銃社会
「右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい」って言葉が有りますよね。で、その言葉を言ったとされている人に名を冠した宗教が、世界にはかなり広い範囲で浸透していますよね。
「さ、じゃあ入りましょうか」
マリオが嬉々としながらダイゴに言う。それを受け、ダイゴは危機を感じながら、何とかこの場を逃れようと無い知恵絞って口を動かす。
「あ、アイタタタタ。ヤバい持病の癪がアイタタタタ。こりゃあ今日は早く家に帰って休まねばいかぬなー」
「家無いでしょ」
「そうでした」
音速で逃げ道を潰されるダイゴ。必死で次の一手を打つ。
「そ、そういや今日の占いで"水瓶座の貴方は今日は野宿した方が良いでしょう。もし屋内で寝たら死にます。なんやかんやあって二秒で即死します"って言ってたなー!これはもう野宿する以外あり得ない!」
「貴方既に屋外で二回も死んでるからその占いあまり意味無いんじゃない?」
「全くもってその通り」
光速で逃げ道を潰されるダイゴ。しかし、まだ諦めずに次の一手を考える。
「第一、ダイゴちゃんはここに来たばっかりなんだから、野宿する場所も分からないでしょ?」
「あ、ほんとだ」
「ほらね? じゃあもうここに泊まるしかないじゃないの」
王手。完全に詰んだようだ。
「……それもそうっスね!」
どうやらダイゴも諦めたらしい。吹っ切れた様に明るく答える。死者の家という駆け込み寺の存在は、ネオンの眩しさで彼の脳から掻き消えていた。
「そうでしょ? それじゃ、入りましょうか!」
マリオはそう言うと、ダイゴの肩を抱き、自分の城へ凱旋した。
店の中は、一言で言えば『ピンク』だった。ピンクの床に壁、さらに店のテーブルもピンクに染まっていた。そして、そのピンクのテーブルには、客とおぼしきオネェさん達が会話に興じていた。
「あ、ママお帰りなさーい!」
店内に入ると同時に、紫色のソフトクリームの様な髪型をした厳つい顔の男が二人を出迎えた。
身長198センチほどの巨大な体は、マリオに負けず劣らず分厚い筋肉に覆われていた。
「ただいまベン。店の方はどう?」
マリオにベンと呼ばれたその男は、機嫌良さそうに答える。
「今日も今日とて盛況してるわ。ってあら? ママ、その子誰?」
ベンがダイゴを見て言う。マリオが答える。
「この子はダイゴちゃん! 私の職場の後輩よ! 今日はここに泊まることになったのよ!」
マリオはテンション高めに言った。すると、
「後輩? ってことはその子も獄犬?」
と言う声が、客用と思われるテーブルの方から聞こえてきた。マリオはその声の方を向くと、目を輝かせた。
「あら、ジェームズじゃない! 久しぶり! 最近店に顔出さなかったけど何してたの?」
ダイゴはジェームズと呼ばれた声の主の方を見る。するとそこには、筆の様な髪を頭頂部に生やしたサングラスの男がいた。身長は170センチ程で、小太りな体型をしている。
ダイゴは小声でマリオに聞いた。
「……マリオさん。誰っスかあの人?」
マリオもまた小声で答えた。
「ジェームズは私達と同じ獄犬隊員よ。第七部隊に属してるわ」
「な、なるほど」(き、脅威のオネエ率・・・!!)
そんなことを考えるダイゴを尻目に、ジェームズはマリオに言う
「やーねー。マリオも知ってるでしょ? 『昇る太陽』よ。ら・い・じ・ん・ぐ。それについて、少しばかり調べてたの」
「あー、そういえば最近活発化してきてるわよねぇ」
マリオが頷きながら言う。ダイゴは久々の謎単語新登場に混乱する。完全に不意を突かれたようだ。
ちんぷんかんぷんといった様子のダイゴに、ジェームズが言う。
「あら、どうしたのダイゴ? 混乱してるようだけど?」
その言葉に、ダイゴはおずおずと問いかける。
「あ、あのぉ、『昇る太陽』って何スか?」
ジェームズはその問いに答えた。
「昇る太陽っていうのは、簡単に言えば転生を最終目的として、日々転生用のDPを収集している集団よ。まあ、普通に働いて集めてるんなら私達も文句無いんだけど、問題なのは、この連中はDPを集める為なら、如何なる犯罪行為も辞さないという事よ」
どうやら昇る太陽とは、DPを犯罪によって集める盗人集団のことらしい。ダイゴはそれを何となく理解し、相槌を打つ。
それを確認した後に、ジェームズは周囲の客に聞こえないように、声を潜めてマリオとダイゴに言った。
「……ここだけの話、近々昇る太陽や無限大蛇によるテロが起きるんじゃないかって、私は思ってるのよ。最近の活発化もその前兆な気がするし……」
何やら物騒なはなしをするジェームズにダイゴは少し戦く。
そんなダイゴとは違って、マリオは真剣な顔つきでジェームズに言う。
「……でも、何で活発化してるんでしょうね。奴ら、前はもっとこそこそやっていたのに。勿論、その度に逮捕してたんだけど」
「……そこまでは、まだ私も分からないわ。……とにかく、もう少し情報を集めてみる」
「頼むわよ。あんたの長所は、その謎の情報網だけなんだから」
「あら、この美貌こそが私の長所だと思うんだけど?」
「言ってなさいよおデブ」
「何よゴリラ」
「「キィィィィ!! 可愛くない奴!!」」
顔を突き合わせてそんなことを言うオネエ二人に、ダイゴはあたふたする。
「まあまあ、落ち着いて下さいよ二人とも。……あ、そうだ。そういやあ気になったんスけど、無限大蛇や昇る太陽の他にも、そういう組織ってあるんスか?」
話題の提供により、二人の意識を逸らせようとするダイゴ。その目的は、見事成就した。二人は争うことを止めて、ダイゴの方を向いた。その画に若干の恐怖を抱いている彼に、ジェームズが言う。
「あるわよ。……まあ、名前はあんまり分からないけどね。大体、組織っていうにはかなりの少人数で構成されているグループが、ほとんどだから。……そう言えばダイゴは、獄犬の仕事が犯罪者の取り締まりだということは知ってる?」
「ウス」
頷くダイゴ。何故か少し得意気だ。殴りたいこのドヤ顔。
「私達の相手にする犯罪者で一番多いのが、組織に入っている連中なのよ。実際のところ単独で犯罪を犯す死者はとても少ないわ」
「え、何でっスか?」
ジェームズはダイゴに問う。
「……ダイゴは『核抑止論』って知ってる?」
「核抑止論……何か、駆に聞いたことがあるっス。確か、国同士が核兵器を持つことによって、互いに核兵器の使用を躊躇する、つまり均衡状態を作り出すっつーやつっスよね?」
「ご名答。それと同じよ。死界における死者達も、全員漏れずに心象っていう兵器を持っているから、互いに相手の心象による報復を恐れ悪事を働こうとはしない。だから死界における犯罪発生率は、人口に比べてかなり少ないのよ。互いが互いに抑止力になってるからね」
「へ、へー」
いまいち良く分かっていないダイゴだが、相槌は打つ。赤べこかお前は。
そんなダイゴに対して、ジェームズは説明にノってきたのか、やや饒舌に続ける。
「だけど、それはあくまで個人の話。集団になれば勝手が違うわ。人間は群れを成す事で、良くも悪くも強くなる生き物なの。それが良い方に作用すれば、団結により大きな事を成すことができるけど、悪い方に作用すれば、『皆でやれば怖くない』という心理に基づいて、テロなどの犯罪行為に走ってしまうのよ」
「な、なるほど。……あれ? じゃあゼインは?」
ダイゴは自分が朝に戦った少年、ゼインの事を思い出す。
ジェームズは言う。
「そのゼインって子が誰かは分からないけど、たまに居るのよ、単独で犯罪を犯す子も。大抵は自分の心象に対する過信か、もしくはそうしなければならない程追い詰められていることが要因だけど」
「なーるへそ」(じゃあゼインは何で犯罪を犯しちまったんだ? DPの為っつってたが、ならそのDPは何に使う目的だったんだ?)
そんなことを考えながら、やはりダイゴは頷いた。
でも、世界のシステムって基本「やられたらやり返す」ですよね。まあ、だからどうしたと言われれば僕はもう何も言えないですけど。




