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あ、あれ?

 そんなこんなで、陽斗達が先に行ったのを見送ってから、


「それで、何を俺に聞きたい」


 機嫌悪そうに聞くクロヴィスにウィルワードが苦笑する。

 そしてちらりとクロヴィスがアンジェロとフェンリル、タマを見ると、次の瞬間、三人はその表情のまま凍りついた様に動かなくなる。


「三人の時間を一時的に止めた。この場所は人もほとんどいないが、一応は他の人間からは聞こえないように結界も張った」

「……僕と二人きり、ですか」


 それを聞いてクロヴィスが、ウィルワードのやや後ろの方を見て、


「いや、特別に三人にしてやる。……出てこい」


 その言葉と共にふっと人影が現れる。

 そこにいたのは、以前、陽斗が古城でだったあの魔族であり、そして、


「! 久しぶり、ウィーゼ。元気にして……」

「元気でしたよ、ウィルワード。本当は貴方が目覚める前に全部終わらせる予定でしたが、こんな事になってしまいました」


 うっそりと笑う“深淵の魔族”であるウィーゼにそこで、ウィルワードは気づいたらしかった。


「ウィーゼ。そのまとわりついているそれは?」

「ええ、そこのクロヴィスを“殺す”ために少し無理をしています。おかげでそこにいる方にも、初めてお会いした時は本性を隠しているクロヴィスよりも危険視されてしまいました」


 くすくすと病んだように笑うウィーゼにウィルワードが何処か深刻そうに、


「少しって、これは……」

「大丈夫です。この程度は平気です。ただ、本当はここまで無理をする予定ではなかったのですが、ね。目的の人物をそこにいる、ソレに奪われてしまいましたから」


 睨みつけるウィーゼだが、クロヴィスはそれを見て鼻で笑った。


「お前達の切り札が、“陽斗”だったのだろう? 本来召喚される場所もお前達の前だったはずなのに、残念だったな」


 そう告げられて憎々しげにクロヴィスを睨みつけるウィーゼ。

 そこでそんなウィーゼをぎゅっとウィルワードが抱きしめた。


「あまり僕のウィーゼを苛めないでくれるかな。こう見えても繊細なんだから」

「“殺す”と言っている相手に優しくする義理はない。それで、そんなどうでもいい恨み言を延々と聞かせるために俺をひきとめているのか? ……不愉快だ」


 冷たい瞳でウィーゼとウィルワードを見るクロヴィス。

 ウィーゼがその冷たい視線にびくっと震えるのを見ながら、その視線から庇うようにウィルワードはウィーゼを強く抱きしめながら、


「今すぐにでもあの、陽斗を追いかけたいと、そういう事ですか?」

「そうだ。俺は今、陽斗と一緒にいるのが“楽しい”」

「そうですか、ふむ。なるほど……それでウィーゼ。ウィーゼ達があの子を呼んだんですよね? 人にしては“異常”であり、異世界からきたモノ特有の気配を持つあの子を」


 それにウィルワードの腕の中でウィーゼが頷くのを確認してからウィルワードは、


「あの子がいる限り、この世界は存続させると?」

「……陽斗がこの世界を“気に入っている”ようだから、もう少し様子を見てやろうと思っただけだ」

「なるほど。いずれは壊すつもりだと」

「……この世界は、俺は、“気に入らない”から当然だ」

「そうか……それでこの世界をいずれ壊すつもりなのに、僕を起こしたのかい?」

「……しばらくは、壊す予定はないからな」

「壊す予定の間は、僕は眠りにつかせたままで、すぐに壊さずに、僕が眠りについている間ずっと存続させたままだったと」

「何が言いたい」


 明らかに機嫌の悪そうなクロヴィスの声に、ウィルワードはウィーゼに向き直り、


「その“陽斗”を呼び出すのにウィーゼ達は三年かかったのかな?」

「いえ、この方法を見出したのはつい最近です」

「なるほど。でもこの世界を“救う”だけの力がある人物を呼ぶのを、クロヴィスは全く気付かずに召喚させてくれるのかな?」


 ウィーゼは、はっとしたようにウィルワードを見上げた。

 ウィルワードはとても楽しそうで、クロヴィスは対照的に苦虫をかみつぶしたような表情だ。 

 そんなクロヴィスにウィルワードは、


「僕はクロヴィスの中に“まだ”未練に近い執着がこの世界にあると、信じている」

「……信じるのは自由だ。だが、俺はこの世界に愛着の欠片もない」

「……ここまでにしておいた方が良さそうだね。これ以上は、クロヴィスの逆鱗に触れてしまいそうだし、今回の温泉の異変をあの子達が解決してしまいかねないしね」


 冗談めかして言うウィルワードに、そこでウィーゼが、


「この異変は、温泉の源泉に、我々魔族の道具を落としてしまったことが原因です。何でも収納できる魔法の袋なのですが……」

「それはいい事を聞いた。どのあたりにあるのか教えてもらえるかな?」


 ウィーゼから聞き出そうとするウィルワードだけれど、そこでクロヴィスが、


「場所は分かっている。そしてすぐに向かいたい。……俺が魔族を見逃したと噂を立てられたくないから、今すぐここからいなくなれ」

「……言われずとも、お前の顔を見たくないから消えます」


 そう告げて、一度ウィルワードを見上げてからウィーゼはその場から立ち去る。

 そんなウィーゼを見送りながら、ウィルワードが、


「これは、復縁出来ますかね?」

「だろうな。お前が眠ったあの場所によくあの魔族は来ているのを見たからな」

「クロヴィスは、よくご存じだと思うけれど」

「……行くぞ、結界と時間を解く」


 ウィルワードのその問いかけにクロヴィスは、面白くなさそうにそう答えたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"






 やってきたのは、温泉の源泉の一つであるちょっと、いや、結構大きい湖の一角に隠れる様にしてある泉だった。

 ぽこぽことお湯が湧いていて、そこでは湯気が立っている。

 よく見るとそこから石の水路を経て温泉街に向かうようだった。


 ただお湯の湧きでる量が少ないのか、ほとんど流れていかない。

 そしてここの源泉に、確か僕の持っているような道具袋があるはずだけれどと思って覗くけれど……。


「何もない感じだね」

「確かに何かあるようには見えないな」


 僕の呟きにフィオレが答える。

 そしてリリスにも聞くが、特に“何か”は見えはしない。けれど、


「陽斗に貰ったその道具はここを示しているんだよね。でも、何となく魔力を感じるんだよね、ここ」


 そう言ってリリスがお湯に近づくけれど、それに僕は慌てて、


「リリス、お湯が熱いから火傷するよ」

「うぎゅ、じゃあもう少し離れてる」


 そう言って僕の肩に乗るリリス。

 とはいうものの、確かに魔力を感じるけれど、袋は見えない。

 試しに傍に転がっていた木の棒でその泉をかき回してみるけれど、何も引っかからない。


 ゲームの時はどうだったっけと僕は真剣に思いだそうとする。

 そう、この袋は異空間と繋がっているのでそちらにお湯が流れていくとともに、その袋事態がそのままで触れられないようになっていたはずなのだ。

 確か、ここに存在しながらも異なる場所に袋が存在しているという、そのお湯が出ている面上の一部のみが袋と繋がっていたはずだ。


 そしてそれを引き寄せるには確か、便利アイテムの一つ、


「“屋内釣り針”。この釣り針を竿に付けて引くと何処からともなく魚が転送されて連れるというアイテム。確かこの釣り針の先が、時空に作用するので袋の紐に引っ掛かるはず……ライ?」


 そこで僕の方をじっと見つめるライに気付いた。

 何でだろうと僕は思っていると、


「“時間・空間”に作用する魔法は、この世界でも使える者がほとんどいない魔法だ。そういった道具が作れるのも、その力の影響によるもの……だよね」


 楽しそうにライが告げるので僕はあっと気付いた。

 だってこれは確か主人公の特殊な“血”にまつわる力を使ったわけで、僕は関係無くて、えーとえーと。


「あ、これ、僕が便利だから購入したんだけれど、そんなにすごいアイテムなのかな?」

「うん、凄いアイテムだね。そしてそこに時空と関係する袋があるって、どうして陽斗には分かったのかな?」


 ライのその言葉に僕ははわわと慌てる。

 確かイベントだと、見ても分からないねとなって色々聞き込みしてヒントを経て……ちょっとな負けただけでこんな風に僕がピンチに!

  もしも僕が異世界から来たとばれたらどうなってしまうんだろう。


 そもそも僕の居場所がこの世界にある時点で、何かがおかしい。

 まるで、“誰か”が僕の居場所をつくって、僕をここに……。

 ……。

 ……。

 ……。


「あ、あれ、僕、今何を考えていたんだっけ」

「……陽斗、その釣り針の話だよ」


 ライにいわれて、あれ、何で僕こんな物を持っているんだろうと焦る。

 急に記憶が消えてしまった気がするけれど、そんなわけがないと僕は思って、


「え、あ、あれ、これだしたんだっけ。そうそう、これを使えば温泉がおかしくなっている元の袋を取り出せるんだけれど……ライもフィオレもリリスも、真剣な顔で僕を見てどうしたの?」


 何でこんな風に僕は見られているんだろうと思っていると、そこでフィオレが溜息をついて、


「ライが陽斗を試していたんだ」

「あ、ああ僕がぼうっとしていたから……からかうなんて酷いよ」

「……ごめんごめん。それよりも早く袋を釣り上げてよ」

「うん……こうやって糸を垂らして、こうして、それぇえええええ」


 僕は一気に竿を持ち上げる。

 同時に何かが引っ掛かるてごたえを感じるとともに、茶色の袋が引っ張りあげられたけれど、そのまま勢い余って森の中に飛んで行ってしまう。


「勢い良く引き上げすぎだ!」

「う、うう、フィオレ、ごめん」

「僕に謝るんじゃ無くて早く探しに行こう、アンジェロ達に拾われる前に!」


 そう言われた僕は、フィオレ達と一緒にその袋の落ちた方向に向かう。

 そこで僕達はある人物に出会ったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 僕達が向かった先で、誰かが何かを拾い上げたのを見た。

 こんな森の中で出会うのはきっと猟師か何かだろう、そう僕は考えていたのだけれど、


「陽斗、戦闘の準備だ」

「へ?」


 フィオレに言われて僕は魔の抜けた声を上げた。

 フィオレがそんな僕を凄く冷たい目で見て、


「あそこにいるのは“深淵の魔族”だ」

「……本当だ、そんな気配がする」

「やはり陽斗にはもっと戦闘をさせないといけないようだな。僕も手伝ってやろう」

「! そんなのクロヴィスだけで十分だよ!」

「ははは、遠慮するな」


 そうフィオレはいいながら、ちらりとライの方を見る。

 僕は一瞬、ライがローレライという魔物との混血だとばれたのかなと思うけれど、それ以上はフィオレは何も言わない。

 だからただの思いすごしかと僕は思ってから、とりあえず杖を構えつつ、魔法の選択画面を表示させる。


 森の中なので氷系の魔法が良いかなと僕は大まかに検討を付けた所で、その拾ったらしい人物が僕達の方を見た。

 その顔には見覚えがあって、


「あれ、あの魔族、古城であったかも」

「……覚えていて下さったのは光栄ですね」


 僕のその言葉に、彼はそううっそりと笑いながら告げる。

 あの古城の中は薄暗かったのでそこまで分からなかったが、何処か美形とはいえ“蝕まれた”風なものを感じる。

 陽の光の中でそれを余計に僕は感じさせられた。と、


「つい落としてしまった袋でしたが、まさかこんな場所で回収できるとは思いませんでした。どのようにこれを手に入れたのですか?」


 言葉はこの前と違い穏やかだが、威圧感を感じる。

 それを聞きながら僕が、


「僕が持っていた、素敵なアイテムでゲットしました」

「へぇ、最近作りあげたか購入したと。人間達も中々面白い魔法を手に入れているようですね」

「え、いえ、もともとここに来る前に購入したもので……」


 とりあえず僕は過去の詮索をされたくない。

 だって僕はこの世界の“過去”に存在しないので、この町で購入したというならフィオレ達が知っているかもしれないのだからそう言うしかなかった。

 そもそも作り方を知っていたとしても、どうして知っているのかを聞かれるのも危険だ。


 どうやら僕の持っている魔道具も含めて、この世界では“異常”に高度な物の様だったから。

 確かにゲームの中ではそういった発言はあったけれどそこまで貴重な者の様に感じられなかったし、今だってそうだ。

 だから気をつけないとと思って、僕はそう告げると、目の前の魔族は言葉を失ったようだった。


「ここに来る前に購入した?」

「は、はい……」

「つまり、ここに、この町にクロヴィスに連れて来られる前に持っていたと?」

「は、はい」


 何処か言い回しがおかしい気がしたけれど僕は答えながら彼を警戒しているとそこで、


「まさか、あいつが強化したと? 一体何のために?」

「陽斗に手を出すな」


 驚いた様に疑問符を浮かべる魔族だが、その背後で剣が煌めき、クロヴィスの声が聞こえる。

 その剣を魔族は避けるように飛び上がった魔族は、そこで僕に向かって袋を投げた。


「それは貴方の自由にして構いません」

「え、あの……」


 僕が何かをいう前に、それを放り投げてその魔族は消えてしまう。

 とりあえずその袋を受け取りはするけれど、僕はもうすでに一個、同じものを持っている。

 二個あってどうしようと僕が思っているとそこで、フィオレとライ、リリスに僕は抱きつかれた。


「ぐえっ」

「とりあえず魔族は退散したけれど、理由は分からないけれど袋を手に入れたから僕達の勝ちだ! アンジェロを見返せる」

「よくやった陽斗、これでフェンリルの奴を見返せるよ」

「僕は、タマに仕返しだ―」


 そうやって抱きついてくる全員にぼくは、く、苦しい……と小さく呟き、そんな僕を見てクロヴィスが面白そうに笑っているのを見る。

 その間に、ウィルワードも含めた他の二人がようやく表れたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 “深淵の魔族”ウィーゼは、陽斗達から離れてこっそり様子を見ていた。

 そのクロヴィスの楽しそうな様子と、陽斗の様子も見てウィーゼは、一人小さく呟く。


「我々が思っているよりも、クロヴィスは陽斗をとても気に入って大切にしているのかもしれない。……気に入りませんが」


 そして、その件も含めて報告だと、思いながら陽斗の袋を見やる。

 これで、彼の行動を随時監視できる。

 何せあれは魔族の作ったものなのだ。

 だから特別な波長を示し、何処に向かうのかを把握できる。


「いずれは、上手くこちら側に来て頂かないと、ね」


 それも出来るだけ早く、何も知らない内に。

 そう、それこそウィーゼが力に飲まれるより早い方が良い。

 朦朧とした頭で、憎々しげにクロヴィスを見てから、ウィーゼはその場を後にしたのだった。 





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 というわけで僕達が勝利して、温泉は再び元の様に温泉街に行きわたりそして。


「温泉が流れる様にしてくれた皆様には、何処でも無料です!」

「「「やったー!(にゃーん)」」」


 といったような経緯があって、結局はそこまで有名どころでは無い(そこは予約でいっぱいだったのもある)温泉を、貸し切りにさせてもらえる事になった。

 しかも屋外にあって広々としていて、空には青空が広がっている。

 なので大喜びで僕達はその温泉に向かったわけだけれど、


 フィオレとライがあれな事になったのは良いとして。

 そんな僕は、目の前で小さくなっているので背中を流してもらうのは難しいといった話になったリリスが、猫かきで温泉を泳いでいるタマの頭の上に乗って楽しんでいる。

 実にこの二人というか二匹は健全である。

 そして更に健全なのは……僕だ。


「自分で体を洗って温泉に入っちゃったんだよね」


 そしてクロヴィスが入ってくるのが一番遅かったので、ぎりぎり僕は間にあったのだ。

 もう温泉に入っちゃったから、背中はながさなくていいよ~、と僕はクロヴィスににこやかに手を振った。が、


「陽斗、後で覚えていろよ?」


 微笑んだクロヴィスの表情はとても怖かったです。

 なので僕はそれを忘れようと、黄色いあひるさんの玩具を二つほど浮かべて遊んでいる。

 ただしこのあひるさんはそれっぽくみえるが、足の部分が二つほどドリルの様になっている。


 実はこの世界にいる黄色いあひるさんの様な魔物は足がドリル状になっており、それで魚などを銛もりの様に突き刺しで捕まえているらしい。

 相変わらずの不思議な世界が広がっているが、こういったお湯に浮かべている限りは足の部分があまり見えないので問題ない。

 そうやって僕が遊びながら傍で聞こえる声も含めてすべてから現実逃避していると、


「まったく、折角この俺が背中を流してやろうと思ったのに」

「でも、ウィルワードさんもここに来ればよかったのにね」


 話を変える意味でその名前を出すとクロヴィスは嫌な顔をして、


「あいつの事だ。ここで入浴剤の新商品を試すぞ」

「……そうなんだ。……もしや今、その新製品を試している最中だったり?」

「俺達は何も気づかなかったし、なにもみない事にした。……そして早めに切り上げるぞ」

「うん、そうだね」


 暗に巻き込まれない内に逃げるぞというクロヴィスに僕は頷く。

 そこでクロヴィスが僕の隣に入ってくる。

 こうしてみると背の高さや筋肉の付き具合が全然違う。


 何でこんなに違うんだろうと僕が心の中で嘆きながら、敵を見るかのようにじっとクロヴィスの体を見てむむむと唸っていると、


「こんな体になりたいのか? 陽斗」

「それはもちろん!」


 こんなり理想的な体になれるんだったら、と僕が思っているとそこで楽しそうなクロヴィスの声が降ってくる。


「明日から戦闘は二倍に増やしてかまわないと、そういう事だな?」

「え?」

「こんな風になりたいんだろう?」

「……そ、そうすれば、そんな風な、いや、それ以上にムキムキマッチョになれると?」


 それは僕にとってとても魅力的に思えた。

 そこで僕の顎をクロヴィスが指で掴み、上をくいっと向かせてそのままキスした。

 いや、今の経緯でどうして!? と僕が思っている内に唇が放されて、そして僕はクロヴィスに告げられた。


「とりあえず、ムキムキにならないよう呪いをかけておいたから、安心しろ」

「な、なんで……」

「俺が守りたくなるのが、これ位のサイズだから仕方がないな」


 それはクロヴィスの都合じゃないかと僕は思ったけれど、でも今の僕を守りたいと言っているというのが分かって複雑な気持ちになってしまう。

 なので小さく呻いてそのまま少し僕はお湯に沈んだ所で、もう耐えきれないと言って、フィオレとライが温泉に乱入してきたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 それから乱入してきたフィオレとライに僕は盾にされてしまった。

 これからどう料理してやろうかというかのように笑うアンジェロとフェンリルに、僕まで向かい合わされる形になってしまう。

 そんな状況で涙目になっているとそこでクロヴィスが、


「陽斗を巻き込むな」


 と、今までで一番凍りついてしまいそうな冷たい声で言われてしまった。

 助け船を出された僕も怖かったのだけれど、すぐに腕をひっぱられてクロヴィスの横に連れて行かれてしまった。

 そしてフィオレ達は、近づいていくアンジェロ達に、結局は温泉で隣につかる権利を渡していた。


 一緒に並んで黙ってつかっている彼ら。

 何処となくフィオレとライは幸せそうである。

 フィオレの場合はこのまま仲直りして、アンジェロが連れて帰ってくれないかな……謎生物を作り出されても困るし、そう僕が思っているとそこで、


「陽斗~、こんな花を見つけたよ~」


 そう言って、三つのピンク色の花と、一つは種になって枯れているらしい、計4つの花のついたそれをタマ達が持ってくる。

 確かに綺麗な花だなと思って僕が受け取るとそこでフィオレが、


「よつばの花……陽斗、それ、ここの温泉街にしか咲いていない貴重な花で、購入するだけでも大変な額になるぞ」

「ええ!」

「むしろ弁償で許してもらえるかどうか……ああ、だからここは貸し切りなのか。この花を育てるために」


 どうしてここが貸し切りで来たのかという理由は判明した。

 だが、この花は魔法の材料になるので僕自身も幾つも持っているというか、ゲーム内では一杯取れた。

 確かにそこそこ値段は高かった気がするけれど、と思いながらその花を見る。


 茎の部分がぶちっと切れている。

 ど、どうしようと僕は思いながら、ふと僕は思いだした。


「そ、そうだ、植物の生長を促す魔法薬が……」

「それを使っても成長するには数日かかるし、その植物に合わなければ最悪の場合枯れる」


 フィオレのその言葉に、そ、そうなんだと思いながら手に持っている花を見て、そこで気付く。

 この花は“種”を持っている。

 ならばこれを成長させれば、というかフィオレの力を使えばこの花は、茎と葉だけが残っているのだからまた大きく花を咲かせるんじゃないかと思って、そこで僕は気づく。


 このフィオレの能力を知るのは、もっと後の出来事。

 つまり空の上に浮かぶ謎の種族の都市にいかなければならなくて、でも、そこに行くには複雑な条件が必要で、でも時間が少しでも惜しかったのだ。

 だってそれは、仲間がある魔物に特別な“呪い”にかかってしまい、それを回復させるのに必要な道具があって、その時にフィオレの力を知るのだ。


 そしてそのイベントはまだ起きていない。

 だからそんなフィオレの能力は僕は知らないのである。

 どうしよう、どうやってフィオレに手伝ってもらおうと僕は考えて……思いついた。


「フィオレ、あの食べ物を変な生物にしたみたいに植物を元気にさせたりって出来ない?」

「……やったことはないから知らない」


 それは嘘だ。

 フィオレは自分自身の“力”を知っている。

 それを僕はゲーム内で知っている。


 でもフィオレは乗り気でないみたいだ。

 なんとか使ってくれないかなと僕が思っているとそこで、ばしゃんと温泉の水がその摘み取られた花にかかる。


「……温泉の影響で咲く花なら温泉をかければ咲くだろう」


 つまらなそうにクロヴィスがそう告げて、同時に先ほどの茎から花が咲く。

 4つ全部花が咲いているものだ。

 驚いたようにフィオレはクロヴィスを見ていて、反対にアンジェロは少し警戒するようにクロヴィスを見ている。


 また、ライとフェンリルはなにか思うところがあるのか探るようにこちらを見ている。

 けれどそんな四人の視線など気に求めていないらしいクロヴィスは、少しすねたように、


「真っ先に俺を頼らないんだな」

「……そうだね、クロヴィスに頼ればよかったね。その、ありがとう」 


 そう答えて、僕は微笑むと、クロヴィスは仕方がないなというかのように笑う。

 何だかんだ言って、戦闘に連れだそうとしたりするけれど、クロヴィスは僕に対して優しくて“甘い”。

 そしてリリスとタマが、ごめん陽斗と抱きついてきたり、この花は僕がこっそりお持ち帰りしてもいいことになったりした。


 いずれ“呪い”にかかった時、それを解除するのに必要な魔法薬の材料なので、偶然とはいえ冷や汗を掻いたりもしたけれど手に入ってよかったように思う。

 そんなこんなで温泉街を後にしようとした僕達が、巨大な透明な怪物というウィルワードの新作入浴剤と戦う羽目になったりして散々な目に合うのはそれからすぐ後の事だった。



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