表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/74

第38話「レミさんからの質問」

 入り口に目を向けると、エミリーさんが入ってきた。


「こ、これは、紅蓮の魔導師殿、何かありましたかな」

「いえ、ノノ様達がなかなか戻ってこないので、迎えに来ただけよ。そしたら叫び声っぽいものが聞こえてきたから、何かあったのかとね。……てか、あったのね」


 エミリーさんが周りを見て、明らかに何かがあったと認識したようだ。


「ええっと、確かノーリツだっけか。何があったの?」

「モーリツです、その節はいろいろと……」

「ああ、モーリツか、ごめんね。それで何があったの?」


 モーリツさんが何か言おうとしたのを遮った。てか、知り合いなのか?


「どう説明したら良いのか、私も全てを見ていたわけでは無く、ノノ様から伺ったのですが、ムーノという兵士がノノ様に言いがかりを。その際にあまりに無礼な態度であったため、神罰を受け、失神したとのことです」


 一瞬、エミリーさんが私を見て、ニヤッと笑ったように見えた。


「それは災難だったわね。……上には報告しないの?」


 そう言えば、このまま終わりそうな雰囲気だった。別にいいんだけど、それはそれで問題か。というか、エミリーさん、結構前から居たんじゃない?


「そ、それは勿論、明日には上長に報告いたします」

「そう、それならいいわ。ノノ様に対する侮蔑は、我が「残月」対する侮蔑にもなるということを忘れずに」


 そこまで言ってから、エミリーさんが私の方を見た。


「ノノ様は特に気にはされてないでしょうけど、このことはこの領における我が団の立場上、言っておかなければならいのです。このことが処罰もされなかったと団長や領主に知れたら、もっとめんどくさいことになるのです」


 どうやら、残月がただの傭兵団としてではなく、領主の三男の私兵集団であることが根っこにあるみたいだね。あとでエミリーさんに詳しく聞いておく必要が出来たかな。


「モーリツ、もう少し状況を見て判断しないと、私も立場上、擁護が出来ないよ」

「紅蓮の魔導師殿のご配慮、痛み入ります」

「分かって貰えたなら良いわ。ノノ様、食事は終わられましたか」


 モーリツさんは一礼すると、元の席に戻っていった。


「今、終えました。ルイさんも終わったようですね」


 私はルイさんの方を確認してからエミリーさんに答えた。


「それでは、宿泊施設の方へ案内しますね」


 エミリーさんの案内で食堂から出たけど、誰だこれっ?てぐらい言葉遣いが丁寧だ。


(ノノ、顔に出てるよ。今は他の兵士がいるからね)


 だ、そうです。


 少し歩くと、領軍兵士達が居ない場所というか、残月の団員しかいないところに着いた。


「エミリーさん、残月って傭兵団ですよね?」


 領軍兵士との会話で気になったので確認することにした。その辺を知っておかないと対処に困ることがありそうなので。


「まあ、さっきみたいなことはイレギュラーなんだけどね。うちは純粋な傭兵団とは違うのよ。知ってのとおり、団長はこの領の三男。この三男が自分で集めてきたのが今の残月なのは話したよね。でね、表向きは傭兵団ってことになっているけど、実態は三男の親衛隊なのよ。このことは領軍では情報共有されてるんだけど、たまに勘違い君がいるんだわ。特に最近領軍兵士を補充してたから、その悪影響かな。さっきのは見習いなんだろうと思うよ。見習いに軍の機密っぽいことは教えないからね」


 はあ、そーいうこと。でも何で傭兵団扱いなの?


「傭兵団を名乗っているのは、うちの領は収益が少ないから、雇いきれないのよ。そこで傭兵として仕事を請け負っているの。団長があちこちで集めてきたから、傭兵団と名乗っても違和感がないしね。それに領軍の親衛隊だと外部の仕事は受けられないし、そういう事情もあって、うちは傭兵団を擬態しているの」


 おお、ちゃんと説明して貰えたよ!


「……ノノさんや、顔に出すぎてるわよ」


 半笑いでエミリーさんに指摘された!


「ルイさん、私ってそんなに顔に出てる?」


 自分で顔をあちこち触りながらルイさんに聞いてみる。


「ええ、出てますよ。ところで今のお話しですが、私が聞いても良かったんでしょうか?」


 ルイさんが不安そうにしている。確かにそうか。


「ルイさん、他で言い触らすこともないでしょう。もっとも言ったところでというのもあるけど」


 確かに言い触らすルイさんは想像出来ないかな。……うん、全く想像つかないね。


「ノノ様、先ほどはご迷惑をお掛けしました」

「迷惑とは思ってないから良いよ。ただ、うちのルイって言っちゃったけど良かった?」

「私は別に構わないのですが、ノノ様の名に傷が付くとかそういうことはありませんか?」


 あー、そっちの心配しちゃいますか。


「ルイさん、私の名前を教会で聞いたことがある?」

「……ないですね」


 ルイさんが小首を傾げながら無いと言う。まあ、あったら吃驚だけどさ。


「そう言うこと。傷つく名なんてないのよ」

「……ここの司祭より上位で、うちのオーガスチンも一目置く謎の司祭、それがノノ。その正体は一体何って感じよね、ルイさん」


 エミリーさんがルイさんに向かってそう言って、笑みを浮かべる。


「エミリーさんはご存じなんですか?」

「ルイさんよりは多少知っているけど、そんなに差は無いよ。今は我が団にとっては都合の良い駒ってところかな。本当の司祭かどうかは気にしてない」


 ぶっちゃけたよ、この人。


「……ノノ様、司祭様、ですよね?」


 ルイさんが私の方を見ながら聞いてくる。うん、いわゆる司祭様ではないね。けど、ファイネル教の司祭位は持ってるので、司祭でないとも言えない。だから。


「ファイネル教での司祭位は持ってますよ。そういう意味では司祭デスね」


 おっと、語尾が怪しくなったけど、嘘を言うつもりは無いのです。

 ……この格好をしてくるんじゃなかったと思ってることは秘密だけどね。


 そんなことを話してると、シンシアさんとレミさんがやった来た。……昨日と同じく、魔法の練習をするか。


「さて、では、昨日の続きをしましょうか。それぞれ課題は言ってるのでそれをやって下さい。レミさんは質問があるんでしたね?」


 そう言いながら、はんてい君を2つ出した。レミさんの分は今日はない。


「シンシアさんはハイヒールの練習を、ルイさんは昨日と同じくヒールの練習をして下さい。」


 2人は、はんてい君を受け取り、練習に入った。攻撃魔法ではないから場所を取らないから私の目の届く範囲で練習が出来る。

 お、成功判定がでたぞ。ま、こっちほっておいても大丈夫かな。


「エミリーさんはどうします?」

「レミの質問が気になるから、一緒に聞くわ」


 エミリーさんも質問が気になるらしい。何だろうね。


「あと、終わったらみんなでお風呂に行きましょう」

「お風呂があるんですか?」

「小さいけどあるわよ。あまり期待はしないでね」


 お風呂があるらしい。さすが兵舎。まあ、兵士用だとそんなに広くないだろうけど、お風呂があるだけ、良いかな。

 それはさておき、レミさんだね。


「さて、レミさん、質問はなんですか?」


 レミさんの方を見たら、レミさんが待ち構えていたよ。


「ノノ様、質問というのは、傷や怪我は魔法で治るかと思うのですが、病気は治らないじゃないですか。あれって何か理由があるのですか?」


 ふむ、確かに。そう思う人は多いだろう。ほとんどの人はそういうものと思って、そこで思考停止になるんだけど、レミさんはそうじゃ無かったんだね。


「その質問はオーガスチンさんにはしたの?」

「はい、勿論です。一応、病気と怪我は違う、病気は薬師の薬と羅患した者の自身の病気に対する抵抗力で治すもので、それで治らないのであれば寿命である、と教わりました」


 ふむ、一応、キチンと説明は受けてるし、内容も合ってる。


「そのとおりです。ヒールやケアといった魔法で対応が可能なのは、外傷や毒などその現象に対する限定されたものになりますよね。それに対して魔法で対応出来ない病気とは、心や体に不調または不都合が生じた状態を指しますね。勿論、この場合も外的要因であれば魔法で対処出来るものもあります。例えば、呪いとかは解呪すれば良くなりますし、良くないものに取り憑かれていたり、寄生虫なども魔法で対処可能なものがあります。そこの見極めはなかなか難しく、医師の判断が必要でしょう。最も、ある種の魔法を使えば、その見極め自体は容易となりますが……」


 そう、魔力を対象者に流すことで原因となる部分を特定することは出来る。でも、それで治せるかというとそうもいかない。こればかりは私でもどうしようもない。自分の体であればまだやりようがあるのだけどね。


「同じようなことをオーガスチンさんからも言われませんでしたか?」

「はい、オーガスチン師からも同じようなことを聞きました。ただ、見極めることの出来る、ある種の魔法については初めて聞きしました」

「そうでしたか。体の状態を調べる魔法はレミさんもご存じでしょう。あの魔法の応用で相手の魔力の流れを見極める方法があるのです。東方では気の流れを見ると言うようですが、これにはかなりの気力と体力を使うのです。一部を見る程度なら問題は無いのですが、全体となると。しかも必ずしも原因が分かるというものでもないのです。徒労に終わることもあり、また、相手側にも過度の負担が掛かりますし、症状が悪化することもあるので教えなかったのでしょう」

「ノノ様、何故そこまで教えて下さるのです?」

「こういったことはキチンとお伝えした方が良いと思っているからです。何か方法があるのでは無いかと、いろいろ調べるのは良いのですが、今回の質問については、行き過ぎた行為は命に関わることもあるから、というのが一番大きいですね」

「おっしゃるとおりですね、衰弱しているものにうっかり使うと最悪とどめを刺してしまう、ということになりかねないんですね」


 どうやらちゃんと伝わったようだけど、何かあったのかな。……深く聞くことはすまい。


「ノノって本当に物知りよね。……知らないこともあるんだろうけど、こうして聞いていると何でも知ってるように思えてくるわ」


 エミリーさんが茶々も入れずに居るというのも不思議なんだけどなぁ……。


「おや、褒められてますか。私だって知らないことは山のようにありますよ。魔法以外だと結構知らないことが多いと思いますけどね~」


 そう言って、エミリーさんの方を見て微笑んでおいた。エミリーさんはヤレヤレといった風に見える仕草をし、レミさんは苦笑いしている。


「……さて、他に質問がなければ、今日はここまでかな。他の2人もボチボチ終わったようだし」


 昨日より疲れた様子のシンシアさんとさらに疲れた様子のルイさんから、はんてい君を受け取った。

 さて、今日の結果は。はんてい君に魔力を流す。ふむふむ。


「ノノ、一体、何やってるの?」

「ん、ああ、これは結果を確認してるんですよ」


 そう、はんてい君に私の魔力を流すと結果が判るんですよ。


「ええっと、シンシアさんが成功5回、大成功3回、失敗2回、ルイさんが成功7回、大成功3回ですか。お二人とも頑張りましたね。シンシアさんは失敗が無くなるまでハイヒールで良いかと思います。ルイさんは明日からはハイヒールで良いかな。……それにしてもルイさんは疲れが酷いようですね。あとでちょっと魔力の使い方を確認した方が良いかも知れないですね」


 魔力の使い方の確認と聞いて、エミリーさんが怪訝そうに見ている……。


「ノノ、使い方の確認ってどうするの?」

「あとで、やって見せますから、まずはお風呂に行きましょう」


 そう言って、エミリーさんにお風呂の案内を促してみる。


「確かにそうね。それじゃあ、案内するわ」


…………

……


誤字脱字は見つけ次第修正しています。


……年末に間に合わず、年始になりました。

今年もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ