46.アルミス帝国
ガタッ、ゴトッ――――
馬車の車輪が石を踏み車体が揺れる。
天気は晴れ、帝国北部ではあるが麗らかな日差しが木々の隙間から射し込み暖かくて丁度いい。
勇者一行は、フリグスの街の奪還を成し遂げた帝国軍の部隊の撤収に合わせ街を後にした。今は輜重部隊の荷馬車の一角に乗せてもらっている。
これだけの一団であれば魔物も魔獣も襲ってこない。平和なものだ。
ガタッ、ゴトッ――――
「がふっ……すぅーすぅー」
ルカに寄り掛かって寝ていたレミッサが、馬車が揺れた拍子に頭をぶつけて変な声を出す。だが再び穏やかな寝息に戻った。首が変な方向に曲がっているが大丈夫だろうか……
「帝都ってどんなところなんだろう? バルドは行ったことある?」
「いんや、オレは砦村を出て真っ直ぐ剣聖の里に行ったから寄らなかった」
「アイシャは?」
ルカはアイシャにも水を向ける。
「私は行ったことあるわ。ごみごみしてて好きじゃない……」
何だか嫌そうな顔だ。
「アイシャは何だか帝国嫌ってるみたいだけど何かあるの?」
「五十年くらい前かしらね? 昔の皇帝がエルフの里を属領にしようとちょっかい掛けてきたことがあるのよ。それで小競り合いになって追い返したの。森の中でエルフに勝とうだ何て百万年早いのよ! だから帝国は嫌い!」
帝国軍の一団にいるため小声ではあるが、いーっと言う。
「アイシャも戦ったのか?」
「ん? 私は子どもだったから戦ってないわ。失礼しちゃうそんなに歳食ってないわよ」
バルドの問いに失礼しちゃうと不機嫌に返すアイシャ。
「エルフの年齢って分かんねーんだわ。見た目もずっと変わんねーし」
「よく見なさいよ、シワとかないでしょ! 人間観算で言えばあなたたちと大体同じくらいよっ!」
ぐいっと顔を近づけられたバルドがたじろいでいる。
「悪かった悪かった。近い近い」
「あれぇ? 照れてる? 照れてる? かわいいー」
押し止めるバルドにアイシャが茶化す。
「照れてねーよ!」
賑やかに勇者一行は帝都への道を行く。
●○●○●
ガタガタと馬車の一団は帝都に入っていく。
「これが帝都……」
ルカは道の左右を忙しなく見渡す。
馬車が進む大通りには道の左右に魔石で光る街路灯が設置されている。見える建物もレンガや石造りなど統一感があり洗練された印象だ。
フェルティラ王国の王都でも、都会だとなと思っていたルカであるが、帝都はまた別格だった。
カタカタカタカタ――――
石で舗装された道を馬車は行く。圧倒的に揺れが少ない。
馬車はそのまま帝都の表通りを進み、途中で道を逸れ帝城の横にある帝国軍の駐屯地までやってきた。
「ふぅー、着いた着いた」
バルドが馬車から飛び降り伸びをする。
魔物や魔獣の脅威はなく快適な旅ではあったが、長時間馬車に揺られているのはそれはそれで体が疲れる。
「勇者様方、お疲れ様でした。お部屋を用意してありますのでご案内致します」
馬車から降りて荷物をまとめていると、帝城の方から侍女が一人やってきた。今日は帝城に泊まれるようだ。
「流石帝国、太っ腹ねー」
アイシャが嬉しそうに言う。一般人が帝城の客室を使わせて貰える機会など普通はない。
「皇帝陛下との謁見は明日になりますので、本日は客室でごゆるりとお過ごしくださいませ」
侍女の案内で帝城内にある客室に案内された。
一人一室が宛がわれ、ルカが案内された部屋の広さは実家のリビングを越える広さがありルカは驚く。
その後、夕食は勇者パーティー四人だけで、客室近くの小さめなラウンジに用意された。
「うんめぇー!」
バルドが文字通りガツガツと料理を平らげていく。身内しかいないため小難しいテーブルマナーは無しだ。
用意されたのは牛のステーキをメインとしたコース料理。正式には牛の何とかステーキなんだろうが、庶民のルカは牛であることしか分からなかった。
前菜、スープにメインと続き新鮮なフルーツを使ったデザートまで、これには女性陣も大満足だ。
「あー、おいしかった。援助依頼受けて良かったわね。これに加えて報奨でしょー」
帝国があまり好きではないアイシャもニッコリな夕食を終え、食後のティーブレイクをしていると、ルカが話を切り出した。
「報奨についてなんだけど、ちょっと考えがあって――――」
●○●○●
――――アルミス帝国、帝城、謁見の間。
謁見の間の玉座に座る偉丈夫、アルミス帝国、皇帝グラヴィスが鷹揚とルカに口を開く。
「勇者ルカよ。この度の功績、報奨として何か望むものはあるか?」
皇帝グラヴィスは試すような視線でルカを見つめ問いかける。
「恐れながら。フリグスの領主の刑を軽くして頂けませんでしょうか?」
「領主の? 他人であろう。何故願う」
グラヴィスは面白そうな表情で理由を尋ねる。
「今回魔人と初めて対峙して感じました。常人では恐怖で何もできないだろうと。そして、恐らく何もしなければ魔人一人によってフリグスの街は滅ぼされていたでしょう」
ルカはここで一度話を切り、グラヴィスを見つめながら続ける。
「しかし、実際は勇敢なる領主の機転によって魔人による犠牲者を出さずに済んだ。これはとても凄いことだと思います。そんな彼を極刑などの重罪として裁くのは、帝国にとっても損失です。何卒領主への御慈悲を」
グラヴィスは少し考える素振りを見せながら答えた。
「ふむ。この国の法律故、軽々しく約束は出来んが勇者殿からの意見承った。善処しよう」
「よろしくお願い致します」
ルカは深々と頭を下げた。
●○●○●
――――控え室。
「緊張したーっ」
「お疲れお疲れ、オレも肩こったわ」
バルドがルカの肩を叩く。
「言葉遣いもそれほど変じゃなかったわよ」
うんうんとアイシャが頷く。
「これで少しは減刑されるといいですねー。せっかく領民を救ったのに厳罰じゃ後味悪いですー」
レミッサは眠そうな声だ。
起きてはいたようだが、お偉いさん方の長話で眠くなったようだ。とはいえ皇帝を前に大した物である。
「領民への被害を食い止めた功労者が死罪じゃね……」
ルカが神妙な雰囲気で首を振る。
そう、昨日食後にルカが皆に相談したのはこのことであった。
フリグスの街の領主、ファトムは帝国軍に逮捕された。罪状で言えば神敵である魔族に与したことになり、最悪死罪になる。
魔人と対峙したルカは、あの得体の知れないプレッシャーを浴びながら領民を救った彼が、このまま厳罰に処されるのはあまりにも不憫だと思った。なので勇者一行への報奨として、減刑を申し入れることを仲間たちに提案したのであった。
「勇気あるおっちゃんだよなー、魔人と交渉するなんて。食われっかもしれないのに」
バルドが椅子に腰掛け頭の後ろで両手を組みながら言う。
「本当、本当。あたしも魔人を見た時、鳥肌が止まらなかったわ」
アイシャも腕を摩りながら同意する。
「得体が知れませんでしたねー。竜とは違うプレッシャーでしたー」
竜のプレッシャーを知るのはレミッサぐらいだろうが、レミッサも魔人を見て感じるところがあったようだ。臆している様子はないが。
「もっと強くならなきゃね……」
ルカがそう言うと、皆無言で頷いた。
まだ魔人には届かない――――それは共通認識のようであった。
次回更新は5/10予定です。




