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俺、反撃

さっき、手のひらヤケドしました。

もう、今日は家事無理です。

今回の正月は無しってことでよろしく、マイ・ファミリー!

「結界硬化、被膜錬成」


俺の言葉は、実体のないうねりと化して気を掻き乱した。


「「ビニール!」」


自然とは相容れない、不自然に透明な被膜が辺り一面を覆う。

戸惑い、立ち竦む聖騎士団を眼下に、さらなる呪文が不吉に響いた。


「ウォーマー・オン。設定、亜熱帯・盛夏」


結界内の気温が上がった。

噎せ返るような、じっとりと汗ばむ、嫌な暑さだ。

一年通して、概ね肌寒い日々が続くこの地方、人々は常から厚着で、防寒に余念ない。


この騎士達も例外ではなかった。


「くそっ!」


1人が忌々しげに厚いマントを脱ぎ捨てると、団総員の耐久閾値が崩壊してしまった。

我慢の利かなくなった一同は、マントばかりか防具や上衣まで脱ぎ、手近な物でパタパタと自らを扇ぎ始めた。


「スプリンクラー・オン」


俺は、次なる呪文を発動させた。


「散水!」


突如、結界内は、一面の雨となった。

たいした雨量ではないが、混乱による一時的な狂気にみまわれつつあった騎士らには、泣き面に蜂。

あたかもそれが、彼らを押し流す天の滝ででもあるかの如く、悲鳴を上げて逃げ惑い、結界被膜を切りつけた。


結界と言えども、今はただのビニールだ。

ビニールとは何であるか、俺にも、良くは思い出せない。

だが、柔らかくて、奇跡のように透明で、水も風も通さない、自然界にはあり得ない「物」だと知っている。

刃で切り裂けば、裂ける。

騎士らは、雪崩を打ってその裂け目から、飛び出してきた。


「魔王め!」


憎々しげに、俺を睨み付けている。

だから、魔王なんかじゃないってば。

簡単に結界から脱出できて、ちょっと気を取り直したのだろう、奴ら、やたらと気色ばんでいる。


でも、いいのかな?

そんな薄着で。

しかも濡れてて。


外はこんなにも寒いのにね?


これは、農業魔術「ビニール・ハウス」だ。

普段は、この寒冷地にも温暖な地域の新鮮な野菜をもたらすために行使する。

だが、多人数の敵相手には、なかなか有効な上に平和的な術となる。


程なく、騎士団は陥落した。

俺がビニールハウスに戻るように勧めると、皆、這う這う従った。


「命までは取らない。乾いて、暖まったら帰れ」


湿度を下げて、送風をオマケしてやった。

これで、服も乾くし、不快指数はかなりマシなはずだ。


冷徹になり切れない俺だが、そこは、決してマイナスだとは思わない。

甘さ上等。

俺は基本、自分に甘いが他人にも甘い。

そこんとこのバランスが狂うと、元の引きこもりに戻ってしまう。

今思えば、昔の俺は、自分にだけ甘かった。

何しろ、俺の世界には俺1人しかいなかったのだ。


きっかけは、サブロータ、お前だ。

ヘボ勇者だが、お前は、世界はどうあれ、とりあえず俺は救ってくれた。

名も知らぬ惣菜屋のおばちゃん、あんたもだ。

おばちゃんは、つい「おばちゃん」で存在認識を完結してしまいがちだが、次に会ったら名前を尋ねてみよう。


それにしても、農業魔術、意外にも多人数の敵に効く。

他にも、一瞬で塹壕をも築く「畝作」とか、色々応用が利きそうだ。

「収穫」という業も編み出してあるのだが、これはちょっと対人使用に向かない危険な魔術だ。

一定範囲内の生物の頭部(と、俺が見なした部分)を刈り取る技で、麦穂とかトウモロコシなんかを便利に収穫するために使うが、精度が今一つなのだ。

たまに気の毒なイモムシやバッタに犠牲者が出てしまうので、明らかに生き物がうろうろしているフィールドには使えない。


「悪いが、あんた方では役者が不足だ。勇者を出し抜く公算だったんだろうが、素人に俺は倒せんよ」


俺は、カラカラと高笑いまでしてみせてやった。

……ちょっと魔王っぽいかな、と思って。

こいつら、魔王と戦ったつもりでいるのだから、これはサービスだ。

野菜作りの引きこもり兄ちゃんに倒されたという現実は、彼らには、直視しがたい屈辱であろうから。


とはいえ、一年前であれば、俺はしっかり討伐されてしまっていたかもしれない。

何しろ、俺は弱かった。

だが、正に奇跡のようなこの月日に、俺には、守りたいものができたのだ。

それは、俺自身が、絶対に失たいたくないものだ。



野菜作りという生き甲斐と、隣人とも云うべき街の人々、そして友人ジローマル。



俺が、過去、どんな奴だったかなんて、もうどうでも構わない。

今の俺は、ただただ、未来が欲しかった。




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