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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第三章
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35.閑話 ビスの過去

 今回は閑話です。

 定期馬車便の御者、ビスの過去のお話。

 ――――ある天気の良い昼下がり。


 定期馬車便の御者であるビスはいつものように砦村の集会場横に馬車を止める。

 配達はいつも若者達が手伝ってくれるが、配達予定の手紙束の中から一通取り出しビスは歩き出す。


「ルシウスさん、勇者様からお手紙ですよ」


 家の前で扉の修理だろうか? 大工道具を脇に置き何かやっている男性に声を掛ける。


「ビス爺お疲れ様です。勇者? ・・・・・・ルカからですか! ありがとう!」

「確かに、では」


 勇者の父であるルシウスは礼を言うと慌てて家に駆け込み、妻であるエレナを呼んでいる声が聞こえる。

 そんな様子を眺めながらビスは過去を思い浮かべる。あの眩しかった忘れられない仲間たちのことを。


    ●○●○●


 ――――百年前、魔族戦線キャンプ地。


「明日は僕たちだけで行く。君は待っていてくれ」


 赤髪の男がビスに神妙そうな顔で言う。


「最後まで一緒に行かせてくれよぅ。仲間だろ」


 泣きそうな表情でビスは(すが)る。


「役目が違うよ。君はコーディネーター、戦うのは僕たちの役目だ。今まで旅の物資の調達だったり、お金の工面だったり本当に助かった。ありがとう」

「…………」


 ビスは勇者パーティーの調整役として帝国軍から派遣され参加していた。だがこれまで決して短くない時間を共に旅をしてきた。パーティーの皆とは仲間であると心から思っていた。

 ビス自身にも勇者パーティーとして申し分ない力はあった。しかし、ここまでの戦闘で愛用の武器を失い、脚にも怪我を負っていた。


「お願いがあるんだ。万が一があったときはこの手紙を届けてほしい。直接君の手で。軍の配達に出すと検閲されてしまうからね、最後くらい何も気にせず書きたくてね」


 申し訳なさそうな表情で赤髪の男は言った。

 その言葉に併せて懐から一通の手紙をビスに差し出す。横にいた仲間たちも同じく。

 魔族の中には人の言葉を理解するものがいる、ということが判明している。

 兵站部隊が襲われ、手紙が奪われたときに軍事行動の情報を与えないため、兵士たちの手紙は事前に検閲がかかっていた。


「分かった。一旦預かっておく。でも帰ってきたら直接自分で渡すんだぞ、いっそのこと直接読み上げろ!」


 ビスは涙を拭い、努めて明るい声で皆に言い返した。


「それはちょっと恥ずかしいかな・・・・・・ でも帰ってくるよ。死にに行くつもりはない。ここまで来たんだから」


 赤髪の男が恥ずかしそうに頬をかく。宛名を見ると女性の名前が書かれていた。


「確かに預けたから……」


 そう言うと赤髪の男――先代勇者――炎の勇者は軽く肩を叩いて離れていく。


「よーし、準備ができたら前線キャンプは撤収。非戦闘員は第一防衛拠点へ移動を開始してくれ。護衛をほとんど割けないですまない。ここまで魔物を駆除しながら進軍してきたから、生き残りは少ないと思うが十分気をつけてくれ」


 勇者は魔族に対して特効の力を発揮する。軍の司令官は別に居るが、人類の希望の光として兵達を鼓舞する役割も担っていた。


 ――――明日、全戦力をもって魔王城へ進軍する。


 兵站部隊とサポート人員は一つ手前の防衛拠点まで下がる。守るのに適さないキャンプ地を維持するために割ける戦力は無い。全ての戦力を残さず投入するからだ。

 下がる部隊の護衛には、申し訳程度だが、けがをして後方へ下がる兵士たちが担う。そこにビスは加わる。


 撤退した部隊が防衛拠点に辛くも到着した後、魔物の軍勢が押し寄せた。

 それからしばらく予断を許さない戦闘が継続していたが、突然魔物の軍勢は退却していった。


 ――――しかし勇者達は帰ってこなかった。


 救出部隊に発見された軍の生き残りは、勇者達は魔王城に到達したと証言している。

 勇者が魔王城に到達し魔物が撤退したことから、後世の専門家は魔王に痛手を与えたため魔物は退却したのではないかと分析している。


    ●○●○●


 ――――戦後一年が過ぎた頃。


「生きて帰ってきたんだから、生きてるんだから胸張りな! みんな生きたくても生きれなかったんだから! 生きてるやつが前向くしかないんだよ!」


 勇者パーティーメンバーの手紙を配り終えたビスは、脚の怪我もあり軍には戻らず故郷の村に帰ってきた。戻ってきてから何かするでもなしに不抜けていたビスの胸ぐらを掴み、幼なじみの彼女は強く言った。


「あんたがそのとき勇者様について行ったとしても結果は変わらなかったよ。死にに行くだけさ。私は帰ってきてくれて嬉しいよ。勇者様は戦えないあんたを蔑んでたかい? そんな狭量な男じゃないだろ?」


 段々と胸ぐらを掴んでいた手は弱々しく震え、ビスの胸元に彼女が頭を埋める。最後の方は涙声だった。


「あいつは最後まで笑ってた。俺のことまで心配して……」


 ようやく彼女はつかんでいた手を離し一つため息を付くとこう言った。

「だったら、前を向いて生きるんだよ! そんな湿気た(つら)してないで。勇者様達のことを忘れないこともあんたにしかできないんだから!」


 故郷の彼女に発破を掛けられたビスは、仕事を始めた。

 脚を悪くしてしまったため、歩き回る仕事は無理だ。そのため、これまで勇者パーティーで御者をやっていた経験を生かし、村々へ物資を届ける定期馬車便の御者になった。

 これは勇者ルカが誕生する前のずっと昔の話。

次回更新は4/2予定です。

【あとがき】

 先代勇者である炎の勇者の話はまた後日挟む予定です。

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