『魔女』シュナーヘル①その後の話
第一章終了です。
若殿が消滅した後、太陽神はエイルに告げた。
『……シュナーヘルを帝都に送れ。どのように処罰するかは追って沙汰する』
そう告げて空へと消えていった。いつの間にかアレクタール神も消え失せている。バルビヌスはまだ生きていたので一旦帝都で手当てをした後サリバン村に送り届けられた。
……それから起こったことを話そうと思うわ。
2カ月ほどマムール州でテール人とアラトア人の神々は戦争した。だけど決着はつかず、結局いつも通り停戦協定が結ばれて終了した。
神々が撤退したのでしたなら人間側も撤退せざるをえない。すぐに両軍も引き上げ、お互いの国境が確認されて手打ちとなった。
かくして短期間で『第19次エリアステール戦役』は終了したのだった。
『カートラッド宮殿』の『謁見の間』でサンマルテール3世が言った。
「ふむ、そうか。太陽神が消滅させたのか……なら首はなくても仕方ない。よくやった、約束通りタルクス家は無罪とする」
『はは! ありがたき幸せ』
ニニメとアルヘイムが平伏した。
それから皇帝は私を見て言った。
「さて、『魔女』よ……と言ってももう魔力を失ってしまったそうだな。シュナーヘルよ、お前にはこれまで色々と汚い仕事もやってもらったからな、モンテール神からの慈悲で首を斬るのは許してやる。その代わりお前は一生牢屋の中だ。それで良いな?」
私は無言で頭を下げた。どっちにしろ私に選択肢なんてない。
私はすぐに護送されて監獄に入れられた。王宮の地下にある、罰金が支払われるまで人質を閉じ込めておく暗い牢屋だ。
「ふふ……今の私はただの小娘。こんな所に入れなくても逃げることなんて不可能ですのに……」
「それだけお前が恐れられているということだ。魔力を失ったと聞いても皆簡単には信じられないのだろう」
声がしたので顔上げると、牢屋の前にオルバースとアルヘイムが立っていた。
「……オルバース、すっかり元気になられましたね、良かったですわ」
「それは皮肉か? いや、友の言葉として素直に受け取ろう。すまないが私の力でもここを出してやることは出来ん」
「別に良いですわ……。魔力を失った私に行き場所なんてありませんもの。ここが今日から私の家です、今の世界の仮住まいですけどね」
しばらく無音になった。
アルヘイムが苦しそうな顔で言った。
「……シュナーヘル、すまん。お前は私が憎くてたまらんだろう……」
私はほほ笑んで、
「いいえ。むしろこれで良かったのだと思いますわ。若殿はカッとなって飛び出してしまいましたけど、心の奥底ではずっと後悔していたようでしたわ。……それを止められなかったのは私の罪ですわ」
「……」
いい歳した男2人が俯いて泣きそうになっていた。私が『やれやれ』と肩をすくめて、
「それに、若殿も私も根っからの『冒険者』ですわ。この世界のどこにも属さない、本当の意味での『よそ者』ですの。きっと若殿はまた別の世界に冒険しに行っただけ……だから私も冒険を続ければ、きっといつかは再会出来る、私はそう信じてますわ……」
男達はしばらく何も言わなかった。
オルバースが口を開いた。
「シュナーヘル……うぅ、私達は、どうすれば良かったのだ……? どうすればマストカを死なせずに済んだのだ……? ただ、私は息子に生きていて欲しかっただけなのに……!」
オルバースの顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
私の心がチクチクと痛んだ。
紛れもない、彼らから息子を奪ったのは私なのだから。
だからせめて、若殿から貰ったものを彼らに渡そうと思った。
「オルバース、アルヘイム。お詫びと言っていいのか分かりませんが、貴方達に託したい人がいるのです……任せよろしいかしら?」
「……なに? 人? 誰のことだ?」とオルバース。
私は新しい命が宿った自分のお腹を撫でながら、
「皇帝陛下と太陽神に聞いてくださいまし、親の罪は子供にまで及ぶのかと……」
2人の男は涙を拭くのも忘れてあんぐりと口をあけ、大声で騒ぎ始めた。
「おぎゃあああああああああああ!」
私の横の重ねられた布の上で赤ん坊が元気な泣き声をあげた。
紛れもない、私と若殿の子供だった。
『なぜお前を生かしておいたか、分かっているだろうなシュナーヘル?』
牢屋の前にエイルが、いや、『モンテール神』が立っている。
「……その言い方ですと、この子に罪はないと思っていいようですわね」
私が泣いている娘の頭を撫でた。
モンテールは無表情で、
『アラトア人は皆私の子供だからな。父親と同じ道を歩まぬよう、『善きアラトア人』となるよう、タルクス家にしっかり教育させよう。異存はないな?』
「どちらにしろ私に選択権はないのでしょう?」
私は檻の隙間から赤ん坊をモンテールに渡した。
ああ、まるで生贄だ。故郷の村が私を生贄に差し出したように、私も我が子を生贄に差し出したのだ。
……いいえ、この子はこれから長く生きる。むしろ生贄は私ですわね……。
神に抱かれると赤ん坊は泣き止んだ。
『女の子か……将来は巫女がよかろう。両親譲りの才能に期待しているぞ……祝福しよう、この子の頭上に平安あれ』
「……我が子の未来に平安あれ」
そしてこの子が生きるこの世界に平安あれ。
モンテール神が憑依したエイルが赤ん坊を抱いて立ち去った。
私はため息を吐いて、
「ふぅ、これでやっと仕事が全て終わりましたわ……」
その日の夜、私が藁で出来たベッドで休んでいると、牢屋の小さな窓をコツコツと叩く音がした。
「……やはり来ましたか」
『……700年ぶりだなシュナーヘル。精霊がお前を守っていたせいで中々手が出せず、ずっとチャンスをうかがっていた。魔族として、王を倒されて復讐しないのは面子が保てんのだ。解放してくれた礼にあの世へ送ってやろう……!』
窓の外から無数の魔族達の光る眼が見える。かつて私が故郷で殺した魔王の部下達の生き残りだ。ずっと私に報復する機会を待っていたのだろう。
そして、魔族が帝都の牢獄に来れるということは、これがモンテール神の決めた処罰なのだ。
けど私は全然怖くなかった。
「若殿、私もそろそろ旅立ちますわ……」
…………、
……。
「……」
私がベッドから起き上がると、窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえて来た。
なんてことはない、授業がある日のいつもの朝だ。
「んー……! 朝ご飯の用意しないと……」
朝ご飯を作るのは私の役目だ。背伸びしてから起き上がり、部屋の鏡を見ながら軽く髪型を整える。
それから着替えて朝ご飯の支度を始めた。味噌汁を作りながら夢の内容が頭の中を転げまわる。
「……800年も生きる魔法使い……すごい夢をみたわね……」
その後家族が起きて来たので朝ご飯を食べさせ、さらにお弁当の準備をすませ、トイレを掃除してから私は登校した。
通学路を歩いていると沢山の生徒達が私を見てくる。でも別に気にならない。テレビに出ればもっと沢山の人達が私を注目するだろうから。
「おーい! おっはよう~!」
「おっはっさ~ん!」
後ろから友達の上島愛と里中佳が走って来た。
佳は腰まで届く髪の、ギャルっぽい女子だ。『ギャルっぽい』と言われるのが嫌いらしいけど。明るくて明け透けだからすごく男子にモテる。
愛はそばかす顔の女の子だ。そばかすと目が細いことを気にしていて、ちょっとひねくれてるけどそこが可愛い女子だ。
「今の『おっはさ~ん』てなんなの?」と私。
「今私が作った挨拶~。これをうちの高校で流行らせようと思ってさ」と愛。
「言いづらいわ! 『おっはー』の方が遥かに言いやすいじゃん」と佳。
「『おっはー』? お、いいんじゃない? やっぱそっち流行らせよっかなぁ」
「昔流行ってたわよそれ……」と私。
教室に着くと佳が何かを思い出してスマホを私に見せて来た。
「そうそう言うの忘れてた! 野球部の先輩達が合コン開くから参加しない? 面白い先輩達だから絶対楽しいし、ご飯もカラオケも全部奢りだからお金持ってこなくていいって言ってたからさ、ね?」
私は腰に手を当てて佳に言い聞かせた。
「もー、め! 前に『二度と合コンの話はしない』て約束したでしょ? ダメなものはダメよ、私はそういうのに興味はないって言ってるじゃない」
「そこを何とか! 実はその合コンに前から狙ってるOBの先輩が来るんだけど、『今度こそ呼ばないとお前も参加させねー』て言われてるんだって。だからお願い! 親友のためだと思って!」
「何度言われようとダメな物はダメよ。そのOBの先輩は別の機会に狙いなさい」
佳の額を人差し指で『め!』とすると彼女はすっかり萎えてしまった。
「はぁ……しゃーない、別の方法を考えるかぁ……」
その佳の肩を愛がポンポン叩いた。
「欠員が1人出たんしょ? ここに予定が開いてる乙女が居るんですけど?」
「あー……多分愛を呼んだら先輩達ガン萎えすると思う……」
「はぁ!? それって私が可愛くないって意味か!? そばかす女はお呼びじゃないって意味か!? なんか言ってみろやオラァ!?」
「ちょ、絞まってる……首絞まってるから……」
愛に首を絞められた佳が青くなったので見かねて私が解放した。
佳が咳き込みながら私に聞いた。
「ゲホ、ゲホ、優莉はさぁ、どういう男子がタイプなのさ? いっつも『恋愛に興味ない』しか言わないじゃん、タイプくらい教えてよ」
私こと、粟島優莉はクラス中の男子が会話する振りをしながら私達の話に聞き耳を立てていることに気づいた。佳の声がよく通るせいで皆に聞こえてしまったらしい。
「男子のタイプ……そうねぇ……」
私は頬に手を当ててしばらく考えてから、ぴったりの答えを思い付いて言った。
「……強くて優しくて、でも危なっかしくてほっとけない、真っ赤な髪の毛の貴族がいいわね」
「はぁ? 貴族ぅ?」と愛。
そこでいきなり教室の反対側から絶叫が上がった。
「なんでだよ!? もしかして俺のワキが臭いからか! 臭いからなのか~!」
「ぎゃああああああ! 臭いと知ってるなら対策してくださいよおおおお!」
クラスメートの石田君の脇に挟まれて斎藤君が絶叫を上げていた。
「うっざ……まーた『キモオタ3人衆』の奇声だよ……」
愛が小声で文句を言って、クラスの皆もすぐに興味を失ってそれぞれの会話に戻って行った。
私も特に興味はなかったから話題を変えることにした。
次から第二章行きます。




