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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第五章
58/71

56.大侵攻

 ――――驚きの一報から二時間後。


 ルカたちは女王エレオノーラに呼ばれ応接室にいた。


「皆さん、お待たせしました。方針が決まりました」


 そこで一旦言葉を切り、ルカたちを見回すと続ける。


「情報は現状伝鳥便だけのためかなり限られています。しかし、大侵攻として連絡が来た以上、かなりの規模が予想されます。我が国としてもこの世界の危機に兵站の提供と軍を派遣することを決めました」


 フェルティラ王国は大陸の南方に位置し、魔族の脅威は少ない。そのため保有する軍の規模は多くなく、平時は魔族領と接する帝国や諸国連合に対し、資金提供や食料を安く提供することで貢献をしていた。しかし、大規模な侵攻に対して今必要なのは兵力だと考え派兵を決めたようだ。


「ルカさんたちには我が軍と共に帝国方面から北進して頂き、帝国軍と合流。その後、魔王城があるとされる最北の地に向けて押し返します。そして……全戦力を持って魔王を倒します」


 最後の大規模戦闘が起きてから五十年以上、散発的な衝突しか起きていなかったため、必要以上に刺激することを避ける不文律が生まれていた。

 しかし、今回の大規模な侵攻。また、勇者が誕生したこのタイミング。この機に魔王を打倒しようという声が強まったようだ。


「ルカさん、皆さん……どうかお気を付けて……」


 エレオノーラに見送られ、勇者パーティーは激戦の続く大陸北方に舞い戻った。


    ●○●○●


 ――――フェルティラ王国を発っておよそ二ヶ月。


 ルカたち一行は大陸北部、山岳地帯の最前線に到着した。

 魔族領と人類の領域は険しい山々で隔てられており、その谷を埋めるように砦が築かれ、これまで魔族領からの大規模な侵攻を阻んでいた。

 今はその谷間がどこも魔物と魔獣で溢れかえっている。

 前線は虚を突かれた人類側の動員が遅れ、既に複数の砦を失うという苦しい事態になっていた。

 ルカたちが派遣されたのは、人類側の魔族領攻略の橋頭堡(きょうとうほ)となる陣地である。ここを抜かれると人類側の反撃に有利な陣を失ってしまうことになる重要な場所だ。

 そのため、防御壁の損耗を減らすため、世界連合軍は壁の外に陣を敷き今も大規模な戦闘が起こっている。


 ドゴォーン! バーン!

 ガンガンガン!


「予備第三部隊、右翼第一部隊のフォローに入れ! 急げ!」


 矢継ぎ早に前線指揮官から指揮が飛ぶ。


「ぐぁあー。腕がうっ……」


 魔獣に噛みつかれ、そのまま吹き飛ばされた兵士がうめき声を上げる。

「衛生兵、衛生兵!」


 ところかしこで倒れ伏した兵士と衛生兵を呼ぶ声が木霊している。

 そんな中でルカたちも奮戦していた。

 ルカとバルドは前線で、アイシャとレミッサは防御壁の上から援護をしている。レミッサに関しては重傷者の治療も担っており大忙しだ。


「ルカ! 左が危ない! 抜かれそうだ!」

「分かった!」


【放つ、聖なる斬撃】

「ハッッ!!」


 シュッ――――

 ギャギャ――――


 ルカの一撃で二十体ほどの魔物が真っ二つに切り裂かれた。

 しかし、直ぐに後ろから新しい敵がやってきて埋めてしまう。焼け石に水状態だ。


「くそっ! 多すぎる!」


 バルドが吐き捨てる。


「ルカ! 今のあと何発撃てる?」

「えーと、あと三回!」

「押し切られるぞ! 切り札を切れ! 担いで撤退してやっから!」

「分かった!」


 バルドに守りを任し、詠唱に集中する。

 長い詠唱が終わり最上級の勇者魔法が発動する。


【浄化す。魔を滅ぼす聖なる領域】


 ピカーーーーー、シュン――――


 ギャオーン!

 ガァーー!


 見渡す限りの魔物は全て黒い靄となって消滅した。残った魔獣も地に倒れ苦しんでいる。


「勇者様がやってくれたぞー。押し返せ」

「「「おおっー!」」」


 圧力がなくなり一気に前線を押し上げる兵士たち。


「お疲れさん。もう一回で撃てるようになったな」

「戦いながらは無理だけどね」


 バルドの差し出した手を引き座り込んでいたルカが立ち上がる。


「どうする? あっちは大丈夫そうだが。休憩するか?」

「うん、前よりはマシだけどかなり疲労感はあるから、正直きつい……」


 以前は発動後、しばらく立ち上がれないほど疲弊してしまっていたが、何度か撃つ度に少しは改善していた。しかしそれでも、パフォーマンスは大幅に低下する。無理を通す場面でなければ休憩した方が良さそうだ。


    ●○●○●


 防御壁を潜り陣地の中に入ってきたルカたちをアイシャとレミッサが迎えた。


「相変わらずの威力ねー。見ていて気持ちが良いわ」


 防御壁の上から見えていた光景は、ルカを起点に広がった光の壁が敵に触れると黒い靄となってサッと消えていくという光景だった。地を埋めていた魔物が溶けていく光景はとても気持ちが良い。


「ルカさん、バルドさん。お怪我はないですかー?」


 レミッサがルカとバルドの周りをクルクル回りながら尋ねる。


「大丈夫だよ。僕もバルドも大きな怪我はしてない」


 ちょっとした擦り傷や切り傷は絶えないが、神聖術による治療が必要な程の怪我はしていない。

 ルカの活躍もあり、この地域の戦闘は人類側が有利に運ぶことができた。


    ●○●○●


 ――――次の日。


 ルカたち一行はこの防衛陣地の最高司令官に呼び出されていた。


「勇者様、皆様ご足労頂きありがとうございます」


 最高司令官は年嵩な男性で白髪、白髭で好々爺とした雰囲気であった。

「いえいえ、こちらこそ」


 予想外に丁寧な扱いにぎこちなく返すルカ。


「お呼び立てしましたのは他でもありません。今後のことについてです」


 本題に入ると好々爺としていた司令官の目が武人の目に変わった。


「我が方は勇者様のご活躍もあり、有利に戦況を進めることが出来ております。しかし、各方面の情報によると他の場所では苦戦が続いているとのことです」

「それでは僕たちが応援に向かえば良いのですね?」


 司令官は静かに首を振った。


「それでは根本的な解決にはなりません。他の場所に応援に行っている間に他の場所が危なくなる。次はそこに応援に行く。その繰り返しになってしまいます」


 そこで一度切り、少し決意したように続ける。


「そこで我々は魔王を伐つために逆侵攻を掛けます。幸いここから魔王城までは一番距離的には近いのです。魔物を操ると言われている魔王を倒せば、他の場所に押し寄せている軍勢も総崩れになるでしょう」

「魔王……討伐……」


 ルカは言葉を(きゅう)した。

 勇者の本懐として魔王討伐は当然ある。ルカも理解はしていた。しかし、いざ実際に直面した時、少し臆した気持ちになった。

 魔人ウンブラとの戦いを思い出す。あのときは腕を切り飛ばし撤退に追い込むことが出来たが、向こうにはまだまだ余裕があるように見えた。自分たちもこの数年で成長していると感じているが、果たして届くのか? さらには魔人の王たる魔王である。自信と不安がグルグルと回った。


「分かりました。全力を尽くします!」


 自分の中の弱い気持ちに首を振る。少なくとも全く相手にならないことはないだろうと言い聞かせ、ルカは司令官の言葉に頷いた。

次回更新は6/14予定です。

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