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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第六章
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66.閑話 砦村陥落②

 ――――町中(まちなか)では。


 あちらこちらから火の手が上がっている。

 人々は逃げ惑い、悲鳴と怒声が木霊する。


「早く! 教会に! 急いで!」


 聖杖を手に人々を誘導するのはハイリスの妻であるアンナだ。

 ハイリスと一緒になりこの田舎の教会にいるが、本来彼女は聖女と呼ばれる程の才を持つ存在だ。


「はぁああ」


 グギャッ――――


 横合いから飛びかかってきた小鬼(ゴブリン)を聖杖で叩き落とし、鋭利な石突きで心臓部を突き刺す。

 この町の最大戦力であるハイリスとルシウスが魔人と対峙しているため、町中まで入ってくる魔物と魔獣が増えてきた。


(エレナ、ステラは無事なの?)


 魔物を叩き伏せながらアンナは、まだ逃げてこないルカの母と妹の安否を心配する。


    ●○●○●


 ――――ルカの実家。


「あなたはこの中に入ってなさい」


 比較的北門に近い位置にあったルカの家は、あっという間に周囲は魔物に占拠されてしまった。

 もう外には逃げられないと悟ったルカの母であるエレナは、咄嗟に床下に作られた食料庫の蓋を開けた。

 地下に作られた小さな食料庫、子ども一人がかろうじて入れるくらいのスペースしかない。


「絶対お母さんが開けるまで出てきちゃダメよ?」

「お母さん!」


 ステラが悲鳴を上げるが、そのまま蓋を閉じ、見つからないように棚を倒し覆い隠した。


 ズーン、ズーン――――


 家が大きく揺れる。

 外では大型の魔物が無茶苦茶に暴れ回り家屋を壊している。


 ミシッ……ミシッ……ガラガラガラ!


「ああ……ごめんなさいあなた、ステラ……ルカ、出迎えてあげられな――――」


 ガシャーン!


 とうとう絶えきれなくなった家は、濛々(もうもう)と砂埃を上げ潰れた。


    ●○●○●


 ――――北門前。


「人類も意外とやるもんじゃないか」


 あくまで余裕を崩さず魔人が(わら)う。


「はぁ、はぁ……ハイリス大丈夫か」

「ああ、まだいける」


 魔人の気まぐれか、相手が本気で攻撃をしてこないため何とか二人でこの場に釘付けにすることが出来ていた。

 しかし、ルシウスもハイリスも中年過ぎ。体力が限界に近づいていた。

「ハイリス……倒す術はあるのか?」

「ある……が、詠唱に時間が掛かる。恐らく気づかれて当てられない」


 魔人から目を離さず二人は言葉を交わす。

 魔人は追撃をしてこないようだ。


「そうか……なあ、ハイリス? オレにもしものことがあったらエレナとステラのこと頼んだ」


 急に優しげな表情になったルシウスはハイリスに後のことを頼んだ。

 彼は覚悟を決めた。


「ちょっ! おま! 縁起でもねぇ」

「頼んだぞ! ウォーッ!」


 ハイリスが止める間もなく、ルシウスは魔族に突っ込んだ。


「ルシウスっ! ちっ、くたばるんじゃねぇぞ!」


 ハイリスはすっと真剣な表情になり、彼が使える中で最上級の神聖術の発動に入った。

 原初の魔法ともされる神聖術。魔力を使わず発動できることから神の力を借りているとも言われている。

 ハイリスを中心に魔力とは違う、何か強大な力が集まっていく。


「相談ごとは終わったか? オレを楽しませてくれ」


 鋭く切り込んだルシウスの剣に魔人は瘴気で黒く変色した腕を合わせ弾く。腕の先は獣のように鋭い爪になっている。カウンターで振るわれた魔人の腕がルシウスの頬を浅く切り裂き出血する。

 そこからルシウスは体力を振り絞るように接近戦をしかけ、息つく暇も与えない早さで連撃を加えていく。

 さすがの魔人もこれにはルシウスに釘付けにされるが、ルシウスの体力は尽きかけていた。


「はぁああ! っ! ぐぁああっ!」


 ズブッ――――


 大ぶりになった隙を見逃さず魔人の腕がルシウスを貫く。


「ハイリス、オレごと撃て!!」


 魔人の腕に貫かれながら、ガッチリと押さえ込んだ。


「なっ、離せっっ!」

【滅べ、この世に仇成す魔の者たちよ!】


 ハイリスは歴代教皇でも撃てる者がいるかどうか、と言われる最上級の神聖術を放った。

 その純白の砲撃は寸分の狂いもなく魔人の上半身を吹き飛ばした。ハラハラと黒い粒子となって溶けていく魔人。

 地面に崩れ落ちたルシウスに駆け寄るハイリス。


「ルシウス! っ!」

「げふっ……やったな……後は頼んだ――――」


 ルシウスを貫いていた魔人の剣は心臓付近を貫いていた。止めどなく流れる血がルシウスの命が流れ出ていくかのようであった。


「くそっ! くそーっ!」


ハイリスは地面を殴りつけた。だが、悔やんでいる時間も惜しい。今もまだ町の中には魔物と魔獣が溢れている。


    ●○●○●


 ルシウスの亡骸を近くにまだ残っていた建物内に入れ、ハイリスは走る。

 魔人と戦闘をしているうちに、押し寄せた魔物と魔獣によって防衛線は町の中心部まで下がっていた。

 町の中心部には人々が避難しているだろう教会がある。今は生きている者たちを守るのが先決だ。


【降り注げ! 千の光の矢】


 ハイリスは魔物の大軍に範囲攻撃の神聖術を放ち道を開く。悔しいが今は一軒一軒生存者を探している余裕はない。


「アンナ!」

「あんた生きてたのね!」


 教会の入り口で仁王立ちをしていたアンナに駆け寄る。

 彼女は衣服はボロボロであちこち血が滲んでいたが何とか無事であった。

 周囲には生き残った町のハンターたちが固めて教会を守っている。


「ルシウスの一家を見てないの。 ハイリス見てない?」


 アンナが心配そうな顔で尋ねる。


「ルシウスはダメだった。エレナとステラは見ていない。きっと大丈夫だ!」

「そう……ルシウス……」


 パンパン!――――


「今はここを死守しないと!」

「ああ」


 自分の頬を思いっきり両手で叩くとアンナは前を向いた。

 相変わらず魔物と魔獣が押し寄せている。救援が来るまで持つだろうか? 弱気なこころがハイリスに湧いてくるが、隣で戦意を衰えさせないアンナを見て気合いを入れ直す。


 その時――――


「んっ? 奴ら動きが変わった……? 何だか隊列がぐちゃぐちゃに……」


 先ほどまで魔物は種族ごとに固まり攻勢を強めていたが、突然バラバラに動き始めた。少し先の方では魔獣と魔物が争っている様子も見える。

「今だ攻勢をかけるぞ!」

「「「おおっ!」」」


 アンナに教会の守りを任せ、ハンターたちと共に一気に攻勢に移る。

 十匹ほど小鬼(ゴブリン)を切り捨てると、先ほどまでと異なり小型の魔物は奇声を上げて逃げ散って行った。


「よし、町から敵を追い出せ!」


 まだまだ町中に大型の魔物や魔獣が残っているが、軍のように組織だった動きがなくなっただけで戦いやすくなった。一匹一匹が本能に従った、ただの獣であればハンターにとっては決して敵わない相手ではない。

 こうしてフォルティスの町は建物と住民に甚大な被害を受けつつ、何とか危機的状況を乗り切ったのであった。

次回更新は7/19予定です。

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