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佐藤と吉田  作者: 澪標零
人たらし、吉田。
10/16

10話 吉田は思う

 佐藤が日曜日の集中講義を休んだ。風邪を引いたらしい。あの雨の中、あいつは生身で突っ立っていたから。そりゃそうだ。

 佐藤のいない授業は、どこかつまらない。里咲が居ようと、田口が居ようと、佐藤の代わりには、ならない。佐藤は佐藤だ。

「佐藤、今日休みだって」

「珍しいね、大丈夫かな」

社交辞令的な会話が、隣の列から聞こえてきた。反吐が出る。佐藤はそういう会話が嫌いだ。仲良くもないくせに、心配しているふりをして、自己満足にひたる女が、嫌いなのだそうだ。俺は顔と色気がそろっていれば、女なんてなんでもいいと思うけど。

「吉田くん」

里咲が、隣にやってきた。普段は女友達と一緒に授業を受けるくせに、こういうときばかり。里咲は適度に自信を持てる人間だし、計算高い人間でもある。

「さとるみに何か言ったの?」

里咲は、どう思うだろう。佐藤が俺に、≪好きだ≫と言ったと知ったら。里咲は俺を、非難するのだろうか。

「言っては、ないかな」

佐藤にだけは、この里咲との珍妙な関係を悟られてはならないと思っている。付き合っている、という事実を知られているのはいい。ただ実情が、こんなにも、危うい綱渡りみたいな状態だなんて知れたら。俺は佐藤に、何か変な情を抱いてしまうかもしれない。

「ただ、佐藤に告白された」

佐藤が、恋愛か。想像もつかない。里咲は驚きつつも、すぐに平静を装って、そう、とだけ返事をした。

 佐藤と叫びあった道を通った。夕暮れ時で、空がきれいなオレンジだった。そういえば佐藤は、派手な色の服を着ない。赤とか青は見たことあるけど、オレンジとか、緑って、見たことがないかもしれない。基本黒か白かグレーか。まるで佐藤の世界みたい。

「……佐藤、大丈夫かな」

いつか、崩れてしまう気がしている。いつか、倒れてしまう気がしている。佐藤がもし、≪助けて≫と言っているなら、それは聞き逃しちゃいけないと思う。佐藤は自分の意思表示をしない奴だ。だから滅多にないその意思表示をくみ取ってやらないと、本当に、佐藤は消えてしまう、と。そう思うのだ。

「どこかの、だれかが、いっていた」

ふと思い出した歌を、口ずさむ。ああ、これは佐藤が好きだと言っていた、ロックバンドの。名前、なんだっけ。

「愛せないんじゃない、愛していないんだ」

≪世界は僕を中心に反時計回りで回っている≫という、訳が分からない曲。ギターソロがうるさくて最初は気に入らなかったけど、ボーカルの声がすごく冷静で、中毒性の高い曲。そうだ、この曲は、≪佐渡島飛び立ち隊≫の、≪世界は僕を中心に反時計回りで回っている≫。

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