、“箱入り”か。世間知らずと言われても仕方がないかもね」
「う、うう……」
だって、そもそもこの世界の人間じゃないしと僕は思いながら、それはいえずに黙る。
それに今の話を聞いていて僕は、
「フィオレ、一つ聞いていいかな」
「何?」
「僕の飼っている猫のタマっているじゃん。フィオレにはどんな風に見えた?」
「見えたって……ほら、あそこで背伸びをしている茶色い猫がいるじゃん」
そう言って指差した先には、茶色いふさふさの毛並みの猫が、大きな欠伸をしている。
それは僕には、ただの猫にしか見えない。
僕は……嫌な予感を覚えつつもそれ以上何も言えずにいるとそこでライが、
「でもやっぱり陽斗の女装姿は最高だね。こんなに可愛いなんて……嫉妬せざるおえないよ」
「……好きでこんなものを着ているわけじゃないのに」
「でもこれなら色々な男がふらふらとよろめいてしまいそうだね。クロヴィスも大変だな~」
ちらっとクロヴィスを見るライだけれど、クロヴィスはそれを鼻で笑い、
「陽斗をとるという宣言か?」
「いえ、ちょっと言ってみただけです。可愛い子には何時どうなってもいいように粉をかけておくのが定石でしょ? と挑発してみてもいいのですが、僕とこの二人、女装姿が美しいかなと思って。やっぱり、僕の方が美しそうだね。うん、納得したから良いや。それでお願いがあるんだけれど、今日泊めてくれないかな? 宿代浮かせたいんだ」
と、僕の家に泊まりたいといいだしたローレライの、ライ。
僕はちらりとクロヴィスを見ると、何となく嫌そうには見えたが、
「……陽斗の好きにすればいい」
「そうなんだ、部屋は余っているから良いよ」
「ありがとうね。お礼に、生の棘ココナッツと缶詰を持ってきたんだ。海辺の特産だからね」
「わー、ありがとう。それを使って何を作ろうかな~」
あのココナッツは、ミルクの代わりに色々使えてとても重宝しているのだ。
わざわざあそこまで移動して採りに行くのも、主にクロヴィスが徒歩で行かせようとするから大変だし、この町のお店で見ても結構なお値段になっていたので凄く嬉しい。
そんな風に僕が喜んでいるとそこでフィオレが僕を叩いて、
「あの、僕もお泊まりさせてもらってもいいかな」
「いいよ。てことはお友達何人も今日はお泊まりなんだ!」
そう喜ぶ僕にクロヴィスが、
「俺の時は嫌がったくせに、他の奴にはそんななのか?」
「だ、だってクロヴィスはすぐに戦闘に連れて行くし……」
「……明日から連日戦闘だ」
そう、僕にお仕置きだというかのようにクロヴィスが僕に告げたのだった。
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ギルドが開いたので、僕達は中に向かった。
正確には、中にある掲示板に真っ先に向かう。
早めに来たかいがあって、高ポイントで短時間に作れて依頼料も結構なお値段な物を二つ手に入れる。
けれどそれを手に入れるまで僕は、とてもとても苦労したのだ。
迫りくる女の子にぎゅうぎゅうと押され、ちょっと苦しかった気はしたのだけれど、
「なにか、何か柔らかいものに当たった気がする……」
僕がそう呟き、あれが何だったのか思い描こうとする。
あの苦しい場所に長くいるのは危険だったので、瞬時に二つ手に入れて逃げ出してきたのだ。
なので今は人混みのない場所、部屋の角の部分で壁を向いているわけだが、そう呟くと同時に背後に何かの気配を僕は感じて、振り向く前に後ろから僕を抱きしめた。
逃げられないようにされた僕の耳元でクロヴィスが、
「それで何処が柔らかったって?」
「こ、腰の辺りにふにょって」
それを聞いたクロヴィスが、無言で僕へのセクハラをやめた。
次に女の子達の方を見て、指を指し、
「陽斗、あの子が持っているキーホールダーが柔らかそうだが」
それを僕はぼんやりとした目で見て、その柔らかそうというかプルンプルンするよく分からない素材を見て、次に自分は女の子と同じくらいの身長しか無いのに気づいて、つまり僕の腰のあたりに触れた柔らかいそれは……。
「ひ、酷い、ちょっとくらい夢を見せてくれてもいいじゃん!」
「……現実は非常だな」
「……はあ、でもいい依頼二つも取れたしこれで当分大丈夫だ」
「そうか、じゃあ戦闘の依頼を探しに行こうか」
それを聞いた僕は、すぐさまクロヴィスの前に立ちはだかる。
こうやって戦闘の依頼がある掲示板にいかなければいいのだ、そう僕は考えていたのだが……。
手を大きく広げる僕にクロヴィスは立ち止まる。
「こ、これで戦闘の依頼の掲示板には近づけないんだから!」
僕は必死になって通せんぼする。
クロヴィスはそんな僕を見ながら珍しく沈黙している。そこで、
「クロヴィス、戦闘の依頼は受けてきたけれど……陽斗も何をやっているの?」
ライがそう言ってやってきて、僕は呆然とクロヴィスを見上げた。
それにクロヴィスが僕から手を放しニヤリと意地悪く笑い、
「陽斗が混んでいる場所に行って時間がかかったから、先に選んでおいたぞ?」
「そ、そんな!」
「俺は楽しかったが?」
「僕は楽しくなかった! うう……」
そんな嘆く僕に、そこでようやくんいか依頼を勝ち取ってきたらしいフィオレが現れる。
「どうにか依頼を採ってきた。毎回ここの依頼はキツイな。出すのを一日二回に分けて欲しいな。そうすれば朝に依頼を受けた人達が少しは減るだろうから……後で要望を出しておこう。それで、陽斗。約束通りお菓子をごちそうしてもらおうか」
「う、うん」
「では僕好みのお菓子を選びに行こう、行くぞ」
そう言ってフィオレに手を引っ張られる僕。
それにライが付いてきてそしてクロヴィスが……少し不機嫌そうに付いてきたのだった。
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どのお菓子や料理にしようか依頼を選んで、僕は依頼を受ける。
たまたまどんな依頼を僕が受けうのだろうと覗きこんだフィオレが、驚いたように、
「それ、素材集めが大変な依頼じゃないか!」
「う、うん、でも全部あるし。作る為の操作はそれほど難しいものじゃないから」
その答えにフィオレが黙る。
僕、何かを間違えてしまっただろうか、そんな不安が僕の中で湧きあがる。
そこでフィオれが深々と溜息をついて、
「材料が遠方で手に入りにくい物や、貴重なものばかりだろう。確かに作るのはそれほど難しくないし、量だって少ない。でもこれを真っ先に狙うなんて……しかも“ローレライの涙”なんて、そんなに手に入らない」
「……実はこんな感じです」
この前、すぐ傍にいるライというローレライにもらったものを見せると……フィオレは変な顔で僕を見た。
「……あの強いローレライを泣かせるくらいの何かをしたのか?」
「え? いや、別にそんな事は……」
「いきなり襲いかかってこない限り、この魔族の場合、貢物をしてこれを手に入れるのは定石だからな。一般には、好むものを大量に貢いで、玉ねぎをみじん切りにするとか」
フィオレの説明に、ゲーム内では戦闘で手に入る物としか認識していなかったので、僕は目を瞬かせる。
確かにローレライという魔物を殺したり戦闘をしたりするよりは、双方に利益もあり穏便だ。
ただ、もう少し夢のある設定が欲しかったなと心の中で僕は思う。
そこで僕はフィオレに、
「それでどうやってこの貴重な材料を手に入れたんだ?」
「え、えっと……購入しました」
「貴重品だから高かっただろう。こんな依頼料では割に合わないぞ?」
「う、うぐっ、ぐすっ……で、でも……」
僕はフィオレにどういい訳しようか焦っていた。
すぐ傍では、ライが楽しそうに僕達の様子を観察している。
酷いと僕が思っているとそこで、
「以前別の魔物を俺と一緒に倒しに行った時に何故かその魔物が持っていたんだ。理由は分からない」
クロヴィスがそう言って僕に助け船を出してくれた。
そんなクロヴィスにフィオレが、
「何で別の魔物がそんな物を持っているんだ?」
「俺が知るわけないだろう。だから陽斗、言っただろう? あの魔物が落とすはずがないから拾うなって。貴重なものらしいから」
たしなめられる様に言われてしまった僕だけれどこの場合仕方がない。
僕は何にも悪くないけれど下手に詮索されても困るので、
「う、だって貴重な材料だし。あんな場所に放っておいても他の人が拾うだけだし」
「……そういった理由だ。大方間抜けな冒険者が落としていったんだろう。これで納得してくれたか?」
フィオレは、呻いたが、それ以上聞いたとしてもどうしようもないと思ったらしく、沈黙する。
そうしてもらえて僕は本当に助かったと思う。
その話をするのは傍にいるローレライの関係で、あまりしたくはない。
ただフィオレは納得していなさそうだが。
そこで僕は気づいた。
ギルドのお店が開いているという事は、他のお店も開いている……つまり男性用の服のお店も、だという事を。なので、
「僕、ちょっと服を見てくるね」
「……僕も見てこようかな」
そんなわけで、フィオレと一緒に服を見て購入し、僕達はようやく僕の家に戻ってきたのでした。
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家に帰って来てから僕は早速食事づくりに励む。
「ライとフィオレには後で部屋に案内するね。その前にお茶を出すからそっちにテーブルに座っていて。あ、クロヴィス達は朝御飯どうした?」
「……俺は食べていない。それと、リリスとタマは、部屋で面白い事になっていた」
「あ、うん……じゃあ、依頼の食べ物と一緒にまずは食事を作ってから、お菓子を作る、それでいいかな? お昼も近いし」
「それでいい」
クロヴィスがそういうので僕は調理を始める。
まずは、チーズのたっぷり入ったシチュー、野菜サラダ、もぎもぎナスとベーコン、黄金色コーンのキッシュとケーキサクレ。
これらを作るのでオーブンは満杯になってしまうから、パンケーキは自分でフライパンで作るかと決める。
もちもち小麦粉、花の蜜から作った砂糖、赤青とさか鳥の卵、ふわふわ草の粉(この世界のベーキングパウダーの様なもの)、そして、水色ビーンズで作った豆乳。
この水色ビーンズは、名前の通りパステルカラーの水色をした豆なのだが、中が白いためか豆乳も白い。
このまま飲んでもいいし牛乳の代わりに食材や薬、その他もろもろに使ってもいいという優れものだ。
それに豆乳でホットケーキを作ると分厚く膨れるので、僕は牛乳の代わりに豆乳で作ったホットケーキが大好きだった。
それに秋を感じさせる深い琥珀色のメープルシロップをかけて頂くのだ。
これも豆乳の方が膨れるといいなと思いながら混ぜていく。
そしてクリスマスシーズンには品切れになるバターを熱々に熱した、持っている中で一番大きなフライパンの上に落とす。
二つ同時に焼いているので、一気に二枚できるのだ!
次にタネを流し込んで焼いている間に、生クリームを泡立てる。
今日はお客様が来ているので生クリームと、小さな果実を添えようと思うのだ。
そう思いつつ傍にある夜間にお湯を沸かして、お茶の準備をする。
こうして僕は、色々な料理を作りあげていったのだった。
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フィオレとライが、陽斗の料理を作っている様子を見てからクロヴィスを見る。
それにクロヴィスは面倒そうに、
「何か言いたいようだが、どうした?」
それにフィオレが、
「何時もあんな風に、陽斗がご飯を作ったりして、一緒に暮らしていると?」
「そうだが、何だ?」
「ファンみたいな子や、これを作ってきましたといったような女の子の差し入れを全部断ったのに、陽斗の手料理は食べると?」
「陽斗は特別だからな」
その一言に沈黙するフィオレ。
あまりにも態度が違いすぎるので、何も言えなくなってしまったようだ。
むしろこのクロヴィスが、陽斗を大事に溺愛しすぎていて引いてしまったようだ。
昔のクロヴィスを知っているからこそ今のこの状態が信じられないらしい。
そこで階段を下りてくる音がした。
見ると魔法の杖が勝手に、ぴょんぴょん飛び跳ねながら逃げてきており、それを猫のタマが追いかけている。
その杖は陽斗の傍まで来て、
「陽斗、助けて。タマが僕が嫌がるのに無理やりするんだ」
「リリスの本体の杖って甘いみたいだね。こら、タマ。リリスを苛めちゃだめだよ?」
「にゃーん」
「いや、にゃーんじゃなくて……あ、もうひっくり返さないと焦げちゃう!」
そう言いながら陽斗が注意をすると、タマがにゃーんと鳴いた。
そこでがたっとライが席を立つ。
ライは驚いたようにタマを見ていたが、それに気づいたタマがライに近づいていって、
「にゃーん」
「……そうですか、分かりました。にゃーん、ですね」
という謎の会話をした。
それを見ていたフィオレがライに、
「猫と会話をしてどうする。お前も猫好きなのか?」
「……猫って可愛いですよね?」
「……可愛いと思うが、あのタマは初対面で僕のソーセージを勝手に食べたんだ。可愛いというよりも、別の感情が先に来る」
「そうですか、それはお気の毒です」
微妙そうな顔でライはタマを見ながらそう告げて、そこで陽斗が料理を持ってきたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
並べられた料理の数々に舌鼓を打ちながら、僕達は昼食を食べていく。
温かい紅茶にはミルクと花の蜜から採ったシロップを添えた。
また、こちらにも木の樹液を煮詰めた甘い蜜があるらしい。
その名も、黒糖蜜カエデというそうだ。
寒い時期に採取して、煮詰めて作りあげているのだそうだ。
他にもメープルバターの様なものもあるらしい。
ゲームには出て来なかった美味しそうな食材だ。
パンに付けても美味しいよねと思ったので、その内購入する予定である。
そしてリリス用の小さなカップに、今日は花の蜜ではなく樹液の方を入れてやると、これも美味しいかもと嬉しそうだった。
そんなこんなで出来たてのシチューやサラダなどを食べながら、僕達は会話で盛り上がる。
美味しいと目を輝かせるフィオレに僕は、
「そう言えばフィオレ、今日は一人だったみたいだけれど、アンジェロはどうしたの?」
「……あいつの話はするな」
途端に機嫌が悪くなり、それ以上聞けない雰囲気になってしまった。
そこでライが、
「このパンケーキ、分厚くて美味しいね。どうしたのかな?」
「豆乳を使ったのです」
「なるほど、それで少しあっさりした味なんだね。でも美味しいね、今度僕も試してみようかな」
その隣ではタマが、うまうま言いながらパンケーキを食べている。
クロヴィスも静かに先ほどから無言で黙々と食べている。
でもタマのように、こうやって美味しいと言って食べてくれるのは嬉しいなと僕が思いながら、そこで僕はライに、
「今日からどれくらいいるの? 酒場で歌うんだよね?」
「そうだね、これから一週間はいると思う。酒場で歌うのは結構いい稼ぎになるんだ、人が集まるからね」
「そうなんだ。どんな歌を歌うの?」
「古い、遠い国の歌とか、そういった物が珍しがられるね。それも僕の商売のネタだから、あまり詳しく言えないな」
「そうだね、うん」
そう思いながらそう言えばと僕は思う。
「ここでも女装して歌うの?」
「もちろん、その方が客入りが良いんだ。……でもせっかくだから二人も一緒に歌ってみない? 二人共似合っているし」
そこで僕は未だ女装をしたままなのを思い出して、憂鬱になった。
だがそこで思わぬ人物が声を上げた。
「わかった、僕と陽斗で出よう」
「え、なんで僕まで、というかフィオレどうしたの?」
「この美しい姿で他の男を見つけるんだ。僕の仲間になってくれそうな人を!」
「あ、あのアンジェロは」
「あいつの話はするな!」
フィオレにぎろっと睨まれて僕は大人しく引き下がる。
ただ僕はどうしてもそんなことはしたくなかったので、クロヴィスに助けを求めるが、
「いいんじゃないか? 三人で歌って踊ってこい」
「何処のアイドルだ! なんで僕がそんな目に……歌だってそこまで得意じゃないのに……」
それにライが一緒にいるだけでいいからと説得されてしまう。
しかもクロヴィスはそういった僕の姿が見たいという理由で、敵に回った。
そんなこんなで、よく分からない内に僕は、そんな状況になってしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その後もこの世界の話を色々聞きながら、所々ゲームよりも詳細に聞く事が出来た。
それに関しては後に話す事もあるだろうと思う。
ちなみに現在クロヴィスはここにおらず、タマはリリスの手が甘いからと逃げるリリスを追いかけていった。
「僕だって、陽斗にセクハラしたいのに~!」
と叫んで、自ら何処かの部屋へと逃げていった。
わざわざ自分から追い詰められにいってどうするんだろうと思った僕だけれど、セクハラしたいんだという言葉を根に持っていたので、僕は放っておいた。
何だかんだ言って、あの二人は仲が良さそうなので邪魔したら悪いかなと思ったのも理由の一つだ。
そんな感じでほのぼのしている僕達。
平和だな、こんなに平穏だとなんか逆に不安になってくるなと僕は思って気付いた。
僕は、クロヴィスがギルドに用があるので、料理の依頼を持っていくと言ってくれたのだ。
だが何故、クロヴィスはギルドに行く用事があったのだろうと僕は思って、そこで気付いた。
クロヴィスはおそらく、否、絶対に今後の戦闘の依頼を探しに行ったのだろう。
本来であれば引き止めておかなければならなかったのに僕は、そうなんだ、お願いしようと思ってそのまま……うがががが。
けれど今更追いかけても僕はどうにもならないので、どうやってクロヴィスから逃走するかについて考えた方が良さそうだと思う。
やはり朝早く起きて、抜け出して何処かに隠れるのが良いのかもしれない。
「うん、そうしよう」
「何が? やけに深刻そうな顔をしているけれど、どうした?」
僕の様子に気付いたフィオレが、心配そうに聞いてくるので事情を話した。
とても怒られました。
フィオレに、魔法使いたるものの心得という、お説教を延々とされ僕は更に涙目になった。
そこで時間もそこそこすぎたので、そろそろおやつを作ろうかという話になる。
今回の依頼は、クッキーとファーブルトンというプリンに似た味わいのあるお菓子だ。
フランスのとある地方の郷土菓子らしい。
卵を泡立てないように混ぜて焼くだけで美味しいお菓子なので、ちょくちょく作って食べていた。
中の果物も、プルーンを紅茶で戻した物から、洋梨を砂糖と白ワイン、水で煮たコンポート、イチゴに砂糖をふりかけて煮た物など、様々な物が使っていた。
もちろん自分が食べている時は砂糖の量は半分にしたのだけれど、この世界の場合は半自動的に出来上がるので、材料をセットし出来あがりを待つのでそのような調整は出来ない。
正確には、オーブンが動いてくれないのだが。
「さてと、次はクッキーだけれど……スノーボールクッキーにしてみようかな」
クッキーにもチョコレート(この世界のチョコレートは、棒状に木に生るらしい)を付けた物や、ブランデー(といっても、ワインの様な酒から作られている蒸留酒)で果実のジャムを溶かしたものを飾ったりと種類も多い。
明らかに制作者のお菓子や料理へのこだわりが感じられるゲームだったなと思いつつ、こねていく。
今回はバターの代わりに、オリーブオイルの様なものを使ってクッキーを作っていく。
先ほどライがくれた棘ココナッツの油を使ってもいいのだけれど、またの機会に回した。
ライは他にも棘ココナッツの缶詰などもくれたので、これからどう使おうかと楽しみだったりする。
そんなこんなで、小麦粉などを混ぜ合わせた物を丸い一口大のボール状にしていく。
それを鉄板に載せて焼き上げ、冷えてから粉雪が降り積もる様にり、粉砂糖をふりかけた。
白い雪だるまの一つの様なクッキーが出来上がる。
試しに口に含むと、口の中でほろほろと崩れ落ちて美味しい。
それらを依頼の量だけ袋に詰めて、残りは僕達が食べる事になった。
丁度そこでクロヴィスが帰ってきたので、
「クロヴィス、お菓子が出来たよ!」
そう言ってクロヴィスにクッキーを渡すと、僕の指ごとぱくんと咥えられて、舌でなめられて、
「美味しかった」
「ぼ、僕の指まで食べる事はないじゃないか!」
そう怒ると同時に、再びリリスが階段を下りてきて、それをタマが追いかけている。
おやつの匂いで来たのかな? と思うようなタイミングだけれどリリスが言うには偶然らしい。
そんな僕やクロヴィスを、ライが思う所があるらしく見ていて、そんなライをフィオレも何故か様子を伺うように見つめていたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
おやつを食べ終わってから、ライとタマが話があるからと部屋を出ていってしまった。
ふと先ほどの不安な話が僕によみがえってくるが、それは置いておくとして。
フィオレと僕、クロヴィスの三人でお菓子を楽しむ僕達。
そこでクロヴィスが紅茶のカップに、優雅な仕草で口を付けながら言った。
「明日は近くの森で戦闘だ」
「……や、やっぱり依頼を増やしてきたんだな!」
「なんだ、気付かなかったのか? 愚かだな、陽斗」
「絶対に逃げてやるんだからな!」
僕はクロヴィスを指さし、宣言した。
そんな僕をクロヴィスは薄く笑いながら、
「へぇ、この俺から逃げられると思っているのか?」
「う、ぐっ、絶対逃げてやる。僕の本気は凄いんだからな!」
「……本気で俺から逃げたら、陽斗、自分がどうなるのか分かっているのか?」
そこでクロヴィスは笑みを深くして僕を見る。
その瞳は妙にギラギラしていて、僕を見つめている。
僕は怖さを感じるが、こんな所で負けてたまるかと思って、
「こ、この家は渡さないからな!」
「……どうしてそうなる」
「だってクロヴィス、家がないじゃないか!」
「……いや、普通に色々な宿を転々としているだけだ。そもそもここに来るまではずっと色々な町で流れの冒険者をしていて、それは今もだが……一応、俺の屋敷はあるぞ? ここから遠いが」
「そうなんだ。でも何で宿を転々と?」
「女も男も俺の所に押し掛けてきて煩くて面倒だからだ」
言い切ったクロヴィスに僕は、絶望を感じた。
だってそんなうらやまけしからんイベントは僕には無かった。
しかも女の子達が自分からやってくるなんて。
僕は女装させられたのに!
この扱いの差はなんだと僕は、泣きそうになる。
そこでクロヴィスが深々と溜息をつき、
「なのにここまで俺がつくしてやっているというのに、陽斗はこうやって俺を邪険に扱うんだな」
「だ、だって、僕はこの家に引きこもって安全な依頼だけを受けていたいのに」
「……どう思う、フィオレ」
そこでそんな僕を指さしながら、クロヴィスはフィオレに話を振った。
フィオレはこくりと頷き、
「やはり陽斗には、魔法使いの心得について、教え込むべきだな」
そうフィオレが、ふっと冷たく微笑みながら、僕に告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
陽斗がフィオレに魔法使いとしての心得を教育されている頃。
「まさかこんな所にいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
「にゃー、可愛い子がいて、お魚をくれたので嫁に決めました」
「……そうですか。それで、あの方が……なのですか?」
「そうにゃ。かわいいにゃー。でも傍には危険な者がいるにゃー。でもあれがなんなのか僕にも分からないんだよね」
そこで語尾ににゃーを付けるのを止めて真剣な表情でタマは語り、けれどすぐに微笑み、
「まあ、今は大丈夫そうだからにゃー。他にも可愛い子がいたし、にゃー」
「……恋多き方ですね」
「魅力的な相手は追い回す主義なのです。というわけで、ローレライのライも頑張るにゃー」
短い会話を交わして去っていくタマを見送りながらライは、
「相変わらず自由な方だな。でも、巻き込まれというか巻き込み体質なんですよね、あの人」
そうライは一人呟いたのだった。




