無駄に長い過去篇にろくなものは無い
それが今回得た教訓です。今後に活かさなきゃ・・・。
ラムドレーとリムードが手配を受けたその日の夜。元居たアジトの後始末と夜間のバイトのため今この場に居ないダニーと、相変わらず顔を見せないもう一人の組員を除くの六道組の三人は、閑散とした夜の街の一角に来ていた。そこには街灯も僅かしかなく、ギリギリ目が見える程度の薄闇が辺りを包んでいる。
「それで、新しいアジトと言うのが、ここですか」
「ああ」
そんな暗がりの中で発せられたラムドレーの問いに、イットクが答える。その二人の前には、人気の無い廃ビルが建っていた。
「ここらへんはこのビルみたいな建物ぐらいしかないから、獄犬以外のやつらの目ならごまかせる。例えばあの長い舌のガキとかな」
ラムドレーが周囲を見渡せば、成る程確かに目の前の廃ビルのような、喧騒とは無縁の建造物しか見えない。どれもこれもが窓が割れたり壁に罅が入ったりしている。他にも何やらよく分からない植物がびっしりと生い茂っている。
「成る程、確かに簡単には見つからないような気がします。・・・でも、逆に獄犬の目はごまかせないんですか?」
イットクはその問いに頷いた。
「あぁ。奴らは捜査に使う情報に限り、死者の家に金を払って集めることが天番によって許されてんだ。たまにプライバシーの侵害なんじゃないかっていう声も上がるがな」
その言葉に、ラムドレーは目を丸くする。
「・・・ということは、死者の家の持っている情報は、私達のアジトを見つけることを可能にするレベルのものなんですか!?」
「あぁ。名前や心象はもちろん、今居る正確な場所や正確な犯罪歴なんかも、死者の家は情報として持ってる」
イットクの言葉を受け、ラムドレーは愕然とした。しかし、倒れそうになる体を気合で支え、イットクにこう言った。
「じゃ、じゃあ、獄犬は、私たちが手配を受けた瞬間から、ここに駆けつけてきている可能性もあるということですよね!?」
狼狽してそう問うてくるラムドレーに対し、しかしイットクは首を横に振った。
「いや、多分それは無ぇ。なんせ死界において手配されてる罪人ってのは、現世と比べりゃ滅茶苦茶少ないまでも、それでもかなりの数居るからな。それに加えて今の獄犬は人手不足らしいから、最近手配された奴には中々首が回らねぇんじゃねぇか。まぁ、だからあんたとあんたの娘を追い始めるのは、しばらく後だろ」
その言葉に、ラムドレーは死界の治安を心配しながらも、胸を撫で下ろした。
だが、そんなラムドレーに対し、イットクは少し表情を硬くしてこう続けた。
「でもまぁ用心するに越したことは無い。獄犬が真っ先にあんた達を追う可能性だって、0じゃない。・・・それに、獄犬だけがあんた達や俺達を追う訳じゃないしな」
ラムドレーは撫で下ろした胸がざわつくのを感じた。
「・・・と、言いますと?」
不安を心の中で肥らせながらラムドレーが問えば、イットクはこう返した。
「・・・俺達みたいな汚いことで飯を食ってる奴らには、いつの時代だって敵が多いってこった。例えば、俺達の稼ぎを狙ってる他の転生者の連中がそうだ。・・・正直、そんな敵を少しでも減らすためってのも、無限大蛇と同盟結ぶ理由の一つだしな。他にもあのガキの居るらしい組織も敵だ。その組織が俺達を狙う理由は分からんがな」
成る程、だから獄犬には直ぐにばれるとは言え、このような他の転生者の人間たちの目に付かない場所をアジトに選んだのか。そういえば前回のアジトも廃ビルの影に隠れてるバラック小屋だったしな。と、ラムドレーは思った。
だが、その時ラムドレーはふとあることに思い当たり、それをイットクに言った。
「・・・そう言えば、イットクさん。死者の家は、私達罪人の正確な犯罪歴を全て管理してるんですよね?」
イットクが頷くのを見て、ラムドレーは二の句を継ぐ。
「だったら、私たち親子が、犯していない罪で手配されるというのは、・・・ありえないことでは無いでしょうか?」
正確な犯罪歴を情報として保持するのならば、そもそも今回のような冤罪が発生することなどありえないのではないか。もっとも、この濡れ衣が無くとも、ラムドレーとリムードはそれぞれ別の罪状で追われることにはなるだろうが。そう考えてラムドレーが問えば、イットクは再び頷いて、こう言った。
「あぁ。本来ならこんなことは絶対起こらねぇ筈だ。・・・本当に、裏で何が起こってるんだろうな」
疑問に塗れた沈黙が、辺りを包んだ。
廃ビルがアジトとなったその日に、廃ビルの中の整理は行われた。とは言っても、一階はあまりに散らかっていたので、やっとこさ整理にこぎつけたのは比較的物が少ない二階と三階のみであった。イットク曰く、二階をアジトに、三階をラムドレー達の生活スペースにするとのこと。ラムドレーとリムードも、その意見に賛同した。
生活に必要な最低限の物を、ラムドレー達が今まで住んでいた家から運び終えた時には、既に時計は夜の1時を指していた。全行程が終わり、律儀にも今まで引っ越しを手伝っていたイットクがアジトから出て行った後、二人は持ち運ぶ為に分解された自分達のベッドを組み立てていた。ちなみに室内は周囲に張り付いた植物のせいで真っ暗なので、家から持ってきたランプで光源を確保している。
「・・・イットクさんに感謝しなきゃな。あの人の助けが無ければ今頃私たちは死んでいたし、何より今日中に引っ越しを完了することは出来なかった」
「引っ越しっていうより夜逃げだけどね」
ラムドレーの言葉にそう答えながら、リムードが完成した土台に布団を乗せる。
「まぁでも、確かにあの人は良い人だよ。犯罪組織の頭とは思えないぐらい」
続けてリムードが言ったその言葉に、ラムドレーが笑った。
「お前が大人を褒めるの、何だか久しぶりに聞いた気がするよ」
リムードはこう返した。
「仕方ないよ。だってこの世界には、悪人しか居ないもん。私も含めてね」
「・・・そうか」
娘が吐いた自虐的な言葉に、気の利いた台詞を返すことが出来ず、一言そう言うとラムドレーは再び黙々と作業を続けた。黙って手を動かしたおかげか、ベッドはそれから十秒と少しで完成した。
「・・・なぁ、リムード」
着替えを済ませて完成したベッドに入ってから、ラムドレーは既に目を瞑っているリムードに言った。
「何?」
目を閉じたまま、リムードは父の言葉の続きを待つ。
「・・・イットクさんは、何者なんだろうな」
ラムドレーの言葉を聞き、少し黙った後、リムードは言った。
「六道組のリーダー、じゃないの?」
「・・・いや、そうなんだろうけど」
そこで言葉を切り、ラムドレーはイットクが今まで言ったことを、思い出していた。
『少しゴタゴタが有った、・・・正確には、有ったらしくてな』
『いや、もしかしたら覚えてねぇだけかもしれねぇけどよ』
(私の思い違いかもしれないけど・・・・・・イットクさんは、まるで昔のことを覚えていないようだった)
そこまで考えてから、再び言葉を紡ごうとしたラムドレーであったが、横から娘の寝息が聞こえてきたため、言おうとしたことを呑みこみ、自分も目を閉じた。
次の日の六時、イットクは膨らんだ風呂敷を持って、廃ビルの二階に来ていた。
ラムドレーが恐る恐る聞く。
「い、イットクさん?そのまんまるになった布らしきものは何ですか?」
「マイバックだ」
「カルチャーショック!!」
そんなやり取りをしてから、イットクは風呂敷を床に広げた。すると中から、食べ物と、何やら植物の種と思わしき黒い粒が入ったビニール袋と、『獄犬第六部隊隊長サイモン監修!植物成長薬液』というラベルの張られた小さなボトル型の物体が現れた。
ラムドレーが視線で説明を求めれば、イットクが口を開く。
「食べ物の説明は省くぞ。言う必要は無ぇだろうしな。んで、この黒い粒は毒草の種だ」
「ど、毒草の!?そんなものどこに売ってるんですか!?」
その言葉に対し、イットクはこう返した。
「獄番のある街に居る非合法の売人だよ。あぁ、言ってなかったか。俺はあの街に住んでるんだ。割と良い街だぞ。店も多いしな。治安もここ最近を除いて結構良かったし」
「いや、まぁ町の快適度は別に良いんですけど・・・。・・・でも、なんで毒草を?この植物成長薬液ってのと何か関係が?」
ラムドレーの問いにイットクが頷いた。
「あぁ。この毒草を一気に成長させて、アジトの廃ビルを覆うんだ。今生えてるよく分からん植物に紛れ込ませてな。そうすりゃあその毒草を使って、この廃ビルに来る奴らを返り討ちに出来る。例えば、アンタの爪に縫って、その爪でもって相手を傷付けたりしてな」
その言葉に対し、ラムドレーが少し表情を硬くする。それを見て何かを察したのか、イットクが言った。
「安心しろ。この毒草に含まれてんのは麻痺毒だ。致命的なもんじゃねぇ。アンタはこれで痺れた相手を適当に気絶でもさせて、俺に引き渡してくれりゃ良い。そうすりゃ、俺が適当に処理しとく。だから、アンタは手を汚さずに済む」
「・・・すいません」
自分の思いを見透かされ、ラムドレーは頭を下げた。頭を下げながらラムドレーは、もう六道組を手を切ったところで、真っ当な人生を送ることは出来ないのにも関わらず、まだ人を殺すことに躊躇いのある自分への不甲斐なさと、イットクへの申し訳なさを感じていた。
「謝ることは無ぇさ」
そこで言葉を区切り、イットクは植物成長薬液を持つと、こんなことを言い始めた。
「・・・ちなみにこのサイモンってのは、俺の住む町で花屋を営んでんだ。獄犬でたんまり稼いでんのに、なんで花屋なんてやってんのか理解に苦しむぜ。そう思わねぇか?」
その明るい言葉が辺りに漂った暗い空気を拭う為に放たれたものであるとラムドレーは感じた。故に、彼も内に膨らんだ暗い気持ちを押し殺して言った。
「・・・まぁ、趣味でやってるんじゃないでしょうか」
「だったらこんな監修とか言って売名する必要も無ぇだろうがよ。まぁ、多分売名したところであんまり客は来ねぇと思うがな。なんせあいつの店では見るからにヤクザ者の兄ちゃんが働いてるからよ」
獄犬の隊長が営んでる花屋でノコノコ勤めるようなマフィアがいるとは思えなかったので、ラムドレーはその話をイットクの冗談であると判断した。その上で、イットクが冗談まで言って暗くなった自分を元気づけようとしていることが、とてもありがたかった。故に彼は、冗談に気付かないふりをして、笑って相槌を打った。
それからしばらくしてから、二人はアジトに付いた窓を、それに絡まった植物のツタなどを取り除きながら何とかこじ開け、その下に広がる壁をほじくり穴を開け種を植えて、それから薬液でその種を濡らした。すると、すぐに効果は表れ、種が物凄い勢いで発芽したかと思うと、そこから緑色の草が一気に吹き出し、下に向かって伸びていった。その途中で草は何回も枝分かれして、あっという間に壁を覆った。
「思ってたよりスゲェ効果だな」
「ですね」
植物の一部始終を見ながら、二人はそんな会話を交えた後、再び壁に種を植えにかかった。
それから五分も経たないうちに、リムードが起きてきた。しかしその頃には既に裏口の植物のカーテンを用いたカモフラージュやら、二階の窓に繁茂した植物を取り除く作業やらは完了しており、既に彼女の仕事は無かった。故に、アジトでの朝食を済ませた後、三人はこれからのことについて話し合っていた。
「ダニーは今日もスカウトだ。取りあえず前からスカウトしてた四人のうち、なんでも二人はスカウトに応じたらしい。んで、そのスカウトに応じなかった方の二人のうち、少し迷っているようだった一人を今日改めてスカウトするみてぇだ」
「あれ、ということはもう一人は・・・」
「スカウトの場になってたファミレスん中で、『俺は自分で稼いだDPを組織のために分けたくねぇ』とかなんとか大声で抜かしたんだってよ。何でも髪を緑に染めた若い奴らしくて、料理頼んで食うだけ食って、金も払わずに帰っちまったみてぇだ。『髪を染めてる奴にロクな奴は居ねぇ』って、電話の向こうでダニーの奴、心底怒ってたぜ」
「あ、あははは。そうですか・・・」(ダニーさんもあのオレンジ髪は地毛じゃなくて染めたものだと思うんだけど・・・あれかな、自虐かな)
今この場に居ないダニーに対し、その様な感想をラムドレーは抱いた。
そんなラムドレーの横で、リムードが言う。
「ところでボス。レンブやクララが居なくなった今、この組織の人数はパパと私とボスとダニーとあと一人だけです。どうしますか」
その言葉を聞き、ラムドレーの瞳が揺れる。
(・・・そうだよな。レンブさんとクララさんは、私を逃がすために殺されてしまった。・・・今頃二人とも、獄牢の中だろうか)
彼の胸には、二人に対する罪悪感が渦巻いていた。何故なら、ラムドレーがもっとしっかりしていれば、あの時二人は死なずに済んだかもしれないからである。
(・・・強くならなくちゃな。もう、戻れないんだ。だから、リムードやイットクさんを守るためにも、私も覚悟を決めなくちゃ)
その覚悟が罪を犯す覚悟、人を殺す覚悟でなければ、あるいは彼の今後の人生は変わっていたかもしれない。否、多分変わらなかっただろう。もう既に、彼は身に覚えのない手配により、それによって芋づる式に暴かれるであろう彼自身の罪により、戻れないところまで来ていたから。
「どうするかってのは、今後の活動のことか」
そんなラムドレーの決意など知る由も無く吐かれたイットクの言葉に対し、リムードが頷く。それを見てイットクは続けた。
「・・・同盟が組まれるまで活動はしねぇ。正直、戦力が減りすぎた。今やこの組織はあんた達が入ってくる前の人数に戻っちまってるし、しかもレンブっていう・・・こんな言い方はしたくねぇが、レンブっていう優秀な戦闘員を失っちまった。このままの状態で俺達が効率良くDPを集めるのは、かなり難しいぜ」
しばらく、室内を沈黙が包んだ。誰も何も言わず、コチコチという時計の針が動く音だけが響く。そんな音の中で、次にしじまを破ったのは、ラムドレーであった。
「・・・じゃあ、その間私たちはどうやって生活をしていくのでしょうか。・・・イットクさんの娘さんも込みで・・・」
イットクは少し考えた後、こう言った。
「・・・ダニーとハイドに金を工面してもらう」
「「ハイド?」」
ラムドレーとリムードは同時に声を上げた。二人にとって、『ハイド』と言う単語など初耳だ。その単語がイットクの口ぶりからして、人名であることだけは何となく分かった。
ラムドレーが問う。
「・・・あの、ハイドと言うのは一体、どちら様で?」
イットクが答えた。
「六道組のもう一人の組員の名前だ。ダニーよりも高いDPが貰える職に就いてる。だから、組織の稼ぎが乏しい時は、ダニーのアルバイトの給料とそいつの収入からちょっと分けてもらってるんだよ」
その言葉に、リムードが少し苦笑して言った。
「・・・こんなこと言うのもあれですけど・・・ちょっと情けないですね」
イットクが頭を掻きながら言った。
「・・・俺も最初はそう言ったんだが、なんかあいつらの方から勧めてきたんだ。だから、厚意を無下にすんのは失礼だと思って・・・」
モニョモニョと言葉の続きを濁すイットクに、ラムドレーは何となく親近感を覚えた。
それから、瞬く間に時は過ぎていった。当初は心配していた転生者やあの少女の居るらしき組織による襲撃も全くなく、イットクの言っていた通り獄犬による緊急捜査も無く、血生臭い仕事も無く、廃ビルの中には少しばかりの平穏が漂っていた。皮肉なことに、この期間がラムドレーの今までの死人としての人生の中で、最も心の安らぐ時間であった。
そして、無限大蛇との同盟が組まれる前日がやってきた。とは言ってもアジト内はそこまで慌ただしくは無い。普段通り7時にリムードが起きてきてから、既に一時間が経った現在も、比較的廃ビルの二階の空間はまったりしている。
「ではボス。俺は明日に向けて、スカウトの最終段階に行ってきます」
そんなまったり空間の中で、しかしダニーはきびきびとイットクに言う。ダニーはイットクに対してはいつも真面目に振る舞う。それがこの長い六道組での生活の中で、ラムドレーが分かったことである。
「おう、頼んだ。んで、最終段階ってどんなことするんだ?」
対してモロにまったり空間に侵食されているといった様子でイットクがそう問えば、ダニーはこう答えた。
「アジトの場所を教えたり、無限大蛇との同盟について前々から言ってたことより更に詳しく教えたり、ですね。まぁ、教える相手も今日は二人だけなんで、すぐ済むと思います」
ダニー曰く、今日は前々からスカウトに応じていた人間二人を相手にいろいろ教え、明日は前はスカウトに応じていなかったが、時が経つにつれ応じるようになった人間一人に今日と同じことをするらしい。少なくとも、ラムドレーはそう聞いていた。
「なるほど。んじゃあお前に任せとけば安心だな」
「ぼ、ボスにそう言ってもらえるなんて・・・!光栄です!」
感極まった様子でダニーがそう言うのを見ながら、リムードがラムドレーに耳打ちした。
「・・・何かダニーってボスに対してオーバーじゃない?見てて少し気持ち悪いんだけど」
「コラ、そういうことは思っても口に出しちゃいけません」
そんな親子の会話など気にする素振りも見せず、ダニーはイットクに言った。
「じゃあ俺はそろそろ行きます」
「おう、気をつけてな」
「ぼ、ボスにそう言ってm」
「良いから早く行きやがれ!」
「了解です!」
そんなやり取りの後、ダニーは勢いよく廃ビルの階段を駆け下りていった。その足音を聞きながら、リムードがラムドレーに耳打ちする。
「・・・何かd」
「シッ!!」
先程のダニーのように同じことを繰り返しそうな娘の言葉を、そこでラムドレーは途切れさせた。
そんなやり取りを見せる親子をよそに、イットクは風呂敷を漁り始めた。煙草や財布などがそこから床に転がり落ちる。そして、中身を全部出した後、イットクは突然血相を変え、叫んだ。
「な、無い!俺の弁当が無い!!」
「弁当?それって、娘さんがいつも作ってくれるって仰ってたあの?」
ラムドレーの問いに、イットクが頷く。実は彼もいつぞやのラムドレーと同じように、娘によって作ってもらった弁当をいつも昼食としていた。ちなみにラムドレーの方はアジトが自宅となったので、もうリムードに弁当を作ってもらう必要は無くなっており、彼自身少し寂しく感じているのであった。
「仕方ねぇ!ちょっくら家まで行って取ってくる!!」
言うが早いか、イットクもダニーに続く形で階段を駆け下りていった。
その足音が遠くなってから、リムードがふいにラムドレーに言った。
「・・・何だか、少し六道組に慣れてきた気がするよ。これが、良いことなのか悪いことなのか、分かんないけど」
その娘の言葉に対し、ラムドレーは少し黙った後に、言った。
「それは悪いことだよ、リムード。・・・でも、パパもお前と同じ気持ちだ」
そこで言葉を切ってから、ラムドレーはイットクが置いて行った煙草に目を移した。
「・・・でも、何だか前より寂しいな。パパは」
それから更に一時間ほど経ってから、リムードが何とはなしに周りを見て、少し考える素振りを見せてから、言った。
「・・・何かさ、結構アジトの中散らかってきたよね」
周囲を見れば、成る程確かに部屋の隅などに埃が溜まっているのが確認できる。ラムドレーは頷いた。
「確かになぁ。・・・掃除機でもかけるか」
「分かった」
リムードは頷いて、三階の自分達の生活スペースに置いてある掃除機を取りに、階段を上がった。
ラムドレーも掃除の邪魔になってはいけないと思い、風呂敷に先程イットクが出したものを包んで、三階に持って上がった。
三階に着くと、真っ先にゴミの溜まった屑箱が目に入った。見れば、リムードもその屑箱に注目している。
「・・・パパ。今日って何曜日だっけ」
屑箱を凝視しながらそんなことを聞く娘に対し、ラムドレーは答えた。
「今日は木曜日だね。ゴミ出し日だ」
「あぁ、じゃあ丁度良かった。私、このゴミ捨ててくるよ」
そう言うと、リムードは部屋の中から透明なゴミ袋を取り出し、その中にゴミを詰め始めた。そして詰め終わった後、リムードは言った。
「それじゃあ掃除機はパパに任せても良い?」
「分かった。やっとく」
ラムドレーの了解を受け、リムードはパンパンに膨らんだゴミ袋を背負って階段を下りていった。遠くなる娘の背中を見送ってから、ラムドレーは風呂敷を床に置き、掃除機を持って二階へ降りた。
「ふーんふふふんふふんふんふーんふふふんふふんふんふーん」
二階で鼻歌交じりに掃除機を掛けながら、ラムドレーは考えていた。
(・・・こんな平穏が、このままずっと続いてくれたら良いのに)
ガシャアアアン!!
ラムドレーのその願いは、一階にある開かない自動ドアのガラスと共に、坊主頭の男によって粉々に砕かれた。
とりあえずこの長ったらしい回想だけは終わらせなきゃという使命感に走らされたため、昨日勉強もほどほどに書き上げました。今日からまたテスト勉強に戻ります。良い子の皆は執筆よりも勉強を優先しなきゃ駄目だぞ。糞袋お兄さんとの約束だ。




