機巧少女は覚えてない
サブタイトルがパクリなのは気にしない方向で行きましょう。ちなみに内容は知りません。
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「・・・では、お先に失礼します」
「あ、はーい。明日も宜しくね親友ちゃん」
女性職員の方は私の帰宅を伝える言葉にそう返すと、再び自分の仕事に戻っていった。"死者の家"は二十四時間営業なので、職場から人が消えることはない。あの女性職員の方も夜勤で、これからが仕事である。
それに対し私は朝から夜までの勤務なので、今から帰宅出来るのだ。
だが、帰宅が別に待ち遠しい訳ではない。もっと長い時間の労働だって、多少無理をすれば可能だ。しかし、職場の方々が気を使って下さっている為、私は今こうして普通の労働時間で帰宅出来ているのである。
そんな思考を頭の人工知能でしている内に、外に出た。後はここから天番に向けて歩くのみだ。
いつもなら、歩いている間は特に何を考えるという事無く足を駆動させるのだが、今日はそうもいかないらしい。
『こんちわっス!親友さん!』
昼の事が思い出される。あの坊主頭の少年、名前は大山大悟だったか、彼は何故あんなに親しげに私に話し掛けて来たのだろうか。彼との接点は昨日の、事務的なもののみの筈だが。
それなのに彼は私にあんなに親しげに話し掛けて来た。それどころか、シュワルト博士の言いつけ通りに事務的に対応した私を、心配までした。分からない。彼の出身国である"日本"には、見知らぬ人にもフレンドリーに接するといった文化的土壌でも有るのだろうか。いや、今まで何回か日本人の対応もしたが、特にその様なフレンドリーさは感じ取れなかった。ということは、家で育つ過程であの様なフレンドリーさを手に入れたのだろうか。そう言えば昨日、認識機から出てきた時も彼は泣いていた。あの時は博士の言いつけを守り、感情移入しないように自らを保ったが、今考えればあの時彼は家族との思い出に再び触れて、恋しさのあまり涙を流していたのだろうか。
「いけない。あの少年に感情移入してしまってる」
私はロボットだ。パフォーマンスにマイナスの作用をもたらしうる感情は不要だ。故に他人に感情を動かされることは好ましくない事なのだ。何故なら私は拾号だから。
しかし、感情を動かされない事が好ましい事だとすれば、あの時、彼にいきなり後ろから肩を掴まれた時に恐怖のあまり体を強張らせた事は失敗だったか。いや、そもそも恐怖を抱くこと自体が間違いなのだ。血の通わぬ機械ならば、五体が破損した時も無表情でいるべきなのだ。博士だってそう言っていた。
だが、分からない。何故彼は、ダイゴという少年は、私が彼の方を振り向いた時にあんなに絶望したのだ。大して親しくもない私の挙動一つに、何故あんなに大きく反応するのだ。分からない。分からない。
そんな事を考えているうちに天番に着いた。だが、こんな生産性の無い思考行動を取った事が博士に知られてはいけない。博士の部屋に、私の部屋に着くまでにこの思考を停止しよう。
博士の部屋の前に着いてから、ドアを三回ノックする。
「どうぞ入って」
許可が出たので、「失礼します」と言って入室する。
「拾号お帰り!今日の仕事はどうだった?」
今日も今日とて白衣姿の博士は私に機械であることを強要するが、しかしこのように労いの言葉をかけてくれたりもする。私はそれだけで満足だ。と言っても、満足という感情を悟られてしまうと、博士を不快にさせてしまうので、表情には出さない。
「さ、拾号。いつものように服脱いでよ」
博士に言われるがままに私は全裸になる。別に抵抗も羞恥も無い。何故なら私は拾号だから。
「んじゃ、もう寝て良いよ。疲れたでしょ?何故なら拾号には『疲労』って"機能"がついてるからね!」
チクリ、と胸が痛む。"機能"という言葉が、私がロボットであることを自覚させるからだ。・・・いや、ロボットだと自覚することが何故痛いのだ。当然の事に対して何故心を痛める必要性が有るのだ。駄目だ。私はどうやらまだ親友でいたいらしい。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。
無表情のままに思考を停止させ、私はいつものように"ベッド"に入り、そして、目を閉じる。
『じゃあ貴女のなまえは"親友・拾号"ね!宜しくね、親友!』
何か、少女の声が聞こえた気がしたが、直ぐに意識はスリープの闇に呑まれていった。
※
「・・・寝たか」
シュワルトは親友がスリープモードに入った事を確認してから、その場で伸びをした。ポキリポキリと背中から音が鳴る。
「・・・フゥ。さて、じゃあいつも通り、お仕事といこうかしら。・・・と、その前に、今日の分のメモリー見とかなきゃ。また昨日みたいにバグが起きてたら嫌だしね」
そう言うと、シュワルトは昨日と同じ行程を踏んだ後、親友の記憶を再生した。
「・・・・・・・・・うわ、またあのハゲだ」
その記憶の中にダイゴが出た瞬間、シュワルトは露骨に嫌そうな顔をした。だが、それから数秒後、その表情に変化が訪れる。
「・・・クスッ、・・・アハハハハハハハハハ!!!!!」
哄笑である。それも、大量の嘲りを含んだとびきりの哄笑。それからしばらく笑った後、シュワルトは言った。
「アハハ!拾号は良い子ねぇ!私の言いつけを守るだけじゃなく、このハゲに精神的ダメージを与えるなんて!!最っ高だよ貴女!!見てこの虚無と絶望に染まった顔ォ!!一体全体どんな顔してこいつの方を向いたの拾号!?私にもその表情教えてほしいくらいだよ!本当なら貴女が感情出すのは避けたいけど、こういう素晴らしい結果を残してくれるんなら大歓迎!!見てよ拾号!貴女が昨日心を許しちゃったハゲが、ワンクリックで貴女が全部忘れちゃったせいで不幸のドン底に陥ってるこの様子をさぁ!!やったね拾号!これで二度とこいつは貴女には近付かないよ!!また何の感情も無いつまんないガラクタに戻れるねェ!!アハハハハハ!!アハハハハハハハハハ!!!」
可笑しくて仕方ないという風に笑い続けるシュワルトだったが、それからしばらくしてその表情を能面の様にしてから、
「・・・じゃあ、改造を始めようか。今日こそは拾号の中のロックを解除出来れば良いんだけど」
と言うと、白衣のポケットから煙草とライターを取りだした。
その後、シュワルトは煙草を口にくわえてからそれに火を着ける。紫煙がオレンジ色に光る黒焦げの先から湧いた。
しかし、シュワルトはその煙草を少し吸うと、
「・・・っ、ゴホゴホッ!!」
と大きくむせた。
ケフン、ケフンとその後も少し咳払いをして喉の調子を整えるシュワルト。
そして、煙草の煙で若干掠れた声で、
「やっぱり不味いわね・・・これ・・・。・・・なんでアイツはこんなもん好んで吸ってたのかしら・・・」
と言ってから、再び仕事に戻るのであった。
ジャイアントスイングを初めて人にかけたのは、中学三年の時です。かけられたことはあまりありません。




