高橋大輔⑫異世界からの帰還後の話
翌朝、登校途中に前方に石田の背中が見えたので僕は声をかけた。
「おーい! 石田! お前が言ってたお呪いの件だけど……」
振り返った石田が僕を見た瞬間、抱き着いてきた。
「うおー! 高橋! 40年ぶりだな! 元気してたかお前!」
「ぎゃあ抱きつくな! ていうか相変わらず臭いな!? 風呂入れ!」
なんとか石田を引き剥がすと、こいつは顔をくしゃくしゃにして、
「本当よぉ、マジで信じてくんねぇかもしれねぇけどよぉ、俺昨日まで異世界で冒険者やってたんだよ……古代遺跡を探検してお宝で大儲けしたりしてよぉ……」
僕は聞き覚えのある言葉に身を乗り出した。
「今『冒険者』て言ったか? お前『中つ海』のどこに住んでた?」
石田もびっくりしたがすぐに怪訝な顔になって、
「『中つ海』? なんだそりゃ?」
「ああ、すまん。それは僕の勝手な日本語訳だった……お前の住んでた世界の中心にデカい海があったろ? お前が居た国ではなんて呼んでたか知らないけどさ」
「『世界の中心にあるデカい海』? なんだそりゃ? きいたことねぇぜ?」
え、聞いたことない?? おかしいな、同じお呪いをしてたから同じ世界に飛ばされたのかと思ったけど……。
「あーじゃあ、僕の住んでた地方は『西方』て言うんだ。お前が居たのはどこだ? 東方? それとも南方?」
するとやっと石田は合点がいったらしい。手を叩いて言った。
「ああ! それなら聞いたことあるぜ。俺は東方の『レビーニ』て所にいたんだ。すっげぇ熱い砂漠で、砂の中に埋もれてた古代遺跡を攻略して生活してたんだ。結構楽しかったぜ? 女奴隷買い集めてハーレム作ってたんだ~♡ うっしっしっし」
石田が下品な笑いをしていると、友人のオタク眼鏡:斎藤が合流した。
「石田君なんですかそのキモイ顔は……またAVの話ですか?」
「なんで俺が笑ってたらAVの話になるんだよ! ビデオじゃなくてリアルだよリアル! 俺はリアルにハーレムの御主人様だったんだよ!」
周りに他の生徒もいるのに構わず大声で叫ぶ石田。こいつのこういう所マジで直してほしい……。
斎藤が頭に『?』を浮かべて僕に聞いた。
「リアルでハーレム? なんの話ですか?」
「あー、夢を見たんだよ昨日。石油王になってハーレムを作る夢だったんだってさ」
「おい! 何裏切ってたんだよお前は! ドリームだけど夢じゃねぇ、異世界で俺はリアルにハーレムを作ってたの! 高橋、お前だって異世界に居たんだろ? どこで何してたんだよ?」と石田。
僕は何と言えばいいか迷った。少し考えるふりをしてから、
「……アラトアって国で貴族やってたよ。それで陰謀に巻き込まれて殺された……」
2人が笑った。
「高橋君どんだけネガティブなんですか、夢の中くらいもうちょっと良い人生を送ってくださいよ」と斎藤。
「お前折角異世界で貴族に産まれたんならもうちょっと幸せになれよ……異世界チートが負けるほどの負のオーラとはたまげたぜ……」
ネガティブで悪かったなほっとけ。
「そんで? 陰謀ってなんなんだよ?」と石田。
「え、いや……身分違いの結婚を認めてくれなかったからブチ切れで隣国に亡命しようとしたら阻止されて殺されました……」
石田と斎藤が爆笑した。
「ぎゃはははは! しょーもねぇなお前! ていうか全然陰謀じゃねーじゃん! 何見栄はってんだよ!」と石田。
「うっさい! 敵国の方が僕を利用しようとしてたの! 僕は貴族だったから色々国家機密知ってたの! 立派な陰謀だろうが!」
機密を知ってたのはシュナーヘルの方だけど。
ていうかなんで笑ってたんだよ。全然面白くねぇよ。こっちは大マジのマジだぞ(怒)
斎藤が僕の肩をポンポン叩いて、
「いや~よく分かりませんですけど、もうちょっとマシな夢を見てくださいよ。それにしても無駄に設定が凝った悪夢ですねぇ」
石田が人差し指を振りながら『チッチッチ』と言った。
「違うぜ斎藤、高橋が見たのは夢なんかじゃねぇ、お呪いで異世界に転生して経験したことなんだぜ」
「はぁ? お呪い? なんの話ですか??」
僕達が学校に到着し、クラスに入ると石田が早速例の『夢の世界にいけるお呪い』の『悪魔の紋章』を紙に描いた。
「こいつを赤ペンで描いて枕の下に入れてから寝るんだ。すると夢の世界に行けるってわけさ。実際に俺と高橋は行ったぜ?」
斎藤は胡散臭そうな顔で、
「どう考えても嘘っぱちじゃないですか……本気で言ってるんですか?」
「いいから騙されたと思ってやってみろって、本当の本当だからよ!」と石田。
「こればっかりはマジだよ。僕も実際に異世界で15年暮らしてたからね」と僕。
斎藤が少し考えてから『悪魔の紋章』を鞄にしまった。
「ふむ、石田君はともかく高橋君が言うなら信じましょう」
「なんでだよ!? もしかして俺のワキが臭いからか! 臭いからなのか~!」
「ぎゃああああああ! 臭いと知ってるなら対策してくださいよおおおお!」
石田に抱きつかれて斎藤が絶叫し、クラス中の視線が集まって恥ずかしかった。
次の日、僕と石田が教室に入ってきた斎藤を捕まえた。
「おいどうだ? お前はどこに産まれて何してたんだ?」
石田が聞くと斎藤は特に普段と変わりない感じで、
「私は『タジール』もとい『タンギラ』という土地の『ラバカルカ国』という国ですね。まあ『レビーニ』の人には『タンギラ』て言った方が伝わるでしょうが。『タジール河』もとい『タンガル河』の下流域にある国で僕は将軍として活躍していました。国王から武功を認められて王女を妻に貰ってるんですよ。でも王様なんて興味なかったので妻の弟に王位を譲って死ぬまで戦場を駆けるという渋い生き方をしてしまいました……ふっ」
ドヤ顔で斎藤が言う。僕が石田に聞いた。
「タンギラ? どこだそれ? 聞いたことあるか?」
「いや~全然……『中つ海』なら分かるんだよ、俺の国じゃあ『西の大海』て言ってたけどよ。タンガル河なんて河も聞いたことねぇし……おい、そのタンギラって国はどこにあるんだ? 西方? 東方?」
だけど斎藤は首をひねって、
「エレブ? アッス? それはどういう意味なんですか?」
「え、分からないのか……? じゃあドノト大陸やセンマルクって知らない?」と僕
「? 聞いたことないですねぇ」
「うーん、じゃあタンギラから東や西へ行くと何があるんだ?」
「東や西ですか? 海ですね。南にいくと黒人達の王国があって、そちらもよく分かりません。北に行くと『ファラーン』という山岳地帯と『コロコス』という高原地帯がありますね。ラバカルカ人は昔コロコス高原からやって来たという伝説がありましたね」
石田が反応した。
「『コロコス』!? 聞いたことあるぜその名前! 確か『ハリスキーナ』のさらに東にある遊牧民が多く住んでる土地だな!」
『ハリスキーナ』! やっと僕も分かる名前が出来た。東方の内陸にある最初の文明が産まれた土地だ!
早速僕達3人の話を総合して地図を描くことにした。まずは僕が地図にでっかく『中つ海』を描く。
「えーと、まずは西がエレブ大陸って場所なんだ。ここら辺にクノムティオがあって、そんで船を出して南に行くとアルナイ半島があって……」
「おい、クノムティオとアルナイってどっちも半島じゃねーか。他のエレブ大陸の土地は?」
僕のペンが止まった。
「……知らない。確かアルナイの北部にエリアステールって国があって、そこから北は……何があるんだろう?」
2人がため息を吐いた。
「はいエレブに関する情報は終了~。ほんじゃあ次は俺だな。多分ここら辺にレビーニがあるな」
『中つ海』から離れた所にレビーニ半島が書き足された。
斎藤が眉をひそめた。
「また半島ですか? このレビーニ半島がある海は何て言うんですか?」
「知らねぇ。俺の国に船なんてなかったからな。レビーニ南部の連中は船を操るらしいが、行ったことねぇから分からねぇ。俺はよく陸路で『レーム』の『ブガ』ていう街に行って遺跡の発掘品を売ってた。まあレーム地方もブガ周辺しか知らねぇんだけど、はっはっは」
「はいアッス情報終了~」と僕。
今度は斎藤がレビーニからさらに東の方に『タンギラ』を書き足した。
「タンギラは大きな大陸なんですよ。北部に大きな河が流れていまして、この『タンガル(タジール)河』が地名の由来になってるんです。北に行くとその『アッス』と繋がってるんですよね。と言っても私もラバカルカ国周辺しか知らないですけどね。別に冒険者じゃなかったので」
はい、タンギラの情報も終了。
僕達3人は紙を放り出して、
「……分かんねぇこと多すぎだろ」と石田。
「地図がなかったですからね。文明レベルならこっちの世界の古代ですよ完全に」と斎藤。
「まあ魔法がある時点で比較は出来ないだろうけどね、でもこっちの方が遥かに便利なのは確かだよ」と僕。
「ま、今夜もお呪いやろうぜ。何回も向こうへ行けばもっと分かってくるだろ。いいなお前ら? ちゃんと今日も異世界へ行けよ?」
石田の言葉に僕と斎藤がやる気無く手を挙げた。
『へーい』
でも内心、言われなくたってやろうと思ってた。
僕を救世主と呼んだあの声の主には結局会えなかった。『ザーラの民』の意味も分からない。
そして、シュナとまた再会すると誓ったんだ。絶対に見つける、そして今度こそ幸せにするんだ。
シュナ、君は今どこにいるんだ……?




