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41話:夜を裂いて

どうも、鳴月常世です。

明日から学校なんで、今日の内に更新してしまいした。憂鬱です。

課題終わってないんで今日の夜にでも終わらせましょう。



評価してくださっている方々、ありがとうございます!

アクセス数も着々と増えてきて、作者の励みになっています。

感想は随時募集しておりますので気が向いたらお願いしますm(_ _)m


ぱち、と両方の肩に置かれた頭の目が開かれた。

もちろん、スイとミユのものである。目が閉じられてから1時間、やっと解放されるのかという思いで身体を少し揺すってみせる。

「ん………」

「う………」

二人同時に首を上げ、二人同時に目をこする。

「目が覚めたか?」

そう声に出したのは俺ではなかった。

目の前、誰かがそこに立っていてこちらを見下ろすようにしていた。

「よっ、少年。 両手に花でいい感じだな」

切夜さんだった。

買い物バックを提げた切夜さんは大学生にも見えなくはなかった。

耳のピアスの髑髏はいつもより疲れて笑っているような気がした。

いや、気がしただけだ。

「こ、こんにちわ。切夜さん」

「こんなところで会うなんて奇遇だなー、ってうぉ!?」

スッ、と目にも止まらぬ速さでカッターナイフが出現し、切夜さんの首元につきつけられる。

ミユだった。スイもいつの間にか立ち上がり、俺の前に立ってぐるるるる、と唸っている。

「お嬢さん方、初対面の人に向かってその対応は失礼と言うか普通にバイオレンスだよね!」

「初対面……? よくもまぁスラスラと嘘を並べられる方ですね。 声が出せないように声帯を切り刻みましょうか」

ミユの怒りを抑えたような、いや抑えた声を聞いて切夜さんは青ざめている。もちろん俺もだ。

キリリリ、とカッターナイフが音を立ててさらに長さを増し、ミユの殺気も増す。

「お、おい。ミユ! その人はうちのお隣さんの黒宮切夜さんだ! 決して怪しい人じゃないぞ!」

「そ、そうだ少年。もっと言ってやってくれ!」

「黙ってください朝浦様。私はこの人を殺すまたは再起不能にしないといけないのです」

「それ同じ意味だから! スイ、お前も唸ってないでミユをとめてくれ!」

スイを振り返るが、犬歯をむき出しにしてぐるると唸っているままだ。

しかし、決して怖くはない。むしろ、子犬がきゃんきゃん吼えているレベルだ。

「スイ! お前が食べたキャリーユのお菓子はこの切夜さんからもらったものなんだぞっ」

「ええっ!? そんなっ。ひ、卑怯だっ、食べ物で攻めるなんて!」

終わりそうもない均衡状態に俺はうんざりしていた。

それよりも周りの通行人が誰一人として俺達のこの騒ぎを目に留めていないところに違和感を感じた。

もしかしたら、ミユが不可視インビジブルとやらを展開してくれているのかもしれない。

周りの人の迷惑になっていないのはとてもいいことだが、俺は何より切夜さんという一般人が巻き込まれているわけが分からなかった。

「ミユ! しっかり状況を説明してくれ、俺から見たらミユが一方的に切夜さんに刃物を向けている危険人物にしか見えないから!」

俺の言葉に対して小さな舌打ちが聞こえた後、ミユはそのカッターナイフを仕舞って俺に向き直った。

「まぁ、確かにこの状況を理解できないのは本当に腹立たしいですが仕方ありませんね。現実でぼうっとしていた朝浦様のためにも説明して差し上げないといけないのですね」

明らかに怒気を孕んだ声でミユは俺の前に仁王立ちになる。

正直、見降ろされているようで気分は良くない。いや、こいつは見降ろしている。間違いなく。

「説明、してくださいますね? 黒宮切夜さん」

「いやぁ、クール系少女。何を言っているのか俺には分からないんだが」

「本当に、人を苛立たせることに特化しているようですね」

「おぉ、怖い怖い。止めてくれクール系少女。俺はただ日常を生きているだけなんだ。今の状態はクール系少女が日常にそぐわない行動をして、それが一人でから周りしているだけだ。あぁ、後ろのロリータ系少女もそうか」

終始ふざけたような感じでそう告げる切夜さん。

俺にはその光景が異常に見えたし、謎も多くあった。しかし、何故だかミユとスイが一方的に弄ばれていると言ったイメージが一番強かった。

もしかして、スイに精神攻撃とやらを与えていたのは切夜さんだったのか?

ということは、切夜さんは悪魔だということになるのだが。

「あの、切夜さん。ちょっといいですか」

「おう少年、なんだ?」

「切夜さんって、悪魔なんですか」

「んー? 大学の同級生からは悪魔みたいだとよく言われるけど」

「そういうことじゃなくってですね。その、スイと同じような悪魔なんですか、ってことなんですけど」

「ちょっと少年、何言ってるか分からないな」

突き放すように切夜さんはそう言った。

しかし、それで俺は確信が持てた。切夜さんはやはり悪魔だった。

それに俺がいつも気になっていた髑髏のピアス。すでに取り繕うこともなく、笑ったり目をきょろきょろと動かしている。そんな生き物じみた動きをする高性能なピアスなんて見たこともない。

アレは何が人の想像の及ばないような何かなのだ。または、そういう生き物であるか。

だが、それはそれとして、切夜さんが自分の正体をひた隠しにする理由がまったく分からなかった。

訊こうにも切夜さんは絶対にはぐらかすだろう。先ほどの会話でもう思い知っていた。

俺がそんな思考を張り巡らせている間に、ミユの怒りのメーターはぐんぐんと上昇していた。

普段見せない喜怒哀楽の怒の感情が前面に押し出されていて、俺は少し驚いた。

「なんでしょう、私はこの悪魔と仲良くできる自身がありません」

「何言ってるんだよクール系少女。 お隣さんなんだから仲良くしようや」

「無理ですね」

今のさりげない会話の中にも見てとれる、普通じゃないという点。

ミユは気付いていなかったかもしれないが、俺がミユやスイと同棲していることがこうも簡単にバレている。俺達がヒントを漏らしたわけでもなく、だ。

「なぁ、少年。今日は何を買いにここに来たんだ? もしかしてクール系少女とロリータ系少女にプレゼントとかキザったらしいことでも考えてた?」

その代名詞はどうなんだろう、と俺が突っ込む前に切夜さんの会話の内容に引っかかりを覚える。

「なんで俺がそんな……。っていうか、いい加減にしてください。ミユが見たことないくらいに切れてるんで」

「ほんと、あなた達にはいい加減にしてもらいたいわ」

凛、と透き通った声が響いた。

響いた割には周りの買い物客は誰一人として、声を発した彼女の方向を見てはいない。

夏休み中だというのに滝原高校の制服に身を包んでいる彼女は、空宮杏梨だった。

「こんなところに不可視結界を張って何のつもりなの。 無駄な力を使わないでもらいたいものね」

彼女はキツイ口調でミユを攻め立てる。

対してミユはシカトを決め込んでいた。ただならぬ雰囲気を感じ取った俺は余計なことは言わずに黙っていることにした。

「ふうん、これ不可視結界だったのか。 精度が全く無い雑なものだったからカラス避けか何かだと思ってたわ」

またも切夜さんは挑発をする。

というか、自分からはそういう話題・・・・・・に触れるのか。

「あなたもよ、黒宮切夜。 無駄な事をしていないで早く日常に溶け込んで消えなさい。邪魔よ」

「それは、誰にとって?」

「私にとって、よ。 監視対象が増えるのは面倒なの、理解してくれるわよね」

何故だか空宮杏梨からも怒りの気配を感じる。

俺はこの流れを不安に思っていた。もしかしたら、天使二人が暴れ出すのではないか、と。

しかし、そんな事は無かった。

「じゃ、俺は行くわ。 少年、またな。あと、クール系少女とロリータ系少女もな」

ミユとスイはそれに無視し、俺だけが切夜さんに手を振り返していた。

次いで空宮杏梨も背を向けていたので、俺は声をかけることにした。

「あっ、えっと! 空宮」

「何かしら」

空宮杏梨はこちらを振り向かずに背を向けたままで、そう言った。

「あの、とりあえずありがとう。俺だけだったらあの均衡状態は破れなかったと思うし。仲介みたいなことしれくれてさ」

「別にお礼を言われる筋合いはないわ。また暴れられると私の仕事が増えるから、それだけよ」

そう言うと空宮杏梨はそのまま行ってしまった。

ただ、俺に対する態度はいつものように冷たく、そっけなかった。

「うー、うーうーうーっ!」

「こら、うるさいスイ」

いまだに吼えているスイを注意し、ミユの方を見やる。いつも通りの無表情に戻っていた。

しかしその顔は妙に寂しげで、悔しげで、自分の掌をじっと見つめていた。

俺は少しばかりその横顔に声をかけることをためらった。

何がミユをそんな顔にさせるのか。そんな事を柄にもなく思ってしまったのだ。

「陽助さん、買い物行こうっ!」

いつの間にか吼えることを止めていたスイは、俺のシャツの袖を引っ張って買い物に行くことを促す。

生活用品売り場はすぐそこだ。

「ミユ? 行くぞ」

「そうですね。無駄な時間を過ごしてしまいましたから早く済ませてしまいましょう」

いつもと変わりなく返事をしたミユに対して、俺はもう考えることは無かった。


スイが買い物かごを持ち、生活用品売り場に駆け込むのを追った。






主天使であるランは、天界と地獄を分かつ大戦争を制した神に会っていた。

それはミユから引き出したスイを拉致した集団に対しての報告もあったし、他にもある気がかりを潰すためでもあった。

天界は普段と変わることなく空気が澄んでいて、空には適度に雲が浮かぶ晴天だった。

浮遊している他の島々にも同様に太陽からは日光が降り注ぎ、戦闘訓練を行う天使や商いをする天使、日向ぼっこしている天使などが見て取れた。

この中に悪魔がいないのは当然のことだった。彼らは地獄で生活しているからである。この天界を好む悪魔も少なくはないが、やはり悪魔の大半は地獄が自分に合っていて住みやすいのだという。

天界と地獄はひとつながりになったが、住む場所はいまだに分けられているままだった。別にそれに対して不満はないし、これからどう変える必要もないと思っていた。

しかし、天界には天界の、地獄には地獄の見えない部分と言うものは少なからず存在する。全てを明確に把握しているわけではないので、そういう場所が存在するのは仕方のないことなのだが、そのせいで先に言ったような拉致事件などを起こす輩が存在することも確かだった。

話がずれたが、ランは神に訊きたい事があったのだ。

『神様、これが先の事件です』

「ふうむ。なるほどな、やはりこういう輩も存在するわけじゃのう」

『それとは別の件で、お伺いしたいことがあるのですが』

「なんじゃ、いうてみぃ」

『ミユからその記憶を抜き取った際に、酷く穢れた記憶も同時に引き出されたのですが』

「…………」

『その内容は表現できないほどに酷いもので、………それを所持していたミユ。一体彼女は何なのですか?普通の天使なのですか?』

「ランよ」

短く神は言う。

「それはお前の妄想に過ぎんよ、そんな記憶がミユにあるわけが無かろう。あやつはただの天使なのじゃから」

『あんな鮮明な記憶を見せられてそれが私の妄想、ですか? そんな馬鹿なことがありますかね』

半ば挑発的にランは神に向かってそう言葉を投げかけていた。

それに対して神は怒ることも言葉遣いを嗜める事もせずに静かに言った。

「気のせい、じゃ。 ランよ、お前は少し真面目過ぎる所がある。思えば仕事続きでまともに休暇もとっておらんかったな。よい、一週間程度、休暇をやろう」

ランはそんなものが欲しかったわけではなかった。

疑惑は膨れ上がる、どうしようもなく不信感でいっぱいになる。

神は、ミユは何を隠しているのだろうか。

自分が見たものはあの大きな大戦以後の記憶のはずだ。大戦時にはミユやスイは生まれていなかったからそう判断した。

転生という点もある。前世の記憶が残っているという予想だ。ただ、今回はそれに当てはまらないだろう。あれは人特有の現象だからだ。

まぁ、なんでもいい。教えられないことは自分で学べ、これは神の持論だ。

ならば言われる通りにしよう。ちょうど休暇も貰ったことだ、好きなことを好き勝手にやろう。



ランはそう決意し、人間界へと続く通路へと歩みを進めた。














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