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その31

 ゆっくりと十数えた後で、恐る恐る目を開いた。そして、自分の見ているものが信じられず、思わず二度・三度と瞬きをした。


(……セイア……)


 開いた目の先に、セイアの姿があった。斜め前辺りで、倒れているアリアを守るために体勢を低くし、片膝をついて左腕を前に構え、青いシールドを張っている。

 基本的にシールドを張る場合は前面だけになることが多いが、今回セイアが張っているのは全方位に対応できるドーム型のシールドだ。アリアの位置から、少しだけセイアの横顔を見ることができた。その面差しは真剣で、強い緊張感が滲んでいる。


 アリアは茫然と彼を見つめながら、どうやって彼がここへ来ることができたのか、思いを巡らせていた。確かに、セイアはリスト大学受験の際にここへも来ているし、一度来たことのある場所なのだから、ワープは可能だろう。


 だが、シールドを張りながらワープで飛び込んでくるのは、割と難易度が高い。テクニックより、度胸の問題だ。アリアはやったことがあるし、できる自信もあるが、セイアはかなり慎重な性格であるはずだ。


「おーい、なんだよこのガキ、セラディーズの回し者かぁ?ふざけんな、解除しろよ、解除!」


 エルディアは声を荒げ、手に持った剣でバンバンとシールドを叩いた。セイアは微動だにせず、シールドも揺らがない。


「少し我慢して、アリア。じきにラトス様が加勢に来る。そうしたら、ワープで逃げられるから」


 セイアは前を見据えたまま、低く硬い声でそうアリアに告げた。


「……おまえさぁ、なんか見たことあるぞ、写真で。まさかとは思うけど、『北国の悪魔』じゃねえの?」


 じろじろとセイアを見ていたエルディアが、ふいに何かに気付いたように声を上げた。


「最近西国をうろうろしてるって聞いてたけど、よりによってセナちゃんにつきまとってんのか。おい何とか言えよ、悪名高いセイア・バトル!おまえとか、魔術師界のゴミだろ」


 アリアは小さく唇を噛んだ。セイアの名前が悪い意味で世間に知れ渡っているのは事実だが、この連中にそんなことを言われる筋合いはない。言い返したいのに、それすらできない自分が歯がゆい。


 それにしても、狐男たちはかなりの情報を保有しているようだ。セラディ・ソーサラーズでも、セイアの顔写真までは出回っていなかったはずだ。


「おい、エルディア、そいつから目を離すな。悪魔とか言われているが、そいつは確か大したことはできないはずだ。シールドが緩んだところを、一気に叩き潰せ」

「俺に命令すんじゃねぇよ、シグア。でもまぁ、了解」


 先ほどまで仲間割れしていた二人は、セイアの出現で再び協力関係に戻った。態度には出さないようにしているものの、シールドの前面で剣を構えたエルディアには、かなりの焦りが感じられる。シールドを破るのは、言うほど簡単ではない。それほど消耗する術ではないし、よほど集中力を乱される何かが起こらない限り、緩むことはないだろう。


 対してセイアは無表情を貫いている。焦っているようにも見えないが、余裕にも見えない。何を言われてもひたすらシールドに集中し、耐えている様子だ。


(雪、少し強くなってきた……)


 強い痛みの上に寒さが重なって、何度も意識が遠退きそうになるのを必死で持ちこたえた。青いドーム状のシールドは、舞い落ちる雪や風も防いでくれる。暖かくはないが、確かに守られていると感じられて、嬉しいような、申し訳ないような気持ちになった。


 どういった経緯で駆け付けてくれたのか分からないが、おそらくセイアは、何も迷わずにまっすぐに助けに来てくれたのだろう。苦しくても、今気を失うわけにはいかない。


「こっち、こっちです!早く!」


 状況が停滞したまま、どれほど経っただろうか。長く感じられたが、実際はもっと短かったかも知れない。ふいに叫ぶようなティファの声が聞こえ、アリアは何とか目を上げてそちらを見た。小走りにこちらへ向かう少女と、そのすぐ後ろに大柄な男性が見える。


「案内ありがとう。ここまででいいから、君はもう戻りなさい。気を付けて!」


 ラトスの声だ。セイアの口から、大きな安堵の息が漏れるのが聞こえた。それでも、シールドに一切緩みが生じなかったのは流石と言うべきだろう。


「……あーあ、青魔様のお出ましだよ。やだやだ、だから早めにとんずらしたかったのに」


 ちらりとラトスの方を見ながら、エルディアがぼやくように呟くのが聞こえた。だが、こちらへの注意も怠らない。セイアはワープの機会を伺っている様子だったが、今の状況だとうかつにシールドを解除することはできない。セイア一人ならともかく、アリアを抱きかかえての二人乗りワープは、シールドを張ったままの状態では不可能だ。


「……そっちは任せるぞ、エルディア。俺はラトスの相手をさせてもらう」

「ち、俺は子守りかよ。はいはい、せいぜい頑張ってー」


 やる気のないエルディアの声に見送られ、シグアはラトスの方へ向かった。風雪のせいで視界が霞んだが、アリアの位置からでも、ラトスとシグアの二人が対峙しているのが見えた。


「久しぶりだな、ラトス。まったく、セナ様が亡くなったなどという誤情報をセラディ・ソーサラーズが流してくれたお陰で、我々は四年も時間を無駄にしてしまった」

「あー……どちらさん、って言いたいところだけど、その尊大な物言いはシグアだろうな。相変わらず妙な面被りやがって」


 シグアとラトスの声が風に乗って切れ切れに流れてくる。

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