47.閑話 姫への手紙
――――フェルティラ王国、王城、エレオノーラ姫の私室。
エレオノーラはルカから届いた手紙を読んでいる。
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エレナ様
お元気ですか?
僕たちは今、アルミス帝国の帝都に居ます。
先日までは帝国の北東の街、フリグスに行っていました。
街が魔人に支配され、帝国軍による奪還作戦への支援要請を受けてです。
魔人と初めて対峙しました。
魔人はウンブラと名乗り、その姿形は人族と見間違える様相でした。
知能も高く対話も可能です。
驚くことに、街の領主は賊を生け贄にする代わりに、領民には手出ししないよう交渉をしていたのです。
最終的には彼が途中で引き、何とかなりましたがとても強い相手でした。
昨日はこの功績が評価され、皇帝陛下と謁見しました。威圧的な雰囲気でとても緊張しました。
また手紙を送ります。
ルカ
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エレオノーラの要望で、若干辿々しい部分もあるが、始めの頃よりも大分砕けた書き方になっている。
「人と見間違えるような……魔人……」
魔人の記録はとても少ない。
腕が四本あった、コウモリのような翼が生えていたなどの記録もあるが真偽不明だ。
なぜなら、魔人と遭遇して生き残った者がほとんどいないからである。正確に言うのであれば、魔人との遭遇記録のほとんどは一部の部隊が忽然と消え、魔人が出たのではないか? というレベルの話である。魔人は人を食べる。そのため遺体が残らないのだ。
そのため、今回のように大勢の人に目撃された事例は極めて珍しいのであった。
「対話も可能……これは人に紛れ込む可能性もあるのでは……」
エレオノーラは独り言のようにつぶやく。
実際には、魔人は瘴気から出来ており、姿形は似てようともその圧倒的なプレッシャーは人と見間違えることはないのだが、彼女はそのことを知らない。
「帝国がルカさんたちに支援要請……皇帝と謁見……」
プライドの高い帝国が勇者とはいえ支援を要請することは違和感がある。結果的にそのことが帝国軍を救ったようだが、皇帝グラヴィスを知るエレオノーラには裏があるように感じられた。
「ルカさんたちを取り込もうとしている……?」
実際には実力を見ようという魂胆であり、推測は飛躍していたが、今後帝国が取り込もうと動く可能性は否定できない。
「ルカさんたちに取って不利益にならないようにしないと……」
エレオノーラはルカの手紙を脇に置きペンを取った。
この度の魔人による侵略への見舞いと、勇者とフェルティラ王国につながりがあることをやんわりと示すため。要は外交的な牽制だ。
彼女はルカの手紙から、自分のできる範囲で各国に働きかけるなど裏でサポートをしていたのであった。
「ふう……、あら?」
帝国への手紙を書き終え、横に避けていたルカの手紙を封筒に戻そうとしたところ、中から小ぶりな一輪のドライフラワーが出てきた。
深紅の花弁が美しいアルミスバラだ。アルミス帝国の特産品でもある。
「きっとルカさんは花言葉なんて気にしてないのでしょうけど……」
花言葉は”あなたを愛しています”最愛の人に送る花として良く使われる。
エレオノーラは机に頬杖をつきながらその深紅の花を指でつまむ。
王族である以上、恋愛結婚など夢のまた夢。分かってはいるもの一人の乙女としては憧れを抱いてしまう。まして、勇者と姫という間柄だから。
しばらくの間、エレオノーラは深紅の花を静かに愛でるのであった。
次回更新は5/14予定です。
第四章はこれで終わりです。




