20話 体育祭 1
とうとう来てしまった体育祭当日。
俺と広瀬は『せっかくやるなら勝ちたい』と話したにもかかわらず、二人三脚の練習を一切やっていなかった。
やりたい気持ちは山々だったのだが、周りの目を気にすると到底できなかった。
きっと広瀬が周りの目を気にすることはないのだが、広瀬が気にしているのは恐らく俺の気持ちだろう。
俺の気持ちを尊重した結果、私も周りの目を気にする、という考えに至ったのかもしれない。まあ、単純に忙しかっただけかもしれないが。
何はともあれ体育祭本番……何事もなく終えてくれればいいのだが。
そんな不安な気持ちが募りつつ、体育祭が始まった。
俺の出る競技は【二人三脚】と【全員強制参加のクラスリレー】の二つだけなので基本的に座ることがメインになる。
もちろん俺は委員会やその他活動には一切参加していない。我ながら協調性が皆無すぎる。
広瀬はと言うとひねくれた俺とは違い、運動神経抜群なだけあって既に大活躍だ。それはもちろん早乙女さんも同様に。
俺を嫌っているであろう白鳥さんはと言うと、彼女も俺と同じく……椅子に座って、二人のことを眺めている。
俺の出番の種目、【全員強制参加のクラスリレー】は午前中で、【二人三脚】が午後にある。
クラスリレーは走るだけだからいいのだが、やはり一番の心配は二人三脚か……不安だ。
自分の運動のできなさに不満を抱きつつも、広瀬の種目が終わった。そろそろクラスリレーが始まるので準備しておかないと。
その前にトイレへ……そう思って席から立ち上がり、校舎の方へ向かおうとしたところで。
「よっ」
これから休憩に向かうであろう、頭に赤いハチマキを巻いた広瀬が話しかけてきた。
「よっ……って、普通に話しかけてくるじゃん」
体育祭とはいえ周りには人が常に行き交っている。もちろんA急美少女の広瀬だから注目もされるし、先程活躍したばかりだから更に注目を集めている。
「別に大丈夫でしょ。体育祭だし周りもそこまで気にしてない――」
「それが残念。周りをご覧下さい」
「わお。さすがに私とボッチの浅野だと体育祭でさえ違和感ありまくりってことだ」
「無意識に傷を抉らないでもらっても?」
「冗談じゃないけど冗談だって」
「それどちみち冗談じゃないじゃん……」
なんだか今日の広瀬はいつもと様子が違う気がする。もしかして……浮かれてる?
「ってことで私は休憩してくるから。クラスリレー頑張ってね」
「う、うん……ってクラスリレーは全員強制参加だって」
「私は何の心配もいらないからね〜」
「はいはい」と流しつつ最後に周りにバレないよう軽くグータッチを交わすと広瀬は背を向けて歩いていった。
そしてあっという間にクラスリレーの時間になり、開始を告げる火薬ピストルが鳴らされた。
クラスリレーは言葉通り同学年のクラス同士で競走するだけ。8クラスということもあって二回に分けられているが。
一周400メートルのグラウンドを一人ずつ半周で交代してバトンを渡していく。シンプルなリレーだ。
そんな普通のリレーなのだが……やはり不安だ。今現在、うちのクラスは早乙女さんがトップを走っている。さすがと言ったらいいか。
でも、その後トップだった俺たちのクラスは徐々に距離を詰められて俺の出番が来た時の順位は三位……まあ、俺は現状維持をして走ればいいだけの話だ。
そう考えて、グラウンドに立ったわけだが……運動神経皆無の俺には維持すらできなかった。
抜かされて最下位になってしまったのだ。当然と言えば当然だった。
とりあえず遅くてもいいからゴールまで、って……。
必死に前を向いて走っている俺の視界に映っていたのは俺のことを見つめる広瀬の姿。
そんな広瀬は俺と目が合うと、口を分かりやすく大きく動かして。
「が・ん・ば・れ」
いつしか見たような光景、広瀬はそう口パクした。
いや、頑張れって言われてもなぁ……と思った次の瞬間なぜか身体が軽くなったような気がした。
広瀬ってまさか魔法使いかなにかだったのか? これだったら行けるかも……俺が活躍できる時が来るなんて夢のよ――
「誰一人として抜かせなかった……」
広瀬に応援されて確かに少し速度が上がったとはいえ、そもそも俺の足の速さが限界に達したところで遅いのは変わらずだった。
ちなみに俺がバトンを渡した、次の人はまさかの広瀬だった。
『後は任せろ』
最後にそんなカッコつけセリフを言われて走っていった。
そのおかげで最下位だった俺たちのクラスは一瞬にしてトップに躍り出た。
さすがは広瀬だ。あの自信ゆえ実力も伴ってるらしい。
その後、広瀬はもちろん一位のまま次の人(白鳥さん)にバトンを渡して終わった。
白鳥さんは平均的な速度で一人から抜かれてしまったが二位で次の人にバトンが渡る。
そして最後のアンカー……まさかの佐藤くんだった。
さすが、『スポーツ男子』は伊達じゃなかった。
物凄い速度で一位に躍り出てそのまま広瀬と肩を並ぶ活躍をして女子生徒たちは大盛り上がりだった。
一位でゴールした後、「キャー」という歓声と共にクラスリレーは幕を閉じた。
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