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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第一章
9/71

7.領主館

 翌日再びハンターギルドを訪れたルカとハイリス。

 入り口のドアを開けて中に入ると、丁度ベルタが依頼の貼り出された掲示板の前に立っていた。

 ドアが開く音を聞いて振り返るベルタ。


「おう来たか。認識タグできてるぞ、ちょっと待ってろ」


 一度受付に引っ込むとタグを持ってルカたちの元に戻ってきた。


「これがタグだ。安物の革の紐とセットで首に下げられるようになってる。紐と長さは適当に自分で変えてくれ」

「ありがとうございます」


 そのままだと長すぎるため、ルカは一旦タグを受け取ると鞄にしまった。


「ギルドの仕組みは説明するまでも無く知ってるだろ? あっちの壁にある依頼票を取って受付で受託手続きをして、完了したら受付に納品なり何なりして報酬を受け取る。そんだけだ」


 依頼の貼り出された掲示板は雑多な様子で、採取に討伐、探索、掃除などなど、ずっと貼られたものから新しいものまで混在している。

 丁度ルカたちが訪れたとき、ベルタはこの混沌とした依頼票を整理しようとしていたらしい。

 貼り出された依頼は難易度も様々で、失敗したときにペナルティがあるものもある。

 純粋な戦闘力だけでなく、自分の力量を理解し、その中で報酬が高い依頼を吟味する力もハンターに求められる。

 ギルドで実績を積んでいくと、ギルド側から指名依頼がくる場合もあるため丁寧に失敗なく依頼をこなしていくことが重要だ。


「そうだ、伝言を預かっていた。この後、領主館に行ってみてくれ。勇者様に何か便宜を図ってくれるみたいだぞ」

「?? はい、行ってみます?」

「領主代行とは友達(ダチ)でな、昨日勇者様とやり合ったって自慢してやったんだ。んで、偉そうなだけで魔王と戦う勇気ある若者に何か便宜の一つも図ることはできんのか? って言ってやったんだ、ガハハ」


 (……友達? 完全に煽ってるような……)


    ●○●○●


 ――――商業都市メルケイト、領主館。


「君が勇者かね、話には聞いていたがまだ若造じゃ無いか」


 小難しそうな表情をした男性が入室したルカ対しぶっきらぼうに言う。


「アージェンス様はまだ子供のように見える勇者様に驚いておられます」

「……とりあえず掛けてくれ」


 領主代行の執務室はきれいに整えられていた。

 部屋の主を表すかのように、シンプルに執務机と来客用のソファーとテーブル、壁側には天井までの本棚が置かれており、書類は几帳面に整えられている。調度品も置かれてはいるがくどくならない程度に最低限あるだけだ。

 ルカはソファーに腰掛けながら、横でお茶の準備をしている、先ほどよく分からない説明を被せてきたメイド服の女性に思わず声を掛ける。


「……えーと、あなたは?」

「私はアージェンス様の秘書官兼、メイドでございます。 私のことは壁に飾られた美しき絵画とでも思って頂ければ」


 そう言ってきれいにお辞儀をする秘書官? メイド?

 謙遜しているようで、自分を絵画だと言っており自己評価が高い、何とも言えない回答にあっけにとられるルカ。

 お茶を配り終えると、自称、秘書官なメイドは領主の座るソファーの斜め後ろスススッと立った。


「ごほん。改めて、私がこの商業都市メルケイトを収めている領主代行のアージェンスだ、よろしく」


 領主代行は先ほどのやりとりは無視して進めるようだ。

 ロマンスグレーの頭髪、きれいに整えられた髭、眉間にしわが刻まれ気難しい印象の男性、それがルカの感じた領主代行の印象だった。


「アージェンス様、笑顔! もっと笑顔でフレンドリーにです! だからお孫さんにも怖がられて凹んじゃうんですよ」


 横から小声で領主代行にエール? を送るメイド。

 孫に怖がられ凹む領主代行、顔に似合わず優しいのかもしれないとルカは思った。

 あと、それを相談される程度にはメイドとも良い関係なんだなと。


「フォルティスの町出身のルカです。女神様から勇者のお告げを受けました」

「私はハイリス、フォルティスの教会の神官で王都の大聖堂まで付き添いです。この都市の勇者選定の聖具で実際に確認されますか?」

「いや、不要だ。勇者であろうとそうで無かろうと、この都市、この国の益になる人材であればそれで良い」

「アージェンス様は、若者よ、勇者という肩書きに振り回されずできることを頑張れ、とおっしゃっています」


「…………」


 ふんすっ、と領主代行の隣で両手を握って腰に引き寄せるポーズを取っているメイド。

 領主代行はスルー、ルカも頑張ってスルーする。


「ごほん。それでだ。私からささやかだが贈り物がある。これから王都に向かうのだろう? 王都への通行証と連絡馬車の乗車券を贈らせてもらおう。通行証は役所で申請すると数週間はかかる。勇者様の旅をこの街で足止めしてしまうのは忍びない」

「アージェンス様はご自身に与えられた裁量内で力になれることは無いかと、お忙しい中、必死に考えられたのです」


 手品のようにどこからか出したハンカチで目元を拭うメイド、ちなみに涙は微塵も出ていない。


「ありがとうございます! 助かります!」


 ルカは無くさないように、受け取った通行証と乗車券を鞄の奧にしまった。


「決して、あのクマゴリラに煽られたからでは無いからなっ! 『お貴族様は何もしてくれないのに、何か成果上がると我が事のように誇るんだから、はぁーやだやだ』とか言われた訳では無いからな! これも領主代行としての務めだ」


 何か私怨が混ざった言い訳をする領主代行。


「アージェンス様とクマゴリラ、げふん、ハンターギルドのギルドマスターは同級生の幼なじみでして、昔から喧嘩する程仲がいい――」

「余計なことは言わんでいい」


 最後に無視できなくなったのかメイドに突っ込む領主代行。

 この二人も何だかんだ仲が良さそうだ。


「はぁ……お前がずっと真面目にやってくれれば完璧なんだが……」

「何をおっしゃいます! アージェンス様がぶっきらぼうだから私が誤解無きよう説明を差し上げているのです。生ける清涼剤!」

「それが余計だと言っているのだ! それにいつもやる訳じゃないだろ」

「私も時・所・場合(TPO)は弁えておりますので」


 自信満々に胸を張る自称清涼剤。


「はぁ~~。ただの無礼者であれば叩き出すのだが……誰よりも有能だからたちが悪い……」


 深い溜息と共に領主代行は言い返すのを止めた。


「お褒め頂きありがとうございます」


 何食わぬ顔で深々ときれいな礼をするメイド。


 ルカにとっては、領主館に入るのも、都市の代表者との謁見も初めてでありとても緊張していた。その上、ぶっきらぼうな物言いでは、萎縮してしまっただろう。そこにメイドのよく分からないフォロー。緊張せずに済んだのは間違いない。メイドの判断はきっと間違っていなかったのだろう。たぶん。

 その後、今後の予定などについて少し会話をし、ルカとハイリスは部屋を辞した。

【ざっくり設定集】領主代行

 領主は普段、王都か領都におり、それ以外の主要な都市には信頼のおける領主代行を立てて治めている。

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