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クラスにS級美少女がいるけど、A級美少女と仲良くなった話  作者: 砂糖流


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85/92

85話 嫌いな人

 一心不乱に真っ暗な道を走り、あの公園へ向かう。


 等間隔に配置された街灯が幾度も俺の顔を照らし、息を吐く度に副流煙のような白い煙が口から吹き出る。


「はぁはぁ」


 数分ほど走り、目的地へ到着する。


 公園内の幾つか配置されている街灯の下には、唯奈さんがポツンとベンチに座っていた。


 前回と全く同じ場所。


「ゆ、唯奈、さん?」


 息を切らしつつ、おもむろにベンチの唯奈さんに話しかける。


「ど、どうしたの? 急にこんな所に呼び出して」


「ん……」


 俺を呼び出した理由を唯奈さんに問いかけるが、返ってきたのは、相槌とも呼吸とも取れる返事だった。


「えっと、それは理由がないという認識で合ってる?」


「…………」


 もう一度質問するが、次は無言で、首肯すらなかった。


 一体どうして呼び出したのか。どうしてこんな寒い場所で待っていたのか。


 できれば唯奈さんが話し始めるまで待ってあげたいけど、それだと風邪を引きかねない。


 悩んだ末、前回同様にホットドリンクを自販機で購入し、唯奈さんに手渡す。


 ホットドリンクは無言で受け取られ、唯奈さんはそれで暖を取るように両手で包み込む。


 とりあえずこれでさっきよりはマシだろう。


 勝手に安心して、唯奈さんの隣に座ろうとしたところで、


「私……もう我慢できない……」


 白い息と共に女の子の声が寒い風に連れ去られる。


「え……」


 蚊の鳴くような俺の声も一緒に風に流されていく。


 街灯に照らされた唯奈さんの瞳から、一滴、涙が頬を伝う。


「唯奈、さん?」


 ホットドリンクは余計なお世話だっただろうか。そう思っていたのだが、全くもってそんな理由ではなかった。


「分かってた……私の恋が叶わないことくらい。分かってた。初めから全部……」


 唯奈さんが必死に自分の想いを伝える。


「二人を見てると、毎回思うの。私が先に出会っていれば、私だったのかな、って。もっと早く好きになっていれば、もっと距離を縮められたのかなって」


 一滴だった唯奈さんの涙が大粒へと変わり、それらが繋がり、滴や粒ではなくなって、それは一筋の涙となる。


 俺は何も答えることができなかった。


 何せ俺にだって分からない。もし仮に、美波より先に唯奈さんと出会っていれば……美波と付き合う前に唯奈さんから告白されていれば……。


 そんなの俺にだって分からない。


「私が私じゃなきゃ良かったのかな……」


 不意に唯奈さんが小さく呟く。


 俺には聞こえないように言ったのかもしれないけど、さすがにそれを聞き逃すほど俺は愚か者じゃない。


「そんなこと、言わないでくれ」


 いくら自暴自棄になったからと言って自分を貶すようなことは言ってほしくない。


「それに唯奈さんは素敵な女性だ。俺にはもったいないぐらいに……だから自分を貶すようなことはしてほしくない」


 俺から言えるのはそれくらいしかなかった。


 これから先のことを言うのは俺の役目じゃないから……だから今はただ立ち尽くすことしかできない。


 彼女の涙を拭うのは俺ではなく、別の誰かだ。


「……やっぱり無理」


「え?」


 呟いた彼女の言葉に一音で返す。


「嫌いになれる気がしない。やっぱり諦めきれない…………」


 嫌いになれない……確かに好きな人を嫌いになれば簡単に恋を諦められるかもしれない。


 でもそれが簡単にできるのならば、この世に失恋という言葉は存在しない。


 それを彼女も分かっているのか、何かを閃いたかのように小さな口を動かす。


「そうだ。嫌いになればいいんだ」


「えっ?」


 次は少し跳ね上がった一音を俺が発する。


「こんなに辛いならいっそのこと嫌いになればいいんだ。そうと決まれば今日からアッサーは私の嫌いな人」


 あまりに急な展開に思わず呆気を取られる俺。


 それでも彼女は気にせず続ける。


「嫌いな人ならあだ名も辞めた方がいいよね……だから今日から君は浅野」


 あまり変わらないような気もするけど、確かに前よりかは少し距離を感じる。


 それが何だか悲しいような、だけど唯奈さんが望んでいることだから表情には出せず、不思議な感覚に陥った。


「そうと決まれば早速——」


 ひとりでに話を進める彼女の顔から表情が消える。


 まるで初めて出会った時と同じような懐かしい無表情をしていた。


 それが俺には無理をしているようにしか見えなかった。


 だけど、せっかく決心した彼女を俺なんかが否定できるわけもなく、


「じゃあそういうことだから。私はこれで――」


 少し寂しげな彼女の後ろ姿を呆然と見つめることしかできなかった。

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