13kmや
あと三、四話くらい投稿したら、更新速度が鈍くなります。
ダイゴがダイナミックに侵入している頃、アッシュは路地裏にて裏口を探していた。
「・・・それらしき扉は見つからねぇな」
文字通り草の根を分けて探すアッシュであったが、探せども探せども、裏口は見つからない。
「・・・」
しかし、この程度の骨折りは、それなりに獄犬としての仕事をこなしているアッシュにとっては、取るに足りないものであるので、彼女は黙々と作業を続ける。
「・・・後ろ側か?」
廃ビルの横側を一通り探してから、アッシュはそう呟くと、場所を廃ビルの後ろ側へと変えた。
「・・・・・・薄暗いな」
ビルの後ろへ回って、アッシュは先ず始めにそう思った。そこは、廃ビルと何らかの屋根付き建造物に挟まれた場所で、向かいのその屋根により日の光が遮られ、先程居た路地よりも一層暗くなっていた。
また、立地的にも先程の路地より町から離れている為に、町のただでさえ僅かな生活音が一層入ってこず、故に殆ど無音であった。
音もなく光も僅かなその場所は、まだ太陽のある時間帯にも関わらず、まるで草木も眠る丑三つ時の様であった。
「・・・怪しいな」
アッシュはそう呟いて、裏口を探そうと青々とした壁に触れた。その時だった。
「・・・あ?」
アッシュの掌が、冷くて硬い何かに触れた。
「・・・こいつは」
すぐにその冷たいものをまさぐるアッシュ。すると、それがドアノブだということが分かった。
そのドアノブを回してみれば、その向こうにある扉がキィッと開く。
「・・・カモフラージュか」
見れば、扉はカーテンの様な形状の草やら蔦やらの緑によって隠されていた。他の無造作な植物達と比べて、明らかに人工的なその緑のカーテンが、ここに何者かが隠れていることを示していた。
「・・・・・・・・・下らねぇ延命器具だな」
そう吐き捨てて、アッシュはその植物のベールを引き剥がした。
「さて、掃除の時間だ」
アッシュがそう呟き、廃ビルに入ろうとした、その時。
風切り音と共に、アッシュのこめかみ目掛けて、何かが飛んできた。
「・・・」
しかし、弾丸の様な速さで飛んできたその何かを、アッシュは見向きもせずに腕だけを動かし、その手の人差し指と中指で挟んで止めた。
「・・・どうやら、屑箱からこぼれ落ちた屑が居たみてえだな」
そう言ってアッシュは手の中の何かを路地裏に投げた。
音もなく泥濘に落ちたそれは、三日月の様な形状で切り離された『人の爪』であった。
「中々やるじゃん、アンタ」
その時、路地裏の闇の中から、そんな少女の声が頭を出した。そして、それに続くように闇の中から、金髪で緑眼の身長170cmくらいの少女が現れた。
その外見的特徴。そして、泥濘に落ちている爪。それら全てが彼女が"リムード"だと如実に物語っていた。
「で?アンタ誰?」
金髪を僅かな日光で煌めかせながら、少女、リムードが問う。
「獄犬だ。テメェとテメェの親父を地獄にブチ込みに来た。素直に降伏すりゃ命までは取らねぇ」
闇の中で銀髪を輝かせながら、アッシュが言う。
銀光を携えた少女に、金光を携えた少女はニッコリ笑って言う。
「それに対するアンサーはコイツだよ」
刹那、稲妻のような速さでリムードはアッシュを指差し、その爪先を射出した。
「人を指差すなんてマナーがなってねぇんじゃねぇか?」
アッシュは顔面に飛来する白く小さな三日月を避けながら、その灰色の瞳を冷たく光らせた。
「うわ、中すげえ暗いな」
ビルの中に入って一言、ダイゴはそう言った。ビルの窓という窓は植物によって覆われている為、建物の中には日光が入って来ない。それが故の闇であった。
「・・・見たところ、何か色んなモンが落ちてんな」
廃ビルがまだ活動の場であった頃の名残だろうか。暗がりの中に、いくつかの影が確認できた。
「・・・うし、んじゃあラムドレー達を探すか」
ダイゴは今しがた作った入り口から入ってくる光を便りに、建物内をうろうろする。うろうろついでに電気も探す。
「電気電気ーっと。お、あった」
うろついて数十秒、ダイゴは非常階段の近くにある電気のスイッチを発見した。
それを意気揚々と押そうとするダイゴだったが、ピタリと伸びた手が止まる。
(待てよ・・・今ここで電気を点けたら、俺が入ってきたってバレるんじゃね?)
心配無用。何故ならお前の侵入方法からして既にバレてるから。
だが、ダイゴはそんな今更な事についてウンウンと悩んだ末、
「・・・でも、暗いと見えないし怖いしで色々困るしな。よし、点けようイグニッション」
というよく分からない掛け声と共にスイッチを押した。
しかし、電気は点かなかった。
「・・・てか、良く考えたら自動ドア開かなかったんだから電気通ってる筈無ぇや」
そんな今更な事に気付いたダイゴは、再び悩む。
「じゃあどうやって光源を確保しよ?窓ガラス全部割るか?いや、でもそんな尾崎豊みたいなことしてもな・・・」
自動ドア蹴り壊した奴が何を今更。しかし、当のダイゴは真剣に葛藤を始めた。そして、十秒後。
「・・・仕方ねぇ。いっちょ割ってみるか」
とダイゴは言い、ガラスに近付いていった。
しかし、今まさにガラスを割ろうとダイゴがした瞬間、部屋がボゥッと明るくなった。
「あれ?電気通ってたのか?」
そんなことを抜かすダイゴであったが、
「・・・あのぉ、どちら様で」
突然耳に入ってきた自分以外の第三者の声に、直ぐにその体は強張った。
「・・・」
グギギギという音が鳴りそうな程固くなった首をゆっくり回すダイゴ。その視線の先には、
「・・・どうかされましたか?」
ランプを片手に持った身長189cmの金髪の大男が立っていた。その口には金の髭。その眼窩には緑の目玉。馬鹿のダイゴでも、その人物が誰で有るのかは直ぐに理解できた。
「・・・アンタ、ラムドレーだな」
そう言うダイゴの声は震えていた。無理も無い。何せ目の前に居るのは殺人犯なのだから。
しかし、当のラムドレーは首を傾げて問う。
「確かに私がラムドレーですが・・・そう言う貴方は?」
「お、俺は獄犬のダイゴだ!アンタを逮捕しに来た!神妙にお縄につけ!」
ダイゴが緊張しまくった状態で言う。
「ああ、獄犬のダイゴさんですか。成る程成るほ・・・」
そこまで言ってからラムドレーは目を剥いた。
「へ、獄犬ォォォォォォォォ!!!!!!!?いかん、逃げなきゃ!!」
ラムドレーはそう叫ぶと、ランプを置いてダイゴに背を向けて走り出した。
「え、ちょ!待て!待ちやがれ!!」
そんなラムドレーに一瞬ポカンとなるダイゴだったが、直ぐに我に帰り、心象により脚力を強化しその後を追いかける。
が、室内が暗い上にラムドレーがダイゴの予想以上に早く、加えて障害物の存在もあった為に、ダイゴは中々追い付けない。
「ちくしょお!こうなりゃ奥の手だ!」
ダイゴはそう言うと、走りながら吠えた。
《漢大武》
瞬間、ダイゴの筋力が更に活性化し、その力の束が脚に集まり爆発する。力の爆発はダイゴを瞬間的に加速させ、その体を弾丸のようにラムドレー目掛けて飛び向かわせた。
「おっしゃ!捕まえたぜ!!」
ダイゴは勝利を確信し、グングンと迫るラムドレーに手を伸ばす。が、その時。
「のわぁっ!?」
ラムドレーが床にあった缶のようなものに足を取られ、ズルンと転んでしまった。
「え、嘘、マジで」
これによって困った事になるダイゴ。何故なら、ラムドレーが射線上から消えた瞬間、目の前に壁が現れたからだ。しかし、ダイゴは今地面から足を離して力任せの滑空をしている。そして、その背にはパラシュートは無い。つまり、ダイゴにはある結末が約束されたという事である。
「ろおんでぃねっ!!」
壁にキスする結末が。
「痛た、頭打っちゃったよもう・・・」
頭をさすりながら立ち上がるラムドレー。すると、その視界に先程まで自分を追っていたハゲが壁に鼻血で線を描いている姿が映った。
「な、何か知らんがラッキー!」
ラムドレーはそう言うと、急いで走り出した。その後を追うことは、現在意識が絶賛消滅中のダイゴには不可能だった。
障害物を避けて走りながら、ラムドレーは呟く。
「よし、もう少しで裏口だ!」
思わず口元が緩む。が、その時。
視界の中の裏口が、ガチャリと鳴った。
「っっっっ!!!!!?」
反射的に障害物の裏に隠れるラムドレー。すると、間を置かずにその耳に声が聞こえてきた。
「・・・カモフラージュか」
その声は、低めの少女の声だった。そしてそれは、聞き慣れた娘の声では無かった。
「・・・・・・下らねぇ延命器具だな」
直後聞こえた声の内容に、ラムドレーは反射的に確信した。
(この女、私達を殺す気だ・・・!)
幸い扉は開ききっておらず、尚且つ自分は相手の死角に居る。自然、ラムドレーの足は扉の向こうの『恐ろしい何者か』から隠れながら、もと来た道を戻っていた。
戻ってみると、ダイゴはまだ鼻血を出しながら倒れていた。それを見てラムドレーはほっと一息吐くと、忍び足でそこを通り過ぎようとした。
が、
「う、うーん・・・」
運悪く、ダイゴが目を覚ましてしまった。それを視認すると同時に、ラムドレーは一目散に走った。
「あ、おい待てい!!」
逃げ去ろうとするラムドレーを視認すると、ダイゴの脳味噌は覚醒した。既に乾いている鼻血を拭き取りながら直ぐに立ち上がり、後を追う。
最初に通る途中でダイゴが弾き飛ばしたり倒したりしたせいか、道の障害物は少なくなっていた。開けた道をラムドレーは走る。が、単なる直線勝負ならば心象を使用しているダイゴに軍配は上がる。ダイゴとラムドレーの距離はグングン縮まっていた。
迫り来る坊主頭の気配に、ラムドレーは走りながら考える。
(・・・このままじゃ仮に外に出られたとしても捕まってしまう!・・・仕方ない、ここは・・・)
「よし!やっと追い付いたぜラムドレー!!」
捕獲を確信し、ダイゴは再び手を伸ばす。
だが、その手は再び何も掴めず終わる。
「そいや!」
という掛け声と共に、ラムドレーが丁度近くにあった等身大の棚の用な物を、走りながらダイゴの方へ突き飛ばしたのだ。
「うおっ!?」
突然の事だった為に、ダイゴはそれを避けることが出来ずに顔面からぶつかる。
「今のうちに!」
それによって出来た隙を見逃さず、ラムドレーは電気スイッチの近くにある非常階段まで走り、疾風の如く駆け上がった。
「なっ、待てコラァ!!」
慌てて棚を退かし、後を追うダイゴ。二人の大男が階段を慌ただしく昇る靴音が暗がりに響く。
ダイゴが階段を駆け上がると、そこには先程とはうってかわって広く、尚且つ明るい空間が存在していた。
何故、明るいのか一瞬考えるダイゴだったが、理由は直ぐに分かった。その空間の窓という窓が、全て外側の草を片付けられ、日の光がもろに入ってきていたからである。
そして、そんな日光溢れる広間の中心に、ラムドレーは立っていた。
「・・・やっと観念したか」
そう言いながらラムドレーに歩み寄っていくダイゴ。
だが、そんなダイゴに対し、ラムドレーは言った。
「いいや、まだ足掻かせて貰うよ」
瞬間、ラムドレーの雰囲気が変わったのを、ダイゴは感じ取る。だが、その時には既にラムドレーの行動は終わっていた。
ラムドレーの右腕の人差し指の爪が伸び、ダイゴの頬を掠めて壁に突き刺さっていたのでる。
「鬼から逃げ切れなければ、鬼を逆に退治すれば良い。・・・まあ、あまりしたくは無かったけど」
そんなラムドレーの声を聞くダイゴの頬からは、熱い血が冷や汗と混じり、薄く温くなりながら滴っていた。
ちなみに七部は(正確には七部以外の部も)読んだことありません。




