21話 体育祭 2
クラスリレーが終わり、椅子で休憩しながら呆然とグラウンドを走る生徒を眺めていた。すると、その生徒の中に見知った顔が現れる。
広瀬と早乙女さんだ。お互い同じ速度で並走している。よくもまあ、あそこまで走れるものだ。体力が化け物じみている。
そんな感想を抱いていると、二人は机に乗った変な箱の前で立ち止まり、中から紙を取り出した。どうやら競技は借り物競争のようだ。
こういう時、物語の中とかなら『好きな人』というお題をよく目にするが、うちの学校はもちろんそんなお題は禁止されている。まあ当然と言えば当然。
そんなお題十中八九、生徒が困惑してしまう。
きっと大抵のお題は人間とかではなく物とかだろうな……。
そう思っていたのだが、次の瞬間、なぜか広瀬がこっちに向かって走ってきた。そしてその横にはなぜか早乙女さんも。
(いや、さすがにないだろう……)と思った矢先、広瀬と早乙女が目の前で立ち止まり、
「浅野!」「ユイちゃん!」
お互いに名前を呼んで手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと広瀬」
「黙って、早く走るよ」
俺の有無関係なしに、広瀬と手を繋いでトラックの上を走る。もちろんその横には、俺と同じく早乙女さんに手を引かれた白鳥さん。
周りを見るに俺たちと早乙女さんたちがトップ。つまり今横にいる早乙女さんたちを抜かせば俺たちは一位ということになる。
「浅野、ちょっと本気で行くよ」
「えっ、う、うん」
そして転けそうになりつつも広瀬に手を引かれた結果……ギリギリで俺たちが一位で終わった。
でもまだ一位と確定したわけではない。そう、お題の内容が違えば足の速さ関係なく最下位になってしまう。
広瀬と早乙女さんが審判である伊藤くんに紙を渡して判定を待つ。
一度伊藤くんと広瀬が目を見合せて、目線だけで何か確認し合う。
結果は……広瀬が一位、早乙女さんが二位で終わった。
「やったね、浅野」
「まあ、うん」
困惑しすぎて正直実感がなさすぎるけど、一位になれたのはかなり嬉しい、かも。
広瀬と周りにバレない程度の軽いロータッチを交わす。
「ちなみにお題は何だったんだ?」
借り物競争が終わり、席へ戻りながら広瀬にそう訊く。
「ああ、えっと、お題はシンプルに『仲のいい友人』だよ」
「おお、めっちゃシンプル。でもそれなら俺よりも――」
そう言おうとしたところで後ろに早乙女さんと白鳥さんがいることに気がついた。
そういえば特に広瀬と仲のいい二人も競技に出ていたので必然的に俺になったというわけか。
「杏菜ちゃん……ちなみにお題は……?」
白鳥さんのそういう声に思わず耳が反応する。
「えーと、確か『仲のいい友人』だったかな? 美波かユイちゃんを連れていこうとしたけど、美波は敵だったからユイちゃんがいて良かったよ!」
「うん……」
そんな二人の仲睦まじい話し声に心が浄化される。
……って、そんなことよりお題、なんと言った? 仲のいい友人? いや同じお題でも特におかしくはないのだが……。
「なあ、広瀬……って、おい、なんで顔を逸らす」
「いやー、なんでだろうねー? なんか顔が勝手に……不思議な力でー」
そんな広瀬の反応で一瞬にして理解する。どうやらお題は『仲のいい友人』ではないらしい。気になる。
「おい、お題何だったか教えろ」
「……やだ」
「やだって……そんな駄々こねるみたいな……」
「いつか教えてあげる」
きっと一生教えてくれることはないだろう。まあ、そんなに言いたくないのなら無理に聞くつもりもない。気になるけど大した内容でもないだろうし。
「おいおい、広瀬さん帰ってきたけどお題何だったんだろうな」
自クラスのスペースへ戻ってくると同じクラスの男子の声が聞こえてくる。
「んー、まあ『ボッチな人』とかじゃね?」
「ひっでぇー、そんなお題書く性格悪い奴なんていねーだろ」
きっと『ボッチな人』ではないと思う。そんなお題書いたとしてもまず先生が通さないと思うし。
「大切な人、ね……」
考えていると広瀬がボソッと何かを呟いた。
「広瀬、今なにか言ったか?」
「なんでもないよ、ボッチくん」
「おい、ボッチ言うな……って、お題は本当にボッチ、なのか……?」
辛い。まさか本当にそんな酷いお題だったなんて。こんなの公開処刑も同然だろう。ああ、ボッチに厳しい世界だ。
「そんなわけないじゃん……バカ……」
また広瀬が何かを呟いたが最後の『バカ』の部分しか聞き取れなかった。恐らくいつも見たくボッチの俺をバカにしているのだろう。まあ、もう慣れたからいいけど。




