49話 久しぶりの四人でゲーム
時刻は夜の八時。
これから三人とゲームの約束をしている。文化祭の準備は明日からになるそうなので、既に三人とも帰っているはずだ。
当然四人でやるので、パーティーを作ってゲーム内VCでやる。
LINEグループで通話しろ、と思うかもしれないが、結局ゲーム内VCが優秀すぎて完全に頼り切ってしまっている。
まあ、広瀬とやる時は例外なのだが……
『やほー! アサくん!』
早速、早乙女さんの声が聞こえてきた。
「や、やほ、早乙女さん」
『ふふっ、浅野。無理に杏菜に合わせなくていいのに』
「いや、だって……」
『やほ……アッサー』
「唯奈さんまで……」
最近広瀬だけでなく唯奈さんまで、俺をからかいようになってきた。
残りの希望は早乙女さんしか残っていない。
そんな呑気なことを考えていると、
『ねえ、アサくん』
早乙女さんが話しかけてきた。
少し厳かな雰囲気を感じる。
「どうしたの? 早乙女さん」
その雰囲気を汲み取り、俺も真剣に返事すると、
『むぅー』
一瞬にしていつもの穏やかな雰囲気に戻った。
『浅野分かってないの?』
「分かってないって何が?」
『いや、ほら。浅野って杏菜のことずっと『早乙女さん』って呼んでるでしょ?』
広瀬のそんな言葉に納得する。
そういえば、早乙女さんだけずっと他人行儀な気がする。
しめじさん、と呼ぶことがなくなったことにより、早乙女さん以外の呼び名がなくなって、今では苗字敬称呼びがすっかり馴染んでしまっている。
「いや、でも、なんて呼べばいいの? 早乙女さんは早乙女さんだしな……」
完全に早乙女さん呼びが定着してしまったので、今更変えづらい。
『って、言う割には、唯奈ちゃんのことは名前で呼んでるよね~?』
嫌味のように広瀬から言われる。
「えっと……じゃあ、杏菜、さん?」
『むぅー』
それだけマイク越しから聞こえてくる。
まだご不満なようで……。
「じゃあ――」
『せっかくだしアンちゃん呼びは――』
「却下」
結局その後、杏菜さん呼びに決まった。
◇◇◇
『ねえ、アッサー』
しばらくボス周回をして、現在ボスリポップの待機時間中。
近くの唯奈さんから声をかけられる。広瀬と杏菜さんは少し離れた場所で会話している。
『私が王子役ってどう思う?』
「どう思うって……?」
唯奈さんが言っているのは、文化祭の劇についてのことだろう。
『いや、ほら……女子が王子役ってさ……』
「確かにあまり聞かないね」
『だよね……やっぱ辞退しようかな……』
「え? どうして?」
俺の記憶が正しければ、唯奈さんは自分から王子役に立候補したはずだ。
「そもそもどうして立候補したの?」
唯奈さんのことだし、杏菜さんと一緒に演じたかった、とか、そういうのだろうか。
『それはアッサーが――あっ……』
「あっ? 俺がどうかしたの?」
『…………』
返事がない。
「唯奈さん?」
『なんでもない……』
「そっか。それでどうするの? 辞退するの?」
『アッサーはどう思う? 私に王子役が務まると思う?』
「うーん。演技とかはセリフを覚えればどうにかなりそうだけど……逆に唯奈さん以外務まらないと思う、かな」
なんと言っても姫役があの杏菜さんなので、他の人が隣に立つとどうしても違和感が出てしまう。
それは俺も例外ではない。他に例外がいるとすれば、向こうで杏菜さんに素材をねだっている女の子ぐらいだろう。
『むぅー』
「むぅー?」
今日は『むぅー』という三文字をよく耳にするな。
唯奈さんは一体何がご不満なのだろうか。
「まぁ、でも広瀬も杏菜さんもいるし、三人でセリフ覚えるのとか楽しそうじゃない?」
『確かに……でも、アッサーは?』
「俺ももちろんセリフを覚えないといけないけど、三人と比べて登場回数は少ないだろうし……それに魔法の鏡は王子様と関わりないしね」
『むぅー』
本日四度目の『むぅー』だ。俺はなんと言えばいいのだろうか。
『でもアッサーが言うなら頑張ってみる』
「そっか」
俺がそう言うと唯奈さんは杏菜さんの方へ、テクテク歩いていった。
そして、唯奈さんと入れ替わるように広瀬がこちらへ来る。
『浅野、唯奈ちゃんと何か話してたの?』
「まぁ、文化祭のことをちょっとな」
『なるほどね。それより鏡さん。この素材ちょうだい』
「誰が鏡さんだ――ってか……この素材って……」
『うん。ドロップ率0.5パーの素材』
「嫌だよ! 俺もやっとの思いで手に入れたのに」
『えー、いいじゃん、減るもんじゃないしー』
「減るよ!」
そんな俺たちの会話を聞いてか、離れた唯奈さんたちが会話に入ってくる。
『アッサー、私もこれちょうだい』
「どうして俺なんだよ……俺よりも杏菜さんから――って、杏菜さん?」
杏菜さんはなぜか少し離れた位置で固まっており、無言でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
『えっ!? いや、なんでもないよ。ただ、なんか二人が…………』
「二人が?」
『なんでもないっ! ほら! ボス湧いたよ! ひと狩りいこう!』
「某セリフをMMORPGで言わないで……」
その後も俺たちはボスを狩り続け、夜までゲームを嗜んだ。




