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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第三章・悪人
53/113

にんにく

 個人的ににんにくは嫌いです。今でも臭いを嗅いだだけで具合が悪くなります。


 時は遡ること数十分。繁華街から離れた地点では、依然として闘いが繰り広げられていた。


「喰らいやがれだぜ!!」


 ボルーピンはそう叫びながら、金色のバイクの群れを召喚した。


「効くかそんなもの!!」


 自身に迫る一台のバイクをドキルクは気合と共に傘を振り、弾き飛ばす。轟音と共にバイクがプスーカに飛んでいくが、激突寸前でその金色の機体は消えた。


「ナイス心象キャンセルだボルーピン!!」


 プスーカがそう言うとボルーピンはプスーカの方を見ずにサムズアップで応えた。


【そんなことよりコヴィンの安全だ!早く治療しなければ巻き込まれるぞ!!】


 ジャギィ(パイルバンカー)が自らの機体(からだ)から釘を放ちながら叫ぶ。


「あら!!仲間の心配をする余裕があるのかしら!!?」


 その高速で放たれた釘をその巨大な掌で掴み取り、間髪入れずに握り潰しながらマリオはプスーカに弾丸の様な速さで突っ込んだ。


「来んな化け物!!」

 正論と共に再びマリオの顔面目掛けて釘を放つプスーカ。

「レディに向かって化け物とは失礼じゃないの!?」

 反論と共に化け(オカマ)はその丸太の様な太い右腕で力任せにフックを繰り出す。

「チィッ!!」

 プスーカがギリギリでそれを避ける。豪腕の通過により生まれた気流がプスーカの頬に滲む冷や汗を吹き飛ばした。

「まだよ!!」

 叫びながらマリオは返し刀ならぬ返し腕によって裏拳を放った。


 瞬間、プスーカの脳裏には『回避不可能』という文字の羅列が浮かぶ。と同時に、プスーカは死を覚悟した。


 ゴギャアッッッ!!!!


 轟音と共にプスーカが吹き飛ばされる。そのままの勢いで、プスーカは体を地面に打ち付けた。


 だが、


「・・・!?」


 プスーカは生きていた。しかも、ダメージは少なからずあるとはいえ、その体には致命傷は無かった。

 マリオが攻撃の際、手加減をしたというのも理由の一つだ。だが、それ以上の大きな理由があることに、プスーカは瞬時に気付いた。


 プスーカの近くには、皹の入った大きな盾が落ちていた。


 その盾は静かに地に倒れ伏すジャギィの姿に変わった。


 マリオの裏拳が激突する直前に、ジャギィが盾に変形してプスーカを庇ったのである。


「ジャ、ジャギィイイイイイイイイイイイイ!!!!!」


 プスーカが叫ぶ。それもその筈である。何故なら、ジャギィの口からは血がダラダラと垂れていたからだ。

 盾となってもマリオの"鉄拳"を跳ね返す事が出来ず、その体には皹が入った。仲間を一人守る為に、ジャギィは自らの身を捧げたのである。

「ジャギィ!!しっかりしろ!!ジャギィ!!」

 プスーカがジャギィに駆け寄り叫ぶ。

「安心しなさい。死なない程度に手加減しといたわ」

 マリオが言う。確かにジャギィの息は虫のようになっているだけで、絶えてはいなかった。

 

「テメェ・・・!!テメェエエエエエエエエエ!!!!!!!!」


 絶叫と共にプスーカは右手から釘を出し、フェンシングの様に突き出した。

 その釘はプスーカの激昂による魂気の練度の上昇により、今までで一番の強度を持っていた。が、


「・・・馬鹿ね」


 マリオは静かに呟きながら、その釘を正拳で殴り潰した。プスーカは釘を全力で握っていた為、その押し潰される釘の衝撃をモロに受けてしまい、右肩を脱臼した。


「・・・ッ!!!だから、何だってんだよぉぉ!!!!」


 全身を貫く激痛(ほんのう)に、しかしプスーカは根性(りせい)で抗いながら、左手から釘を出してマリオの目玉に突き出した。


 


 しかし、その釘先は、キィンッ、という金属音と共に、目玉に弾かれた。


「これが獄犬よ」


 そんなマリオの言葉と共に繰り出されたアッパーカットによって、プスーカの意識は掻き消えた。



 宙を舞うプスーカの姿が、ボルーピンの目にはスローモーションに見えた。

「・・・ここまでか」

 『一対二』という絶望的な現実を前に、諦めがボルーピンの頭をよぎった。








 直後、その眼前に白色と黒色の形をした人型の機甲兵が出現するまでは。




「っ!何だ!?」


 突然現れた白と黒の機甲兵二体に、ドキルクは戸惑う。だが、マリオはそんなドキルクに言った。


「落ち着いてドキルクちゃん!恐らく相手の仲間の心象よ!取り敢えず周りに仲間が隠れていないか探してちょうだい!!」

「分かりました!」

 ドキルクはそう返事をした後、口から超音波を放った。


("反響定位"!)


 放たれた音波は、瞬時に周囲の状況を模写し、ドキルクの耳にそれを伝える。


「マリオさん!どうやら隠れている奴は居ないみたいです!!」

「分かったわ!じゃあ目の前のあの人形を片付けるわよ!」

「了解!」


 ドキルクはそう言ってから、背中に生えた翼を羽ばたかせ、黒の機甲兵に高速で向かっていく。


「貰った!」

 勢いそのままに、黒傘を機甲兵の頭に降り下ろす。が、


 ギィンッ!という音と共に、その傘は機甲兵の右腕に防がれた。


(この堅牢さ!やっぱり心象であってるみたいだな!!)


 ドキルクはそう思いながら翼を広げて上空へ退避する。

 しかし、その退避行動により、ドキルクに一瞬の隙が生まれてしまった。


「逃がさないぜ!」


 その隙をボルーピンは見逃さなかった。たちまち金色のバイクを召喚し、ドキルク目掛けて飛行させる。


「ぐぼっ!」


 咄嗟の事で回避行動が上手く取れなかったドキルクは、その攻撃を腹にもろに受けてしまう。

「おかわりだぜ!!」

 ボルーピンは再度バイクを二体召喚し、だめ押しをしようとする。


「なっめんじゃ・・・ねぇ!!!!」

 しかし、ドキルクは気合いと共に、傘を振り、一つのバイクをもう一つのバイクに打ち返した。ガシャンッ!!というバイク同士の衝突音が空に響く。


 そんな二人の戦闘が繰り広げられる最中、マリオは白の機甲兵に話し掛けていた。

「あなた心象よね?会話機能はあるの?」

 その問いに答えることなく、機甲兵はマリオに殴りかかってきた。

「・・・そんな機能は無いのか、それとも黙秘しているだけなのか分からないわね」

 しかし、マリオはその機甲兵の右拳を左手で受け止め、握り潰した。

 だが、機甲兵は何の反応も見せることなく、淡々と自ら右手を切り離し、左手でマリオの顔を狙う。が、マリオは平然とそれを避ける。

「拳を破壊しても無反応というところを見ると、この心象には痛覚が無いみたいね。だったら・・・」

 マリオはそこまで言うと、凄まじい速さで腕を機甲兵の頭に伸ばし、その頭蓋を握り潰した。


 しかし、頭が無くなった状態でも、機甲兵は依然としてマリオに襲い掛かって来る。

「頭を破壊しても活動を停止しないのね。となると動きを止める為にはもう」


 台詞を言い切る前に、マリオは超高速で機甲兵の体をその鉄拳で乱打し、


「バラバラにするしか無いわね」


 機甲兵を物言わぬ鉄屑に変えた。




「ほらほらほらほら!!守ってばかりじゃ勝てないぜ!」

 マリオが機甲兵を破壊したのを尻目に、ボルーピンはドキルクに対し、何台ものバイクを放っていた。

「糞が!状況が良くなった途端、水を得た魚みたいにイキイキとしやがって!」

 そんなことをぶつくさ言いながら、ドキルクは空中でバイクを傘で殴り飛ばしまくっていた。流れ弾ならぬ流れバイクが、他のバイクに衝突し、弾け飛ぶ。

「なかなか良い動きだぜ!だが、二体一ならどうだ!」

 ボルーピンの言葉と共に、バイクに跨がった黒の機甲兵が空を駆けて自分に向かって来るのがドキルクの目に映る。

「チイッ!それがどうした!」

 そう吠えながら、ドキルクは傘を機甲兵向けて突き出した。


 ガッ


 という音を立て、傘の先が機甲兵の腹を捉える。そのまま機甲兵は車体から突き飛ばされる形で宙に舞った。


 だが、そんなドキルクにボルーピンは言った。

「将を射ても馬が居るぜ!」

 その言葉と共に、金色のバイクは落ちていく機甲兵を尻目に、ドキルクに突っ込んだ。

「!」

 咄嗟にドキルクは傘を開き、それをガードする。しかし、

「後ろがお留守だぜ!蝙蝠眼鏡!!」

 ボルーピンはそう叫ぶと、バイクを一台、ボルーピンの背後に走らせ、その背中に突っ込ませた。


「小賢しい真似すんじゃねぇ!」

 しかし、それを黙ってモロに喰らうドキルクでは無かった。咄嗟にその黒い翼を腕の様に操り、なんとバイクを"受け止めた"のである。


「ちっ!薄い羽だと思ったが、案外丈夫だな!」


「こんな翼でも"心象"なんでな!そう簡単には折れねぇよ!!」


 ドキルクはそう叫ぶと同時に、羽を使ってバイクを"押し潰した"。


「・・・!!・・・ふん、案外やるなお前。だが、少し周りを見た方が良いぜ!」


 ボルーピンの言葉がドキルクの耳に届く頃には、既にバイクを足場にして黒い機甲兵がドキルクに殴りかかろうと拳を振り上げていた。しかし、開いている傘に隠されているせいで、機甲兵の姿はドキルクの視界には入らない。完全に死角をその攻撃は突いていた。




「もう少し周りを、何だって?」




 だがしかし、その拳はドキルクに届くことなく、今度はバイクごと傘で地面に叩き落とされたのだった。


「何・・・!?」

 ボルーピンの頬を汗が伝う。そんなボルーピンに対し、ドキルクは傘を閉じながら言った。


「残念だが、俺はさっき周囲を探った時からずっと"反響定位"を発動したまま切って無い。だから、さっきテメェらが俺の視界上の死角をついて攻撃しようとしてたのも丸っきりお見通しだったし、」


 瞬間、ドキルクは振り向く事無く傘を後ろに向けて突き出し、密かに向かって来ていたバイクを破壊した。


「今懲りずにこうやってテメェが死角から攻撃してくるも、お見通しって訳だ」


「・・・・・・」


 ボルーピンの頬に伝う汗が増える。しかし、そんなボルーピンを尻目に、黒い機甲兵は再び飛び上がり、ドキルクに襲い掛かった。


「くどい」


 しかし、ドキルクは今度はその黒い機甲兵を、同じくらい黒い自分の翼を再び腕の様に操って捕らえると、傘を両手で上段に構え、渾身の力で脳天目掛けて降り下ろした。


 バキバキバキィ!!


 という破砕音を鳴らしながら、機甲兵の体に亀裂が入る。


 皹の入ったその体は、重力に身を任せて地面に落下していった。


 そんな機甲兵の落ち様を見届けてから、ドキルクは傘の先をボルーピンに向けて言った。

「・・・これで良く分からない乱入者は居なくなった。後はテメェだけだ」





【それはどうかな】


 その時、倒れ伏している黒い機甲兵から、そんな言葉が発せられた。


「!?」

 咄嗟に身構えるドキルク。その眼前で、皹の入った機甲兵が、まるで糸で操られているかの様な不気味な動きで、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・誰だ」

 ドキルクは静かに機甲兵に―正確には機甲兵の背後に潜んでいるであろう"何者か"に―問う。


【何者か、か。そんなの、この心象(にんぎょう)の傀儡師以外、誰が居ると言うんだ】

 

「言葉回しがオサレで言いたいことが分からねぇな。もっとダイレクトな言葉使えよポエマー」

 悪態を吐きながら戦闘体勢を取るドキルク。と同時に、周囲に本当に隠れている敵が居ないかどうか調べる為、改めて反響定位に全感覚を集中させる。

 

(・・・それらしい奴は居ない。って事は、反響定位で探れる範囲よりも外からこの心象を操ってるって事か)


 そんなことをドキルクが考えていた時だった。



 黒い機甲兵が、先ほどマリオが破壊した白い機甲兵の方へフラフラと近づいていったのだ。


「・・・何よ、貴方」


 マリオは近づいてくる黒い機甲兵を再び乱打し破壊する。しかし、



【爪が甘いぞ。男爵殿】


 破片になった後もその機甲兵だった物は喋り続けた。そんな破片にマリオは言う。

「・・・ご忠告どうも。なら、粉微塵になるまで踏みつけてあげるわ」



【そうはいかない】



 刹那、マリオの目の前で、白と黒の破片達が僅かに揺れたかと思うと、物凄い速さで動き回り繋がり合い、最終的にそれらは3mはありそうな巨大な機甲兵へと変貌を遂げた。


「・・・おいおい、これじゃあマリオネットっていうより、ゾイドじゃねぇか・・・」

 目の前に出現した巨人を前に、ドキルクは呟いた。

 そんな呟きを受け、機甲兵から声が発せられる。


【さて、次にバラバラになっているのは、果たしてどちらかな。・・・行け】



白黒之兵(ポーン・モノクローム)



 白と黒に彩られた巨兵が、ゆっくりと進軍を始めた。



「デ、デカい・・・」

 ドキルクが口からそんな呟きを洩らした。それも無理はない。それほどまでに、眼前の白黒の体躯は巨大であった。


 ズシン、ズシン、ズシンズシンズシンズシズシズシズシズシズシズシズシ


 加速する地響きと共に、白黒の巨体がドキルク目掛けて駆けてくる。


「!?スピードもあるのかよこのデカブツ!!」

 ドキルクの言う通り、その巨体はバイクよりも早く走っていた。


(・・・正面切ってやるのは分が悪そうだな)


 思考と共にドキルクは横に翔び、突進をかわそうとする。が、


【甘いぞ】


 白黒から先ほどと同じ低い男の声がしたかと思うと、その体がほぼ同時にドキルクの回避した方向目掛けて跳躍した。

「っ!!!!!!?」

 巨体のタックルがモロにドキルクの体にめり込む。瞬間、ドキルクの体内に骨の折れる嫌な音が反響した。

 

「っっっっぁあああああ!!!!!!」

 

 しかし、骨は折れても闘志は折れず。ドキルクは翼を羽ばたかせ、空中での体勢をずらし、何とか機甲兵の体を受け流した。


 巨体は空中で体勢を立て直し、地面に着地する。その近くで、ドキルクが口から血を吐きながらフラフラと地に降り立った。

(・・・どっかの臓器に折れた骨が刺さったか・・・。回復しねぇと・・・)

 ドキルクはそう考え、震える手で懐から黒い錠剤を取り出す。かなりのダメージだったらしく、逆に痛覚が麻痺した様だ。ドキルクの表情に、苦悶のニュアンスは見られなかった。


【回復、させると思うか?】


 しかし、機甲兵は止めを刺す為にドキルクの方を向くと、再び走り始めた。



「させないわよぉ!!」



 だが、そんな走り始めた機甲兵の横腹向けて、マリオがドロップキックをかまし、その巨体を吹き飛ばす。


 9mほど飛んだ後、機甲兵は受け身を取り軽やかに着地した。


「・・・猫みたいな身のこなしね。しなやかで美しいわ」


【何故か貴殿に言われると寒気が走るぞ男爵殿】


「何ですってぇぇぇぇ!!?ムッキィィィィ!!!!」


 マリオはそんな愉快な反応を示しながらしかし、頭の中では状況を冷静に把握しようとしていた。


(さっきの私の攻撃、鋼化していなかったとは言え、それなりに力は入れていた筈なのだけどね。大したタフネスだわ。・・・さて、どうしようかしらこれから。相手のソフモヒボーイはまあ何とかなるとして、問題はあの機甲兵を操ってる奴ね。・・・本体が近くに居ないのが厄介だわ、このままじゃ防戦一方。・・・まずはあの機甲兵を何とかしないと)

 

「マリオさん」


 マリオが思考を巡らしていると、回復を済ませたドキルクが話しかけてきた。そのままドキルクは続ける。

「あのデカブツ、俺に任せて下さい」

「・・・"アレ"をやるの?」

 マリオがそう聞くと、ドキルクは頷いて答えた。

「・・・俺が反響定位をダダ漏れにさせてたのは、死角潰しだけの為じゃありませんよ。まあ、見てて下さい」

「・・・フッ、気付かない内に良い男になったわねドキルクちゃん。どうかしら?うちの店に来」

「お断りします」

「あうんひどぅい」

 マリオの誘いをコンマの世界で切り捨ててから、ドキルクは機甲兵に向かって閉じた傘の傘先を向けた。

「おぅいデカブツ。そう言えばテメェには紹介してなかったな。コイツが俺の獲物」

【"ドキルク-prs"。だろう?】

「・・・良くご存知で(何で知ってやがる・・・)」

 心の中で首を傾げるドキルク。そんなドキルクに機甲兵から発せられる声は言った。

【だが、そんなただ硬いだけの傘で何が出来る。言っておくが、この《(ポーン)》は何度破壊されようと先ほどの様に何度でも再生するぞ。それこそ、粉微塵にならない限りな】

 

 ―再生能力―その単語は、戦局の悪化を予期させるのには十分な、嫌な響きを持っていた。

 その言葉を聞いて、ドキルクは暫し沈黙した後、静かに切り出した。


「・・・ふーん、そうかよ」


(機械内部の超音波の乱反射度、良好)


「・・・なあ傀儡師さんとやら」


(音波の変質、完了)



「一つ、言わせてくれ」





(射出)





「テメェ、敗けるぜ」



白木(ヘル)(シング)




 刹那、ボルーピンの目に移ったのは、ドキルクの傘が凄まじい速さで開いたのと同時に、日の光を浴びたドラキュラが灰になるかの如くさらさらと崩れていく、機甲兵の立ち骸だった。


「そ、そんな!バトラーさんの心象が!!」

 崩れ落ちる白黒の機械人形を前に、ボルーピンは激しく動揺した。無理も無い。なんせ唯一の勝算を失ったのだから。

 そんなボルーピンに対し、ドキルクは言う。

「・・・さっきの声の主、"バトラー"って言うのか」

「・・・っ!!」

 しまった、という様な表情をするボルーピン。そんなボルーピンに、ドキルクは続けた。

「・・・悪いが、テメェの知ってる事一切合切吐いてもらうぜ。"連行した後にゆっくりと"って訳にはいかねぇから、この場でよ」

 そんなドキルクの言葉に、何故だかマリオの目元がピクリと反応する。しかし、そんなことにはドキルクもボルーピンも気付かなかった。

 ドキルクは傘を閉じ、言う。

「まず最初に、テメェ等のトップは誰だ」

「・・・へっ、言う訳無いだろう。俺にだって意地は有るんだぜ」

 ボルーピンは脂汗を滲ませながらも、不敵に笑う。


 そんなボルーピンに、ドキルクは溜め息を吐き、


「・・・そうか、・・・俺は拷問は好きじゃないだがな」


 傘先をボルーピンの鼻先に突きつけて言った。



「・・・な、殴れよ。何なら殺しても良いぜ。この世界じゃ"死"なんてもんは綿より軽いしな」

 そういうボルーピンの言葉は震えていた。

 そんなボルーピンに、ドキルクは口を開いた。

「・・・さっき、バトラーとやらの心象が崩れたの見ただろ?あれの原理、教えてやるよ」

 そう言うと、ドキルクは傘を目で示した。

「・・・コイツには、超音波を吸収する機能と、その吸収した超音波を"様々な物体の構成分子を解離させて崩壊させる音波"に変質させる機能があってよ。・・・その音波を、コイツの傘開閉ボタンとは別に付いたスイッチを押すことで、傘の開きと共に圧縮させ放つことが出来るんだ。・・・・・・お前、身を持って体感してみるか」

 

 ドキルクの言葉に、ボルーピンの体が震えだす。そりゃあそうだ。誰だって自分の体が崩れるのは怖い。


 しかし、震えながらも、ボルーピンは言う。

「・・・出来れば頭を狙ってくれ。そうすりゃ苦しまずに逝けそうだ」

 その台詞からは、組織を、ひいては仲間を売る意思は、微塵も感じられなかった。





【良く言ったぞ。ボルーピン】






 瞬間、ボルーピン達の耳に、スピーカー越しの様なざらついた歪み声が、聞こえてきた。

 しかし、その声がボルーピンの言うバトラーなる男のものであると、ドキルクは直感した。


「・・・"反響定位"」

 ドキルクが再び周囲を超音波で探る。しかし、敵の気配は感知出来ない。

 そんなドキルクを嘲笑うかのごとく"バトラー"はこう続けた。

【おい蝙蝠少年。お前の心象が影響を及ぼすことの出来る範囲はどれくらいだ】

「・・・」

 無論そんな情報を与えてやる義理は無いのでドキルクは無視する。

 そんなドキルクにバトラーは言う。

【・・・黙りか。どうした少年。先程はあんなに雄弁だったというのに】

 先程の得物の機能説明の事を言っているのだろう。ドキルクはそう考え、無益な情報漏洩を心中で恥じた。

 そんなドキルクにバトラーは続ける。

【まあ、沈黙を続けるというならば仕方がない。では代わりに今から少し俺が雄弁になろう】


【俺の心象の影響範囲は半径100mだ】


 ドキルクの胸中が動揺で埋め尽くされる。何故ならば、リーチの差が歴然だったからだ。

 ドキルクの反響定位の影響範囲は、範囲70mであった。


 その事実にドキルクが打ちのめされている時だった。

「?」

 マリオは、その視界の端、東の空の一点が、キラリと黄色く光ったのを見つけた。

「ドキルクちゃん伏せて!!」

 そう言ってマリオがドキルクと共に地面に伏せた瞬間、黄色い光線が先程ドキルクの頭部があったところを通り過ぎた。

「・・・!!」

 ドキルクの全身に冷たい汗が泉の様に湧く。


【・・・男爵殿は中々鋭いのですね】


 再びバトラーの声が響く。

「貴方も中々の心象持ってるじゃない。ロボット兵と来て次は光線だなんて」


 マリオはそう返しながら考える。

(さっきの光線狙撃と言い・・・確実に相手は此方の状況が"見えている"わね。・・・相手の言葉が正しければ、少なくとも相手の心象は70mよりも遠くで100mよりも近くの場所に居る。それから、さっきの光線の事を考えれば人気の少ない場所からの攻撃である可能性が高い。・・・となると、心象の位置は"あそこ"しか無いわね。・・・しめた!水曜日の今の時間帯、"あそこ"には『あの人』が居る筈!!)







 ドキルク達が居る場所から90m程離れた裏路地に、"それ"はあった。


 白いカラーリングで、160cm程の塔の様な形をした物体。その頂点は灯台の様になっている。


 これこそが先程ドキルク達に光線を放った物体であった。先程の光線は、その塔の灯台部分から放たれたのである。


【・・・誰だ】


 その時、塔からバトラーの歪んだ声が響いた。その声には、警戒の色が強く出ていた。




【俺のこの《(ルーク)》は半径100m以内の音を聞き、ものを視認することが出来る。言いたいことは分かるな】




「驚きましたよ。午後のティータイムを終えて喫茶店から出た瞬間、黄色い閃光が山なりに撃たれたのが目に入ったのですから」


 塔から30m程離れたところに、その男は立っていた。


 その顔には白い口髭と幾らかの皺があり、男が壮年であると感じさせた。身長は187cm程だろうか。目には金縁の眼鏡が掛かっており、頭には黒灰色のシルクハットが乗っている。服装は黒灰色のタキシードにウェストコートで、その下には白いワイシャツと、タキシードと同じ色の蝶ネクタイが見えた。そして、その両手には白い手袋がされていた。

【・・・何者だ。貴様】

 バトラーの声が男に問う。

「ああ、申し遅れました」


 すると、男はにこやかにシルクハットを左手でひょいと持ち上げ、言った。




(わたくし)、獄犬第三部隊隊長、ルドガーと申します」




 刹那の出来事だった。


 塔が、"バラバラになった"。


【・・・・・・何だと】

 崩れ落ちていく最後の須臾、塔の機能が視認したのは、




 シルクハットを被った老紳士が、その両手袋の白い"繊維"を白い"刀刃"に変形させて佇む姿であった。





「以後、お見知り置きを」


 その口から発せられた穏やかな声を認識する前に、《白之塔(ルーク・ホワイト)》は機能を停止した。






 






 




 にんにくを使った料理も苦手です。餃子とか。

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