50話 赤の他人
次の日の学校の放課後。
早速文化祭の準備が始める。本番は二週間後なのでかなり早めにセリフを覚えなければいけない。
とは言っても、まだ衣装も台本もできていないので、俺たちはまだやることがない。
やることと言えば精々、劇で使う小物作りくらいだろうか。
やることがなかったのでとりあえず、本番で使うかも分からない小物作りをしていると、
「ねえ見て、浅野」
隣から声をかけられたので、目を向ける。
「毒リンゴ」
広瀬がそう言いながら、真緑の明らかにリンゴではない何かをこちらへ向ける。
「何ふざけてるんだよ……」
「だって暇だし」
「言わんとしてることは分かるけど……」
「それより後で一緒に買い出し行こうよ」
「それ広瀬が欲しいものあるだけじゃないの?」
「当たり前じゃん」
「いや、否定しろよ。それより広瀬は大丈夫なの? 女王役」
「なにが?」
「いや、ほら……」
広瀬が女王になったきっかけは、クラスのみんなが、唯奈さんと杏菜さんが主要キャラクターなら、と半強制的に広瀬も主要キャラクターということになり、女王に決まった。
「まあ、何とかなるでしょ」
「何とかなるでしょ、って……」
「それに……」
「それに?」
「私が女王で浅野が魔法の鏡っていうことはさ……」
嫌な予感しかしない。
「私が浅野に質問し放題ってことでしょ」
嫌な予感は見事的中。
「いやいや、ストーリーに関係ないことは訊くなよ?」
「ストーリー上では誰が美しいのかは訊かないといけないからねー」
「そういえばそうだった……」
つまり嫌でも俺は誰が美しいのかを答えなければいけない。
「で、誰が美しいの?」
「それは……」
「それは?」
「…………白雪姫」
「意気地なし」
「はいはい、俺は意気地なしですよ」
「認めちゃったら本当の意気地なしになっちゃうよ」
「別にいいよ――ってか、広瀬はどっちかというと美しいってより――」
「あ?」
「まだ何も言ってねぇーだろ……」
◇◇◇
結局その後、俺たちは買い出しへ行くことになった。
教室を出る前、唯奈さんと杏菜さんもやることがないのか談笑していたが、買い出しは四人もいらないということで広瀬と二人で行くことに。
買うものは、衣装に使うための布と背景に使うスプレー類。後は……
「お菓子買ってこ」
「いらんだろ」
「いるだろ」
「買うなら自腹で買えよ?」
「むぅー、ケチ」
「そんな子供じゃあるまいし……」
そんなことを言いつつも俺たちは結局クラスで食べる菓子類も購入した。
「結局買っちゃったね」
学校までの帰り道を広瀬と歩く。
「もう……」
まあ、でも広瀬が嬉しそうで良かった。
今日の広瀬はずっとテンションが高い。きっと文化祭が余程楽しみなのだろう。
「浅野。片方貸して」
すると、広瀬から袋を片方強奪される。
どうしてそこまで……そう思っていると、
袋を持っていない手でさりげなく繋がれる。
そういうことか……。
「誰かに見られたらどうするんだよ」
「今更でしょ」
「まあ、それもそうか……」
広瀬が隣で二っと笑い、更に手を強く握ってくる。
そろそろ俺も覚悟を決めなければいけないのかもしれない。
でも、俺は――
「浅野?」
「ん? どうかしたか?」
「いや、なんか考え込んでたから」
「なんでもないよ」
「ほんとに?」
「うん……」
なんでもないことなんてない。だけど、今の俺にはそれを言う覚悟はなかった
何せ、俺は未だにけじめをつけられずにいたからだ。
もう大丈夫なんだ。何の心配もいらない。
そう思っていたのに、
「えっ……?」
俺は最悪の光景を目にしてしまった。
ある人物を見た瞬間、開いた口が塞がらず、持っていた袋が手からすり落ちた。
「浅野?」
当然広瀬は知らない。知る由もない。
俺の瞳には、数年前まで母だった人が映っていた。
でも、それだけではなかった。
義母さんの隣には、40代ぐらいの中年男性が歩いていて、義母さんは腕に絡みつくように抱き着いている。まるで何かに縋りつくように。
もちろん既に離婚しているし、慰謝料も請求しているから文句を言うつもりはない。
もう赤の他人だからどうでもいい……分かっているのに、
(さすがに気持ち悪い……)
「浅野? どうしたの? 大丈夫?」
崩れるように俯く俺のことを広瀬が心配してくれる。
幸い、義母さんたちは奥へ歩いていき、こちらには気づいていないようだった。
それでも俺の中でトラウマが蘇ってしまった。
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