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勇者、本気出す

数刻後、俺は、この勇者を招じ入れた自分を殴りつけたい気分となっていた。


いや、正確には、勇者によるお手伝いを許してしまった事へだな。


俺の不用意な問いかけが余程の地雷を踏んだと見えて、勇者ジローマルは立て続けにワインのグラスを乾すと、やおら席を立ち、自らパントリーを漁って、俺の秘蔵の酒コレクションを引っ張り出した。

先ほどちょっと準備を手伝ってもらった折りに、そこからワインを出したところを見られていたのだ。


もうやだ、この勇者、酒癖悪い。


とはいえ一応俺はこいつに討伐される立場だし、いくらこいつがヘボ勇者でも、徹底的にインドア派であった俺よりは強そうだ。

俺の魔力は確かに強大なのだと自覚はしつつあるが、今のところ自在に操ることができるのは、畑仕事と行商に役立つ平和な術ばかり。

先ほどの「肉団子キャッチ&リリースの術」も、元々は高所の蔓から叩き落としたカボチャを受け止めるために究めた術だ。

とにかく、下手にこいつを刺激する訳にはいかない。


ああ・・・・・・俺が醸造チャレンジ中のリンゴ酒の樽まで・・・・・・。

うまく醸せたら、シュワシュワの甘い発泡酒になるはずだったのに・・・・・・。


だが、まだアルコール度の未熟な酒未満飲料を呷る内、勇者はちょっと落ち着いてきた。

少し発生しつつあった炭酸が、程よくピリリと刺激になったのも良かったらしい。

まあいいか、この樽は、ちょっとヒネたリンゴジュースとして美味しく活かすことにしよう・・・・・・。



「聖女様ってのは、要は、良い魔法を使う女魔法使いなんですよ」


唐突に、勇者が話し始めた。


「そうなるな」

「魔法使いになる条件は知ってるんでしょ?」


知っている。

魔王といえども、所詮、魔法使いの端くれである。

魔法使いだと名乗るだけでも屈辱的なあの「条件」を、忘れられるわけがない。


「女だって同じなんですよ、それ。」


変に力のこもった声だ。


「そこから修行して、聖女を名乗れるまでになろうと思ったら、何年かかると思います?大抵は40じゃ利かないですよ!」

「なるほど」


そうか。

女も同じ条件なのか。


てことは、30で処女。

二十歳で子持ちが普通な社会でこれは正直、結構きつい。

まして魔力の発現は血統や訓練に因らずランダムなので、特定の人物をあえてそこまで引っ張る意味もない。

つまりは、俺と同様、異性に縁遠いままその年齢に至ってしまった女性がほとんどなのだ。

数少ない例外として「賢者コース」と呼ばれるパターンがあるにはある。

魔力発現を願いつつ、駄目なら「賢者」として大成すべく、ひたすら学究に励むという生き方である。

ただ、よほどの物好きでもない限り、あえて自らそんな荊道へと進む人は少ない。

大抵の場合、良縁どころか縁そのものに縁遠そうな連中が、泣く泣く選ぶ選択肢なのだ。


「カイナンの聖女様はいま73ですからね、こんな山道、絶対に歩けっこないでしょ?」


俺に言われても困る。

善なる魔法で勇者を助けるはずの聖女だが、そんな老女を引っ張ってきたところで、むしろ勇者の体力を擦り減らしてしまうに違いない。

魔王的には、その方がありがたいが。

いないなら、いない方がいいし。


「戦士はいないのか?」

「皆が真面目に試したあとで、楽々と神剣抜いちゃった小僧を助けたい奴なんていると思う?」


そういえば、あの時、本気で勇者に選ばれたかったはずの強そうな連中が、まるで、そのへんの石をひっくり返したら出てきたニョロニョロした何かでも見るような目で、こいつの事を見ていたっけな。

だからと言って、魔王討伐に手を貸さないのは、戦士としてはどうかと思うけど。


可哀想に、そんなこんなでこいつは、たった一人で魔王の館を訪ねて来たのだ。

なんだか、親近感が湧いてくるなあ・・・・・・。


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