13話 吉田が語る
佐藤から、正式にお呼び出しの連絡をもらった。律儀に若干長めの文章を送ってくるあたり、長女力がある。佐藤は一人っ子だけど。
タスクの後に、二人きりの、教養学部C棟、四階、メディアコースの部屋。
「里咲とは、どういう結末を迎えたんですか?」
直球だった。佐藤らしい、目を見た会話。気持ちがいい。
「≪タカユキ≫の話を聞かせてくれるなら、話す」
対して俺は、卑怯だ。佐藤の中の、多分一番の、核になっているであろう、存在に。都合よく、触れようとするのだから。
「……それは、話すつもりでした。だから、里咲との話を、ちゃんと」
佐藤の言葉を、待つことはしなかった。里咲との、プラトニックで、薄っぺらい、空虚な話を、俺は自ら、テンポよく。
「日曜日の講義の後、初めて、セックスしようって言ったんだ」
綺麗で、輝かしくて、もう目も向けられないような、あの恋の話を、始めた。
日曜日の集中講義の後、俺から里咲に、
「セックスしよう」
と告げた。初めての俺からのアプローチだった。別に欲求が抑えきれなかったからとか、そういう不純なことじゃなくて。ただ単に、もうそういうことがあってもいい時期だ、と思っただけ。
「私は吉田くんとセックスしないよ。……終わりにしよう、吉田くん」
冷たい風が、俺と里咲の間を吹き抜けていった。里咲が、この危なっかしい、ぐらついた関係を、≪終わりにしよう≫と、言ったのだ。
「里咲は、それでいいの?」
告白してきたのは里咲だった。言われるままに付き合ってから、佐藤への情に気づいた。
「だって吉田くんの矢印はいつもさとるみだもん。……私が勝てるわけないじゃん」
里咲は最後まで、笑顔だった。里咲はその言葉を最後に、俺の隣を離れて行った。それ以降、俺は里咲の姿を、見ていない。
佐藤はうつむいていた。相槌も打たず、ただ、俺のつまらない話を、聞いていた。佐藤が息を吸う音が、よく聞こえた。二人きりの密室とは、なかなか恐ろしい、鳥肌の立つ状況だと知った。
「……吉田さん、何を聞いても怒らないですか?」
佐藤はいつになく、自信なさげだった。いつもの疑わし気な目が、いつにもまして、疑わしいと訴えているよう。俺はその双眸を見るたびに、胸が締め付けられる思いだった。この瞳の奥に隠された闇を、いったい何人の友達が紐解こうとしただろうか。
「それは聞いてみないとわかんないわ」
佐藤の心に刺さった棘を、誰が、取り除こうとしただろう。
「≪タカユキ≫はね、」
佐藤が吐く言葉には、全部辛くて、重い、意味があるんだってことを。今日俺は、思い知る。




