僕は騙されてしまった!
ひらりと揺れるフリルのスカート。
後ろに結ばれた大きなリボンには繊細な刺繍が施されていたりする、そんなミニスカドレス。
「何でこれをまた着なくちゃいけないんだ」
クロヴィスにお似合いだと言われて着せられた女装服。
かといって他に女装用の服はない……という事になっているので、陽斗は着れないのだ。
実際には、主人公達が着ていた可愛い服が沢山あるのだ。
ぶっちゃけゲームの中の全種類を揃えたのである。
これもひとえにゲームの主人公と性格が、陽斗の好みにぴったり当てはまっていたからだ。
なのに、今はその情熱のせいで悶々と悩む羽目になっている。
少なくとも女装と言ってももっと露出度の低い服だってあるのだ。
だがそれをもしも持っていると言ったらどうなっただろう。
現に女装服が他にないか聞いた所、ないと言われた僕だけれど、ライに、
「陽斗は持っていないの? 女の子の服」
「も、持ってないよ。だって僕、そんな趣味ないもん!」
「そっか……。陽斗くらい可愛ければ持っているかと思ったけれど、そんなわけないんだ。じゃ諦めてそれを着なよ」
と、言われてしまったのだ。
でもここで女の子の服を出したらその時点でそっちの趣味があると言われてしまう。
そこでフィオレが僕に何か差し出してきた。
透明な水のような何か。
今の話だけでのどが渇いた僕は、それをごくりと飲み込み……僕は、記憶が途切れたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
はっとする。
僕は見知らぬ場所に立っていた。
すぐ傍でざわめきが聞こえるが、目の前には疲れたようなフィオレとライがいる。
あれ、どうしたんだろうと僕が思っていると、フィオレが、
「酔い覚ましの魔法は効いたみたいだな。はあ、まさか陽斗があんな風になるなんて……」
「え、え?」
「陽斗はお酒はこれからも飲まない方が良いと思う」
それだけ言ってそれ以上フィオレは何も言わない。
しかもライもひきつったように、
「僕の商売が上がったり、になるから止めて」
「え、えっと、あの僕……」
「歌も上手なのは驚いたけれど、あれは駄目だ、止めた方が良い」
「え、あの、僕一体何を」
「知らない方が良いよ」
そこまでしか言わない。
そこでクロヴィスが現れて僕に、
「陽斗……もう止めておけ。悪い事は言わないから。そうだな、明日は戦闘は止めてゆっくりしようか」
「本当に何があったんですか!?」
それにクロヴィスは無言でライとフィオレを見て、こくりと頷く。
意味深な行動を取られて、僕は更に戸惑う。
けれどそれ以上三人は僕に何も言わなかったのだった。
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そしてお泊りになった僕達だけれど、気付けば僕とフィオレとライの三人で寝る事になっていた。
クロヴィスは不満そうだけれど、仕方がない。
だって、僕達より背が高いので、同じベッドで眠れないのだ。
なので三人仲良く眠っていたわけだが、もちろんすぐに寝つけるわけではなく。
気付けば色々な雑談をし続ける羽目に。
そこまではいい。
「それで、好きな人の話に行こうよ!」
そうライが楽しそうに言いだしたのだった。
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まさかそんな話に行くとは思わなかった僕は、どうしようかと悩む。
今好きな子というか、ゲームや漫画や小説という、二次元のキャラが僕の嫁ですなんて、とてもではないが言えない。
けれど好みのキャラの性格だけ言う、というのも手だが……。
そう思っていると、真っ先にフィオレがすねたように、
「アンジェロなんて大嫌いだ」
「フィオレどうしたの? 昨日まではあんなだったのに」
「……言いたくない」
「うん、分かった。じゃあ聞かないよ」
と、僕は答えた。
だって無理やり聞くのも悪いからと思ったのだけれど、そこでフィオレが僕の方を向いて、機嫌が悪そうにじっと見ている。
それを見ながら僕は、
「もしかしてフィオレ、聞いて欲しいの?」
「……陽斗、一つ聞きたいけれど良い?」
「何かな」
「クロヴィスと陽斗はどこまで進んでいるんだ?」
その言葉に僕は目を瞬かせて、何を言われたのか暫く考えて……僕は顔を赤くした。
「す、進むも何もそんな関係じゃないよ!」
「つまり未だ、清い体だと。というか、クロヴィスが一方的に追い掛け回しているだけか」
「え、あの、何の話でしょう」
僕はよく分からずに聞き返す。
クロヴィスはこの世界に初めてであった相手であり、僕が引きこもろうとすると外に連れ出して、ハードな思いをさせるのだ。
それが何だか別の話にされている気がして、そこでライが、
「普通のパーティでそういった関係に僕は見えませんでしたが、フィオレには別のものに見えたのですか?」
「……そうだな。僕達がそうだからといって、陽斗達までそうとは限らないか。それで、ライには恋人は?」
「酒場で歌っている時に聞いてくれるお客さん全員ですが、何か?」
「……初恋の相手くらいいるだろう」
「いましたけれど、子持ちでしたしね。その後も何人か好きな人は出来たのですが、ほら、僕って女装すると見違えるように美しくなるので……それで、僕を抱く側に回りたいって皆言うんですよね。僕は抱く側なのに……」
それを聞いたフィオレが、何故か僕を守るように抱きしめた。
なんでだろうと思っているとライは笑って、
「冗談だよ、僕は抱かれる側。だからもう少し二人共安心していいよ。……あ、陽斗は分かってないか」
「分かって無いって何が?」
「それよりもフィオレがどうして怒っているのか、聞いてあげたほうがいいんじゃないかな?」
そこでライはフィオレに話を振る。
けれどそれにフィオレは、
「未経験の子供には刺激が強すぎるので話せない」
ライが僕を見てなるほどと頷いた。
なんで僕を見て頷くんだと僕は恨めしく思っていたけれど、次の日の朝食はライが作ってくれるとかそういった話をしていると気づけばうとうととしてしまい、僕はそのまま眠ってしまったのだった。
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次の日僕は、ライの作った焼きたてのパンやベーコン、玉子焼きとサラダを食べていた。
クロヴィスの分まで用意されていたが、クロヴィスは朝から機嫌が悪そうだった。
どうしたのだろうと僕が思っていると、
「今日は、森に行って戦闘だ。いいな」
「! 今日はなしって……」
「気が変わった。陽斗は甘やかすと怠けるから、今日は戦闘に行く。二人っきりでな」
二人っきりを強調されて僕は、なんでと思った。
「フィオレとライに手伝ってもらった方が……」
「俺は陽斗以外は守るつもりはない。今日は、二人にはタマの世話でもしてもらっていろ」
「せ、せめて杖は……」
「他にも妖精のついていない杖があるだろう。あの杖はタマはお気に入りのようだから、一緒にしておけばいい」
そんな感じでクロヴィスは勝手に決めてしまう。
横暴だと僕は言うと、クロヴィスは僕がお酒で酔っている間に依頼されたお菓子を届けたりした話などをしてから、
「そんなに大人数で行く場所じゃない。そこまであの森は危険ではないからな」
と言われてしまえば僕も言い返せず、そんなこんなで僕とクロヴィスの二人で食後、森に向かったのだった。
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二人が家からいなくなった後、フィオレは深く息を吐いた。
これからの聞きださなければならないと思うと面倒臭く感じていると、
「それで、フィオレは僕に何か聞きたいみたいだね。どんな疑問があるのかな? 魔法使いさん」
「お前は、魔物か」
「そうですね。でも混血ですから」
「混血?」
「ローレライと人の混血です。秘密にする約束を結んで、代わりに陽斗に“ローレライの涙”をあげたのです。ローレライは見かけも良いですし、歌だって素晴らしいですし、なので悪い人間や魔族もいますし面倒なんですよ」
「……分かった、秘密にしておく」
「そうして頂けると助かります。でないと殺さないといけなくなる場合もありますから。あ、“ローレライの涙”はいりますか?」
「貰わないと、殺されるのだろう? 確か秘密に関する話があったはず」
「そうです。身を守る為には仕方がありませんがね。では、どうぞ」
さらっと恐ろしい事を告げたライにフィオレは、“ローレライの涙”を受け取りながら、それを特に気にするわけでもなく別の事を聞く。
「それで、どうしてこの家に泊まり込んだ?」
「宿代を浮かせるためです」
「……」
「本当ですって。こう、僕って魅力的じゃないですか、見かけが。なので接客のアルバイトをするとお客さんが惚れちゃったりして、色々難しい問題があるので……。でも、歌姫だと男性のみなさんが崇めたり、牽制しあったりしてくれるので助かるんですよね。それでもこう、宿を提供しようとしたりと色々面倒なので、友人の家の方が良いと言った方が彼らは諦めてくれやすいんです」
「……本当の理由か?」
「信じてもらえなくて悲しいですね。でもまあ、陽斗が可愛いので気に入っている部分もあるのですが」
そう言っているライを見てフィオレは、
「信じてやる、一応はね。それに陽斗には何か秘密がありそうだし」
「あ、フィオレもそう思いますか? 何だか惹かれてしまうんですよね。これが恋なんでしょうか」
「違うと思う」
「ですよねー。さて、お昼はキッシュにしましょうか。陽斗が好きな材料を使って良いと言っていたので、豪勢に行きましょう」
「……僕も、昨日はごちそうしてもらって、泊めてまでもらったから何か作ろうかな」
そうフィオレが言って、菓子を作るのだが……その菓子があまりにも危険なものになりすぎて、フィオレはライに台所を追い出されたのだった。
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何時もの様に道を歩いていくけれど、会話が全くないと僕は思う。
もしかしてクロヴィスは、僕の存在を忘れているのではないだろうか。
つまりこれは逃げるチャンス。
そう思って歩む速度を僕は緩めていき、クロヴィスから1メートルくらい後ろに下がった所で、僕は後ろを向き全力でその場から逃走しようとした。
だがそれと同時に風を切る音がして、
「ふみゃ!」
縄が僕の体に絡みついてぐるぐる巻きになってしまう。
芋虫のようになってじたばたする僕に、人影が。
「また逃げようとしたな」
「な、何で逃げたって分かるんだ。それにロープだって……」
「陽斗が何処にいようと俺には分かるからな。逃げようとするなら捕まえて、そうだな……どうしてやろうか」
そこでクロヴィスが、いつもと違うようなぞっとするような威圧感のある笑みを浮かべる。
けれどそれは一瞬だったようだ。
クロヴィスは瞳を閉じて、ふうと大きく深呼吸をしてから、
「実は、今日は近くにある森で少し戦闘をするだけだと俺は陽斗に言ったな?」
それに僕は頷く。
頷いてから、何でわざわざそんな事を僕に言うんだろうと思って、そこで僕は気づいた。
ま・さ・か。
表情から僕の悪い予感を読みとったかのようなクロヴィスが意地悪そうな笑みを浮かべて、
「あれは“嘘”だ。今日はこの前よりは大変ではない戦闘をしようかと思っているんだ」
僕は芋虫のように這って逃げ出そうとする。
だがそこで僕はクロヴィスに担ぎあげられる。
「今回は特別に、道中の雑魚は適当に俺が倒してやる。優しいだろう?」
「嫌だぁああ、お家に帰るうぅうう」
そんな僕の悲鳴が木霊したのだった。
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そこはうっそうと茂った森だった。
明るい日差しを覆うがごとく、木の枝がのびて薄暗い。
どことなくじめじめとした暗い場所で、苔がそこかしこに生えており、同時に非常にカラフルな蛍光ピンクや水色、黄色のキノコや、暗闇で赤や青、緑に光るキノコが光り輝く胞子を飛ばしている。
そこを僕は担がれながら移動していた。
この縄からどうにか逃げ出したいと思うのに、意外にきつく縛られて逃げられない。
そうこうしている間にクロヴィスは道なき道を歩きはじめる。
そして戻る道が分からなくなった頃、クロヴィスがある場所までやってきた。
そこには灰色のクロヴィスの身長よりも大きい石板があり、けれどそれには何も記されていない。
石板のつるつるとした光沢のある表面には、緑色の苔とツタが生えて覆っている。
それを見ながら僕は嫌な予感に駆られる。
だってこのイベント、ゲームの中で見た事があるし。
確かこれを起動させると、地中から塔がせりあがってきて、新たな採取スポットになるのだ。
それだけならまだいいのだけれど、ゲームでは装備やレベルの関係で結構攻略が大変だったような……。
条件を幾つか検討した結果、僕は一時帰宅すべきだと判断した。
更に言うのであれば、仲間を呼ぶべきだと思った。
加えて、出来ればこんな戦闘なんてしたくないというのが僕の本音だった。
と、クロヴィスが笑いながら僕に告げた。
「さて、ここまで来ればもう、陽斗は自力でここから戻れないだろうから縄をほどいてやろう」
などと言いながら、クロヴィスは僕の縄を解いていく。
だがこの程度で僕が逃げ出さなくなるというわけではなく、
「くくく、縄をほどいてしまえばこちらの物だ。ここから空を飛んで、町に帰ってやる! ぐえっ」
そこで僕はクロヴィスに襟首を掴まれた。
しかも深々と溜息をつかれて、
「それで、他に何か言い残す事はないか?」
「え、えっと、僕は戻って家で出来る依頼を……」
「ぽちっとな」
そう言ってクロヴィスがすぐ傍の出っ張った石の様なものを踏みつける。
足元から白い光があふれて、それが一つの線となり石板に走り、白く魔法陣をその灰色の石板に描く。
同時に地響きがして、地面がぐらふらと揺れ、目の前に何重にも重ねられた塔が現れる。
何処からどう見ても、ゲーム内で苦戦したあの塔だ。
だから僕はせめて仲間を呼ぼうと、
「クロヴィス、他の人達呼んでこようよ、危険だよ!」
「俺がいるのに危険なんてあるわけないだろう」
クロヴィスが言いきるのを聞きながら、そういえばゲームではこの塔に入り込む時にクロヴィスは用事があって一緒に行かなかった気がする。
なにかそこにヒントがないだろうかと僕は考えるけれど、
「やっぱり危険としか思えないよ。戻ろうよ!」
「そう言って逃げようとしたって無駄だ、行くぞ!」
逃げようとする僕の襟首をつかみ、クロヴィスはその塔に入ってしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんな中に入っていく僕達を、彼は見ていた。
「一体どういった風の吹き回しか……だが、警戒するには越した事はない」
そう赤い瞳に黒髪の男は、そう呟いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
塔の様なその、地面に埋められて遺跡に僕達は入り込んだ。
入ると同時に、左右の壁のくぼみに青白い炎がともる。
その冷たい色が余計中の不気味さを煽る。
しかも歳月を感じさせるような塔であったのに、今歩いている通路の両方の壁と天井は先ほどの石板の様につるつるとしている。
そんな不気味なこの塔ではあるけれど、後々色々な事実が判明する。
ゲームの通りでは、だが。
けれど僕が今現在歩いているこの塔の内部は、ゲーム内とほぼ同じ。
ただ、ここにはフィオレに出会う前に来るはずだったのだ。
そして本来一緒にいなかったクロヴィスが僕の傍にいる。
この差異はなんだろう、ただ異世界だからという理由だけなのだろうか。
そこでひんやりとした風が僕の頬を薙ぐ。
小さな水音が聞こえる。
この塔の中、中央には噴水があり、そこには緑色のよく分からない植物が傍に飢えて会ったりする。
その中央からこの塔の天井までが吹き抜けとなっており、一番上の所には温室のように硝子の様な物がはめ込まれている。
ちなみにあの場所にはガラスの凸レンズのような魔法がかかっており、ここの場所で空を飛ぶ人間などを焼き殺す恐ろしい魔法である。
そしてそれを解除することで、ドラゴンに似た怪物がボスとして現れるのである。
赤い体をした空飛ぶ怪物。
手に入る物は確か、“炎を秘めし琥珀”。
その名の通り、黄金色の琥珀のようなものの中で、炎が揺れている貴重なものだ。
確かあの海に近い街にある灯台の光が盗まれてしまい、その光のもととなる貴重な“炎を秘めし琥珀”をさがすイベントで、確か町の人に聞いてこの塔にやってきたはず。
けれどこの塔はもともとその赤いドラゴンのように変わった古の魔法使いが引きこもるために建造されたもので、その内部で全ての生活が事足りるようになっていたのだ。
そんな古の魔法使いはある日、その身をドラゴンのような怪物に変えてしまう。
魔族に近づくことで、長く生きて、“深淵の魔族”とともに生きるのを誓ったという。
だが人間がそんな“深淵の魔族”になれるはずはなく、狂った怪物になってしまったという。
話を戻すが、この上の階にいくには、その階ごとのボスを倒して最上階まで登らないといけない。
その最上階には祭壇が有り、それを壊すとそのドラゴンのような生物が、どこからともなく姿を表すはずなのだ。
さて、ここまで説明をしたのはいいのだが、実は、ある素敵なアイテムが有る。
空を飛んで移動できないので、円形のその階毎の廊下は見えるのにいけない状態なのだが、
「“のびーる梯子 ”その名の通り、どこまでも高く伸びる梯子! これを登っていけばあっという間に最上階まで行けるよ! もちろん梯子の足が地面についているので、飛びながらこの梯子に触れていれば一瞬で最上階に……ってあああ!」
そこで、“のびーる梯子 ”はクロヴィスの剣戟によって細切れにされてしまった。
なんでと僕が思っていると、
「……陽斗、少しは学習しろ」
「で、でもこうすれば楽に最上階まで行ける裏技なのに!」
「そうやってすぐ怠けて戦闘から逃げようとする、ほら、行くぞ。まずはこの階からだ」
「い、嫌だぁああ」
けれど引きずり込まれて僕は、その部屋に連れて来られてしまう。
1階は水に関する部屋だった気がする。
それぞれの階にはコンセプトが有り、けれどそれが侵入者を阻むために、恐ろしい攻撃を仕掛けてきたはずなのだ。
僕は慌てて魔法を使うための杖を取り出す。
妖精のついていないもので、大地や植物に関する土の属性が強い杖だ。
緑色の魔力石がいくつも輝くその杖を持ちながら、敵を警戒する。
けれど周りにあるのは、空の水槽ばかり。
確かゲーム内では熱帯魚のような色鮮やかな魚が泳ぐ、不思議な方をした水槽がいっぱいあって、その魚達にも攻撃された記憶がある。
「クロヴィス、水槽ばっかりだけれど……」
「大方、魚の世話をしようと思って買い揃えたけれど、途中で飽きたのだろう」
「……え?」
「ただこの先の部屋には魔力の気配があるから、そこで陽斗は手合わせをしてもらえ」
そう言われた僕は首を傾げる。
なんで戦闘ではなく手合わせなのだろうと。
その意味は、次の部屋に僕ひとりでクロヴィスに放り込まれて、ようやく気づいたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
突然一人で部屋に放り込まれた僕は慌てて振り返った。
「クロヴィス!?」
「あー、少しは自分一人で頑張ってみろ」
ドアの向こう側から、クロヴィスの声が聞こえる。
何でと僕は、涙目になる。
けれど、そこで背後からぴちゃっと音がする。
恐る恐る振り返る僕は見た。
そこにはひときわ大きい水槽があって、羽の生えた魚が一匹水槽を泳いでいる。
僕の背の半分くらいの大きさであるその魚。
ゲームとほとんど同じ。
人工的に作りあげた魚の魔物の様な生物、だったはず。
その魚は僕の方を見て、水から飛び跳ね、
「この私に勝利すれば、道は開かれん!」
「ああ、あの時と同じ台詞……というか、いきなり戦闘ですか!?」
すぐ傍を氷の球が飛んでいくのを見て僕は走りだす。
何で水の中に生きている魚が氷を発射するのか。
冷凍食品ですか!? と思ったりしつつ僕は魔法を選択する。
連続攻撃の魔法。
氷の礫を炎で破壊し、あの本体の魚に攻撃を仕掛けるにはきっとこれが良い。
そう思って僕はその呪文を選択する。
「“永遠なる紅き炎”」
呟くと同時に赤い光が杖から地面に落ちて、光り輝く魔法陣が浮かび上がる。
そこっから僕が去ると、円陣から炎が浮かび上がって魚に向かっていく。
けれど一撃目は、魚の氷に行く手を阻まれる。
だが一つくらい防がれた所で、僕には何の問題もなかった。
走りながら氷をよけつつ、地面をトントンと叩く。
そこにそこに円陣を広がされて、炎の魔法を飛ばす。
常に移動しながら攻撃が出来る利点がこの魔法にはある。
とりあえず何とか上手くやっていかないと、というか、クロヴィスは僕だけで戦わせるし……。
何が大丈夫だ、覚えていろ! と思いながら僕は頑張ってみる。
連続の炎の攻撃は、魚に数個命中する。
それだけで弱っているようだ。
この攻撃力なら後、二発程度当てればよさそうだけれどと僕が思っているとそこで、
「おのれ~、これでどうだ!」
更に大量の氷が降り注ぐ。
追いつめられると攻撃が激しくなるのはよくあるパターンだけれど、こんな所までゲームと同じじゃなくてもいいじゃないですか! と僕は涙ながらに思った。
その間にも次々と、時に氷を避けるために魔法攻撃を繰り出しながら、攻撃を加えていく。
やがて、その氷の隙間を縫うように魚に炎が辺り、ぽちゃんと水槽の中に魚が落ちて、代わりにころんと天井から鍵が降ってくる。
これを使えば上の階にいけるのだ。
それを拾いながら僕は頷き、
「よし、帰ろう。確かこれ、出口の鍵とも同じだったし、クロヴィスが来る前に……」
「俺が来る前に、なんだって?」
気付けば背後にクロヴィスが立っていて、そんなクロヴィスに僕はむっとしたように、振り返り、
「酷いじゃないか! 僕を一人で置き去りにするなんて!」
「だがそうしないと陽斗はすぐ怠けるだろう?」
「だからって一人はないだろう!」
「一人でどうにか出来るだけの実力が陽斗にはあると俺は思っていたが? 実際に出来ただろう?」
そう言われてしまえば僕は呻くことしか出来なくて、小さくむ~と呻いた。
そこで僕はクロヴィスに抱きしめられて頭を撫ぜられる。
突然の行動に驚くけれど、そうされてしまうと僕は何だかホワンとしてしまう。
気持ちが良いというかとろんとしてくるというか、不思議な感じだ。
小さくクロヴィスが笑うのが聞こえて、僕はそこで意識が覚醒する。
「は、放せ、というか子供扱いするな!」
「はは、そうだな。それで、次の階に行くぞ」
そう僕は笑われて、言われてしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
鍵で開けたその階段は、木のような材質で作られており、手すりには所々にドラゴンのようなものが描かれている。
それを見ながら僕は、
「ここにドラゴンみたいのがいるから、こんな風に模様がついているのかな?」
「いや、この塔の主の趣味だ」
クロヴィスが僕の口に出した疑問に、さらっと答える。
というか、今のクロヴィスの発言からすると、
「クロヴィス、知り合いなの? この塔を作った人って」
試しに僕は聞いてみる。
けれど僕は知っている、この塔は古の魔法使いが作ったものだと。
そして、魔物などが住まうこの場所を作り上げた時点で……。
しかもクロヴィスは、そんな相手と知り合いのようなのである。
ゲームにはなかった設定も含めて、このクロヴィスはどういった存在なのだろうと僕が思っていると、
「ここの塔の主が魔物を飼っているから、その知人である俺も“深淵の魔族”と知り合いかもと、俺を警戒しているのか?」
「! そ、そういうわけでは……」
「俺に嘘をつくと、キスするぞ?」
僕は動けなくなった。
ここではい、クロヴィスが“深淵の魔族”と関係しているんじゃないかと思っていました、なんて言えない。
でもそういえばあの古城での記憶はないけれど、“深淵の魔族”と接触したけれど、戦闘を本当にしたのだろうか。
僕の中で疑惑が膨れ上がっていく。
でもそれならば、クロヴィスが僕を気にかけているのは当然で、だって、ゲームと同じならば……。
そこで僕はクロヴィスにキスされてしまう。
いや、確かに嘘をつくとキスをすると言われていたけれど、これはない。
しかも長い。
顎を掴まれていたので逃げられない僕は、クロヴィスにされるままに暫くキスをして、
「ごちそうさま。それで、“深淵の魔族”と知り合いか、と言われたが、俺は彼らには非常――っに嫌われているから、知り合いといえば知り合いだが、手を組むことはないな」
「あ、はい。そうなのですか……」
「そしてこの塔だが、実は三年ほど前に作られたものなんだ」
クロヴィスの口から出てきた言葉に僕は目を瞬かせて、
「三十年とか三百年とかの間違いではなく?」
「ははは、陽斗は夢見がちだな。それだったらもっとぼろぼろだろうな」
「……というか、三年前って……」
こんな巨大な建造物を、こんな辺鄙な場所に作って一体その人は何をしたかったんだろうと思う。
しかも変な仕掛けを用意して外から出現するようにしているし。
僕ががっかりしているのを見て、クロヴィスが更に楽しそうに続けた。
「顔見知りの相手が、ここに引きこもったんだが、そろそろ起こしてやろうかと思って。丁度この辺りで変なものを見つけたから確認をする依頼があったから、久しぶりに顔でも見ようかと思ってここに来たが……中の作りも中途半端だし、何をやっているんだか」
「あの空の水槽とか? もしかして作り途中?」
「ああ、元々は恋人と一緒にここに移住する予定だったらしいんだが、振られてしまって、世間ではそれが原因で“狂って”行方不明になったと言われているが……ここに引きこもったというわけだ」
そんな格好悪い設定知らないよと僕は思った。
というか引きこもったって……。
「な、なんでクロヴィスは、知り合いが引きこもって三年も放置なのに、僕は引きこもらせないようにするんだ!」
「……弄った方が、俺が面白いからだな」
その時のクロヴィスの楽しそうな意地悪な笑みに僕は、絶望的な気持ちになったのだった。




